切り立った高山に建つーー

ここはとある魔女の庵

…………

グツグツグツ……

グツグツグツ……

グツグツグツ……

ハッ!?

ふー……虹酸変化を眺めて
いるとキリがない。飽き
もこない。薬実験は時間
泥棒で困るな……

……いまは何時くらいだ?
さすがに腹がペコペコだ

オイッ、魔女!
グゲエェェェア

わ、ビックリした

そういやこんな使い魔
飼ってたな……しばらく
エサを与えていないが
平気なのかお前?

テメー飼イ主失格!!
ソレヨカ、ギェッチュ

客ダ! 招カレザル客ガ
スグソコマデ来テルゾ!
グギャーッ

コンコン……コンコン……

……なるほど

魔女の実験を邪魔する
とは何と無粋な……
まぁ、いい。この高山
を踏破してきた脚力に
免じて相手してやろう

カチャッ……ギイィィイ〜……

お初お目にかかります
魔女殿。いや、高山の
魔女、または偉大なる
緑衣の魔女フラスカ殿

これはこれは……
賢領主カサエロ・
ベオウルフの七女
カミロではないか

は?? 私どもが対面
するのは本日が初では
ないかと

ふん、わしを覚えて
おらんか。つれない
娘だ

ま、無理もないか
わしは土地と薬学にしか
興味を持たぬ無名の魔女
だし、ぬしが幼児の時分
に少しだけ顔を合わせた
程度だからな

ふふっ

ヤベェ。1ミリ
も覚えてねぇ

茶ダ! 来客ニハ茶ァ
クライ淹レルノデス!
グワララガァー

何だコレ……すっげぇ
可愛い! モロ好み

茶? 茶かぁ……
茶といってもなぁ

見るからに生活能力の低そうな
魔女は、めんどくさそうに雑然
とした戸棚を漁り始めた

あ、どうぞお構いなく
ですが茶菓子が必要で
あればこれこのように
持参してきております

オーエルンノ都ノ超有名店
ルランド堂ノケェキジャン
気ガ利クナ、オメェ様ー!

姿かたちが愛らしいだけ
でなく、見事なアンテナ
をお持ちの君、私の専属
秘書にならないか?

ダメだ。買い込んでおいた
茶葉はすべて、シケったり
腐葉土に戻ったりしてる

んー……

……これでいいか
ま、悪いようには
なるまい

ジャバッ

積もる話もあること
だしリビングへ移動
するぞ。ついてこい

!? このケーキ
うっまいな!
魔法みたいな味が
する……!

気に入られたのなら、
どうぞいくつでも召し
あがって下さい

私のほうはこの淹れて
いただいたドリンクに
苦戦しておりますがね
……っ!

苦っ!? 次は
甘っ!?

ペロリ

馳走であった♪

ご満悦いただけた
ようで何より

しかし……ぬしはこれまた
ずいぶんと様変わりした
ものだなぁ……

おとーたま
このちとは
だぁれ?

その頃からヘンテコなもの
を愛でる嗜好の持ち主では
あったが、フリルやリボン
のよく似合う女児であった
のに

ーー人は変わる生き物です
幼少時の思い出話はその辺
でご容赦を

む。心得た
あれはカサエロが契約を
交わしにきた時だったか
ところで彼奴は息災か?

じつはーー今回ここまで
足を運ばせていただいた
のはその件についてなの
ですが

カミロは語る

このたび体調不良により、ついに
一線から退くことを決意した父親
によって、カミロたち五男七女に
生前贈与を兼ねた土地の支配権が
分配された

末妹のカミロへの分配は微々たる
もので、メインである大荘園から
遠く離れたメラノ村が与えられた
のだという

そこで思い出したのです

メラノといえば魔女の有する
グラド高山のお膝元にあり、
高山の魔女といえば父が以前
、当家の相談役になる契約を
交わした緑衣のフラスカ殿で
あると!

うむ。確かに

ベオウルフ家はその立場上
ややこしい敵を作りやすく
いざこざを解決するために
各地の魔女と契約を交わす
わしもそのひとりだ

はい。ですので、支配主交代
のご挨拶と相談を兼ねて本日
お邪魔させていただいた次第
であります

相談? 相談と
言われてもなぁ

メラノに多少の恩義があり
守護の契約を交わしたのは
一代目緑衣の魔女たる師匠
であって、その後に跡目を
継いだフラスカは元々関心
が薄いのも災いして、ほぼ
ノータッチなのであった

……などとは今はさすがに
言い出しづらい

つまり? メラノに現在
魔女の介入が必要な問題
でも発生していると?

そのとおりです

メンドクセーッ
メンドクセーッ

日ガナ一日、薬タップリノ
寸胴鍋ダケカキ回シテタイ
by本音! グギィイィヤ!

…………

…………

……続けますね

カボチャです

カボチャ? 旨いよな
アレは。わしはパイが
特に好みだな

同感です
メラノは貧しい村ですが
カボチャの名産地として
以前まではそれなりに名
が知れていたのですが

ここ数年旱魃やら洪水が続いて
地質に変化でも起きてしまった
のか唯一の売りであるカボチャ
がまったく育たなくなったとの
報告があがっているのです

…………

父にも訴状がきていたよう
なのですが数多の荘園管理
でそこまではなかなか手が
回らず、メラノ村の苦境を
ここまで放置してしまい、
申し訳なく思っております

フラスカ殿の元にも村から
訴えがきているのでは?

いや……あー……どう
だったかな……?

長らく放置していた引け目
からか魔女の言の歯切れは
すこぶる悪い

……とにかく、これから私と
共に村へと赴いていただき
畑の地質調査をしてもらい
たいのです

い、今から??

ご協力願えますか?

下界にかかずらわうよりも
虹酸の出来のほうがよほど
気にかかる魔女であったが
生憎と村との契約は未だに
生きているし、新支配主の
真摯さに押される形で渋々
と承諾した

……はぁい

次回:村ではとんでもない異変が!?

パンプキンに祝福を:前編

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