準備を終えた珠來と再び待ち合わせをして、
島行きの船に乗った。
準備を終えた珠來と再び待ち合わせをして、
島行きの船に乗った。
(華胡は、島のDNAを継ぐ
男女が島で恋愛成就すれば、
神木に力をもたらすと
言っていたが……)
(果たして、
上手くいくんだろうか)
島に着くと、
すぐに神木がある場所へ向かった。
陽太が言った通り、
枯れかかってるわ……
珠來が神木に触れると、
華胡が姿を現した。
キャッ!
二人とも、
よく来てくれたな……
華胡!
モテパンツ無しで会うのは
初めてだな
そうじゃな……。
会えて嬉しいぞ……
あなた……華胡さんよね?
初めて会った気がしないのは
どうして……?
珠來よ……。
いずれ、おぬしも思い出す……
思い出す?
やっぱり私と華胡さんは、
会ったことがあるんですね?
そうではなく……
げほっ! げほげほっ!
やっぱり苦しそうだな。
無理するなよ、華胡
いや、二人が来てくれたから
少しだけ回復した……
ごめんなさい、華胡さん。
私のお父さんのせいで、
こんなことになって……
気にするな……
わらわは、大丈夫じゃ……
教えてください、華胡さん。
どうしたら神木を
復活させられるんですか?
…………
華胡は何も言わず、姿を消してしまった。
華胡さん!?
大丈夫だ、
疲れて木に戻っただけだろ。
島に来る前より少し
顔色が良くなってたしな
そう……
(でも、早いところ
珠來と恋愛成就して
神木を復活させないとな)
その後、二人で海辺に来た。
ここに来るのって、
何年振りだろう?
へっ?
一年も経ってないだろ?
バカね。
アンタはついこの間まで
ここに居たでしょうけど、
私は小学生の時に
引っ越してるのよ?
ああ、そういやそうだったな
ねえ……
ちょっと海に入ってみない?
え?
答えを待たずに、珠來はスカートを
持ち上げて海に足を踏み入れた。
あははっ、気持ちいい!
(こんな時になんだが、
スカートから覗く珠來の白い脚に
癒されるなぁ……)
(いや!
恋愛成就させなければいけない
今だからこそ、
珠來の事を考えるべきだ!)
(という事は、思う存分
スケベなことを考えても
いいわけで……)
なんだか懐かしいわね。
陽太もこっちに来なさいよ!
あー……わかった、今行く!
(無邪気な珠來を前にして、
変な気持ちは起こせないよなぁ)
靴を脱いで海に入ると、
急に珠來が難しそうな顔をした。
それにしても、どうすれば
神木が復活するのかしら?
島の伝記に書いてないかな
うーん……
もう少しここでゆっくりして、
リラックスすれば
いい考えが浮かぶかもな
そんなに
のん気なことでいいの?
そういうもんだって!
それにしても、足だけ海に入ったら
泳ぎたくなってきたなぁ
じゃあ、泳いじゃおうか?
え……?
珠來は海から上がると、
浜辺にレジャーシートを敷き始めた。
(ま、まさかここで
水着に着替えるのか!?)
せーのっ
珠來が掛け声と共に服を脱ぐと、
マットにコロンと転がった。
服の下から現れたまぶしい水着姿を見て、
嬉しさと落胆が入り混じる。
なるほど、服の下に
ビキニを着てたのか……
な、何よ。
恥ずかしいんだから、
あんまりジロジロ見ないでよ!
水着くらいで騒ぐなよ。
てっきり目の前で着替えるのかと
思ったのに……
え?
だから着替えてるじゃない
そうじゃなくて、
こう……つまり……
ま、まさか全部脱ぐと
思ってたの!?
そそそんな事は思ってない!
思ってないぞ!!
本当?
その割りには、
鼻の下が伸びてるけど……
いや、何度見ても
珠來の水着はいいなと思って
何考えてんのよ、変態!
だから、あんまり見ないで
って言ってるでしょ?
(おおっ。
水着で恥ずかしがってる珠來も、
なかなかグッとくるな)
(ちょっとからかってやるか)
じーっ……
見るなって言ってるでしょ!
バカ陽太!!
珠來が砂浜の砂をひとつかみして、
こちらに向かって勢いよくかけた。
ぐわっ!
目に、目に入った!
目を大きく開いて見てた分、
目にたくさんの砂があああ!
自業自得でしょ……バカ
はあ、疲れたー
海で泳ぐなんて、
久しぶりだったな
そうね、子供の頃に
おばあちゃんと泳いだこと
思い出しちゃった
お前のばあちゃん、
優しかったよな
うん……。
おばあちゃんが生きてたころ、
この島で沢山遊んでもらったな
あっ、思い出した!
急にどうした?
おばあちゃんが話してくれた、
神木の話を思い出したのよ!
ほら、山の洞窟を覚えてる?
山の……洞窟……?
海の守り神の、
竜神が祭られている洞窟よ
あー、そう言われれば
そんな言い伝えを聞いたことが
あったような……
あの竜神はね、
本当は海だけじゃなくて
七つの島全体を見守る神なんだ
って言ってたの
七つの島を見守るってことは、
つまりこの島を守護する華胡の
親分みたいなもんか?
まあ親分って言い方が
正しいかはわかんないけど、
神木のことも見守ってるのかもね
なるほど……。
じゃあ、山の洞窟に行ってみよう。
何か手がかりがあるかもしれない
そうね!
山道を抜け、山の洞窟まで辿り着いた。
珠來のばあちゃんが言ってた
竜神ってこれか……
二人で、竜神の祠(ほこら)の前に立つ。
ここに、神木の手がかりが
有るかもしれないんだけど……
どうしよう?
珠來が不安げに、こちらを見た。
どうするも何も、
開けて調べるしかないだろ?
勝手に開けたりして
怒られないかしら
きっと竜神も、
可愛い子分のためなら
怒らないさ
子分?
親分の竜神にとっちゃ、
この島の神様である華胡は
子分みたいなもんだろ?
なるほど、
そういう考え方もあるわね
(そう言ってみたものの、
若干申し訳ない気持ちは
あるが……)
二人で恐る恐る、祭壇の扉を開けた。
おいテメェら!
何を勝手に開けてやがる!!
ぎゃああああ!!
だ、誰よこの人?
さっきまで居なかったわよね?
まるで祭壇の中から
出てきたように見えたが……
あったりめえだ。
俺は竜だからな。
この祭壇に住んでんだ
り、竜?
それもただの竜じゃねぇぜ。
お前らの言う所の
竜神様ってやつよ
あっ……。
わかったわ、陽太。
この人、かわいそうな人なのよ
そうだな。
優しく接してあげよう
違うわボケェ!
いいか、テメェらは
大きな勘違いをしている
俺は親分じゃねえ。
華胡様の子分だ
華胡を知ってるのか?
ったりめえだろ!
この島の界隈で神をやってて
華胡様を知らないなんて
モグリだぜ!
知らなかった。
華胡ってそんなに
偉い神様なんだなぁ
華胡さんのことを
知ってるということは、
この人は本物の竜神……?
そうなのかもな。
なんか格好も普通の人と違って
変だし
恐れ多くも神様に向かって、
変たぁなにごとだ!!
あ、はい。
すみません
竜神様、聞いてください。
恋愛成就の神様である華胡さんが
いま大変なことになってるんです
華胡様が、恋愛成就の神ぃ~?
んなこと誰が言った
本人がそう言ってたぞ
華胡様がそんなウソを?
なぜだ……
華胡が嘘ついた
っていうのか!?
じゃあ本当は何の神様なんだ?
華胡様は弁才天だろ。
弁才天ってのは、水の神だよ。
だから俺の親分ってわけだ
まあ華胡様ほどの力が有れば
恋愛成就でもなんでも
できるだろうけどよ
それにしたって、
どうして華胡は
恋愛に重きを置いたんだ……?
きっと華胡様には
崇高なお考えがあるんだろ。
それより、そこのお前
わ、私?
さっき華胡様が大変なことに
なってるって言ったよな?
何があったんだよ
華胡さんの姿が
消えかかってるらしいんです!
消えかかってる……?
原因は、神木の樹液が
採られすぎて枯れかかっている
ことにあるらしい
神木が?
ふーむ……。
華胡様はそう言ってたのか
まさかそれもウソなのか?
ウソじゃあねぇだろう。
だけどな、島民の信仰心が
薄れて神が力を失うって話は
よくあるが……
神木が枯れると
華胡様の力が弱まる、
なんて話は始めてだぜ
じゃあ、華胡はどうして
神木をあんなに重要視
してたんだろう……
そりゃあお前、
神木は華胡様が大切にしてた
“水神祭”のシンボルだからな
水神祭って?
覚えてないのかよ?
尊惚弁天祭で行われる儀式が、
水神祭だよ
だって私が島にいたのは
子供の頃じゃない。
儀式なんてわかんないわよ
あ、そっか。
説明しないとな
水神祭は、17歳になる男女が
一人づつ代表として選ばれて、
子孫繁栄を願う祭りなんだ
その祭りで行った儀式で、
俺は神木の樹液を飲んだけど……。
儀式は未完成だったわけだ
どうせアンタが
ふざけたりして
手を抜いたんでしょ?
ちげーよ!
17歳の女の子が
島にいなかったからだよ!
ああ……。
一人で儀式を行ったから、
未完成ってこと?
そう。
華胡が言うには、
それが原因で俺に引きづられて
東京に来ちまったらしい
うーん……?
なんだよ、また違うのか?
いいや。
華胡様がそう言ってんなら、
そうなんだろうぜ
なんか引っかかる
言い方だな……
それよりも、
神木の伝説について、
一つ話してやろう
神木は男女の契りにより、
生命を維持している
一年に一度の祭にて、
島で生まれた男女が聖水を飲み、
契りを交わすことが必要だ
聖水を飲み、か……。
陽太が飲んだ神木の樹液が
聖水ってわけね
おい、そこの女
な、なんですか?
お前が、女の代表になれ。
そうすれば神木は
復活するかもしんねぇぞ
私なんかじゃ駄目ですよ。
陽太は17歳になるまで
この島で育ったから
選ばれたんでしょうけど……
お前だってこの島で生まれた
17歳の女だ。
文句ねぇ
でも、私が代表なんて変です。
島のみんなに認められた
わけじゃないのに……
この俺が選んだんだから、
大丈夫に決まってんだろ!
一応、神様だもんな
へへっ。
まー華胡様には劣るがな
儀式のやり方なんて
わかんないけど、
本当に私でいいの?
俺は一度水神祭をやってるから
大体はわかる
なあ、坊主。
契りの言葉を覚えてるか?
ゲッ、そんなんあったな。
サッパリ覚えてねーや
じゃあ儀式は
できないってこと……?
そういうことになるな……
世話の焼けるガキどもだな~。
儀式の間に伝記書を置いといて
やったから、そいつでも読みな
ありがとう!
口は悪いが親切だな!
ったりめぇよ!
華胡様にはお前らのことを
頼まれてるからな!
華胡から?
なんで?
チッ、口が滑った!
後は自分たちでやんな!
じゃあな!!
あっ、祭殿の扉が
勝手にしまったわ
竜神も消えちまったな……
とりあえず、
その儀式の間って所に行くわよ。
陽太、場所は知ってるの?
水神祭のときに行ったから
わかるよ
(でも、これで
いいんだろうか)
(華胡には、俺から
恋愛成就のことを話すなって
言われたけど……)
(なんにしても
儀式を成功させるしか
ない!)
──儀式の間。
有ったわ。
伝記書って、きっとこれね
珠來……
どうしたの?
急な話で驚いただろうけど、
ここまで付き合ってくれて
ありがとな
いいのよ。
元はといえば、こうなったのは
私のお父さんのせいだし
そんな言い方するなよ
違うの。
自分に言い聞かせないと、
怖くて失敗しちゃいそうだから
えーと、伝記書によると……
男性パート、女性パートで
それぞれ契りの言葉があるみたいね
珠來
……何?
珠來の手をしっかりと握った。
不安に思わなくていい。
俺に任せろ
……ええ、わかったわ
そして二人で、
伝記書になぞらえて儀式を始めた……。