準備を終えた珠來と再び待ち合わせをして、
島行きの船に乗った。

中島 陽太(なかじま はるた)

(華胡は、島のDNAを継ぐ
男女が島で恋愛成就すれば、
神木に力をもたらすと
言っていたが……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(果たして、
上手くいくんだろうか)


島に着くと、
すぐに神木がある場所へ向かった。

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太が言った通り、
枯れかかってるわ……



珠來が神木に触れると、
華胡が姿を現した。

来栖 珠來(くるす みらい)

キャッ!

華胡(かこ)

二人とも、
よく来てくれたな……

中島 陽太(なかじま はるた)

華胡!
モテパンツ無しで会うのは
初めてだな

華胡(かこ)

そうじゃな……。
会えて嬉しいぞ……

来栖 珠來(くるす みらい)

あなた……華胡さんよね?
初めて会った気がしないのは
どうして……?

華胡(かこ)

珠來よ……。
いずれ、おぬしも思い出す……

来栖 珠來(くるす みらい)

思い出す?
やっぱり私と華胡さんは、
会ったことがあるんですね?

華胡(かこ)

そうではなく……
げほっ! げほげほっ!

中島 陽太(なかじま はるた)

やっぱり苦しそうだな。
無理するなよ、華胡

華胡(かこ)

いや、二人が来てくれたから
少しだけ回復した……

来栖 珠來(くるす みらい)

ごめんなさい、華胡さん。
私のお父さんのせいで、
こんなことになって……

華胡(かこ)

気にするな……
わらわは、大丈夫じゃ……

来栖 珠來(くるす みらい)

教えてください、華胡さん。
どうしたら神木を
復活させられるんですか?

華胡(かこ)

…………




華胡は何も言わず、姿を消してしまった。

来栖 珠來(くるす みらい)

華胡さん!?

中島 陽太(なかじま はるた)

大丈夫だ、
疲れて木に戻っただけだろ。
島に来る前より少し
顔色が良くなってたしな

来栖 珠來(くるす みらい)

そう……

中島 陽太(なかじま はるた)

(でも、早いところ
珠來と恋愛成就して
神木を復活させないとな)

その後、二人で海辺に来た。

来栖 珠來(くるす みらい)

ここに来るのって、
何年振りだろう?

中島 陽太(なかじま はるた)

へっ?
一年も経ってないだろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

バカね。
アンタはついこの間まで
ここに居たでしょうけど、
私は小学生の時に
引っ越してるのよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ、そういやそうだったな

来栖 珠來(くるす みらい)

ねえ……
ちょっと海に入ってみない?

中島 陽太(なかじま はるた)

え?



答えを待たずに、珠來はスカートを
持ち上げて海に足を踏み入れた。

来栖 珠來(くるす みらい)

あははっ、気持ちいい!

中島 陽太(なかじま はるた)

(こんな時になんだが、
スカートから覗く珠來の白い脚に
癒されるなぁ……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(いや!
恋愛成就させなければいけない
今だからこそ、
珠來の事を考えるべきだ!)

中島 陽太(なかじま はるた)

(という事は、思う存分
スケベなことを考えても
いいわけで……)

来栖 珠來(くるす みらい)

なんだか懐かしいわね。
陽太もこっちに来なさいよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

あー……わかった、今行く!

中島 陽太(なかじま はるた)

(無邪気な珠來を前にして、
変な気持ちは起こせないよなぁ)



靴を脱いで海に入ると、
急に珠來が難しそうな顔をした。

来栖 珠來(くるす みらい)

それにしても、どうすれば
神木が復活するのかしら?
島の伝記に書いてないかな

中島 陽太(なかじま はるた)

うーん……
もう少しここでゆっくりして、
リラックスすれば
いい考えが浮かぶかもな

来栖 珠來(くるす みらい)

そんなに
のん気なことでいいの?

中島 陽太(なかじま はるた)

そういうもんだって!
それにしても、足だけ海に入ったら
泳ぎたくなってきたなぁ

来栖 珠來(くるす みらい)

じゃあ、泳いじゃおうか?

中島 陽太(なかじま はるた)

え……?



珠來は海から上がると、
浜辺にレジャーシートを敷き始めた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(ま、まさかここで
水着に着替えるのか!?)

来栖 珠來(くるす みらい)

せーのっ



珠來が掛け声と共に服を脱ぐと、
マットにコロンと転がった。


服の下から現れたまぶしい水着姿を見て、
嬉しさと落胆が入り混じる。

中島 陽太(なかじま はるた)

なるほど、服の下に
ビキニを着てたのか……

来栖 珠來(くるす みらい)

な、何よ。
恥ずかしいんだから、
あんまりジロジロ見ないでよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

水着くらいで騒ぐなよ。
てっきり目の前で着替えるのかと
思ったのに……

来栖 珠來(くるす みらい)

え?
だから着替えてるじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

そうじゃなくて、
こう……つまり……

来栖 珠來(くるす みらい)

ま、まさか全部脱ぐと
思ってたの!?

中島 陽太(なかじま はるた)

そそそんな事は思ってない!
思ってないぞ!!

来栖 珠來(くるす みらい)

本当?
その割りには、
鼻の下が伸びてるけど……

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、何度見ても
珠來の水着はいいなと思って

来栖 珠來(くるす みらい)

何考えてんのよ、変態!
だから、あんまり見ないで
って言ってるでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(おおっ。
水着で恥ずかしがってる珠來も、
なかなかグッとくるな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(ちょっとからかってやるか)

中島 陽太(なかじま はるた)

じーっ……

来栖 珠來(くるす みらい)

見るなって言ってるでしょ!
バカ陽太!!



珠來が砂浜の砂をひとつかみして、
こちらに向かって勢いよくかけた。

中島 陽太(なかじま はるた)

ぐわっ!
目に、目に入った!
目を大きく開いて見てた分、
目にたくさんの砂があああ!

来栖 珠來(くるす みらい)

自業自得でしょ……バカ

来栖 珠來(くるす みらい)

はあ、疲れたー

中島 陽太(なかじま はるた)

海で泳ぐなんて、
久しぶりだったな

来栖 珠來(くるす みらい)

そうね、子供の頃に
おばあちゃんと泳いだこと
思い出しちゃった

中島 陽太(なかじま はるた)

お前のばあちゃん、
優しかったよな

来栖 珠來(くるす みらい)

うん……。
おばあちゃんが生きてたころ、
この島で沢山遊んでもらったな

来栖 珠來(くるす みらい)

あっ、思い出した!

中島 陽太(なかじま はるた)

急にどうした?

来栖 珠來(くるす みらい)

おばあちゃんが話してくれた、
神木の話を思い出したのよ!

来栖 珠來(くるす みらい)

ほら、山の洞窟を覚えてる?

中島 陽太(なかじま はるた)

山の……洞窟……?

来栖 珠來(くるす みらい)

海の守り神の、
竜神が祭られている洞窟よ

中島 陽太(なかじま はるた)

あー、そう言われれば
そんな言い伝えを聞いたことが
あったような……

来栖 珠來(くるす みらい)

あの竜神はね、
本当は海だけじゃなくて
七つの島全体を見守る神なんだ
って言ってたの

中島 陽太(なかじま はるた)

七つの島を見守るってことは、
つまりこの島を守護する華胡の
親分みたいなもんか?

来栖 珠來(くるす みらい)

まあ親分って言い方が
正しいかはわかんないけど、
神木のことも見守ってるのかもね

中島 陽太(なかじま はるた)

なるほど……。
じゃあ、山の洞窟に行ってみよう。
何か手がかりがあるかもしれない

来栖 珠來(くるす みらい)

そうね!

山道を抜け、山の洞窟まで辿り着いた。

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來のばあちゃんが言ってた
竜神ってこれか……



二人で、竜神の祠(ほこら)の前に立つ。

来栖 珠來(くるす みらい)

ここに、神木の手がかりが
有るかもしれないんだけど……
どうしよう?



珠來が不安げに、こちらを見た。

中島 陽太(なかじま はるた)

どうするも何も、
開けて調べるしかないだろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

勝手に開けたりして
怒られないかしら

中島 陽太(なかじま はるた)

きっと竜神も、
可愛い子分のためなら
怒らないさ

来栖 珠來(くるす みらい)

子分?

中島 陽太(なかじま はるた)

親分の竜神にとっちゃ、
この島の神様である華胡は
子分みたいなもんだろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

なるほど、
そういう考え方もあるわね

中島 陽太(なかじま はるた)

(そう言ってみたものの、
若干申し訳ない気持ちは
あるが……)



二人で恐る恐る、祭壇の扉を開けた。

おいテメェら!
何を勝手に開けてやがる!!

中島 陽太(なかじま はるた)

ぎゃああああ!!

来栖 珠來(くるす みらい)

だ、誰よこの人?
さっきまで居なかったわよね?

中島 陽太(なかじま はるた)

まるで祭壇の中から
出てきたように見えたが……

あったりめえだ。
俺は竜だからな。
この祭壇に住んでんだ

中島 陽太(なかじま はるた)

り、竜?

それもただの竜じゃねぇぜ。
お前らの言う所の
竜神様ってやつよ

来栖 珠來(くるす みらい)

あっ……。
わかったわ、陽太。
この人、かわいそうな人なのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

そうだな。
優しく接してあげよう

違うわボケェ!
いいか、テメェらは
大きな勘違いをしている

俺は親分じゃねえ。
華胡様の子分だ

中島 陽太(なかじま はるた)

華胡を知ってるのか?

ったりめえだろ!
この島の界隈で神をやってて
華胡様を知らないなんて
モグリだぜ!

中島 陽太(なかじま はるた)

知らなかった。
華胡ってそんなに
偉い神様なんだなぁ

来栖 珠來(くるす みらい)

華胡さんのことを
知ってるということは、
この人は本物の竜神……?

中島 陽太(なかじま はるた)

そうなのかもな。
なんか格好も普通の人と違って
変だし

恐れ多くも神様に向かって、
変たぁなにごとだ!!

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、はい。
すみません

来栖 珠來(くるす みらい)

竜神様、聞いてください。
恋愛成就の神様である華胡さんが
いま大変なことになってるんです

華胡様が、恋愛成就の神ぃ~?
んなこと誰が言った

中島 陽太(なかじま はるた)

本人がそう言ってたぞ

華胡様がそんなウソを?
なぜだ……

中島 陽太(なかじま はるた)

華胡が嘘ついた
っていうのか!?
じゃあ本当は何の神様なんだ?

華胡様は弁才天だろ。
弁才天ってのは、水の神だよ。
だから俺の親分ってわけだ

まあ華胡様ほどの力が有れば
恋愛成就でもなんでも
できるだろうけどよ

中島 陽太(なかじま はるた)

それにしたって、
どうして華胡は
恋愛に重きを置いたんだ……?

きっと華胡様には
崇高なお考えがあるんだろ。
それより、そこのお前

来栖 珠來(くるす みらい)

わ、私?

さっき華胡様が大変なことに
なってるって言ったよな?
何があったんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

華胡さんの姿が
消えかかってるらしいんです!

消えかかってる……?

中島 陽太(なかじま はるた)

原因は、神木の樹液が
採られすぎて枯れかかっている
ことにあるらしい

神木が?
ふーむ……。
華胡様はそう言ってたのか

中島 陽太(なかじま はるた)

まさかそれもウソなのか?

ウソじゃあねぇだろう。
だけどな、島民の信仰心が
薄れて神が力を失うって話は
よくあるが……

神木が枯れると
華胡様の力が弱まる、
なんて話は始めてだぜ

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、華胡はどうして
神木をあんなに重要視
してたんだろう……

そりゃあお前、
神木は華胡様が大切にしてた
“水神祭”のシンボルだからな

来栖 珠來(くるす みらい)

水神祭って?

中島 陽太(なかじま はるた)

覚えてないのかよ?
尊惚弁天祭で行われる儀式が、
水神祭だよ

来栖 珠來(くるす みらい)

だって私が島にいたのは
子供の頃じゃない。
儀式なんてわかんないわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、そっか。
説明しないとな

中島 陽太(なかじま はるた)

水神祭は、17歳になる男女が
一人づつ代表として選ばれて、
子孫繁栄を願う祭りなんだ

中島 陽太(なかじま はるた)

その祭りで行った儀式で、
俺は神木の樹液を飲んだけど……。
儀式は未完成だったわけだ

来栖 珠來(くるす みらい)

どうせアンタが
ふざけたりして
手を抜いたんでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

ちげーよ!
17歳の女の子が
島にいなかったからだよ!

来栖 珠來(くるす みらい)

ああ……。
一人で儀式を行ったから、
未完成ってこと?

中島 陽太(なかじま はるた)

そう。
華胡が言うには、
それが原因で俺に引きづられて
東京に来ちまったらしい

うーん……?

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだよ、また違うのか?

いいや。
華胡様がそう言ってんなら、
そうなんだろうぜ

中島 陽太(なかじま はるた)

なんか引っかかる
言い方だな……

それよりも、
神木の伝説について、
一つ話してやろう

神木は男女の契りにより、
生命を維持している

一年に一度の祭にて、
島で生まれた男女が聖水を飲み、
契りを交わすことが必要だ

来栖 珠來(くるす みらい)

聖水を飲み、か……。
陽太が飲んだ神木の樹液が
聖水ってわけね

おい、そこの女

来栖 珠來(くるす みらい)

な、なんですか?

お前が、女の代表になれ。
そうすれば神木は
復活するかもしんねぇぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

私なんかじゃ駄目ですよ。
陽太は17歳になるまで
この島で育ったから
選ばれたんでしょうけど……

お前だってこの島で生まれた
17歳の女だ。
文句ねぇ

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、私が代表なんて変です。
島のみんなに認められた
わけじゃないのに……

この俺が選んだんだから、
大丈夫に決まってんだろ!

中島 陽太(なかじま はるた)

一応、神様だもんな

へへっ。
まー華胡様には劣るがな

来栖 珠來(くるす みらい)

儀式のやり方なんて
わかんないけど、
本当に私でいいの?

中島 陽太(なかじま はるた)

俺は一度水神祭をやってるから
大体はわかる

なあ、坊主。
契りの言葉を覚えてるか?

中島 陽太(なかじま はるた)

ゲッ、そんなんあったな。
サッパリ覚えてねーや

来栖 珠來(くるす みらい)

じゃあ儀式は
できないってこと……?

中島 陽太(なかじま はるた)

そういうことになるな……

世話の焼けるガキどもだな~。
儀式の間に伝記書を置いといて
やったから、そいつでも読みな

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとう!
口は悪いが親切だな!

ったりめぇよ!
華胡様にはお前らのことを
頼まれてるからな!

中島 陽太(なかじま はるた)

華胡から?
なんで?

チッ、口が滑った!
後は自分たちでやんな!
じゃあな!!

来栖 珠來(くるす みらい)

あっ、祭殿の扉が
勝手にしまったわ

中島 陽太(なかじま はるた)

竜神も消えちまったな……

来栖 珠來(くるす みらい)

とりあえず、
その儀式の間って所に行くわよ。
陽太、場所は知ってるの?

中島 陽太(なかじま はるた)

水神祭のときに行ったから
わかるよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(でも、これで
いいんだろうか)

中島 陽太(なかじま はるた)

(華胡には、俺から
恋愛成就のことを話すなって
言われたけど……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんにしても
儀式を成功させるしか
ない!)

──儀式の間。

来栖 珠來(くるす みらい)

有ったわ。
伝記書って、きっとこれね

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……

来栖 珠來(くるす みらい)

どうしたの?

中島 陽太(なかじま はるた)

急な話で驚いただろうけど、
ここまで付き合ってくれて
ありがとな

来栖 珠來(くるす みらい)

いいのよ。
元はといえば、こうなったのは
私のお父さんのせいだし

中島 陽太(なかじま はるた)

そんな言い方するなよ

来栖 珠來(くるす みらい)

違うの。
自分に言い聞かせないと、
怖くて失敗しちゃいそうだから

来栖 珠來(くるす みらい)

えーと、伝記書によると……
男性パート、女性パートで
それぞれ契りの言葉があるみたいね

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來

来栖 珠來(くるす みらい)

……何?



珠來の手をしっかりと握った。

中島 陽太(なかじま はるた)

不安に思わなくていい。
俺に任せろ

来栖 珠來(くるす みらい)

……ええ、わかったわ



そして二人で、
伝記書になぞらえて儀式を始めた……。

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