バタバタと準備を済ませ、慌てて家を出る。
おい、起きろ!
うーん、あともうちょっとだけ
寝かせてくれ……
ほら、遅刻するぞ。
今日は試験の日じゃろう?
……あーっ、そうだった!
今日は期末テストの日か!!
だから起きろと
言ったじゃろう。
早く準備をせい
うおーっ!
寝過ごした!
急いで着替えないと!
バタバタと準備を済ませ、慌てて家を出る。
(期末試験の日に
遅刻したら、
シャレになんねぇ~!)
学校に向かって全力疾走していると、
華胡が話しかけてきた。
おい、陽太
(なんだよ!?
今、急いでんだよ!)
今日は試験を頑張れ。
おぬしの頑張りは、
運気を良い方向に進める
(えっ、本当か?)
ああ、わらわが言うのじゃから
間違いない
(よぉーし、頑張るぞ!
サンキュー華胡!)
なに、礼にはおよばぬぞ
短くも長い期末試験が、やっと終わった……。
アカンわぁ~、
オバチャンなぁ
まったく歯が立たへんかったわぁ
なんでオバチャンなんだよ
だってさぁ~、
マジでできなかったんだもん。
あー、きっと補習だよ……
結果が出る前から
落ち込みすぎだぞ
そういうお前は
どうだったんだよ?
どうせ出来なかったんだろ?
俺?
まあまあ出来たかな
なっ……なんだと!?
へー、頑張って
勉強した甲斐が
あったじゃない
珠來にも感謝しないとな
別に感謝しなくていいわよ?
だって頑張ったのは
アンタだもん
おいおいおい、
ちょっと待てよお前ら!
あん?
どうした?
今の会話……
まさか、二人で勉強した
っていうのか!?
ち、違うわよ!
私の部屋で、倉敷先生に
教えてもらったの!
そうそう。
だから、二人じゃなくて
三人で勉強だな
ウソつけー!
沙穂先生が、陽太なんかのために
勉強を教えたりするもんか!
なんの根拠があって
言ってるんだ
ああ、なんてことだ。
俺が一人寂しく勉強をしている間に
お前らは愛を語らっていたなんて
だから、
違うって言ってるでしょ!
いってぇ~!
ノートで叩くな!
しかも二回も!
お前が他人の話を
聞かないのが悪い
パコーン…
スパーン…
(期末試験が終わったことだし、
ようやくテニス部の練習に
打ち込む事が出来るな)
あ、中島くん!
沙穂先生!?
なんて素敵なテニスウェア姿……
じゃなくて、なんでココに?
助っ人で1年生に
テニスを教えに来てるのよ
そっかー。
沙穂先生って、
スポーツも得意なんですね
ふふ、
得意ってほどじゃないわよ。
ところで、期末試験はどうだった?
沙穂先生のおかげで、
なかなかいい感じだったよ
そう?
お役に立てたみたいで良かった
そりゃもう、
お役に立ったどころじゃないよ
(それにしても
沙穂先生のテニスウェア姿、
超セクシーだな……)
(テニスウェアにぴっちり
包まれた巨乳と、
スコートから覗くムッチリ
した太ももがたまらん……)
この、変態っ
珠來に耳をギューッと引っ張られた。
いてててて、急になんだよ
倉敷先生を見ながら
鼻の下伸ばして、
やらしい顔してたじゃない
ご、誤解だ!
はいはい、
仲がいいのもほどほどにね。
練習に戻りましょ?
別に、仲なんか良くな……
ほら、練習するぞ珠來ー!
俺の、七色に変化するサーブを
受けてみろ!
普通にやんなさい!
パコーン…
スパーン…
練習終了!
後片付けを始めてくれ
(久しぶりの練習で、
身体を慣らすのが大変だったな)
ちょっと!
この後、私が着替え終わるまで
玄関で待ってなさいよね
は? なんで?
き、今日は車が来ないから、
一人で帰ると危ないのよ。
わかった?
あ……そういうことか、了解
(あれで、一緒に帰ろうって
誘ってるつもり
なんだろうなぁ……)
制服に着替え終わった後、
玄関で待っていると
珠來が走って来るのが見えた。
お待たせ!
ん。じゃ、帰るか
二人で歩いて帰るのって、
久しぶりね
お前が勝手に怒って、
俺を無視してた時期が
あったからなあ……
か、勝手にって何よ。
陽太が怒るようなこと
するからでしょ
すぐに俺のせいにするしな……
当たり前じゃない。
アンタときたらいっつも私を
怒らせるようなことばっかりして
俺が何したっていうんだよ?
そうね……。
例えば合宿で、
私が身体を洗ってる時に
浴室へ入ってきたでしょ?
うっ、アレは間違ったんだよ。
悪気はないって
ホントかしらね~?
そう言って、珠來はイタズラっぽく笑った。
悪かったって。
もうしないから
勘弁してくれよ
フフッ
(それにしても……。
合宿と聞くと、どうしても
あのことを思い出してしまう)
(どうして珠來は、
裕貴さんの前で泣いてたんだ?
やっぱ俺から聞くしかないのか?)
どうしたのよ?
急に黙ったりして
なあ、珠來……
な、なによ?
(だけど、もし珠來にとって
聞かれたくないこと
だったらどうする?)
…………
いや、なんでもない
ウソつきなさいよ。
なんでもないって感じじゃ
なかったわよ?
なんて言おうとしたか
ド忘れしたんだよ
ふーん……。
試験勉強のしすぎで
おかしくなったのかしらね
じゃあ聞くけど
やっぱり聞くの!?
合宿の夜……
どうして泣いてたんだ?
…………ッ!
何言ってんの?
泣いてなんかないわよ
ウソ言うなよ。
お前は、確かに……
もう、アンタうるさい!
泣いてないったら、
泣いてないの!
じゃあ質問を変える。
裕貴さんと
どういう関係なんだ?
どういう関係って……!
それ、どういう意味で
聞いてんのよ?
だから、例えば
ただの友達とか……
もしくは、付き合ってるとか
はあ? 何言ってんの!?
そんなこと聞いてくるなんて
信じらんない!
何が信じられないんだよ?
知らない。
自分で考えれば?
気まずい空気が流れ、沈黙の時間が続いた。
(うーむ……。
考えてもわからんぞ)
先に沈黙を破ったのは、珠來の方だった。
アンタっていつも
日下部さんや倉敷先生を見て、
デレデレしてるわよね
そ、そんなことないぞ。
珠來を見てデレデレしてる時も
あるだろ?
そうやって
フザけないでよ!
怒るなよ。
軽い冗談だろ?
私が聞きたかったのは、
そういう事じゃないの!
じゃあ、なんだよ?
俺に何を聞きたいんだ?
陽太は、
私のこと……
本当は……
へ?
へ? じゃないわよ、バカッ!
もういい、帰る!
おい、珠來!
そのまま珠來は振り返る事もなく、
走り去ってしまった。
(確か、子供の時にも
こういう事があったよな)
(珠來が島から引っ越す日に、
何か言おうとして……
結局、怒って
何も言わなかったんだ)
(さっきの珠來は、
一体俺になんて言おうと
したんだろう……)