ワトリーは自治会長の家に向かった、
ジミーから聞いた話を確かめるためだった。
昔、会長が爆発物を扱っていたという話だ。
ワトリーが玄関を叩くと、
中から会長が現れて迎えてくれた。

ワトリーくん
今日は何かな?

ワトリー

会長は昔、爆発物を取り扱っていたという話を聞いたのだ

会長は一瞬、顔に驚きの表情を浮かべたが、
すぐに笑顔に戻った。

ああ、あれは建設会社の仕事でね。採石場を爆破させていたんだよ。

私は爆発物を扱う専門の仕事だったからな。

ワトリー

じゃあ、火薬の取り扱いも慣れているのだ?

まあそうだな

ワトリー

火薬を使って、ガソリンをまいた場所まで引火させることはできるのか?

理論上は可能だが、火薬とガソリンの反応は非常に複雑で、専門の知識と厳格な安全措置が必要だ。素人が手を出せば大惨事を引き起こす危険性があるだろう

ワトリー

そうなのか

会長の玄関の壁には、一枚の絵画が優雅に
飾られていた。ワトリーがその絵を
見つめながら、思わず口を開いた。

ワトリー

この絵は見たことがあるのだ

おお、この絵が分かるのか?この絵は、あの屋敷の主人からワシの父がもらったものだ。

この近所に住んでる住人に、彼は絵を渡していたそうだ

ワトリー

じゃあ、ここの住人はみんな家にこのような絵を持っているのだ?

会長は少し考え込むようにしてから答えた。

さて、どうだろうね。あの出来事が起こるまでは、皆がこの地区を芸術の中心地にしようと努力していたんだ。

しかし、あの出来事以降、絵画を怖れて手放した人も少なくないかもしれないよ。

かつて屋敷の主人と住民たちは手を取り合って、この地区を芸術の街へと変えようとしていた。
屋敷の主人と住人は深い絆で結ばれていた
この地区は、文化と芸術の輝きに満ちていたと
会長は語った

しかし一連の放火事件により「放火犯がまだ潜んでいるかもしれない」という恐怖から、住人たちは一匹また一匹とこの地を離れていった。
かつて賑やかだったこの地区は、今や静寂が支配する空間へと変わりつつあった。

会長はため息をつきながら言った。

この地区もいよいよ開発されてしまうのかのぉ

ワトリー

開発が進むのか?まだ屋敷は売れてないのだ

ああ、住人の猛反対で企業もあきらめていたんだが、反対する住人が居なくなったら、もう一度開発計画は進むかもしれない

ワトリー

そうなのか...

ワトリーは考え込んだ。屋敷を売りたくなはずのイーサンが、本当に放火などするだろうか?
そしてもう一つの疑問が...
会長から聞いた爆発物についての話は、
それがいかに危険かを示していた。
確かに、扱いに慣れている会長であれば、
火薬を使っての放火も不可能ではない。
そしてジミーの家の物置が放火された時、
会長には確かなアリバイがなかった。
そこでワトリーは、
バーバラのもとを訪ねることにした。
バーバラもまた放火事件時の
アリバイがない猫だ

バーバラの家を訪れた。その家の入り口には、
お香が炊かれており、空気には独特な
香りが漂っていた。

ワトリー

こんにちは

お前はジミーの家にいたな

ワトリー

うん、ボクはワトリー探偵なのだ
放火事件を調査しているのだ

何か用か?

ワトリー

なぜ見回りに参加しなかったのだ?

警察に話しただろう、見回りなんて無駄さ、この地区から出て行こうとするものは呪いがかけられるのさ

ワトリー

放火事件のせいで住民は出ていってしまったのだ

ふん、そのうち天罰が下るさ
その時にわかるのさここの土地の偉大さがね

ワトリー

土地の偉大さ?

あの屋敷はけして売ってはいけない。ましてや取り壊すなんて絶対だめだ。あの屋敷は歴史的な建造物だ。この地区の宝さ。

あの屋敷はただの建物ではない。
長い年月を経て、この地区の歴史そのものを体現しているのさ

バーバラは語る
かつてこの屋敷には才能豊かな画家が住んでおり、その生活そのものがこの地の文化に色濃く影響を与えた。しかし、主人の娘が病で亡くなり、その悲しみから主人もまたこの世を去ってしまった。その悲劇は今もこの屋敷に残る呪いとされている。だが、それは同時に、この地に根付いた深い愛と絆の象徴でもあり、この屋敷を守ることは、私たちの地区の歴史を、そしてここに生きた猫たちの記憶を守ることに他ならない。

ワトリー

そうなのか...

バーバラの言葉には強い信念が込められていた。ワトリーはふと思った。バーバラはもしかすると、あの屋敷の地下に眠る絵画のことを知っているのかもしれない。バーバラの言葉は、単なる保護意識以上の何かを示唆しているようだった。

ワトリーは入り口のお香に目をやった

ワトリー

バーバラこれは?

ああ、それは魔除けさ

ワトリー

いつも入り口に?

そうだ、邪気は家の入り口から入ってくるからな

その瞬間、ワトリーの頭の中には、以前起きた火事の現場が浮かんだ。火事が起こる前、住人たちが「変な匂いがした」と証言していたことや、ガソリンの臭いとは別の何かを感じ取っていたことが記憶からよみがえる。

ワトリー

バーバラ、このお香は盗まれたり、誰かにあげたりしてない?

あげたりはしてないね。いつも入り口に置いてあるから、誰か持っていってもわからないな

ワトリー

わかったのだ
ありがとうバーバラ

ワトリーは自分の中で情報を
整理しようとしたが、
考えれば考えるほど、
疑問は深まるばかりだった。
つづく

11話 屋敷の主人と住人の絆

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