舌切り雀はたとえ羽ばたけなくとも

4話
昔々の戦いのお話

昔々この世界に、大きな戦いがありました。

当時世界の覇者だった人間と、地獄の底から現れた、「鬼」どもとの長きに渡る戦いが。

鬼はとても強大で狡猾。身体能力の差はもちろん、あらゆる武器・化学兵器をもってしても、まるで歯が立ちません。

進退窮まった人類は、賭けに出ます。

「依能理」

人間の「命」を媒介として、半永久的な無限のエネルギーを持つ疑似生命体。

幾多の犠牲の果てに、人類は最強の兵士を手に入れたのです。

彼女たちの戦果は凄まじく、これまで劣勢だった人類に幾多の勝利をもたらし、戦力構図を一気にひっくり返したのでした。

その中でも「スパロウ」と呼ばれた最高傑作の個体は。瞬きほどの時間で百の鬼の首を縊り、鬼の巣食う洞穴に単身放り出されても度々生還する。

無敵の強さを持っていました。

それでも戦いはやまず終わらず。鬼は、無限の生命力を持って地の底から湧き上がるかのようでした。

十年、百年。一体幾ほどの時間が過ぎたでしょう。

依能理は活動すればするほど、人の命を必要とします。今では一体どれほどの人が残っているのでしょうか。

失われた命は成仏することは叶わず、魂がこの世界をさまようとも言われています。

この地を見つけたときは、奇跡だと思ったわ。

魂たちが、人の形をして、ただ彷徨うでもなく村としての形を保ちつつ活動している。

おそらく、自分たちが死んだことにも気づかぬまま、生前のままの暮らしをし続けようとしたのでしょう。

文明レベルは千年以上も昔のものに立ち戻ってしまっている。すべての記録は失われて。

それでも……なんと生き生きと、暮らしていることでしょうか! あたし、びっくりしたんです!

よくわからんがどういうことだ!?

なんでこの怪物共は襲ってくる!?

血の巡りの悪いやつらだ!

貴様らは人ではない。ただのオバケに過ぎんと言うことよ!

貴様らも、そこの家も、畑の作物も、村の何もかもが……な!

そして貴様らのような魂の残り滓は、我らにとって格好の「オヤツ」になるのよ!

ああうまそうだ! 早く味わいたいのう!

あたしがそんなことさせませんけどね!

ふん!

あうっっっ!

ひときわ大きな怪物から放たれた、凄まじい拳。避けることもできずに叩きつけられ、女は地に伏してしまいました。

さすが大将! イノリ相手に引けを取らない!

……お前、本当にスパロウか?

奴ならばこの程度で地に伏すなど考えられぬ。

うふふ……運動不足がたたったかしら? ラジオ体操は欠かさずやっているのだけど♪

雀さん!

旦那さま旦那さま。待っててくださいね。こんな鬼たちなんてあたしがコテンパンにしてあげますから。

笑止!

踏みつける足に力を込める……!

イノリ。…はて。

そのイノリには翼がないようだが。

イノリの翼。それは彼女らの象徴。

かつて鬼たちは、立ちふさがるイノリたちの翼を見て震え上がったのです。その翼羽ばたく時、幾千の鬼の命が終わる時。

それが貴様のその体たらくの理由か。

「翼」と「歌」がなければイノリなど恐るるに足らず。

堕ちたものだな、かつての最強!

この果ての地で、そのまま押し潰れるがいい!

うあああああーーッ

雀さん……!

そんな、どうすればいいんだ……

翼……翼……

もしかして――!

続く

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