──3月13日。
──3月13日。
明日はいよいよ
ホワイトデーだ!
楽しみだな~
何がそんなに
楽しみなのじゃ?
何って……ホワイトデーに、
珠來とデートするって
約束してるんだよ
おっ、珠來から
LINEがきた!
『明日、ホワイトデーよね。
二人で出かけるっていう話、
忘れてないでしょうね?』
『忘れるわけないだろ?
明日どこで待ち合わせる?』
にやけた顔をしおって。
下心が丸出しじゃのう?
下心だなんて失礼だな!
純粋に珠來とのデートを
楽しみにしてるだけだろ!?
冗談じゃ、そんなに怒るな。
ほれ、返事がきておるぞ
どれどれ……
『アンタにしちゃ上出来ね。
じゃあ、明日の10時に
公園で待ち合わせましょ?』
『OK!』
明日が楽しみだな。
今日は早く寝よう!
まるで、遠足の前日の
子供のようじゃな……
じゃあ、電気消すぞー
──翌朝、ホワイトデー当日。
(珠來、遅いなあ)
おはよう!
待たせたわね
遅いぞー。
自分で時間指定したくせに
悪かったわね。
思ったより準備に時間が
掛かっちゃったのよ
ふーん。
……んで、どこに行く?
んー……。
実は、特に行きたい所
ってないのよね。
ちょっとその辺でも歩かない?
ああ、わかった
それにしても、
行きたい所が無いのにどうして
出かけようなんて言ったんだ?
陽太って、
そういう所が鈍いわよね……
な、なんでだ!?
特に理由がなくても、
一緒に居たいこと
ってあるでしょ?
それって、俺と一緒に
居たかったっていうことか?
ち、違うわよ!
例え話に決まってるでしょ!?
なんだ、
期待して損した……
……バカ。
やっぱりアンタって、
鈍いわよね
はあ?
なんじゃそりゃ
別に~?
そう言えばこの間のプール、
楽しかったわね
そうだな。
珠來の水着も見れたしさ
なっ、何言ってんのよ変態!
え?
いやいや、誘った時に
水着になるのを嫌がってるように
見えたからさ
……ふん、何よ。
どうせ倉敷先生の水着しか
見てなかったんでしょ?
それは誤解だ!
確かに沙穂先生のおっぱいは
特盛りだな、とは思ったけど!
……ド変態
うっ……誘導尋問だろ~?
フフッ、まあいいわ。
それより、ゲームセンターに
行かない?
ふう、了解
やったー!
私の勝ちー!
くそ、珠來がレースゲームが
得意だったなんて想定外だ
聞いて驚きなさい。
今日、初めてやったんだから!
はあ~?
ウソだろ?
ホントよ。
こういうのは、
運動神経とセンスが必要なのよ!
く、くそっ。
次はあっちのゲームで勝負だ!
ふふん。
かかってきなさい
あの赤いリボンのぬいぐるみが
欲しいのに、
全然取れないわ……
はは、下手だな。
こういうのは運動神経とセンスが
必要なんだぞ
うぅ~っ……。
ほ、ほっといてよ
(そういえば……
すっかり忘れてたけど、
今日はホワイトデーなんだよな)
ちょっとそこ、どけよ
え?
なによ、私がやってるのよ?
いいから
珠來がゲーム機の前からよけると、
百円玉を入れる。
(目標は、珠來が狙ってた
あのぬいぐるみだな)
(慎重に、慎重に……
意識を集中させて……)
すごい!
取れたじゃない!!
これで名誉挽回だな。
ほら、やるよ
今取ったぬいぐるみを、珠來に渡す。
えっ……
陽太が取ったのに、
もらってもいいの?
悪い。
実は、バレンタインデーの
お返しを用意してなくてさ……
えー、じゃあこのぬいぐるみで
済まそうっていうの?
だ、だめか?
フフッ、ちょっと
からかっただけよ。
本当はお返しなんて
いらなかったのに
でも、チョコを貰ったのに
何もしないってわけには
いかないだろ?
だから、あんたからのお返し
ってことでホワイトデーに
一緒に出かけてるのよ?
他人の話、
ちゃんと聞いてなさいよね!
お、お礼がデート?
(それって、かなり惚れてる
相手じゃないと成立しないよな。
じゃあ、つまり……)
な、なんで赤くなってんのよ!
お昼はアンタにおごって
もらうんだからね!
そ、そういうことか。
高くつきそうだな……
さあ、早く食べに行きましょ。
フフフッ、何頼もうかなー?
(ん? よく考えたら、
デートで男がおごるっていうのは
当たり前のような……)
(ま、いいか)
あっという間に日が暮れ、
二人で学校の裏山に来ていた。
ここから眺める夕日って、
いつ見てもキレイね
同感だな。
街中の景色もいいけど、
やっぱりここから見える
景色の方が俺は好きだな
私も!
ねえ、ベンチに座らない?
ああ……
珠來に言われるままに、ベンチに腰掛けた。
(ベンチに座るなんて、
恋人っぽくないか?)
(いやいや、ちょっと距離が
近くなったからって
浮かれちゃいかんぞ)
何ソワソワしてんのよ?
べ、別に?
いつも通りだけど
そうかしら……。
陽太が落ち着かないから、
私も意識しちゃうじゃない
意識って、何を?
もうっ……。
アンタって、本当に鈍いわね
珠來はこちらを睨みつけるようにして、
顔を近づけてきた。
(珠來の髪から、
いい匂いがする……)
(瞳も夕焼けを反射して
キラキラしてるし、
いつも以上に可愛く見えるな)
陽太……
珠來……?
(珠來が顔を近づけてきてる。
もっ、もしやこれは
キスする雰囲気なのか!?)
キスをしようと、
俺からも珠來に顔を近づけると……。
陽太ちゃんと、珠來先輩……
ですよね?
いっ、いっ、苺香ちゃん!?
もしかして二人で、
デートしてるですか?
えっと、あの……
これはデートとかじゃなくて、
二人で買い物に出かけただけよ
ウソです!
今、二人でキスしようと
してたですよね?
そ、それは~……
え~と……
ふわあぁ~ん!
陽太ちゃんのバカァ~ッ!!
苺香ちゃんは泣きながら、
走り去ってしまった。
…………
…………
(さっきまで
いい雰囲気だったのに、
急に気まずくなってしまった)
あっ……!
あのさ、珠來!
もう遅いから、帰らない?
へっ……?
(キスはおあずけなのか!?)
珠來!
珠來の肩を抱こうとしたが、
珠來は手の中からするりと抜けて立ち上がった。
さ、さあ……!
早く帰らないと、
暗くなっちゃうわ!
…………
そうだな。
家まで送ってくよ
(はあ……
すっかりタイミングを
逃してしまった)
今日は楽しかったわね。
ありがと
なんだか素直で
変な感じだな
何よそれ。
じゃあ、今日はつまんなかったわ
って言えばいいの?
そうそう、
その方が珠來らしい
もおー、バカッ。
でも、まあ……
まあ?
また一緒に出かけて
あげてもいいわよ
えっ
それじゃね!
そう言って門を通って行った珠來は、
少し顔が赤くなっていた気がした。
珠來……
帰宅後、今日起こった出来事を
すべて華胡に報告した。
ほう。
今日はなかなか
楽しんできたようじゃな
あともうちょっとで
キスできたのになぁ。
惜しかったなぁ~
その割には、
すごくいい笑顔をしておるぞ?
ああ!
全体的には大満足さ
そうか……。
最初はわらわの力に
頼ってばかりいたのに、
おぬしも成長したな
ははっ。
華胡がいてくれたおかげだよ
それを聞いた華胡は、とても優しい顔で笑った。
だけど……その笑顔の裏に、
何かを隠しているような気もしたのだった……。