タタタタ……ッ

おっと! おい、
待つんだそこの僕

向こうに納屋がありますね
どうやらそこへ逃げ込んだ
ようだ。追いかけましょう

シュバッ

ぬぅ……速ぇな鳥!!

ーーうっ!?

はっ!?

ム〜シャムシャムシャ
ボ〜リボリボリボリリ

狭い納屋の中は大勢の子どもと、
彼らの足もとにゴロゴロと転がる
カボチャがひしめいていた

子どもらは一様に痩せこけていて
頭部をすっぽりと覆ったカボチャ
の中身を旨そうに咀嚼している

こ……これはどう解釈
したらいい光景だ?

ワォー!! アブネアブネ!
オイッ敵襲ダゾ! ギャギャ

ーーチッ!

すまね、ベン。尾行された
わしが責任持ってこいつら
仕留めるからーー

ざけんな、この……っ
私兵どもを呼ぶぞ?

ちょっ、カミロいかん!
思いっきり空振りだった
のだし、少し冷静になれ

やめれ、ドリューさん!
この方たちは身なりから
してお偉いさんに違いね
手ェ出したらいけん!

む?

どーも
……おらぁメラノの
薬毒師ベンでさぁ

説明しよう。薬毒師
というのはだな……

薬効成分のある動植物
を調合して傷や病気を
癒し、時には終末ケア
や安楽死をも手がける
いわば医者の代替者だ

こういった僻地の無医村
には欠かせぬ存在で、畑
が自然界には存在しない
毒種まみれなので一発で
わかる

初めて耳にする職業です
ちなみに合法ですか?

もちろん究極の
違法だ

あのさぁ……

仕方なかろう
医者や癒やし術を
使える魔女を雇う
のはバカ高い

あなた様が新しい領主様
とはちっとも知らねぇで
無礼を働いてすんません

ごめんなさい、
偉そうな兄さん

ふっ。幼いパンプキン
ヘッドに謝られたなら
許すしかないな

ヘンテコなもの好き
の血がざわめいたか
……

厳密に言うと領主代理
の支配権保有者だがな
それはそうと、この子
たちはなぜこんな珍妙
な姿かたちに?

…………っ(明らかに
言い渋っている)

疾く答えよベンとやら

ベンさんを責めないで
ベンさんはおらたちに
久しぶりにこぉんなに
甘いものを腹いっぱい
食べさせてくれ……て

何だぁ!?
一気に倒れて眠って
しまったぞ!?

う……う、あ……

貴様ぁ! どういう
カラクリだっ!?
その怪しいカボチャ
を私によこせっ

だっ、駄目でやす!
おら以外が触れたり
したら大変なことに
……あぁっ!?

ガリッ!
モグモグモグ

スンゲーッ、コノシト
タメライナク毒齧ッテ
ヤンノ! ヒギャー!

ゴクン

…………?
私は特に何とも
ないが?

そ、そんな馬鹿な……!?
おらが丹精込めて育てた
コイツをほんの一口でも
齧れば、甘味と多幸感に
包まれるはずなのに……

何をブツブツ呟いてる?
それより聞き捨てならんぞ
貴様、お得意の毒を用いて
この子らを集団虐殺しよう
としているのか!?

……“メディチの祝福”

魔女殿! 今から
こやつを捕縛ーー
え?

……メディチの祝福とは
遅効性の猛毒の代表だ
作り出すのもましてや
含有された野菜として
育てるのも極めて困難

それをここまでみごとに
扱えるということは並々
ならぬ量の研究と弛まぬ
努力をこの猛毒へ捧げて
きたに違いあるまい

ううぅぅ……っ

おそらく膏薬を塗って
いるあの左目も自らを
実験台にした代償……

毒カボチャは彼らの舌に
生涯最期の甘味と多幸感
をもたらし、頭部を覆う
ことによりそれらを持続
したまま幸せに旅立って
いくだろう

ムニャムニャ
おなかいっぱい
……ごちそうさま

意味がわからん……
慈愛の毒とでも言いたい
のか? それでもこやつ
が殺人者であることには
かわりあるまい

……そのとおりでやす
すんません……ほんと
すんません……

さぁ、新あるじ様
どうぞおらを捕まえて
くだせぇ

言われなくても
……私兵どもよ!

ドドドドド……ッ!!

その男を捕えろ!

そして魔女殿、あなた
は薬学のエキスパート
だ。子供らをどうにか
解毒してやれませんか

というか、なぜに
私は無事なんだ?

遅効性の毒だから?
しかしほとんど甘味
など感じなかったが

口減らし

…………

……と言うと語弊が
あるかもしれんな

答えろベン。ぬしは村の衆に
頼まれて、病気や弱り切った
子どもらが苦しまずに天国へ
逝けるよう研究を重ねてきた
のではないか?

指摘された瞬間に、ベンは拘束
されたまま地面にひざをついて
泣き出した

そして告白する

稀に見る不作のせいで子どもら
はおろか親たちだって明日をも
知れない。じぶんたちに何かが
あった時のためにもっとも弱き
者たちから安らかにおだやかに
逝かせてやって欲しいと、血を
吐く思いで頼まれたのだと

おらは……はじめは断ってた
んす。てめぇの子みたいに
なついてくれるこいつらを
殺せっこねぇ、そんなのは
まっぴらごめんだって

でも……でも……憎らしい不作
のせいでまともな畑の作物は
実らねぇのによ……毒素の強ぇ
おらの畑のもんばかりが丈夫
に育って……

「いいな」「美味しそうだな」
って毎日指くわえてながめてる
あいつらが不憫でたまらず……
とうとうやっちまいました

またもや号泣するベンの拘束
を解かせると、カミロはやり
切れないため息をついた

……んん? あれ?
魔女殿はどこへ?

ヨイショット!
ヨッコラセッセ
グェッグェッ

ムニャム……ゴクゴク
ゴクリ……ゲロマズ〜

フーゥ……コレデ全員分ノ
口ン中ニ虹酸ブッ込メタ
終了! ドウモーッ!!

ーーここがメリノの
“まともな”畑か……

ふむふむ……

……洪水などの影響により
本来は豊かであるはずの
土壌に不作を増長させる
成分が大量に染み込んで
しまっておるな

訪問がこの日に間に合って
よかった。取り返しのつく
タイミングで本当に本当に
よかった……

でないとわしは師匠に
確実にキルされていた
ことだろう!

トリルの奴も上手く
やっておるかな?
虹酸の赤がたまたま
出てくれて助かった

さて。これまでサボって
いた分のツケを払わせて
もらうか……

まばゆい白光が畑全体を
おおってゆく

穢れた土壌を清め、再生
をうながす魔法

自然系統に属する魔女の
得意とする技である

……ふぅ……
ま、こんなもんか

これでこれから植えるもの
は天候無視でグングン成長
するだろう。ただし一年間
だけだが

おや?

……じーっ……

よしよし、そこの君も
苦労したな。これから
は腹いっぱい食わせて
もらうといい

来年も……また必ず
様子を見にくるよ

そう言い残すと魔女は後ろ手を
振りつつ、うっすらと光のさし
始めた道をのんびり歩いていく
のだったーー

虹酸の赤の効果は“一時的解毒体質変化”ダヨ!

置イテカレター
ギョエーッ

パンプキンに祝福を:後編

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