以前から華胡が体調を
崩しているのは知っていたが、
今までそれをただの風邪だと思っていた。


だけど、本当は風邪
なんかじゃなかった。
華胡はそれを隠していたんだ。


華胡の体調は悪化して、
今では姿が半透明になってしまい、
消えかかっている状態だ。


それは、島の神木が
枯れかかっているせいだと
華胡から聞かされた。


華胡を助けるために
神木を復活させようと思った俺と珠來は、
復活の儀式を行うことにした。

来栖 珠來(くるす みらい)

大体の行程は、
陽太が島を出る前にやった
みたいだから……
あとは、これね



珠來は、伝記書の一文を指差した。

中島 陽太(なかじま はるた)

契りの言葉、か……。
俺と珠來で分けて
読めばいいのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

契りっていうくらいだから、
きっとそうね


もう一度、伝記書に書かれている
契りの言葉を見た。


『神木が御前、
対の雄蕊(おしべ)雌蕊(めしべ)が絡み
花開くため』


『雄蕊は力強き優しい精を舞わせる』


『雌蕊は深い心で其を包み込む』

来栖 珠來(くるす みらい)

最初の文はふたりで
一緒に読むとして……

中島 陽太(なかじま はるた)

雄蕊と雌蕊ってことは、
雄蕊の部分を
俺が読めばいいんだな

来栖 珠來(くるす みらい)

じゃあ、雌蕊の部分は私ね

中島 陽太(なかじま はるた)

よし!
んじゃ、一発で決めるぞ!

来栖 珠來(くるす みらい)

ちょっと待ってよ、
練習はしないの?

中島 陽太(なかじま はるた)

こういうのは
思い切りが大事なんだよ。
失敗を怖がってるようじゃ、
珠來もまだまだだな!

来栖 珠來(くるす みらい)

私は、アンタが失敗するんじゃ
ないかと思って
不安なんだけど……

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ。
んじゃ、念のため
練習しておくか?

来栖 珠來(くるす みらい)

うん……その方が安心かも

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、最初の文は
ふたりで合わせるぞ



タイミングを合わせるために顔を見合わせると、
深く息を吸い込む。

来栖 珠來(くるす みらい)

神木が御前、
対の雄蕊(おしべ)
雌蕊(めしべ)が
絡み……

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

来栖 珠來(くるす みらい)

って、ちょっと!
ここ、二人で言うんでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

わ、悪い。
タイミングがつかめなくて

来栖 珠來(くるす みらい)

じゃあ、こうしましょう



珠來が俺の手を握った。

中島 陽太(なかじま はるた)

なっ……
なんで手を握るんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

何よ。
イヤなの?

中島 陽太(なかじま はるた)

イヤじゃないけど、
ちょっとビックリしたんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

こうして手を握って、
話し始めるタイミングで
ぎゅっと強く握るの

来栖 珠來(くるす みらい)

そうすれば、
鈍いアンタでも
わかりやすいでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

鈍くて悪かったな

中島 陽太(なかじま はるた)

(でも、珠來に手を
握ってもらえて
ちょっと嬉しかったり)

中島 陽太(なかじま はるた)

(……はっ。
いかんいかん!
マジメにやらねば!)

来栖 珠來(くるす みらい)

今度は本番。
いいわね?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ!



二人でもう一度息を吸い込むと、
珠來が手をギュッと握った。


そして互いの瞳を見つめ合って、
ゆっくりと口を開いた。

神木が御前、
対の雄蕊雌蕊が絡み
花開くため

中島 陽太(なかじま はるた)

雄蕊は力強き
優しい精を舞わせる

来栖 珠來(くるす みらい)

雌蕊は深い心で
其を包み込む



無事、契りの言葉を言い終えると
二人で同時に息を吐いた。

来栖 珠來(くるす みらい)

ちゃんと
うまく言えたじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

さすが俺だな

来栖 珠來(くるす みらい)

フフッ。
なに調子に乗ってんのよ



珠來の笑い声につられてこちらも笑っていたが、
実はさっきから胸が高鳴っていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來の顔を見ると、
いつもよりずっとドキドキする。
まさか、これが契りの効果?)



気になって珠來を見ると、
ほんのりと頬が染まっているのに気づいた。

来栖 珠來(くるす みらい)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

(まさか珠來も
俺を意識してるのか?
さすが子孫繁栄の儀式だな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(……って、
感心してる場合じゃないか)

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、それじゃあ
華胡の様子を見に行こうか

来栖 珠來(くるす みらい)

う、うん……

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだ?
珠來の落ち着きが
無いような……)

中島 陽太(なかじま はるた)

どうした?
トイレか?

来栖 珠來(くるす みらい)

ばかっ、違うわよ!
手……いい加減、
離してもいいんじゃない?

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ……



珠來の手を握ったままだったことに気づいて、
慌てて離れる。

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタって……
ほっといたら、
いつまでも握ってるんだから!

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだよ。
握ってきたのは珠來の方だろ

来栖 珠來(くるす みらい)

それは、契りの言葉の
タイミングを計るためじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來、お前なあ……
照れ隠しにしたって、
もうちょっと可愛く怒れよ

来栖 珠來(くるす みらい)

何よ……。
もういいっ!
陽太とは話したくない!



珠來は怒った様子で立ち上がり、
外へ出て行ってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

おい、待てよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

(どうしてこんな時まで
ケンカしちまうんだろう……)

中島 陽太(なかじま はるた)

おーい、珠來ー!
一人でどこ行く気だよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

ついて来ないでよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

その意地っぱりなところ、
いい加減直せよな!

来栖 珠來(くるす みらい)

ほっといてよ!
アンタに関係ないでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(ああ、ダメだ。
話せば話すほど
こじれてしまう)

中島 陽太(なかじま はるた)

はあ……やめた

来栖 珠來(くるす みらい)

え?

中島 陽太(なかじま はるた)

これじゃあいつまでたっても、
同じ関係のままだと思ってさ

来栖 珠來(くるす みらい)

同じ関係って……?

中島 陽太(なかじま はるた)

こんなんじゃいつまでも
友達のままだろ?!

来栖 珠來(くるす みらい)

友達じゃなきゃ、
なんだっていうのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

俺は珠來を一人の女の子として
見てるっていうのに、
珠來は相変わらず……

中島 陽太(なかじま はるた)

(あっ。
俺、勢いで何言ってんだ!?)

来栖 珠來(くるす みらい)

ちょっと、
それどういうこと?
そんなの初めて聞いたわよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんで怒ってんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

怒ってるわけじゃなくて、
その……


大きな声を出していたかと思えば、
今度は下を向いて顔を赤くしている。

中島 陽太(なかじま はるた)

(まさか、
珠來も俺のことを……?)

中島 陽太(なかじま はるた)

なあ、珠來……。
お前って、
俺のこと好きなのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

は……はあ!?
バッカじゃない!
アンタなんか好きじゃないわよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

どうしてだよ。
俺は珠來のこと、好きだぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

えっ……


湯気が出そうなくらいに、
珠來の顔が真っ赤になった。

来栖 珠來(くるす みらい)

からかわないでよ!
バカッ!
変態!

中島 陽太(なかじま はるた)

こんな状況でからかうかよ。
もう一回言うけど、
俺は珠來が好きだ

来栖 珠來(くるす みらい)

急にそんなこと言われても、
どうすればいいか
わかんないじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來が俺のこと
何とも思ってないなら、
スッパリあきらめる!

中島 陽太(なかじま はるた)

だから……
珠來の気持ちを聞かせてくれ

来栖 珠來(くるす みらい)

もうっ。
こんなの脅迫と一緒じゃない


珠來がこちらに一歩、
また一歩と、
ゆっくり歩み寄ってきた。

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタって、本当に……
本当に、バカなんだから


珠來が背中に手を回してきたかと思うと……
ゆっくりと、唇を重ねられた。

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……?
……っんん!?


珠來の髪から漂ういい匂い……
そして、唇にあたる柔らかい感触。

中島 陽太(なかじま はるた)

(俺、今……珠來に
キスされてるのか!?)


珠來のキスは、想像していたよりも
なんだかくすぐったくて……


そして、すごく気持ちが良かった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來と、
もっと深くキスをしたい……)


いつの間にか、俺からも珠來の背中に
手を回して抱きしめていた。


そうしていると、珠來がゆっくりと唇を離した。

来栖 珠來(くるす みらい)

これが、私の気持ちよ

中島 陽太(なかじま はるた)

え? どういうことだ??

来栖 珠來(くるす みらい)

全部言わないとわかんないの?
私も、陽太が好きだ
って言ってるの


そう言ってから珠來は、
またキスをしてきた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(そうか、
俺たち両思いだったのか……)


嬉しくて騒ぎたい気持ちをおさえて、
珠來を抱きしめている手に力を込める。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來の身体、
思ったよりも細くて
柔らかいな)


珠來が絡めてきている腕が、
少し湿った柔らかい唇が……

すべてが、愛しくて仕方が無かった。

来栖 珠來(くるす みらい)

…………


唇を離すと、珠來は照れくさそうに
視線を逸らしていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……

来栖 珠來(くるす みらい)

な、何よ

中島 陽太(なかじま はるた)

お前のこと、
これからずっと
守っていくからな

来栖 珠來(くるす みらい)

恥ずかしいことばっかり
言わないでよ。
そういうキャラじゃないくせに!

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、お前は俺を
どんなキャラだと
思ってるんだよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

恋心に鈍感な、ただの変態よ

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだそりゃ……

来栖 珠來(くるす みらい)

まあ、アンタみたいな変態は
私しか手に負えないでしょうね!

来栖 珠來(くるす みらい)

これからもずっと、
一緒にいてあげてもいいわよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

一緒にいてあげるのは
俺の方だろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

何よ、えらそうに


珠來が手を伸ばしてきたかと思うと、
頬の両側を引っ張られた。

中島 陽太(なかじま はるた)

イテテ……

来栖 珠來(くるす みらい)

って、こんなことしてたら
いつの間にか
日が暮れちゃったわね

中島 陽太(なかじま はるた)

神木を見に行くのは
明日にした方が良さそうだな

来栖 珠來(くるす みらい)

明日って……
じゃあ、今日は帰らないの?

中島 陽太(なかじま はるた)

だって、今の時間じゃ船は
全部出ちまっただろ?
こっちには俺の実家もあるから、
泊まって行けるぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

私が……陽太と一緒に
泊まるっていうこと?

中島 陽太(なかじま はるた)

ま、まあそうなるけど。
じいちゃんもいるから、
心配すんなって!

来栖 珠來(くるす みらい)

心配ってなによ!
アンタんちに泊まっても
全然平気なんだから!

中島 陽太(なかじま はるた)

(その割には、
顔が真っ赤になってるんだが……)

中島 陽太(なかじま はるた)

とりあえず、
俺の家へ行くぞ!

来栖 珠來(くるす みらい)

うんっ

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