健ちゃん

ここ……です

健に案内されてきた思いの外
長い渡り廊下の先は鬼蔵専用
の離れへと続いていた

念のためにと、綺麗に整頓
された故人の私室とーー

その隣にあるコレクション置き場
と言うより、薄暗くゴチャゴチャ
したガラクタ部屋も確認しておく

味噌川警部

ゲホッゲホッ!?
こりゃひどいホコリじゃ
こんなとこ長うおったら
気管支炎になってしまう

千駄木幸治

……段ボールが……

味噌川警部

うん?
どうしたね?

千駄木幸治

テキトーな段ボールが山積み
されてますね……
奥のほうにも骨董品らしき物
が積まれているけど、やはり
扱いが雑なように見える……

千駄木幸治

うーん……

味噌川警部

千代ちゃんもこんなとこ
よう入らんと言ってたし
鬼蔵氏もそんなに愛着が
なかったんと違うか?

味噌川警部

ひとまず出よ出よ
話はそれからじゃ

味噌川警部

ひゅーひゅー
新鮮な空気って
美味しいな!

健ちゃん

みそさん、へいき?
みずもってくる……?

味噌川警部

おっちゃんなら平気の
平左じゃよ!
健ちゃんは優しいのぅ

味噌川警部

ーーして? 千駄木君の
疑問点を聞かして貰おか

千駄木幸治

いえ、疑問点ではなく
千代ちゃんから聞いて
いたとおり、あの部屋
には無価値な品々しか
なかったようです

味噌川警部

うん? それが何かーー

千駄木幸治

ならなぜ、鬼蔵さんはそんな
ガラクタを、わざわざ一部屋
あてがってまで保存していた
のか? がどうも気になって
しまって……

味噌川警部

ふぅーむ? その点は特に
気にしてはおらんかったが
……健ちゃんは何ぞ知っとる
かな?

健ちゃん

ん〜……

健ちゃん

そういえば……だんなさま
これはひと、ひとさま?
からあずかってるものっ
て言ってた

味噌川警部

ん? 自分のコレクションで
ありながら預かり物っちゅう
のは矛盾しとらんか?

千駄木幸治

預かっているにしろ、相手は
ひとりやふたりでは済まない
でしょうね
パッと見、品物のセンスやら
嗜好やらがほぼまったく統一
されていなかったから

味噌川警部

複数の人間からバラバラ
の品を預かっとるわけか
なぜにそんなけったいな

千駄木幸治

……天道家の家業から
察せられるその理由
がひとつありますよ

千駄木幸治

いわゆる“質草”というヤツ
ですね
借金のカタとして預かった
品々ではないかと

味噌川警部

なるほどな。……確かに天道家
は島一の権力者であり金貸し
や土地貸しをなりわいとして
おるからのぅ

健ちゃん

ポカーン

千駄木幸治

おっと。健ちゃん、やたらと
小難しい顔した会話ばかりで
すまないね
そうだ、ここの間取りを正確
に教えてくれるかい?

千駄木は懐からメモ帳を取り出し、
健のつたない説明を書き写し始めた

千駄木幸治

えーと……全体的な間取り
はこんな感じ、と

味噌川警部

千駄木君、絵は不得手
なんじゃなぁニマニマ

千駄木幸治

この茶色の部分が母家と
繋がっている渡り廊下

味噌川警部

この赤色の部分が鬼蔵氏
専用の風呂とトイレだな

千駄木幸治

この青い部分が今しがた
僕らがお邪魔した私室と
ガラクタ置き場で

味噌川警部

部屋の前の狭い廊下から
続くこの十段ほどの階段
がくだんの場所ーー

味噌川警部

鬼蔵氏がうっかり足を
滑らせて、のうなって
しもうた場所じゃ

千駄木幸治

そして最後のこの
赤丸がーー

千駄木幸治

ーー裏庭へと繋がる
唯一の出口なわけだ

味噌川警部

おぉー……もうすっかりと
日が暮れておるんじゃね

千駄木幸治

見た感じ、その気になれば
誰でもこっそり侵入できて
しまいそうな造りだな……

千駄木幸治

健ちゃん、ここの戸は
今みたいにいつも開錠
されているの?

健ちゃん

う、うん
じゃなくて、はい

健ちゃん

でも、あの日はたまたま
しまってたんだ。だから
えっと、おれがもってた
カギであけてはいった

味噌川警部

あの日ってのは
まさか!!

千駄木幸治

鬼蔵氏が亡くなった
日のことか!?

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