こうして、私の孤島ライフ
は始まった

不便すぎるほどに不便では
あったけれど、こんな僻地
まではさすがに組織の奴ら
も追ってはこないだろう

そう思うと、人生で初めて
肩の力が抜けた

島一番の実力者たる天道家は
とても立派で、雇用主の稀馬
様は邸宅に輪をかけて立派な
人格者だった

昔からパソコン関係のプログラマー
になりたくて、上京して、専門学校
に通って、就職も決まり、いよいよ
夢が叶いそうな時になって先天性の
持病が悪化

破れた夢とともに帰郷し、今は在宅
で家業の一部を手伝っているとか

そのせいなのか、いつも悲しそう
な、何かをあきらめたかのように
微笑む人だった

髪を結び、海に出ては日に焼け
慣れぬ方言と敬語、そして仕事
にも慣れ始めてきた頃ーー

悪夢が襲来した

かたときも忘れたこと
のないあの顔がーー

年の離れた後妻を引き
連れて戻ってきたのだ

何でも、新妻の希望で一年近く
新婚旅行と称して東南アジアの
国々を巡ってきたらしい

現当主のウワサ話は時たま耳に
していたものの、たかだか半年
前に入ったばかりの自分が顔を
合わせたことがないのも当然だ

高鳴る鼓動、強く握った
こぶしの中の汗

その時ようやく自覚した

私はーーこの男を仇だと
認識しているのだと

勿論そんな感情は八つ当たり
以下の理不尽レベルだという
ことも重々承知している

ーーが

身のうちからマグマのように
湧き上がる憎しみは抑えよう
がなかった

この人が母に金を与えなければ
あの女はもう少し堅実に生きて
いたんじゃないかとかーー

この人がじーじの仏像を持って
いきさえしなければとかーー

身勝手すぎる憎しみの言い訳も
また無限に湧いてきた

……でもこのままじゃいけない

こんな気持ちを抱えたままでは
いつか、稀馬様も、彼の家族も
傷つけてしまう

ならば私はじーじの形見を
さっさと見つけ出してーー

恩人の前から、天道家から
速やかに出ていこう

それから本格的に仏像探し
すなわち、家探しを始めた

この邸のどこへでも入り込める
ようにするため、そして当主の
私室へ入る許可を得るためにも
まずは徹底した家事を目指した

どの作業もけして手を抜かず、
特に掃除関係は念入りに

頑張った甲斐あって一年が経過
する頃には「あの子はまだ若輩
なのになかなかデキる」という
評価が定着していた

あの人こわ〜い
うち辞めさせて
いただきますぅ

昔から天道の台所を支えていた
老家政婦が引退したのを機に、
稀馬様たちに気取られないよう
注意しながら新人が入ってくる
たびに先輩風を吹かせて、ネチ
ネチとしつこくいびっては追い
出しにかかった

邪魔者が増えたらこの邸の隅々
までを掌握できない

その結果、邸は慢性的な人手不足に
おちいる羽目となり、私が家事全権
を委任されるまでにはたいして時間
もかからなかった

すぐに元同業者だとわかった
彩葉が稀馬様にらしくもない
純粋な信頼を寄せるのが酷く
不愉快だったし

天道鬼蔵が時折こちらを憐れむ
ような目付きで眺めてくるのが
不気味でもあったがーー

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