ベシワク

魔物・・・!?

僕たちを見物していた町の人々は、悲鳴を上げて逃げまどった。僕も剣を握ったまま、驚きに固まった。

魔物——魔力のたまり場に生まれ、人に害をなす異形の者。どうしてこんな町の中に?

ありがとう・・・デスって? なぜ礼を? これから殺されるというのに。

ルーガル

簡単な話だ。まず、君ごときじゃ私を殺せない。

何を・・・!

ルーガル

それから、君みたいな人に証言してほしいことがあるんだ。場所を変えよう。ついておいで。

ルーガルが指を鳴らした。
その瞬間、彼女の姿がかき消えた。

ハ!?

ベシワク

え?

見回しても、どこにもいない。町の人々も逃げ去ってしまったので、僕と魔物の二人きりだ。

こんなのと二人きりにされても困る。
ほら、こっち見てる。やめろ見るな。

・・・アナタは、ルーガルのお仲間ですか? ルーガルが逃げたからには、しかたありません。アナタの首を手土産に、褒めていただくこととしましょう。

ほら、不穏なこと言ってる!

魔物の手元に風の渦が出現した。
風魔法による攻撃か――!

エ――?

突然、爆発が起こった。
――魔物の体の真ん中で。

渦巻いていた魔法は爆風により霧散し、放たれることなく消える。

見れば一本の腕が、ジルウェットの背後から、その体を突き破って覗いていた。

グ・・・何が起こって・・・

ルーガル

いつまで経っても来ないから、戻ってきてしまった。君は足が遅いね。

きさま・・・いつのまに・・・うしろに・・・?

ルーガル

転移魔法だ。知らないわけじゃないだろう? ところで、これが君の“コア”かい?

・・・カハッ!

ルーガルは何かを握っていた。その手に力をこめると、ジルウェットは苦しげにうめいて体を曲げた。

ルーガル

風見鶏のパーツだね。なかなかおしゃれな品物じゃないか。これを壊せばもう君は、この世に存在できないわけだ。

やっ、やめてくれ!

ルーガル

さて、インタビュータイムと行こうか。ジルウェット、君のご主人さまの名は?

・・・ッ、すべてを燃やし尽くす劫火の魔女、うるわしのリリーシカさまだ!

ルーガル

アイツそんなふうに名乗ってるのか。同じ顔にうるわしとか言われると照れるな。で、彼女は私か?

何を言っている!? そんなわけないだろう!

ルーガル

では、私は彼女の敵?

そうだ! だからワタシはこうして貴様を殺しに――グッ!

ルーガル

それだけ聞ければ十分だ。ありがとうジルウェット、死んでいいよ。

やめっ! ぐうう、うわあああああ!

耳をふさぎたくなるような断末魔が、青空を駆けのぼった。
ルーガルの手の中で、風見鶏のパーツは黒いチリになった。ジルウェットの体それ自体も、同じようにチリと化し、風に飛ばされる。

ルーガル

さて、わかってもらえたかな。今聞いたように、君が斬りかかるべきリリーシカとは私ではない。証人は、死んでしまったけどね。

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