裕貴さんに、背中を強く叩かれた。
いよいよ今日は
テニス部の他校試合だな。
気合入れろよ!
裕貴さんに、背中を強く叩かれた。
はい……
なんだ?
元気ないじゃん。
一回戦で敗退だけはするなよ?
(あんたのせいで、
ずっと悩んでるん
ですけど……)
裕貴さんと入れ替わりで、
珠來が歩いて来た。
(会うのは正月以来だな。
いい加減、機嫌が直ってると
いいんだが……)
よ、よぉ。
おはよう
…………
(俺を無視して
行っちまったぞ!?
せっかくこっちから
声をかけたっていうのに……)
(ダメだ……
珠來のことを考えるのはやめて、
今は試合に集中しよう)
(集中、集中……)
おはよー!
今日はいい天気だな~!
お前のせいで
集中力が途切れたあーっ!!
なんだよぉ~。
せっかくカメラまで持って
応援しに来てやったっていうのに
女子のアンダースコートでも
撮影する気か?
ウガーッ!
頭にきた!
もう帰るぞ!?
はは、冗談だって。
お前のおかげて元気が出たよ。
ありがとな
え、元気なかったのお前?
そういう空気を読まない所、
今はありがたい……
おい、陽太!
何やってんだよ。
もう試合が始まるぞ?
あ、今行きます!
観客席から応援してやるから、
勝てよー!
まかせとけ!
初めての試合で緊張しながらも、
初戦でスマートに勝利した。
やったー!!
よく頑張ったな!
すごいじゃん、陽太!
お前は
やるときゃやる男だと
思ってたよ!
はは、みんなありがとう
(しかし、祝ってくれるのが
男ばっかりっていうのも、
ちょっとむなしいな……)
…………
(ん?
珠來がこっちを見てたような……。
まあ、気のせいか)
次の試合は苦戦を強いられながら、
辛くも勝利を得た。
うう、キツかった……。
さっきみたいにスマートに
行かなかったな……
そんなことねぇよ。
初出場とは思えないくらい
上出来だったぜ!
そうですか?
いやあ~。
照れるじゃないですか
このままだと
優勝するんじゃないか?
そこまで高望みはしないさ。
でも応援してくれてサンキュ
そう言えば、
珠來は試合に
出てるんですか?
えっ?
来栖から聞いてないのか?
あ、はい……
合宿の後に出場を
辞退するって言われたんだ。
せっかく年明け前には
やる気だったのにもったいないな
そうですか……
(やっぱり合宿のときに
裕貴さんと何かあったのか)
陽太……。
来栖に何か声をかけて
やってくれよな
声をかけようにも、
無視されてるんですが……
!?
そうだったのか……。
悪い、今のは忘れてくれ
(忘れろって言われてもな)
今は試合に集中してくれ。
余計なこと言って
本当に悪かった
は、はい……
三回戦目ともなると、ラッキーは続かず……。
経験不足の差が出て、ついに敗退してしまった。
まったく歯が立たなかった……。
かっこ悪りぃ……
いやいや。
初めて出場したのに、
よく頑張ったよお前は
そうですか?
まあ、ここまでやれたなら
良かったかな?
そうそう。
これ以上モテたら
俺が困るからな!
おい、優斗。
もっと上手いなぐさめ方は
無いのか
翌日の学校新聞で、
『2年の中島選手、
テニス大会・初出場で善戦!』
と報じられていた。
(おお、隅の方に俺の記事が
載ってるじゃないか。
嬉しいけど、
ちょっと恥ずかしい気もするな)
学校新聞を眺めていると、
横に珠來が立った。
ふーん……
な、なんだよ
テニス大会、頑張ったじゃない。
試合にもならなかったら
どうしようって心配してたのよ
珠來……。
俺のこと、
心配してくれてたのか?
ち、違うわよ。
心配してたのはテニス部のこと!
いくら初出場だからって
いい加減な試合をされたら、
テニス部の評判が落ちるでしょ?
なんだよその言い訳は
言い訳なんかじゃないわよ……
珠來が、ジーッとこちらを睨んでいる。
(あ、またマズイこと言ったかな)
ま、いいわ。
アンタの言うことにいちいち
怒ってたらキリがないわね
おっ。
怒らないで普通に
話してくれるようになったんだな
な、何よ……
正月に怒らせちゃったから、
気にしてたんだよ
あっ、あれはっ!
アンタが変なことばっか
言うからよ!
変なこと~?
陽太と話してると、
イライラしたりソワソワして、
自分がわかんなくなるの!
よくわからんが、
それって俺のせいなのか?
そうよ!
アンタのせい!!
じゃ、私はもう行くから!
珠來は小走りで、
教室の方に行ってしまった。
(機嫌は直ったのか?
それとも、まだ怒ってるのか?
うーん、わからん……)
テニス大会の余韻が抜け切らない内に、
共通テストを受けた。
よお!
どうだった?
あんまり感触は良くないな……。
はあ、進学やめて
就職にしようかな……
弱音吐くんじゃねぇよ。
まだまだこれからだぞ!
ん、そうだな……
んじゃ、俺は用事あるから。
またな!
またな……
(優斗はいつも明るいな。
……無駄に)
(さて、コンビニに寄って
華胡が読みたがってた
漫画雑誌を買って行くかな)
いらっしゃいませー!
(いらっしゃいました~)
あら、中島くんじゃない
あ、沙穂先生……。
沙穂先生とは、
よくばったり会いますね
それだけ相性がいい
ってことじゃないかな?
なんてね
相性っていうか、
むしろ運命なのかも!
こらっ。
中島くんは、来栖さんのことが
好きなんでしょ?
なんで俺が珠來を好きって
ことになってるんですか~
だったら、
どうして初詣の時に
私に相談したの?
そ、それは……
ふふふ、いじめるのは
これくらいにしておいてあげるね
あの、沙穂先生……
珠來のことなんですけど
どうしたの?
仲直りした?
口は利いてくれたんですが……
まだ怒ってるような、
微妙な感じなんです
ふうーん、そうなんだ……。
でもね、中島くん
んっ?
恋愛に一生懸命なのもいいけど、
期末試験の勉強は
ちゃんとしてる?
うっ!
ちゃ、ちゃんとしてますよ
じーっ
本当……?
そ、そんなにコッチを
見ないでください。
すいません、ウソです。
本当はさっぱり勉強してません
ほら、やっぱりー!
この時期の成績は大切なんだから、
ちゃんと勉強しないとダメだよ?
そうは思うんですけど、
なかなかやる気が起きなくて……
それじゃ、
家庭教師をつけるのはどう?
俺にそんなお金が
あるわけないでしょ~?
ううん。
私が、中島くんの勉強を
見てあげるって言ってるのよ
沙穂先生が俺の家庭教師!?
(や、やばい。
妄想が止まらない……)
ちょ、ちょっと!
鼻血が出てるけど、大丈夫?
勉強を教えてくれる時は、
是非メガネ着用でお願いします!
メガネ……?
私、視力は下がってないけど?
いや、そういうんじゃなくて
男のロマンというか……
もう、中島くんって
たまに変なこと言い出すよね
ははは……
じゃあ、予定が空いたら
連絡するわね。
お互いが都合のいい日に
勉強をしましょう
りょーかい。
沙穂先生が勉強を見てくれるなら、
頑張れそうな気がしてきました!
ふふふ。
私がお役に立てるなら
嬉しいな
沙穂先生にはいつも
お世話になりっぱなしで、
なんだか悪いですね
何かお礼をしますよ。
何がいいですか?
ケーキとか?
そんな。
お礼なんていいわよ
えー、でもなぁ……
それじゃあ……
早く来栖さんと仲直りすること。
そうすれば、私も嬉しいから
でも、沙穂先生が
恋愛よりも試験勉強
って言いましたよね?
もちろん、きちんと勉強を
しながら仲直りするのよ。
頑張ってね!
うう、わかりました……
じゃあ、私もう行くから。
バイバイ
さよなら~
(試験勉強と、珠來か……。
なんでこんな時期に、
大変なことが二つも
重なるんだろうなぁ……)