フェリックスはロイズの部屋に足を運び、
慎重に質問を始めた。

あなたがトイレに行った時に、何か変わった様子はありませんでしたか?

ロイズ

さぁ、トイレを使っただけだし

失礼ですが、大きい方ですか?

ロイズ

え、ああ、う、うん、お腹が痛くて...

隣の掃除用具入れの中にボウガンが隠されていました。

ゲンさんはそれがあなたが普段、演目で使うものだと言っています

ロイズ

なんだって!ボウガンが!?

そして、あなたがトイレから急いで出てくるのをエマさんが見ています。
なぜ急いでいましたか?

ロイズ

砂がなかったんだ仕方ないだろう!

そうですか...

疑問なのは、なぜ1階のトイレが使用禁止になっていたのかです。

確認しましたが、特に故障している様子はありませんでした。

それはもしかしたら、あなたを2階に誘導するためだったかもしれません。

そして2階にはあなたのボウガンが隠されていた。私が犯猫なら、

誰も来ない使用禁止中の1階のトイレに隠すか、2階のトイレを使用禁止にするでしょう。

ロイズ

ということは、犯猫は僕に罪を着せようとした?

その可能性は高いですね。

ロイズ

僕がどうして?

メス猫関係が派手だったようですが、誰かに恨まれていませんか?

ロイズ

そ、それは...
でも恨まれるような事は何もしていないよ

フェリックスは静かに、
壁に掛けられた団員たちの写真を見て

あなたは亡くなったセリアさんの恋猫でしたね?

ロイズ

ああ、そうだ

マリーナさんが言っていた、束縛に困っていたというのは本当ですか?

ロイズ

そ、それは本当だ。でも、僕がセリアを殺すなんてあり得ないよ。

確かに別れ話はしたけど、まさかこんなことになるとは思わなかった…

どうして別れを言ったのですか?誰か他に好きな猫ができたとか?

ロイズ

フェリックス、僕は1匹のメスに縛られるつもりはないよ。

だって他にもたくさんのメスが僕にアプローチしてくるんだからさ

なるほど、そうやって多くのメスに手を出すことで、セリアさんが嫉妬してしまったわけですね。

ロイズ

僕は自由になりたいんだ、束縛されるなんてごめんだね

そうですか、あなたとセリアさんの関係は分かりました。

ロイズ

僕はハメられたんだ!必ず犯猫を捕まえてくれ!

フェリックスはその言葉を背に、
静かにドアを閉めた。廊下を歩きながら、

彼の心には新たな疑問と確信が交錯していた。
セリアの死の真相はまだ闇の中だが、

少しずつその輪郭が見えてきた気がした。








ワトリーは、静かな劇場の舞台裏にある
ゲンの仕事場に来ていた。そこには

舞台の幕や道具が所狭しと並んでおり、
忙しそうに動き回るゲンの姿があった。

ゲンさんは舞台に立たないのか?

ゲン

ああ、おれは裏方の仕事だからな。

ゲンはふと何かを思い出したように顔を上げた

ゲン

ワトリー、いいもの見せてあげよう。

ゲンは手のひらに何もないことを見せ、
手を握った。そして

ゲン

ワトリー、よく見てて

と言いながら手を離した瞬間、
ボンっ!と小さな火が出た。

わー、すごいのだ!

ゲン

おれも昔はマジシャンを目指していたんだ。
センスがなくて諦めたけどね

そして、小道具の箱から竹トンボを取り出し、
ワトリーに手渡した。

ゲン

これをあげよう

ワトリーは興味津々で竹トンボを手に取り

どうやって使うのだ?

ゲンはニヤリと笑い、

「こうだよ」と言って、
その竹トンボを空中に飛ばした。

竹トンボは空中でくるくると美しく
回転しながら飛んでいった。

わぁ~、すごいのだ!

ゲンはそんなワトリーの姿を見て、
かつての自分を思い出しながら、
静かに微笑んだ。

ワトリーは竹トンボを取ってゲンに言った。

でも残念なのだ、ボクもサーカスを楽しみにしていたのだ。

ゲン

そうだな、こんな小さなサーカス団でもみんな子供たちは楽しみにしてくれた。

亡くなったセリアさんはどういう猫だったのだ?

ああ、セリアはすごい猫だったよ。技術も美貌も兼ね備えた、
誰もが一目置く存在だった。ただ、性格に少し難があったがね。

性格に難があった?

ゲン

プライドが高いというか...セリアとマリーナはよく喧嘩してたんだ。些細なことで言い争いが絶えなかった。

二匹は仲が悪いのだ?

ゲン

まあ、そうだね。でも、お互いの技術は認めていたんじゃないかな?

ゲン

そこに新たに入団してきたのがカオリだ

ゲンは昔のサーカス団の話をし始めた。

今はこんなギスギスしているが、
昔はみんな仲が良かったという

技術を磨き、観客を喜ばせることが
団員たちの生きがいでもあった。

しかし、突然団長がもう1匹連れてきた
それがあの鉄仮面の猫、カオリだ。
それが全ての始まりだった。

その瞬間から、団長の態度が一変した。
これまで公正で仲間思いだった団長が、

カオリを舞台に立たせることで莫大な
利益を追求するようになった

団長は、カオリを「怖いもの見たさ」と
「珍しい生き物」としてVIP客にだけ
提供するようになり、

その全貌を一般には一切明かさなかった。

カオリに何をさせているのか、
団長以外には一切分からない。

団長の変貌により、かつての仲間意識は薄れ
儲けのために何でもする冷酷な存在へと
変わってしまったのだ。

ゲン

そのころから、ロイズはいろんなメス猫に手を出し、

セリアの人気にマリーナが押されると、途端に、険悪なムードになってね。

ゲン

そしてついには、仲間が死んだというのに、犯猫のなすり合いが始まった。情けない話だよ。

ゲン

あの頃の俺たちに戻れるなら、どんなにいいことか。

...

ワトリーはゲンの話を黙って聞いていた。
彼の胸に広がるのは、失われた夢と
希望の残骸だった。

サーカス団の仲間たちがかつてのように
心を一つにして、再び舞台に立つ日は
来るのだろうか。

ワトリーはその答えを求めるように、
ゲンの顔を見つめた。

ゲンはふと我に返り、ワトリーに微笑んだ。

ゲン

でも、諦めるわけにはいかない。
俺たちはまだここにいる。いつかきっと、また皆で笑い合える日が来るさ。

うん、ボクもそう信じているのだ

ゲンは作業に戻り、ワトリーは竹とんぼで遊び始めた。サーカスの劇場の外では
風が静かに吹き抜け、
過ぎ去った日々の思い出を運んでいた。

つづく

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