柔らかな風に揺れる草原を
駆けて行く二人の少女がいた。

あっははは!
気持ちいいわね、ノーラ!

のどかな村ですね、チバリ様。こんな場所なら出張も悪くないです。

魔女とその弟子だ。

草原のほとりの村から
魔女の家に手紙が届いたのは
三日前のこと。

さて、依頼人の家は…

井戸の横。きっとあの家ね。

こぢんまりした家を見下ろし、
チバリはスカートの草を払った。

ああ、魔女様。
来てくださったんですね。

依頼人は拝むようにして
二人を招き入れた。

私はガイス。後ろに隠れているのは、シブンといいます。

……

手紙では、息子を守ってほしいって言ってたわね。その子のこと?

借金の契約書の最後に、小さな字で担保が書かれていて、それがこの子だったんです。返済できない場合、子供をいただくと…

お金を借りたとき、そのことには?

契約書に二枚目があることにも気づきませんでした。

それはまた小ずるい。

利子も高くて、どんどんふくらむ借金はとても返せたものじゃなくて。
借金取りが来るのは今日なんです。なんとか守っていただけませんか?

任せてちょうだい。ピッタリのものを持ってきたわ。

チバリは薬かばんから
錠剤を取り出した。

それは…?

薬よ。これを飲むと心臓と呼吸が止まって、体が冷たくなるの。

そ、それって死ぬってことですか!?

ぐえっ

お母さん、腕苦しい。

借金取りだって、死体を連れてくわけには行かないでしょ?

だからってそんな!

平気よ。日が沈むまでには生き返るわ。

生き返るからってそんな!
…え、生き返る?

これ、仮死薬だもの。実際には死なないわ。死んだように見せて、だまして追い返すのよ。

というわけで、はい、あーん。

でも…

死なないっていっても、死んだみたいになるんでしょ。そんなの僕、飲みたくないよ。

あら。いい手だと思ったんだけど。

死に近い状態に、進んでなろうという人はあまりいません。ましてや二人は薬の効果をその目で見てもいませんし。

でも目の前で試す時間はないわ。目覚めるまでに数時間かかるもの。

仕方ない、もうひとつ持ってきたやつを使いましょ。

それは?

石化薬。庭に立って石像のフリしてればごまかせるでしょ。

なるほど。自分は石像だ、という強い意志が試されますね。

ねえ、僕、仮死薬がいい。

石になるよりはマシ。

最悪な選択肢を示すことで、もうひとつが通りやすいようにするとは。チバリ様、ナイス策略です。

さすが私ね。そういう意図はなかったんだけど。

ともあれ話がまとまった、
そのとき。

入り口のドアがノックされた。

大変、借金取りです。こんなに早く来るなんて。

シブン、さあ飲んで!

ウン…

ゴクンッ

…………

ああ、シブン!

薬が効いただけです。夕方までには目覚めますよ。

私たちも隠れましょ。

チバリとノーラは
テーブルの下に潜り込んだ。
間一髪、

ドアが開いた。

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