王子、抜け出す〈3〉

ハルキ

ひっ……酷い目にあったぁ……

 ぽっちゃりとした青年。もといハルトは、明け方の公園でベンチに座りながら肩で息をしていた。
 何があったのかと言うと……。

 まず城の自室で、みんなが寝静まり、護衛も最少人数になる夜中2時まで待ったハルト。
 予定通り2時過ぎに、自室の窓からこっそりお手製の縄を下ろす。
 丁度、窓から降りた先は深い茂みになっており、隠れるには最適。降り切ったら、窓に引っ掛けていた縄のフック部分を下から引っ張って上手いこと外し回収。城の裏手まで茂みは続いてるので、これまた上手いこと隠れつつ、裏手まで来たら、ボロになってて結構前に一部崩れてしまった城壁があるので、そこに上手いこと縄のフックを引っ掛けて脱出!以上、王子の脳内より。
 ……だが現実は、王子が考えているより厳しかった。
 まず窓から降りる際、降りようとしたは良いが、今までそんな訓練があっても真面目にやってなく、変身前と後では体型が変わりすぎていてバランスが取れず、3歩目から4歩目に進む際、早速足を滑らせる。そのまま地面まで落下。死ななかったのは、必死で縄に捕まっていたからである。あと、思いっきり尻餅をついたが、奇跡的にふくよかなお尻に救われた。
 そして縄の回収。どんだけ引っ張っても、逆に押しても、フックが妙にがっちり窓枠の凹凸にハマってて取れない。ここでやたらめったら時間がかかってしまう。
 やっと取れて茂みに隠れつつ裏手に行くも、茂みを出て対岸の城壁に辿り着きたいのに、その少しの距離の道のりにて、護衛が2人で世間話。ここで30分ほど、聞きたくもない護衛の奥さんの愚痴を聞いて過ごす。
 やっと護衛が解散したので、周りをよく警戒し、城壁に縄のフックを引っ掛ける。これは上手く行った。そしてよじ登る。上手くいかない。体が重たくてなかなか進まない。なんでムキムキに変身しなかったのかと、非常に後悔する。なんとか城壁の上に登り、さあ降りようかなと縄を向こう側に垂らしたところで護衛に見つかる。幸いかどうか分からないが、びっくりした衝撃ですぐ城壁の向こう側に落ちたので、姿は見られていない。
 そして縄を力付くで回収し、急いで城下町の方へ走る。すぐ息絶え絶えになる。なぜムキムキに……以下略。護衛は追ってこなかったが、その代わり護衛の飼っている番犬2匹は追ってきた。
 そうして、恐怖に泣き叫びながら城下町に辿り着き、入り組んだ建物や家屋を利用して番犬から逃げ切り……、城下町の外れにある公園に逃げてきたのだった。

ハルキ

も、お家帰ろっかな……

 目に涙を溜めながら、ハルトはベンチの上で体育座りをした。
 ふと目線を上に上げると、そこまで遠くないだろう距離に隣国領土の小高い山が見え、うっすらと明かりが差していた。そう、夜明け前である。

ハルキ

うわぁ……

 真っ黒に見えていた空も、紺色から碧色、そしてクリーム色の美しい空へと変貌していくのを見て、王子は本来の目的を思い出した。

ハルキ

ここまで来たんだもの、遊ばなきゃ!

 そして、ズボンにいつの間にか引っ付いていた木の枝を払いながら、公園を出て再び歩き出したのだった。

〈つづく〉

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