玄関のドアを叩いてると、
隣の家からおばちゃんが出てきた。
おーい、じいちゃん
んんっ?
じいちゃん寝てるのかな?
もう一回鳴らしてみる?
そうだな
じいちゃん!
じいちゃーん!!
玄関のドアを叩いてると、
隣の家からおばちゃんが出てきた。
おや、騒がしいと思ったら
陽太ちゃんじゃないか。
ひさしぶりだねぇ
あっ、おばちゃんひさしぶり
おひさしぶりです
おや?
あんたは……
まさか珠來ちゃんかい?
はい、そうです!
あらあらまあまあ。
こんなにおっきくなって。
美人さんになったこと
えへへ。
美人なんて、
そんなぁ
そんなことは
どうでもいいんだけどさ
どうでもいいって何よ
じいちゃんってどっか
出かけてんのか?
おや、聞いてなかったのかい?
中島のじいさまなら、
北海道旅行へいったよ
ほ、北海道?
東京の孫に顔も見せず、
なぜ北の地へ……
っていうかアンタ、
ここに来る前におじいちゃんに
連絡してなかったの?
まあな!
急に決まったことだから
連絡なんて頭になかったぜ!
なにをハキハキ答えてんのよ
あっ、鍋を火にかけた
ままだった!
あたしゃこれで失礼するよ!
ああ、じゃあな
さようなら……
っていうか、
これからどうするの?
このままじゃ野宿よ
焦るなって。
念のため、鍵を持って
来てるんだよ
えっ……。
今は陽太のおじいちゃんが
留守なのよね?
ああ、だからふたりだけで
泊まっ……
(しまった!
これじゃ、あからさまに
誘ってるみたいじゃないか!)
な、なあ。どうする珠來?
なんなら俺は近所に泊まりに
行ってもいいし……
……いいわよ
へっ?
だから、
陽太と一緒に泊まっても
いいって言ってるの
そ、そうか。
じゃ、じゃあ入ろっか
ふー……。
まんぷく、まんぷく!
隣りのおばちゃんが
夕飯を分けてくれて
助かったわね
ああ!
持つべきものは
ご近所さんだな~
まさか私まで
陽太の家に泊まるなんて
言えなかったけどね……
そ、そうだなっ。
おばちゃんにバレたら、
島中に広がっちまうよな!
うん……
あ、そろそろ
風呂が沸いたんじゃないか?
先に入ってくれよ
ありがと。
じゃあお先に
お風呂をいただくわね
お、おう
珠來が入浴してる間、
俺は落ち着かない気持ちで布団を敷いていた。
(しっかし……。
ふたりきりで泊まるってことが
どういう意味なのか、
わかってんのかアイツ?)
(珠來の布団は寝室に
敷くとして……)
(さすがに一緒の部屋で
寝るのはまずいよな。
俺の布団は居間に敷くか)
ねえ、陽太。
ドライヤー有る?
うわっ!
は、早かったな!
早いかしら?
入ってから一時間くらい
経ったと思うけど
そうか……。
考えごとをしている内に
そんなに経っていたのか
考えごと???
気にすんな。
ドライヤーはそこの棚に有るから
勝手に使ってくれよ
ありがと。
それで、えっと……
今夜はここで寝るの?
お前はな。
俺は別の部屋で寝るから
安心しろ!
はあ、アンタって……
ん?
なんでもないわ。
早くお風呂入りなさいよ
あ、うん?
風呂から上がったら、
居間に珠來の姿は無かった。
(もう寝たのか……。
なんかちょっとガッカリ……)
(いやいや、
何をガッカリしてんだ俺は。
ここで変な気を起こして
珠來に嫌われたら、
恋愛成就どころじゃないだろ!)
(いさぎよく
寝るぞおおお!!)
居間の布団に入り込み、電気を消す。
…………
(ね、眠れねぇ。
隣りの部屋で寝てる
珠來が気になりすぎる!)
(ええいっ!
邪念よ、去れえええい!!)
!?
布団に何者かが入ってきたので、
慌てて電気を点ける。
ぎゃあっ!
オバケ!?
誰がオバケよ。
失礼ね……
み、珠來!?
なんでこっちの布団に?
えっと、その……。
よく眠れなくて……。
こっちで寝ても、いい?
お前が隣りにいたら、
俺が寝れなくなるだろうが!
何よっ。
じゃっ、じゃあ寝なきゃ
いいじゃない!
なんでそんなひどいことを
おっしゃる?
睡眠不足で死ねと?
もうっ、本当にバカね!
最後まで言わせる気?
はい?
陽太にだったら、
何されてもいいって
言ってるのよ!
み、珠來いぃ?
頭がクラクラとして、
鼻血をふきそうになってしまった。
だって私たち、
もう付き合ってるんでしょ?
だから……
へっ?
お前と俺、付き合ってんの?
はあっ???
アンタって最低っっ!!
私を好きって言ったのは、
からかっただけなのね!?
ちょっ!
ストップストップ!
からかってなんかない!
じゃあ、どういうつもりなのよ
そ、そりゃあ……。
珠來が彼女になってくれたら
いいなとは思うけど
一時の感情で
お前に無理させて
嫌われるのが怖くて……
確かに、アンタと付き合えば
無理の連続でしょうね。
いつでもバカだし
そこは否定して!
でも、今さら嫌いになんて
なれないのよ。
だから私の彼氏になりなさい!
は、はいっ!
胸に飛び込んできた珠來を、
ぎゅっと抱きしめる。
こちらを見つめていた珠來は、
その潤んだ瞳をゆっくりと閉じた。
俺は珠來にキスをしたまま、服に手をかけた。
ちょ、ちょっと。
電気点けたままで
する気?
よく見えるかと思って
バカッッッ!!!
電気くらい消しなさいよ!
あ、うん。
ごめん
部屋の灯りを消すと、珠來と同じ布団に入る。
暗闇の中で珠來の手をそっと握ると、
緊張しているのか少し震えていた。
ねえ……契りの言葉、
まだ覚えてる?
ああ、覚えてるけど……
あの言葉をいったから、
告白する勇気が出たの
だから、お願い……。
もう一度、
一緒に言ってくれる?
わかった……
神木が御前、
対の雄蕊雌蕊が絡み
花開くため
雄蕊は力強き
優しい精を舞わせる
雌蕊は深い心で
其を包み込む
二人で言い終えると、
何度も繰り返しキスをした……。
もう……
朝になっちゃったわね
本当だ。
窓から日が差してるな
(あれから夢中になってる内に、
夜が明けたのか……)
なあ、珠來。
……イヤじゃなかったか?
今更そんなこと聞くの?
聞くならもっと早い内に
聞きなさいよ
そりゃそうだけど……
全然イヤじゃなかったわよ。
っていうより、嬉しかった!
えっ?
恥ずかしくて言えなかったけど、
本当はずっと、陽太と……
こうしたいって思ってたの
珠來……
(どうしてそれを早く
言ってくれなかったんだ!)
(……なんて言ったら、
ムードがぶち壊しになる。
さすがの俺も空気を読むぜ)
日の光に照らされた珠來が綺麗で、
そのままずっと眺めていたいと思った。
な、何見てるのよ。
恥ずかしいじゃない
あの、もう一回……
ダメよ。
そろそろ、華胡さんの様子を
見に行かないといけないじゃない
キスだけならいいだろ?
……いいけど
恥ずかしそうにしている珠來に顔を近づけ、
そっとキスをする。
キスなんてもう何度もしたのに、
それでも珠來は初めてみたいに
恥ずかしそうに目をつぶった。
なあ、やっぱりもう一回……
も、もうダメ!
また日が暮れちゃうじゃない。
さっ、早く行くわよ!
わかったよ……
(確かに華胡が心配ではあるし、
あんまりしつこくして
珠來に嫌われても困るしな)
(早く服を着て、
神木の所へ行くとするか)