華胡(かこ)

おい、起きろ!

中島 陽太(なかじま はるた)

うーん、あともうちょっとだけ
寝かせてくれ……

華胡(かこ)

ほら、遅刻するぞ。
今日は試験の日じゃろう?

中島 陽太(なかじま はるた)

……あーっ、そうだった!
今日は期末テストの日か!!

華胡(かこ)

だから起きろと
言ったじゃろう。
早く準備をせい

中島 陽太(なかじま はるた)

うおーっ!
寝過ごした!
急いで着替えないと!



バタバタと準備を済ませ、慌てて家を出る。

中島 陽太(なかじま はるた)

(期末試験の日に
遅刻したら、
シャレになんねぇ~!)



学校に向かって全力疾走していると、
華胡が話しかけてきた。

華胡(かこ)

おい、陽太

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだよ!?
今、急いでんだよ!)

華胡(かこ)

今日は試験を頑張れ。
おぬしの頑張りは、
運気を良い方向に進める

中島 陽太(なかじま はるた)

(えっ、本当か?)

華胡(かこ)

ああ、わらわが言うのじゃから
間違いない

中島 陽太(なかじま はるた)

(よぉーし、頑張るぞ!
サンキュー華胡!)

華胡(かこ)

なに、礼にはおよばぬぞ

短くも長い期末試験が、やっと終わった……。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

アカンわぁ~、
オバチャンなぁ
まったく歯が立たへんかったわぁ

中島 陽太(なかじま はるた)

なんでオバチャンなんだよ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

だってさぁ~、
マジでできなかったんだもん。
あー、きっと補習だよ……

中島 陽太(なかじま はるた)

結果が出る前から
落ち込みすぎだぞ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

そういうお前は
どうだったんだよ?
どうせ出来なかったんだろ?

中島 陽太(なかじま はるた)

俺?
まあまあ出来たかな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

なっ……なんだと!?

来栖 珠來(くるす みらい)

へー、頑張って
勉強した甲斐が
あったじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來にも感謝しないとな

来栖 珠來(くるす みらい)

別に感謝しなくていいわよ?
だって頑張ったのは
アンタだもん

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

おいおいおい、
ちょっと待てよお前ら!

中島 陽太(なかじま はるた)

あん?
どうした?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

今の会話……
まさか、二人で勉強した
っていうのか!?

来栖 珠來(くるす みらい)

ち、違うわよ!
私の部屋で、倉敷先生に
教えてもらったの!

中島 陽太(なかじま はるた)

そうそう。
だから、二人じゃなくて
三人で勉強だな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

ウソつけー!
沙穂先生が、陽太なんかのために
勉強を教えたりするもんか!

中島 陽太(なかじま はるた)

なんの根拠があって
言ってるんだ

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

ああ、なんてことだ。
俺が一人寂しく勉強をしている間に
お前らは愛を語らっていたなんて

来栖 珠來(くるす みらい)

だから、
違うって言ってるでしょ!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

いってぇ~!
ノートで叩くな!
しかも二回も!

中島 陽太(なかじま はるた)

お前が他人の話を
聞かないのが悪い

    パコーン…

       スパーン…

中島 陽太(なかじま はるた)

(期末試験が終わったことだし、
ようやくテニス部の練習に
打ち込む事が出来るな)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あ、中島くん!

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生!?
なんて素敵なテニスウェア姿……
じゃなくて、なんでココに?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

助っ人で1年生に
テニスを教えに来てるのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

そっかー。
沙穂先生って、
スポーツも得意なんですね

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふ、
得意ってほどじゃないわよ。
ところで、期末試験はどうだった?

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生のおかげで、
なかなかいい感じだったよ

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そう?
お役に立てたみたいで良かった

中島 陽太(なかじま はるた)

そりゃもう、
お役に立ったどころじゃないよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(それにしても
沙穂先生のテニスウェア姿、
超セクシーだな……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(テニスウェアにぴっちり
包まれた巨乳と、
スコートから覗くムッチリ
した太ももがたまらん……)

来栖 珠來(くるす みらい)

この、変態っ



珠來に耳をギューッと引っ張られた。

中島 陽太(なかじま はるた)

いてててて、急になんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

倉敷先生を見ながら
鼻の下伸ばして、
やらしい顔してたじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

ご、誤解だ!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

はいはい、
仲がいいのもほどほどにね。
練習に戻りましょ?

来栖 珠來(くるす みらい)

別に、仲なんか良くな……

中島 陽太(なかじま はるた)

ほら、練習するぞ珠來ー!
俺の、七色に変化するサーブを
受けてみろ!

来栖 珠來(くるす みらい)

普通にやんなさい!



    パコーン…

       スパーン…

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

練習終了!
後片付けを始めてくれ

中島 陽太(なかじま はるた)

(久しぶりの練習で、
身体を慣らすのが大変だったな)

来栖 珠來(くるす みらい)

ちょっと!
この後、私が着替え終わるまで
玄関で待ってなさいよね

中島 陽太(なかじま はるた)

は? なんで?

来栖 珠來(くるす みらい)

き、今日は車が来ないから、
一人で帰ると危ないのよ。
わかった?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ……そういうことか、了解

中島 陽太(なかじま はるた)

(あれで、一緒に帰ろうって
誘ってるつもり
なんだろうなぁ……)



制服に着替え終わった後、
玄関で待っていると
珠來が走って来るのが見えた。

来栖 珠來(くるす みらい)

お待たせ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ん。じゃ、帰るか

来栖 珠來(くるす みらい)

二人で歩いて帰るのって、
久しぶりね

中島 陽太(なかじま はるた)

お前が勝手に怒って、
俺を無視してた時期が
あったからなあ……

来栖 珠來(くるす みらい)

か、勝手にって何よ。
陽太が怒るようなこと
するからでしょ

中島 陽太(なかじま はるた)

すぐに俺のせいにするしな……

来栖 珠來(くるす みらい)

当たり前じゃない。
アンタときたらいっつも私を
怒らせるようなことばっかりして

中島 陽太(なかじま はるた)

俺が何したっていうんだよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

そうね……。
例えば合宿で、
私が身体を洗ってる時に
浴室へ入ってきたでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ、アレは間違ったんだよ。
悪気はないって

来栖 珠來(くるす みらい)

ホントかしらね~?



そう言って、珠來はイタズラっぽく笑った。

中島 陽太(なかじま はるた)

悪かったって。
もうしないから
勘弁してくれよ

来栖 珠來(くるす みらい)

フフッ

中島 陽太(なかじま はるた)

(それにしても……。
合宿と聞くと、どうしても
あのことを思い出してしまう)

中島 陽太(なかじま はるた)

(どうして珠來は、
裕貴さんの前で泣いてたんだ?
やっぱ俺から聞くしかないのか?)

来栖 珠來(くるす みらい)

どうしたのよ?
急に黙ったりして

中島 陽太(なかじま はるた)

なあ、珠來……

来栖 珠來(くるす みらい)

な、なによ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(だけど、もし珠來にとって
聞かれたくないこと
だったらどうする?)

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、なんでもない

来栖 珠來(くるす みらい)

ウソつきなさいよ。
なんでもないって感じじゃ
なかったわよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

なんて言おうとしたか
ド忘れしたんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

ふーん……。
試験勉強のしすぎで
おかしくなったのかしらね

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ聞くけど

来栖 珠來(くるす みらい)

やっぱり聞くの!?

中島 陽太(なかじま はるた)

合宿の夜……
どうして泣いてたんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

…………ッ!

来栖 珠來(くるす みらい)

何言ってんの?
泣いてなんかないわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ウソ言うなよ。
お前は、確かに……

来栖 珠來(くるす みらい)

もう、アンタうるさい!
泣いてないったら、
泣いてないの!

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ質問を変える。
裕貴さんと
どういう関係なんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

どういう関係って……!
それ、どういう意味で
聞いてんのよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

だから、例えば
ただの友達とか……
もしくは、付き合ってるとか

来栖 珠來(くるす みらい)

はあ? 何言ってんの!?
そんなこと聞いてくるなんて
信じらんない!

中島 陽太(なかじま はるた)

何が信じられないんだよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

知らない。
自分で考えれば?



気まずい空気が流れ、沈黙の時間が続いた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(うーむ……。
考えてもわからんぞ)



先に沈黙を破ったのは、珠來の方だった。

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタっていつも
日下部さんや倉敷先生を見て、
デレデレしてるわよね

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そんなことないぞ。
珠來を見てデレデレしてる時も
あるだろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

そうやって
フザけないでよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

怒るなよ。
軽い冗談だろ?

来栖 珠來(くるす みらい)

私が聞きたかったのは、
そういう事じゃないの!

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、なんだよ?
俺に何を聞きたいんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太は、
私のこと……
本当は……

中島 陽太(なかじま はるた)

へ?

来栖 珠來(くるす みらい)

へ? じゃないわよ、バカッ!
もういい、帰る!

中島 陽太(なかじま はるた)

おい、珠來!



そのまま珠來は振り返る事もなく、
走り去ってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(確か、子供の時にも
こういう事があったよな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來が島から引っ越す日に、
何か言おうとして……
結局、怒って
何も言わなかったんだ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(さっきの珠來は、
一体俺になんて言おうと
したんだろう……)

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