あら。

テーブルクロス越しに
動く影を見て、
チバリがつぶやいた。

変ね、ここは戸口とまっすぐ向き合っているのに。

ドアが開いたらもっと眩しくなるはずですよね。

きっと体の大きな人が入ってきたのね。戸口に立って外の光をさえぎっているんだわ。

それでも差し込んでいた日光が、
ドアの向こうに追い出される。

よお奥さん、金は用意できたか?
それとも子供を渡す覚悟は…

これは一体どういうことだ?

…………

み…見ての通りです。これから牧師様をお呼びするんです。うう…

そりゃご愁傷様。だがそうなると…
どうすっかな、こっちも手ぶらで帰るわけに行かねえんだ。金はあるのか?

ありません…しばらく待っていただけませんか。

いつまで待っても払わねえから、子供を渡すって話に…

……!

…今、こっちに目が向いたわ。

気づかれましたかね。

隠れる二人を視線が射抜いた。
かと思うと借金取りは、
口調をやけにやわらげた。

まあ確かに、暮らしぶりはよくないみたいだな。そうだ、俺が立て替えてやろうか?

え?

俺もカネがないじゃない、一時的になら肩代わりしてやれる。もちろんタダとは言わねえが。

担保になるものは、もう何も…

そこにいるだろ。

…………

…………

一人じゃねえな。二人はいるか?
隠れていても匂いでわかる。
若い女ども、俺によこせ!

えいやっ!

クロスがまくられると同時に
ノーラがテーブルを跳ね上げた。
続いて、

食らえっ!

チバリが石化薬の粉末を
投げつけた。しかし。

だああっ、かわされた!
床に食らわせても意味ないのよ石化薬は!

板張りが石張りになりますかね。

ならないわ!
…って、あら?

あなたどこかで…

…………

ギャーーー!!!

あなた、狼のお兄さん。

ああ、どこかで見た顔だと。

人食いやめて人買いになったのね。

カ行がお好きなんですか。

ななな、なんでここに魔女が!?

尻もちをついたまま
あとずさりする。
〈狼〉と恐れられた食人鬼だが、
今はアシダカグモに似ている。

魔女の森から三日も離れてんだぞこの村は!

私たちも三日かけて出張に来たの。

妙なご縁があるものですね。

世界一いらねえご縁だよ!!

あ、逃げた。

追いかけるわよノーラ!

頑張ってくださいチバリ様。

自分は追いかけないんですね…

走ると疲れるじゃないですか?

駆けてゆく二人を見送り
ノーラはドアを閉めた。

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