成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

いよいよ今日は
テニス部の他校試合だな。
気合入れろよ!



裕貴さんに、背中を強く叩かれた。

中島 陽太(なかじま はるた)

はい……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

なんだ?
元気ないじゃん。
一回戦で敗退だけはするなよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(あんたのせいで、
ずっと悩んでるん
ですけど……)



裕貴さんと入れ替わりで、
珠來が歩いて来た。

中島 陽太(なかじま はるた)

(会うのは正月以来だな。
いい加減、機嫌が直ってると
いいんだが……)

中島 陽太(なかじま はるた)

よ、よぉ。
おはよう

来栖 珠來(くるす みらい)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

(俺を無視して
行っちまったぞ!?
せっかくこっちから
声をかけたっていうのに……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(ダメだ……
珠來のことを考えるのはやめて、
今は試合に集中しよう)

中島 陽太(なかじま はるた)

(集中、集中……)

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

おはよー!
今日はいい天気だな~!

中島 陽太(なかじま はるた)

お前のせいで
集中力が途切れたあーっ!!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

なんだよぉ~。
せっかくカメラまで持って
応援しに来てやったっていうのに

中島 陽太(なかじま はるた)

女子のアンダースコートでも
撮影する気か?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

ウガーッ!
頭にきた!
もう帰るぞ!?

中島 陽太(なかじま はるた)

はは、冗談だって。
お前のおかげて元気が出たよ。
ありがとな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

え、元気なかったのお前?

中島 陽太(なかじま はるた)

そういう空気を読まない所、
今はありがたい……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

おい、陽太!
何やってんだよ。
もう試合が始まるぞ?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、今行きます!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

観客席から応援してやるから、
勝てよー!

中島 陽太(なかじま はるた)

まかせとけ!



初めての試合で緊張しながらも、
初戦でスマートに勝利した。

中島 陽太(なかじま はるた)

やったー!!

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

よく頑張ったな!
すごいじゃん、陽太!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

お前は
やるときゃやる男だと
思ってたよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

はは、みんなありがとう

中島 陽太(なかじま はるた)

(しかし、祝ってくれるのが
男ばっかりっていうのも、
ちょっとむなしいな……)

来栖 珠來(くるす みらい)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

(ん?
珠來がこっちを見てたような……。
まあ、気のせいか)



次の試合は苦戦を強いられながら、
辛くも勝利を得た。

中島 陽太(なかじま はるた)

うう、キツかった……。
さっきみたいにスマートに
行かなかったな……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

そんなことねぇよ。
初出場とは思えないくらい
上出来だったぜ!

中島 陽太(なかじま はるた)

そうですか?
いやあ~。
照れるじゃないですか

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

このままだと
優勝するんじゃないか?

中島 陽太(なかじま はるた)

そこまで高望みはしないさ。
でも応援してくれてサンキュ

中島 陽太(なかじま はるた)

そう言えば、
珠來は試合に
出てるんですか?

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

えっ?
来栖から聞いてないのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、はい……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

合宿の後に出場を
辞退するって言われたんだ。
せっかく年明け前には
やる気だったのにもったいないな

中島 陽太(なかじま はるた)

そうですか……

中島 陽太(なかじま はるた)

(やっぱり合宿のときに
裕貴さんと何かあったのか)

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

陽太……。
来栖に何か声をかけて
やってくれよな

中島 陽太(なかじま はるた)

声をかけようにも、
無視されてるんですが……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

!?
そうだったのか……。
悪い、今のは忘れてくれ

中島 陽太(なかじま はるた)

(忘れろって言われてもな)

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

今は試合に集中してくれ。
余計なこと言って
本当に悪かった

中島 陽太(なかじま はるた)

は、はい……



三回戦目ともなると、ラッキーは続かず……。


経験不足の差が出て、ついに敗退してしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

まったく歯が立たなかった……。
かっこ悪りぃ……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

いやいや。
初めて出場したのに、
よく頑張ったよお前は

中島 陽太(なかじま はるた)

そうですか?
まあ、ここまでやれたなら
良かったかな?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

そうそう。
これ以上モテたら
俺が困るからな!

中島 陽太(なかじま はるた)

おい、優斗。
もっと上手いなぐさめ方は
無いのか

翌日の学校新聞で、

『2年の中島選手、
テニス大会・初出場で善戦!』

と報じられていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(おお、隅の方に俺の記事が
載ってるじゃないか。
嬉しいけど、
ちょっと恥ずかしい気もするな)



学校新聞を眺めていると、
横に珠來が立った。

来栖 珠來(くるす みらい)

ふーん……

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

テニス大会、頑張ったじゃない。
試合にもならなかったら
どうしようって心配してたのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……。
俺のこと、
心配してくれてたのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

ち、違うわよ。
心配してたのはテニス部のこと!

来栖 珠來(くるす みらい)

いくら初出場だからって
いい加減な試合をされたら、
テニス部の評判が落ちるでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだよその言い訳は

来栖 珠來(くるす みらい)

言い訳なんかじゃないわよ……



珠來が、ジーッとこちらを睨んでいる。

中島 陽太(なかじま はるた)

(あ、またマズイこと言ったかな)

来栖 珠來(くるす みらい)

ま、いいわ。
アンタの言うことにいちいち
怒ってたらキリがないわね

中島 陽太(なかじま はるた)

おっ。
怒らないで普通に
話してくれるようになったんだな

来栖 珠來(くるす みらい)

な、何よ……

中島 陽太(なかじま はるた)

正月に怒らせちゃったから、
気にしてたんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

あっ、あれはっ!
アンタが変なことばっか
言うからよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

変なこと~?

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太と話してると、
イライラしたりソワソワして、
自分がわかんなくなるの!

中島 陽太(なかじま はるた)

よくわからんが、
それって俺のせいなのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

そうよ!
アンタのせい!!
じゃ、私はもう行くから!



珠來は小走りで、
教室の方に行ってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(機嫌は直ったのか?
それとも、まだ怒ってるのか?
うーん、わからん……)

テニス大会の余韻が抜け切らない内に、
共通テストを受けた。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

よお!
どうだった?

中島 陽太(なかじま はるた)

あんまり感触は良くないな……。
はあ、進学やめて
就職にしようかな……

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

弱音吐くんじゃねぇよ。
まだまだこれからだぞ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ん、そうだな……

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

んじゃ、俺は用事あるから。
またな!

中島 陽太(なかじま はるた)

またな……

中島 陽太(なかじま はるた)

(優斗はいつも明るいな。
……無駄に)

中島 陽太(なかじま はるた)

(さて、コンビニに寄って
華胡が読みたがってた
漫画雑誌を買って行くかな)

いらっしゃいませー!

中島 陽太(なかじま はるた)

(いらっしゃいました~)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あら、中島くんじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、沙穂先生……。
沙穂先生とは、
よくばったり会いますね

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それだけ相性がいい
ってことじゃないかな?
なんてね

中島 陽太(なかじま はるた)

相性っていうか、
むしろ運命なのかも!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

こらっ。
中島くんは、来栖さんのことが
好きなんでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

なんで俺が珠來を好きって
ことになってるんですか~

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

だったら、
どうして初詣の時に
私に相談したの?

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、それは……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふふ、いじめるのは
これくらいにしておいてあげるね

中島 陽太(なかじま はるた)

あの、沙穂先生……
珠來のことなんですけど

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

どうしたの?
仲直りした?

中島 陽太(なかじま はるた)

口は利いてくれたんですが……
まだ怒ってるような、
微妙な感じなんです

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふうーん、そうなんだ……。
でもね、中島くん

中島 陽太(なかじま はるた)

んっ?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

恋愛に一生懸命なのもいいけど、
期末試験の勉強は
ちゃんとしてる?

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ!
ちゃ、ちゃんとしてますよ

じーっ

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

本当……?

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そんなにコッチを
見ないでください。
すいません、ウソです。
本当はさっぱり勉強してません

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ほら、やっぱりー!
この時期の成績は大切なんだから、
ちゃんと勉強しないとダメだよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

そうは思うんですけど、
なかなかやる気が起きなくて……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それじゃ、
家庭教師をつけるのはどう?

中島 陽太(なかじま はるた)

俺にそんなお金が
あるわけないでしょ~?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ううん。
私が、中島くんの勉強を
見てあげるって言ってるのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生が俺の家庭教師!?

中島 陽太(なかじま はるた)

(や、やばい。
妄想が止まらない……)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ちょ、ちょっと!
鼻血が出てるけど、大丈夫?

中島 陽太(なかじま はるた)

勉強を教えてくれる時は、
是非メガネ着用でお願いします!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

メガネ……?
私、視力は下がってないけど?

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、そういうんじゃなくて
男のロマンというか……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

もう、中島くんって
たまに変なこと言い出すよね

中島 陽太(なかじま はるた)

ははは……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

じゃあ、予定が空いたら
連絡するわね。
お互いが都合のいい日に
勉強をしましょう

中島 陽太(なかじま はるた)

りょーかい。
沙穂先生が勉強を見てくれるなら、
頑張れそうな気がしてきました!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふふ。
私がお役に立てるなら
嬉しいな

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生にはいつも
お世話になりっぱなしで、
なんだか悪いですね

中島 陽太(なかじま はるた)

何かお礼をしますよ。
何がいいですか?
ケーキとか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そんな。
お礼なんていいわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

えー、でもなぁ……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それじゃあ……
早く来栖さんと仲直りすること。
そうすれば、私も嬉しいから

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、沙穂先生が
恋愛よりも試験勉強
って言いましたよね?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

もちろん、きちんと勉強を
しながら仲直りするのよ。
頑張ってね!

中島 陽太(なかじま はるた)

うう、わかりました……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

じゃあ、私もう行くから。
バイバイ

中島 陽太(なかじま はるた)

さよなら~

中島 陽太(なかじま はるた)

(試験勉強と、珠來か……。
なんでこんな時期に、
大変なことが二つも
重なるんだろうなぁ……)

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