中島 陽太(なかじま はるた)

(昨日はむなしい
バレンタインだったな~。
まだショックが抜け切らないぜ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(クヨクヨしても仕方ない。
さっ、早く帰ろう)



校門を抜けようとすると、高級車が止まった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(これは……珠來の車か?)



すると後ろから、肩を叩かれた。

来栖 珠來(くるす みらい)

ねえ、ちょっと!

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんだよいきなり

来栖 珠來(くるす みらい)

久しぶりに一緒に
帰ってあげるから、
車に乗んなさい!

中島 陽太(なかじま はるた)

は?
じゃあ、お言葉に甘えて……

来栖 珠來(くるす みらい)

はい!

車に乗るなり、
珠來がカラフルなリボンで結ばれた箱を
差し出してきた。

中島 陽太(なかじま はるた)

え……なんだコレ?

来栖 珠來(くるす みらい)

チョコレートに
決まってるじゃない。
早く受け取りなさいよ

中島 陽太(なかじま はるた)

チョコレートぉ??
バレンタインデーは昨日だぞ?

来栖 珠來(くるす みらい)

そんなことわかってるわよ。
学校だと恥ずかしくて、
渡せなかったのよ……

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來いぃっっ!!!

来栖 珠來(くるす みらい)

な、何よ?

中島 陽太(なかじま はるた)

だって珠來から貰えるなんて
思ってなかったから、嬉しくてさ!
ありがとう、珠來!

来栖 珠來(くるす みらい)

大げさなんだから……
でも、きっとおいしいはず!

中島 陽太(なかじま はるた)

まさか手作りか?

来栖 珠來(くるす みらい)

ま、まあ一応ねっ

中島 陽太(なかじま はるた)

もったいなくて
食えないな!
大切に取っておくよ!

来栖 珠來(くるす みらい)

食べてくれないと
作った意味ないじゃない。
ふふっ、バカなんだから

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來のこんなに
楽しそうな顔を見るのは
久しぶりだな~)

中島 陽太(なかじま はるた)

(だけど……合宿で、
裕貴さんに見せた涙の意味は
わからないままだ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(苺香ちゃんの言った通り、
もし裕貴さんと付き合ってる
としたら……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(俺にチョコを渡すのは、
どういう意味なんだ?
もしかして、裕貴さんのことを
聞くなら今なのか?)

来栖 珠來(くるす みらい)

急に黙って、どうかした?

中島 陽太(なかじま はるた)

なあ、珠來……

来栖 珠來(くるす みらい)

えっ……何よ、真剣な顔して

中島 陽太(なかじま はるた)

(駄目だ。
聞く勇気が出ない)

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、やっぱりなんでもない

来栖 珠來(くるす みらい)

変なの。
そうだ、陽太に聞きたいことが
あるんだけど

中島 陽太(なかじま はるた)

へ? 何を?

来栖 珠來(くるす みらい)

初詣のこと。
倉敷先生が一人で来ていたのは
本当なの?

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ、その話か。
だからあの時も言ったけど、
ウソじゃねえよ

中島 陽太(なかじま はるた)

お願いごとに集中したくて
一人で行ったらしいぜ。
んで、俺が一人寂しくしてたから
気を遣ってくれたんだ

来栖 珠來(くるす みらい)

集中したいほどの
お願いごとって、
なんだったのかな……

中島 陽太(なかじま はるた)

さあな。
プライバシーだから
そこまでは聞かなかったけど

中島 陽太(なかじま はるた)

つーか、なんで今になって
その話をしてんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

あれからずっと後悔してたのよ。
あんたの話をちゃんと
聞けば良かったなって

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、いまの話でわかったわ。
私が勝手に
勘違いしてたのね

中島 陽太(なかじま はるた)

勝手に勘違いっていうか……
まあ、誤解するような
状況ではあったな

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生は、俺と珠來に
早く仲直りして欲しいって
言ってたぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

そう……。
口裏合わせてるなんて言ったこと
倉敷先生に謝らなくちゃ……

中島 陽太(なかじま はるた)

それなら、
俺にいい考えがあるんだ

来栖 珠來(くるす みらい)

いい考え?

中島 陽太(なかじま はるた)

期末テストに向けて、
沙穂先生に勉強を教えてもらう
ことになったんだよ

中島 陽太(なかじま はるた)

だから、
俺と珠來と沙穂先生の三人で
勉強会を開かないか?

来栖 珠來(くるす みらい)

誘われたのは陽太でしょ?
私は邪魔じゃないかな

中島 陽太(なかじま はるた)

んなことねーって!
俺たちが仲直りした姿を
沙穂先生に見せられるし!

来栖 珠來(くるす みらい)

そっか……。
沙穂先生は私たちに
仲直りして欲しいんだもんね

中島 陽太(なかじま はるた)

よし、そうと決まったら
沙穂先生に連絡だ。
場所は珠來の部屋でいいよな?

来栖 珠來(くるす みらい)

どうして私の部屋なのよ。
陽太の部屋でもいいじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

部屋を掃除するのが
面倒なんだよ……

来栖 珠來(くるす みらい)

掃除が苦手なの?
クリスマスは
あんなに完璧だったのに?

中島 陽太(なかじま はるた)

あれは華胡の力……

来栖 珠來(くるす みらい)

かこ?

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そう!
過去の話!
今は掃除できる気力がねえ!

来栖 珠來(くるす みらい)

よくわかんないわね。
まっ、私の部屋でもいいけど

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、珠來の部屋で決定だな

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ここが来栖さんの部屋?
可愛いわね

来栖 珠來(くるす みらい)

そ、そんなことないですよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來の部屋に入るのは、
これで2回目か。
今日は、珠來の下着ポスターは
貼ってないんだな)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

さあ、勉強を始めるわよ。
まずは、苦手な教科から。
文系と理数系、どっちが苦手?

来栖 珠來(くるす みらい)

英語とか、国語は得意だし……
やっぱり理数系かなぁ

中島 陽太(なかじま はるた)

俺は全般苦手です……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

わかったわ。
じゃあ数学から行きましょうか。
二人とも、ノートと教科書を出して



沙穂先生に言われた通り、
机の上に勉強道具を広げる。

──三時間後。

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来栖さん、覚えが早いじゃない

来栖 珠來(くるす みらい)

えへへ。
倉敷先生の教え方って、
他の先生よりわかりやすいから

中島 陽太(なかじま はるた)

そうそう!
俺の成績が良くないのも
他の先生たちのせいだよな~

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

先生のせいにしちゃダメよ?
自分も頑張らなくちゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ……
わかりました

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それじゃあ、
ちょっと休憩しましょうか

来栖 珠來(くるす みらい)

あ、あの……倉敷先生

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

どうしたの?

来栖 珠來(くるす みらい)

初詣で会った時に、
陽太と口裏合わせてるなんて……
ひどいこと言ってごめんなさい

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

いいのよ、そんなこと。
それよりも、中島くんと
仲直りできたみたいで良かったわ

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……。
沙穂先生に対しては、
ずいぶん素直だな

来栖 珠來(くるす みらい)

な、何よ。
文句でもあるの?

中島 陽太(なかじま はるた)

別に~?
珠來の自由だけどさ~

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ひょっとして、
中島くんはヤキモチを
やいてるのかな?

中島 陽太(なかじま はるた)

はあ!?

来栖 珠來(くるす みらい)

変なこと言わないでください!

中島 陽太(なかじま はるた)

おい、
それは俺が言うべき言葉だろ

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふっ、二人はお似合いね

来栖 珠來(くるす みらい)

なっ、なっ、何言ってんですか!
だから、変なこと
言わないでくださいよ!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ごめんね。
二人が可愛かったから、
つい……

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來が成長してるのは
身体だけなんですから、
からかわないでやってくださいよ

来栖 珠來(くるす みらい)

バ、バカッ!
なに言ってんのよ変態!!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あらあら

来栖 珠來(くるす みらい)

大体ねえ、
私より陽太の方が
子供じゃないの?

中島 陽太(なかじま はるた)

俺が子供?
どこがだよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

人の気持ちに鈍い所よ。
それからバカだし、スケベだし
空気読めないし、えーと後は……

中島 陽太(なかじま はるた)

わ、悪かった。
ハートがズタズタに切り裂かれ
そうだからやめてくれ

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふふ。
二人を見てると、
本当に楽しいわ

中島 陽太(なかじま はるた)

(楽しいというか、
もはや面白がって
なかろうか?)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

……あっ!
ごめんなさい、
もう帰らなくちゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

ええー、
もうですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ごめんね、
ちょっと用事があって。
後は二人でがんばってね

来栖 珠來(くるす みらい)

あ、はい。
今日はありがとうございました

中島 陽太(なかじま はるた)

さよなら~

──三十分後。

来栖 珠來(くるす みらい)

ああ、ダメ……。
教えてくれる人がいないと、
全然わかんないわ

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來って
算数も苦手だったもんな

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタだって
理数系は苦手だって
さっき言ったじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

俺が苦手なのは
理数系じゃない!
全般だ!!

来栖 珠來(くるす みらい)

えばって言うこと?

中島 陽太(なかじま はるた)

まあ、理数系に関しちゃ
珠來よりマシだけどな

来栖 珠來(くるす みらい)

言ってくれたわね。
だったらココ、
教えなさいよ

中島 陽太(なかじま はるた)

おう。
これはだなあ……





来栖 珠來(くるす みらい)

へー、私より理数系が
得意っていうの、
まんざらウソでもなかったのね

中島 陽太(なかじま はるた)

ふっふっふっ、
恐れ入ったか

来栖 珠來(くるす みらい)

すぐ調子に乗るんだから

来栖 珠來(くるす みらい)

でも……
またわかんない所があったら
聞いてあげても良いわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

どんどん聞けよ。
教えてやるからさ!

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、こんなに教え方が
上手いのにどうして
成績はイマイチなのかしらね?

中島 陽太(なかじま はるた)

誰がイマイチなんて言った!

来栖 珠來(くるす みらい)

さっき倉敷先生に
『俺の成績が良くないのも
他の先生たちのせい』って
言ってなかった?

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ……。
確かに言ったな……

来栖 珠來(くるす みらい)

まあ、アンタって
欲が無いのよね

中島 陽太(なかじま はるた)

欲が無い?

来栖 珠來(くるす みらい)

テニスもそうだけど、
やる気出せば人並み以上の
力を出せるのに、
人の上に立とうとしないじゃない

来栖 珠來(くるす みらい)

勉強も一緒じゃない?
アンタが根詰めてやれば、
もっと上に行けるのよ、きっと

中島 陽太(なかじま はるた)

いや~。
俺が東大に入れるなんて
買い被りすぎだって~

来栖 珠來(くるす みらい)

他人の話をまったく
聞いていない所も
すごいわよね

来栖 珠來(くるす みらい)

さっ、くだらない話ばっか
してないで
勉強の続きやるわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

おう!


気づくと、時計の針は7時半を過ぎていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

もうこんな時間か。
そろそろ帰るかな

来栖 珠來(くるす みらい)

今日はたくさん勉強して、
疲れちゃったわね……

中島 陽太(なかじま はるた)

肩をもんでやろうか?

来栖 珠來(くるす みらい)

なんか目つきがやらしいから、
イヤ

中島 陽太(なかじま はるた)

他人の善意を
そんな風に言うとは
失礼なやつだなー!

来栖 珠來(くるす みらい)

はいはい、わかったらから
早く帰んなさい。
外は暗いし、車で送ってあげるわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

男だから
一人で帰っても大丈夫だって

来栖 珠來(くるす みらい)

そう?
じゃあ、門の所まで送って行くわ

中島 陽太(なかじま はるた)

(心配してくれてんだなあ)

来栖 珠來(くるす みらい)

べ、別に心配とか
そんなんじゃないわよ!?

中島 陽太(なかじま はるた)

うおっ!?
読心術か?

来栖 珠來(くるす みらい)

は? 何が?

来栖 珠來(くるす みらい)

じゃあ、期末試験に向けて
手を抜くんじゃないわよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

お前もな。
じゃーな!

来栖 珠來(くるす みらい)

うん、じゃあね

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來の部屋まで借りて、
沙穂先生に教えてもらったんだ。
いい結果出さないとな)

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