ほどなく帰宅した一行を味噌川
警部が笑顔で出迎えてくれた
自分たち用の寝室はすでに用意
されているとのことだが、
とりあえず最初に通された居間
でホッとひと息つく
おかえりー
ほどなく帰宅した一行を味噌川
警部が笑顔で出迎えてくれた
自分たち用の寝室はすでに用意
されているとのことだが、
とりあえず最初に通された居間
でホッとひと息つく
は〜あぁ……
落ち着くぅ
お疲れさん。あの岬は
名所なだけあってなか
なか良い展望じゃった
ろう?
はい。あれはかなりの
眺めでしたね
あそこまで切り立って
いると自殺者をも呼び
込まないか心配ですが
ふたりは岬の印象を言い合ったり
蟹脚のポーションのお味について
食レポし合ったりしてなごやかに
時間を潰す
千代は帰るなり夕食の準備をしに
台所へ、稀馬は自室へと戻り、
健ちゃんは風呂の焚き付け用の薪
を切りに裏庭へ行ったとのこと
この桜餅おいしー
モッチャモッチャ
まさか、彩葉さんみずから
茶の替えと茶菓子を運んで
きてくれるとはなぁ
先程の果物の皮事件の詫び
じゃってモッチモッチ
……面識もあまりないんで、
会食の席ではあの未亡人、
えろうツンケンしとるなぁ
と感じたりもしたが
いま思えば、ごく内輪の集まり
とはいえ、悲しみに耐えながら
喪主を務めあげたんじゃろう。
実に立派なもんじゃて
……へー? そういうのは
あまり詳しくないんです
けど、喪主は実子の稀馬
さんが務めたんじゃない
んだ……
ここだけの話、稀馬さん
はああ見えてあまり頑丈
ではないけん……
生まれつきの心の臓の病でな
顔色の悪さもむくみもそれに
由来しておるらしい
手術は海外へ行かんと難しい
そうだし、当主の務めもまず
無理じゃと、ご自身の判断で
跡継ぎを辞退したと聞いたな
……彼は確かに……
すべてを諦めたように
笑う人だなと思ったが
場に重たい空気がのし掛かる……
そ、そういえば!
う、うん!?
僕、千代ちゃんと健ちゃん
は最初姉弟かと思いました
顔立ちではなくて、雰囲気
とかが何となく……
あぁ……そりゃあアレよ
千代ちゃんは元々丘山市の
子でな、稀馬さんの恩師の
紹介で雇われたんじゃと
同じ県の同じ年頃じゃけん、
似たようなイメージがある
んじゃないか?
丘山市というと、県庁
所在地の……
わしもそこの出身じゃよ
人口30万の、丘山の中では
一応大都市と言える場所や
しかし、親戚付き合いが
ほぼなかったという割に
さすがは味噌川警部!
情報通ですねぇ……!
いやいや、褒めてもらう
ようなことじゃないけん
職業病とでも言うんか、
我ながら嫌になる詮索癖
でなぁ
ス・スーッ
失礼しまーす!
お夕食をお持ち
しましたぁ
ああ、千代ちゃん
ご苦労さんです
ち、千代ちゃん、
どうもありがとう
しかしタフだねぇ
遠出した後なのに
あんなの、島のもんから
したら散歩と変わらんよ
さ、おみおつけをどうぞ
…………
おー、こりゃ懐かしい
島名物の豆腐汁じゃね
えっ!? そうなの?
こーゆーの手抜きって
言わない!?
野暮言わんと
啜れ啜れズズ
次、前菜いきまーす
ーーなぁ千代ちゃん
はい?
そっか! 味噌川さん、
イケる口でしたよね?
後で熱燗お持ちしますよ
それもありがたいんじゃが
……すまんが家事が終わった
後にでも、鬼蔵さんの部屋
へ案内してくれんかな?
いや、部屋っちゅうより
彼がのうなった現場って
意味で……そちらでも手を
合わせたい思うてな
直球だが……さて、どうくる?
即座に断られるか、彩葉さん
にお伺いを立てるといったん
保留になるか……
あー……別に構いませんよ?
即答!!
ただ千代は明日の下拵え
とかで手が空かないから、
代わりに健ちゃんに案内
してもらいますね!
うんうん、それでええよ
ワガママを言ってしもて
すまなんだ。わしも一応
分家筋なもんで、そこを
見ておきたくての
サラリと方便を駆使する
のがこれまた古ムジナ流
なんだよなぁ……