校門を抜けようとすると、高級車が止まった。
(昨日はむなしい
バレンタインだったな~。
まだショックが抜け切らないぜ)
(クヨクヨしても仕方ない。
さっ、早く帰ろう)
校門を抜けようとすると、高級車が止まった。
(これは……珠來の車か?)
すると後ろから、肩を叩かれた。
ねえ、ちょっと!
な、なんだよいきなり
久しぶりに一緒に
帰ってあげるから、
車に乗んなさい!
は?
じゃあ、お言葉に甘えて……
はい!
車に乗るなり、
珠來がカラフルなリボンで結ばれた箱を
差し出してきた。
え……なんだコレ?
チョコレートに
決まってるじゃない。
早く受け取りなさいよ
チョコレートぉ??
バレンタインデーは昨日だぞ?
そんなことわかってるわよ。
学校だと恥ずかしくて、
渡せなかったのよ……
珠來いぃっっ!!!
な、何よ?
だって珠來から貰えるなんて
思ってなかったから、嬉しくてさ!
ありがとう、珠來!
大げさなんだから……
でも、きっとおいしいはず!
まさか手作りか?
ま、まあ一応ねっ
もったいなくて
食えないな!
大切に取っておくよ!
食べてくれないと
作った意味ないじゃない。
ふふっ、バカなんだから
(珠來のこんなに
楽しそうな顔を見るのは
久しぶりだな~)
(だけど……合宿で、
裕貴さんに見せた涙の意味は
わからないままだ)
(苺香ちゃんの言った通り、
もし裕貴さんと付き合ってる
としたら……)
(俺にチョコを渡すのは、
どういう意味なんだ?
もしかして、裕貴さんのことを
聞くなら今なのか?)
急に黙って、どうかした?
なあ、珠來……
えっ……何よ、真剣な顔して
(駄目だ。
聞く勇気が出ない)
いや、やっぱりなんでもない
変なの。
そうだ、陽太に聞きたいことが
あるんだけど
へ? 何を?
初詣のこと。
倉敷先生が一人で来ていたのは
本当なの?
ああ、その話か。
だからあの時も言ったけど、
ウソじゃねえよ
お願いごとに集中したくて
一人で行ったらしいぜ。
んで、俺が一人寂しくしてたから
気を遣ってくれたんだ
集中したいほどの
お願いごとって、
なんだったのかな……
さあな。
プライバシーだから
そこまでは聞かなかったけど
つーか、なんで今になって
その話をしてんだ?
あれからずっと後悔してたのよ。
あんたの話をちゃんと
聞けば良かったなって
でも、いまの話でわかったわ。
私が勝手に
勘違いしてたのね
勝手に勘違いっていうか……
まあ、誤解するような
状況ではあったな
沙穂先生は、俺と珠來に
早く仲直りして欲しいって
言ってたぞ
そう……。
口裏合わせてるなんて言ったこと
倉敷先生に謝らなくちゃ……
それなら、
俺にいい考えがあるんだ
いい考え?
期末テストに向けて、
沙穂先生に勉強を教えてもらう
ことになったんだよ
だから、
俺と珠來と沙穂先生の三人で
勉強会を開かないか?
誘われたのは陽太でしょ?
私は邪魔じゃないかな
んなことねーって!
俺たちが仲直りした姿を
沙穂先生に見せられるし!
そっか……。
沙穂先生は私たちに
仲直りして欲しいんだもんね
よし、そうと決まったら
沙穂先生に連絡だ。
場所は珠來の部屋でいいよな?
どうして私の部屋なのよ。
陽太の部屋でもいいじゃない
部屋を掃除するのが
面倒なんだよ……
掃除が苦手なの?
クリスマスは
あんなに完璧だったのに?
あれは華胡の力……
かこ?
そ、そう!
過去の話!
今は掃除できる気力がねえ!
よくわかんないわね。
まっ、私の部屋でもいいけど
じゃあ、珠來の部屋で決定だな
ここが来栖さんの部屋?
可愛いわね
そ、そんなことないですよ
(珠來の部屋に入るのは、
これで2回目か。
今日は、珠來の下着ポスターは
貼ってないんだな)
さあ、勉強を始めるわよ。
まずは、苦手な教科から。
文系と理数系、どっちが苦手?
英語とか、国語は得意だし……
やっぱり理数系かなぁ
俺は全般苦手です……
わかったわ。
じゃあ数学から行きましょうか。
二人とも、ノートと教科書を出して
沙穂先生に言われた通り、
机の上に勉強道具を広げる。
──三時間後。
来栖さん、覚えが早いじゃない
えへへ。
倉敷先生の教え方って、
他の先生よりわかりやすいから
そうそう!
俺の成績が良くないのも
他の先生たちのせいだよな~
先生のせいにしちゃダメよ?
自分も頑張らなくちゃ
うっ……
わかりました
それじゃあ、
ちょっと休憩しましょうか
あ、あの……倉敷先生
どうしたの?
初詣で会った時に、
陽太と口裏合わせてるなんて……
ひどいこと言ってごめんなさい
いいのよ、そんなこと。
それよりも、中島くんと
仲直りできたみたいで良かったわ
珠來……。
沙穂先生に対しては、
ずいぶん素直だな
な、何よ。
文句でもあるの?
別に~?
珠來の自由だけどさ~
ひょっとして、
中島くんはヤキモチを
やいてるのかな?
はあ!?
変なこと言わないでください!
おい、
それは俺が言うべき言葉だろ
ふふっ、二人はお似合いね
なっ、なっ、何言ってんですか!
だから、変なこと
言わないでくださいよ!
ごめんね。
二人が可愛かったから、
つい……
珠來が成長してるのは
身体だけなんですから、
からかわないでやってくださいよ
バ、バカッ!
なに言ってんのよ変態!!
あらあら
大体ねえ、
私より陽太の方が
子供じゃないの?
俺が子供?
どこがだよ?
人の気持ちに鈍い所よ。
それからバカだし、スケベだし
空気読めないし、えーと後は……
わ、悪かった。
ハートがズタズタに切り裂かれ
そうだからやめてくれ
ふふふ。
二人を見てると、
本当に楽しいわ
(楽しいというか、
もはや面白がって
なかろうか?)
……あっ!
ごめんなさい、
もう帰らなくちゃ
ええー、
もうですか?
ごめんね、
ちょっと用事があって。
後は二人でがんばってね
あ、はい。
今日はありがとうございました
さよなら~
──三十分後。
ああ、ダメ……。
教えてくれる人がいないと、
全然わかんないわ
珠來って
算数も苦手だったもんな
アンタだって
理数系は苦手だって
さっき言ったじゃない
俺が苦手なのは
理数系じゃない!
全般だ!!
えばって言うこと?
まあ、理数系に関しちゃ
珠來よりマシだけどな
言ってくれたわね。
だったらココ、
教えなさいよ
おう。
これはだなあ……
・
・
・
へー、私より理数系が
得意っていうの、
まんざらウソでもなかったのね
ふっふっふっ、
恐れ入ったか
すぐ調子に乗るんだから
でも……
またわかんない所があったら
聞いてあげても良いわよ
どんどん聞けよ。
教えてやるからさ!
でも、こんなに教え方が
上手いのにどうして
成績はイマイチなのかしらね?
誰がイマイチなんて言った!
さっき倉敷先生に
『俺の成績が良くないのも
他の先生たちのせい』って
言ってなかった?
うっ……。
確かに言ったな……
まあ、アンタって
欲が無いのよね
欲が無い?
テニスもそうだけど、
やる気出せば人並み以上の
力を出せるのに、
人の上に立とうとしないじゃない
勉強も一緒じゃない?
アンタが根詰めてやれば、
もっと上に行けるのよ、きっと
いや~。
俺が東大に入れるなんて
買い被りすぎだって~
他人の話をまったく
聞いていない所も
すごいわよね
さっ、くだらない話ばっか
してないで
勉強の続きやるわよ
おう!
気づくと、時計の針は7時半を過ぎていた。
もうこんな時間か。
そろそろ帰るかな
今日はたくさん勉強して、
疲れちゃったわね……
肩をもんでやろうか?
なんか目つきがやらしいから、
イヤ
他人の善意を
そんな風に言うとは
失礼なやつだなー!
はいはい、わかったらから
早く帰んなさい。
外は暗いし、車で送ってあげるわよ
男だから
一人で帰っても大丈夫だって
そう?
じゃあ、門の所まで送って行くわ
(心配してくれてんだなあ)
べ、別に心配とか
そんなんじゃないわよ!?
うおっ!?
読心術か?
は? 何が?
じゃあ、期末試験に向けて
手を抜くんじゃないわよ!
お前もな。
じゃーな!
うん、じゃあね
(珠來の部屋まで借りて、
沙穂先生に教えてもらったんだ。
いい結果出さないとな)