──3月13日。

中島 陽太(なかじま はるた)

明日はいよいよ
ホワイトデーだ!
楽しみだな~

華胡(かこ)

何がそんなに
楽しみなのじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

何って……ホワイトデーに、
珠來とデートするって
約束してるんだよ

中島 陽太(なかじま はるた)

おっ、珠來から
LINEがきた!

『明日、ホワイトデーよね。
二人で出かけるっていう話、
忘れてないでしょうね?』

『忘れるわけないだろ?
明日どこで待ち合わせる?』

華胡(かこ)

にやけた顔をしおって。
下心が丸出しじゃのう?

中島 陽太(なかじま はるた)

下心だなんて失礼だな!
純粋に珠來とのデートを
楽しみにしてるだけだろ!?

華胡(かこ)

冗談じゃ、そんなに怒るな。
ほれ、返事がきておるぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

どれどれ……

『アンタにしちゃ上出来ね。
じゃあ、明日の10時に
公園で待ち合わせましょ?』

『OK!』

中島 陽太(なかじま はるた)

明日が楽しみだな。
今日は早く寝よう!

華胡(かこ)

まるで、遠足の前日の
子供のようじゃな……

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、電気消すぞー

──翌朝、ホワイトデー当日。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來、遅いなあ)

来栖 珠來(くるす みらい)

おはよう!
待たせたわね

中島 陽太(なかじま はるた)

遅いぞー。
自分で時間指定したくせに

来栖 珠來(くるす みらい)

悪かったわね。
思ったより準備に時間が
掛かっちゃったのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ふーん。
……んで、どこに行く?

来栖 珠來(くるす みらい)

んー……。
実は、特に行きたい所
ってないのよね。
ちょっとその辺でも歩かない?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ、わかった

中島 陽太(なかじま はるた)

それにしても、
行きたい所が無いのにどうして
出かけようなんて言ったんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太って、
そういう所が鈍いわよね……

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんでだ!?

来栖 珠來(くるす みらい)

特に理由がなくても、
一緒に居たいこと
ってあるでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

それって、俺と一緒に
居たかったっていうことか?

来栖 珠來(くるす みらい)

ち、違うわよ!
例え話に決まってるでしょ!?

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだ、
期待して損した……

来栖 珠來(くるす みらい)

……バカ。
やっぱりアンタって、
鈍いわよね

中島 陽太(なかじま はるた)

はあ?
なんじゃそりゃ

来栖 珠來(くるす みらい)

別に~?
そう言えばこの間のプール、
楽しかったわね

中島 陽太(なかじま はるた)

そうだな。
珠來の水着も見れたしさ

来栖 珠來(くるす みらい)

なっ、何言ってんのよ変態!

中島 陽太(なかじま はるた)

え?

中島 陽太(なかじま はるた)

いやいや、誘った時に
水着になるのを嫌がってるように
見えたからさ

来栖 珠來(くるす みらい)

……ふん、何よ。
どうせ倉敷先生の水着しか
見てなかったんでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

それは誤解だ!
確かに沙穂先生のおっぱいは
特盛りだな、とは思ったけど!

来栖 珠來(くるす みらい)

……ド変態

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ……誘導尋問だろ~?

来栖 珠來(くるす みらい)

フフッ、まあいいわ。
それより、ゲームセンターに
行かない?

中島 陽太(なかじま はるた)

ふう、了解

来栖 珠來(くるす みらい)

やったー!
私の勝ちー!

中島 陽太(なかじま はるた)

くそ、珠來がレースゲームが
得意だったなんて想定外だ

来栖 珠來(くるす みらい)

聞いて驚きなさい。
今日、初めてやったんだから!

中島 陽太(なかじま はるた)

はあ~?
ウソだろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

ホントよ。
こういうのは、
運動神経とセンスが必要なのよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

く、くそっ。
次はあっちのゲームで勝負だ!

来栖 珠來(くるす みらい)

ふふん。
かかってきなさい

来栖 珠來(くるす みらい)

あの赤いリボンのぬいぐるみが
欲しいのに、
全然取れないわ……

中島 陽太(なかじま はるた)

はは、下手だな。
こういうのは運動神経とセンスが
必要なんだぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

うぅ~っ……。
ほ、ほっといてよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(そういえば……
すっかり忘れてたけど、
今日はホワイトデーなんだよな)

中島 陽太(なかじま はるた)

ちょっとそこ、どけよ

来栖 珠來(くるす みらい)

え?
なによ、私がやってるのよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

いいから



珠來がゲーム機の前からよけると、
百円玉を入れる。

中島 陽太(なかじま はるた)

(目標は、珠來が狙ってた
あのぬいぐるみだな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(慎重に、慎重に……
意識を集中させて……)

来栖 珠來(くるす みらい)

すごい!
取れたじゃない!!

中島 陽太(なかじま はるた)

これで名誉挽回だな。
ほら、やるよ



今取ったぬいぐるみを、珠來に渡す。

来栖 珠來(くるす みらい)

えっ……
陽太が取ったのに、
もらってもいいの?

中島 陽太(なかじま はるた)

悪い。
実は、バレンタインデーの
お返しを用意してなくてさ……

来栖 珠來(くるす みらい)

えー、じゃあこのぬいぐるみで
済まそうっていうの?

中島 陽太(なかじま はるた)

だ、だめか?

来栖 珠來(くるす みらい)

フフッ、ちょっと
からかっただけよ。
本当はお返しなんて
いらなかったのに

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、チョコを貰ったのに
何もしないってわけには
いかないだろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

だから、あんたからのお返し
ってことでホワイトデーに
一緒に出かけてるのよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

他人の話、
ちゃんと聞いてなさいよね!

中島 陽太(なかじま はるた)

お、お礼がデート?

中島 陽太(なかじま はるた)

(それって、かなり惚れてる
相手じゃないと成立しないよな。
じゃあ、つまり……)

来栖 珠來(くるす みらい)

な、なんで赤くなってんのよ!
お昼はアンタにおごって
もらうんだからね!

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そういうことか。
高くつきそうだな……

来栖 珠來(くるす みらい)

さあ、早く食べに行きましょ。
フフフッ、何頼もうかなー?

中島 陽太(なかじま はるた)

(ん? よく考えたら、
デートで男がおごるっていうのは
当たり前のような……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(ま、いいか)



あっという間に日が暮れ、
二人で学校の裏山に来ていた。

来栖 珠來(くるす みらい)

ここから眺める夕日って、
いつ見てもキレイね

中島 陽太(なかじま はるた)

同感だな。
街中の景色もいいけど、
やっぱりここから見える
景色の方が俺は好きだな

来栖 珠來(くるす みらい)

私も!
ねえ、ベンチに座らない?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ……



珠來に言われるままに、ベンチに腰掛けた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(ベンチに座るなんて、
恋人っぽくないか?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(いやいや、ちょっと距離が
近くなったからって
浮かれちゃいかんぞ)

来栖 珠來(くるす みらい)

何ソワソワしてんのよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

べ、別に?
いつも通りだけど

来栖 珠來(くるす みらい)

そうかしら……。
陽太が落ち着かないから、
私も意識しちゃうじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

意識って、何を?

来栖 珠來(くるす みらい)

もうっ……。
アンタって、本当に鈍いわね



珠來はこちらを睨みつけるようにして、
顔を近づけてきた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來の髪から、
いい匂いがする……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(瞳も夕焼けを反射して
キラキラしてるし、
いつも以上に可愛く見えるな)

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太……

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……?

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來が顔を近づけてきてる。
もっ、もしやこれは
キスする雰囲気なのか!?)



キスをしようと、
俺からも珠來に顔を近づけると……。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃんと、珠來先輩……
ですよね?

中島 陽太(なかじま はるた)

いっ、いっ、苺香ちゃん!?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

もしかして二人で、
デートしてるですか?

来栖 珠來(くるす みらい)

えっと、あの……
これはデートとかじゃなくて、
二人で買い物に出かけただけよ

日下部 苺香(くさかべ いちか)

ウソです!
今、二人でキスしようと
してたですよね?

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、それは~……
え~と……

日下部 苺香(くさかべ いちか)

ふわあぁ~ん!
陽太ちゃんのバカァ~ッ!!



苺香ちゃんは泣きながら、
走り去ってしまった。

来栖 珠來(くるす みらい)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

(さっきまで
いい雰囲気だったのに、
急に気まずくなってしまった)

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ……!
あのさ、珠來!

来栖 珠來(くるす みらい)

もう遅いから、帰らない?

中島 陽太(なかじま はるた)

へっ……?

中島 陽太(なかじま はるた)

(キスはおあずけなのか!?)

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來!



珠來の肩を抱こうとしたが、
珠來は手の中からするりと抜けて立ち上がった。

来栖 珠來(くるす みらい)

さ、さあ……!
早く帰らないと、
暗くなっちゃうわ!

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

そうだな。
家まで送ってくよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(はあ……
すっかりタイミングを
逃してしまった)

来栖 珠來(くるす みらい)

今日は楽しかったわね。
ありがと

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだか素直で
変な感じだな

来栖 珠來(くるす みらい)

何よそれ。
じゃあ、今日はつまんなかったわ
って言えばいいの?

中島 陽太(なかじま はるた)

そうそう、
その方が珠來らしい

来栖 珠來(くるす みらい)

もおー、バカッ。
でも、まあ……

中島 陽太(なかじま はるた)

まあ?

来栖 珠來(くるす みらい)

また一緒に出かけて
あげてもいいわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ

来栖 珠來(くるす みらい)

それじゃね!



そう言って門を通って行った珠來は、
少し顔が赤くなっていた気がした。

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……



帰宅後、今日起こった出来事を
すべて華胡に報告した。

華胡(かこ)

ほう。
今日はなかなか
楽しんできたようじゃな

中島 陽太(なかじま はるた)

あともうちょっとで
キスできたのになぁ。
惜しかったなぁ~

華胡(かこ)

その割には、
すごくいい笑顔をしておるぞ?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ!
全体的には大満足さ

華胡(かこ)

そうか……。
最初はわらわの力に
頼ってばかりいたのに、
おぬしも成長したな

中島 陽太(なかじま はるた)

ははっ。
華胡がいてくれたおかげだよ



それを聞いた華胡は、とても優しい顔で笑った。


だけど……その笑顔の裏に、
何かを隠しているような気もしたのだった……。

pagetop