子供を渡すんだ。毎日のパンには困らなくなるよ。

あなたがいなければ三食ケーキで乾杯してました!

やれやれ。これ以上話してもらちが明かないな。

華麗な交渉術どこにやったよ。

ロトフクス。君を雇ったのは用心棒としての意味もある。

は!?

こうなったら力ずくで子供をいただこう。女一人、痛めつけても誰も怒らないさ。殺してしまってもいい。任せたよ。

殺…!?

なあ、ミュラー。
それは、おまえ、それはさあ。

死体の処理は、好きにしていいのか?

そりゃ煮るなり焼くなりご自由に…

…君、そんな顔だったかい?
この一瞬でずいぶん人相悪くなったね。

できたわーっ!

人んちの台所で何錬成してやがる!?

ちなみに見せたのはただの自慢で、分け与える気は一切ないです。

ふっ、料理はすべて私のものよ。

元々うちの食材なんだが!

いや待てマジで…食糧庫の肉と野菜からどうやってあの色を抽出したんだ…?

あ、戻った。今君とても怖い顔してたよ。人殺しにすごく向いてそうな…
ん? つまり戻らない方がよかった?

はあ、やってられねえな。
ミュラー、俺は下りる。

は?

悪いが目当ての親子はともかく、後ろに控えてるやつが怖すぎるんだよ。

にこっ

何が怖いって? ただの少女だ。まさかあの小さな拳が大岩みたいにふくらんで君を叩きつぶすわけじゃないだろう?

おまえ自分で気づいてないだけで超能力とかあると思うぜ。

にこにこっ

君がこんなに臆病だとはね。仕方ない、私が自分で手を下そうじゃないか。

ミュラーが歩み出た。
立ち向かうガイスは、
手近なものをつかんで構えた。

さあ来なさい!

待ってなんか怖いもの持ってる。

ああ、俺の私物だわごめん。

なんであんなもの持ってるの。

えい!

痛っ

やあ!

痛っ痛っ

でやああっ!

……ふっ

これで勝ったと思うなよ。この借用書がある限り、私は何度でも来るからな!

上等です…門前払いの腕を上げておきますよ…

さあ…次はあなたの番です…!

俺はやんねえっつってんだろ。

狼さん、お茶っ葉どこですか?

そんでおまえらはいつまでくつろいでる気だよ!

客人たちに荒らされつつ、
〈狼〉の家で夜は更けていった。

僕眠くなってきた。
七歳だから。

帰れ!!

ふう~、やっぱり我が家は落ち着くわね。

しばらくは出かけたくありませんね。

はい、今開けます。

おや。チバリ様、お客様ですよ。
えっと確か…

ロトフクス。

短く名乗ると、男は
ノーラの頭越しに
部屋の中を見やった。

魔女に用がある。

ミュラーさんはお元気ですか?

あの親子の件は、借用書を奪われて手を出せなくなったらしい。

あんの親子ぉ~! ただ奪うだけじゃ飽き足らず私の目の前でっ! 借用書を散りっ散りにしてシチューに入れてコトコト煮込んで飲み干しやがったっ!

色んなもの食うやつがいるんだな。

悔しい悔しい悔しいっ
ああー悔しい~~~!!

あれは冗談だったんだろうが…そこから先は知らねえな。あいつの仕事からは足を洗った。

今日は別の話で来たんだ。なんでも願いを叶えると言ったが、嘘じゃねえだろうな?

私は魔女よ。なんでもどうぞ?

俺は…

もう人間を食べたくない。
我慢する方法を教えてくれ。

なっ、なんだ!?
椅子から滑り落ちた上にひっくり返ったぞ!?

な…なんですって?
人間を、食べたくない?

若い男女を毎日五人ずつ食べたい、とかじゃなくって?

それ言われたら叶える気でいたんですか。

だって人を食べたいから何人も殺してたんでしょうに…?

欲望を抑える欲望…
願いを絶つ願い…? 
そんな…そんなものが…??

なんだこいつ。

自制心を知らないんです。

そうらしいな。

ええいっ!
やってやろうじゃないの!

食欲は身の内から起こるもの。〈変身の魔女〉の領域よ。引き起こすことも消すことも、魔女にかかればお茶の子さいさいっ!

ただしあなたの場合には、特定の食材を食べたいってのが肝心。やみくもに満腹薬を飲んでも効かないでしょうね。

おまえが言うなと言われそうだが、人肉を食材と呼ぶな。

倫理観がないんです。

俺こんなやつ頼って来たのか。

つまりやみくもじゃなければいいわけ。まずは観察、それから実験。ってことで諸々やりやすいように、ロトフクス、しばらくうちで暮らすといいわ。

は!?

えっ。

客と弟子いずれの同意も取らず
魔女は楽しげに伸びをした。

久々に未知の仕事だわ。何から手をつけようかしら!

そうですね、まずは庭に掘っ立て小屋でも建てるべきかと。

おい。

 

おしまい

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