何の因果か、連れ立って
険しい山道を降るふたり

悪路に慣れた様子のカミロ
に比べて、魔女の足取りは
見るからに危うげだった

ひー。油断すると
すぐに足元が崩れ
そうだ……

フラスカ殿、大丈夫ですか?
よろしければ私の腕をお貸し
しますが

あ、ああ、気を使わせて
すまぬな。わしなら平気
だ(たぶん)

魔女たちが難渋するすぐ横を
荷物を背負わされた使い魔が
ヒョヒョイと通り過ぎていく

…………

使い魔殿も同伴ですか?

はぁはぁ……あ、あれで
なかなか使えるからな
先代からの従者で名を
トリルという

飛べばもっと
早いだろうに
……鳥なんだし

彼が背中に担いでいる
タンクの中身は?

虹酸。ーーを少々

……っ

いま、「え、飲み水じゃ
ないの?」とか「そんな
覚束ない足取りで山越え
してるくせして、役にも
立ちそうにないシロモノ
を使い魔に持たせる余裕
はあるのですね」などと
考えたろう?

いえいえまさか
いやいやそんな

虹酸は高度な魔術養液でな
色によって効果がガラリと
変わるのだ

赤までいったのは初なので
今後の変化を見逃せないと
思い、ついタンク分持って
きてしまった。許せ

……納得いたしました
そういう部分こそが
魔女たる者のサガ、
なのでしょうね

早ク早ク!
アンタラモトットト
イラッシャイヨォ!
ゲーッ

メラノ村

な、なんだ……!?
この暗さ、村全体を
おおう禍々しさは

数えるほどしか来たこと
はないが、ここはこんな
にも大気の濁った場所で
あったろうか……

部下からの報告を受けて
おりましたが……まさか
ここまでとは

…………

小さな村全体に活気はまるで
なく、この時期にそこかしこ
に積まれているはずの収穫物
も見当たらない

たまにすれ違う顔色の悪い村
の衆は見慣れぬふたりへ一応
の礼儀としてあたまは下げる
ものの、その視線ははげしく
泳いでおり、何やら胸騒ぎを
感じさせた

……禍々しさの原因は
“不作”です

え……

数年前からここいら一帯の
天候は落ち着かず、ひどい
不作に見舞われています
父カサエロによってかなり
軽減された税も払えぬ位に

侵入者が許可なく立ち入れぬ
結界を張ることができ、研究
のためならば何なら食欲さえ
もコントロール可能な魔女殿
には無関係な世界の話である
かもしれませんが

……っ!

カミロの口ぶりあくまで淡々と
しており、本人も嫌味のつもり
で言ったわけではないのだろう

しかし、その言葉は魔女の心に
深く鋭く突き刺さった

結界の効果と並外れた集中力
により、もしかすると何回も
何十回も村人の訪(おとな)い
の音、使い魔からの呼びかけ
を無視していたかもしれない

今回、カミロはたまたま集中
が途切れた時に訪れたので運
が良かったと言える

ーー我が弟子
フラスカ

唐突に師匠のセリフが蘇る

魔女狩りの嵐が吹き荒れた
時代、メラノの民たちだけ
は逃げてきた我らを無条件
で匿ってくれたんだ

つまりだね、我々は彼らに
救われた数だけその恩義を
利息も含めて払いつづけて
いかねばならないのさ

だからね、彼らは自立している
生き物だし、もちろん毎度とは
言わないけど、たまには様子を
見に訪れて、人智を超えた力が
必要とされた時には惜しみなく
与えてやってくれたまえよ

そう。わしは確かに空腹
をコントロールできる……
飲む習慣のない茶が全部
駄目になるほどの時間が
流れていても、違和感を
抱かないくらいに

魔女殿

師匠の頼みであったという
のに、わしは一体どれだけ
のあいだこの村を放置して
しまったのか……

魔女殿ってば!

はっ、はいっ!?

しっかりなさって下さい
村人の様子があからさま
におかしいのですが?

先ほど、中のひとりが
ベンに告げに行くとか
言い残して、そちらへ
駆けてゆきました

オ。ソッチカラかぼちゃノ
匂イガプンプンシテラァ!
ケドヨ、アンマ旨ソウジャ
ネェナ! ゲヒィーヤ!

食欲魔鳥であるコイツ
が旨そうじゃないだと
……?

小僧! わしらも
追いかけるぞ!

妙な呼ばれ方に胸躍り
ますね。はっ、魔女殿
の仰せのままに

村外れ

おお、これは見事な
キレイに整えられた
畑ばかりですな

そら、こんなに巨大で
艶々とした赤果実まで
少し時季ハズレですが

…………

触ったな? まぁぬしは
手袋をしておるから大事
には至らんだろう

ウッワ勇者!!
ケヒーッチュ!

はい? 何スか?

ここに植っている植物
はすべてが毒種だ

ヤッベ! 盗み食い
しなくて九死に一生

まぁ毒とて悪いものばかり
ではないしな。その赤果実
は抗体剤としても使われる
毒を持って毒を制すだ

そうは言われましても、
我々パンピーからすると
毒は恐ろしきもの、命を
危機にさらすものという
認識でありますからして

パチン

ズザザザザーー!!

何だ、そのできそこない
のオモチャの兵隊みたい
なのは

さすがに失礼ですぞ魔女殿
彼らは一騎当千の頼もしき
我が私兵部隊であります

そなたらに命ずる。これより
この邪悪なる畑の数々を作り
あげし管理人を捕縛し、我が
元へと連行してまいれ

ザザザザズーー!!

アウーッチ!?
魔女、アレ、アレェ!

ンなっ!?

ムーシャ
ムシャムシャ
ムーシャ

パンプキンヘッド
!?!?

次回完結:カボチャ頭の正体とは!?

パンプキンに祝福を:中編

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