合宿以来、珠來と話すことは
なくなってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來にLINEしても
相変わらず未読だ……。
そういえば、沙穂先生や
苺香ちゃんからも
LINEがきてないぞ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんか急に
モテなくなったなぁ。
華胡に相談してみるか)



華胡を呼び出すために、
モテパンツを履いた。

華胡(かこ)

んっ……ああ、おぬしか……

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだ?
目がトロンとしてるけど、
寝てたのか?

華胡(かこ)

いや……。
そういうわけではない……。
少し疲れているだけじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだか、どんどん華胡の
元気が無くなっていく
みたいで心配だな……)

華胡(かこ)

それよりも、
わらわを呼び出したりして、
何かあったのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、そうそう。
なんかさ~、最近になって
急にモテなくなったんだよ。
どうしてだと思う?

華胡(かこ)

ぱんつの効力に甘んじて、
努力をおこたった結果じゃろう。
自業自得じゃな

中島 陽太(なかじま はるた)

ど、どういう意味だよそれ!
最近は頼ってなかっただろ?

華胡(かこ)

ぱんつの力をきっかけに
仲良くなったのであろう?
しかし、その後は努力せずに
珠來と楽しく遊んでいた
だけではないか

華胡(かこ)

珠來の方が過去を
乗り越えようとして、
お前と楽しく過ごす努力を
していたようにも見えるぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

過去を乗り越える?

華胡(かこ)

……いや、なんでもない。
なんにしても、今はぱんつの
効力が弱くなっておるのじゃろう

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そんな……。
なあ、華胡!
俺、どうしたらいいんだ!?

華胡(かこ)

知らん……。
ちょっとは自分で考えろ……。
わらわはもう疲れた、寝る



華胡はパタリと横になり、寝息をたてはじめた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(どうしよう……
絶体絶命のピンチだ)

──その晩。

中島 陽太(なかじま はるた)

(学校で会えるなら、
自然に珠來と話せるようになると
思うんだけどなぁ……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(ああ、このまま一人寂しく
新学期を過ごすのだろうか)

華胡(かこ)

まだ落ち込んでおったのか。
合宿で何かあったのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

聞いてくれるか?
実は、裕貴さんと珠來が……

中島 陽太(なかじま はるた)

付き合っているかも
しれないんだぁぁぁ!!!

華胡(かこ)

ほう、それは面白い
組み合わせじゃな。
どうしてそんな急展開に
なったのじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

面白がるな!
何があったか知らないけど、
珠來が泣きながら裕貴さんに
抱きついてたんだよ

中島 陽太(なかじま はるた)

……あれ?
裕貴さんの方から
抱きしめたんだっけ?

華胡(かこ)

どっちなんじゃ。
ちゃんと思い出せ

中島 陽太(なかじま はるた)

駄目だ、思い出そうとすると
胸が痛くなる……

華胡(かこ)

……ぐぅー

中島 陽太(なかじま はるた)

目を開けたまま寝るな!

──元旦。

中島 陽太(なかじま はるた)

(ふふふ、結局一人で
年を越してしまった
俺って一体……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(正月になっても珠來を
誘う勇気が無くて、
一人寂しく初詣をする事に
なってしまった……)

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ、うっ……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あれ?
中島くんじゃない?

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ、沙穂先生!
あけましておめでとうございます

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あけましておめでとう。
ところで、
どうして涙ぐんでるの?

中島 陽太(なかじま はるた)

だって、このまま一人で
初詣をする事になるかと思うと、
寂しくて寂しくて……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あら?
てっきり友達でも
誘ってるのかと思った

中島 陽太(なかじま はるた)

トモ……ダチ……?
そうだ、優斗の存在を忘れていた

中島 陽太(なかじま はるた)

(……っていうか、
優斗から初詣に誘ってくれても
いいはずだ!
薄情なヤツめ!)


怒りのあまり抗議のLINEを送ると、
こんな返事がきた。

『来栖と初詣に行くと思って
気を遣って
誘わなかったんだよ』

『いや~、しかし
一人だったとはなぁ笑笑』

中島 陽太(なかじま はるた)

(この“笑笑”という文字が、
これだけむかついたのは
初めてだ……)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

手が震えてるけど、大丈夫?

中島 陽太(なかじま はるた)

大丈夫です……。
ところで沙穂先生は、
誰と来てるんですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

実は私も、
一人で来てるの

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ、そうなんですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

一人の方が、お願いごとに
集中できるかな、と思って。
でも、やっぱり一人は寂しいね

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生も寂しいと
思ってたのか)

中島 陽太(なかじま はるた)

良かったら、
俺と一緒に回りませんか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そうね、ここで会ったのも
何かの縁だし

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生と会えるなんて、
まだまだ俺の運も
尽きてないな!)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ところで中島くんは、
何をお願いするの?

中島 陽太(なかじま はるた)

そういえば、
まったく考えてませんでした。
珠來のことでもお願いしてみるかな

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来栖さんと何かあったの?

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生に話してみたら、
スッキリするかもしれないな)

中島 陽太(なかじま はるた)

実は、テニス部と水泳部の
合同合宿で……




裕貴さんと珠來が夜に会っていたこと、
それを思い出すと今でも胸が痛むこと……。


悩んでいることや不安に思っていることを、
すべて沙穂先生に打ち明けた。

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

知らなかった……。
中島くんもいろんな
ことがあったのね

中島 陽太(なかじま はるた)

えぇ……。
子ども扱いしないでくださいよ。
俺も一応、男なんですから

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふ、そうだったわね。
でも、悩んでる中島くんを見てると
守ってあげたくなって

中島 陽太(なかじま はるた)

ま、守る?
女性に守られるなんて、
ちょっと気が引けるなぁ

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生なら悪くないけど)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あ、ごめんね?
それで、今の話を聞いて
思ったんだけど……

中島 陽太(なかじま はるた)

はい、何ですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

なんとなく勘なんだけど、
中島くんが悩むようなことは
ないと思うの

中島 陽太(なかじま はるた)

でも苺香ちゃんの話からすると、
裕貴さんと珠來が普通の
関係のようには思えませんけど

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来栖さんと成瀬くんが一緒に
草むらから出てきたって話?

中島 陽太(なかじま はるた)

はい、それです

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それって全部、
中島くんと日下部さんの
想像でしかないんでしょ?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来栖さんだって、
自分の知らない内に
勝手に結論を出されたら
困っちゃうんじゃないかな

中島 陽太(なかじま はるた)

うーん……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

きっと大丈夫だよ。
思い切って来栖さんに、
どういうことか聞いてみたら?

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、もし俺の思った通り
二人が付き合ってるとしたら……
と思うと、確認するのが怖くて

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

もぉ、中島くんったら……。
もっと大人にならなくちゃ
駄目だよ?



沙穂先生は小さく笑って、
俺のおでこを軽くつついた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生のデコツン……!
クラッときたじゃないか!)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

顔が赤いけど、
ひょっとして熱があるの?
寒いから風邪ひいちゃったのかな

中島 陽太(なかじま はるた)

ちがうちがう、
熱なんかありません!

来栖 珠來(くるす みらい)

ずいぶん倉敷先生と
仲がいいのね

中島 陽太(なかじま はるた)

うわっ、珠來!?
いつからそこにいたんだ!

来栖 珠來(くるす みらい)

おでこをつんってされた
アンタが、情けない顔で
デレデレしてる辺りよ

来栖 珠來(くるす みらい)

知らなかった。
倉敷先生と初詣に来てたんだ。
へえ?

中島 陽太(なかじま はるた)

誤解だ!
沙穂先生とは、
たまたまここで会っただけだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

二人きりだなんて変じゃない。
ウソついたって
すぐにわかるんだから

中島 陽太(なかじま はるた)

(これは困ったぞ。
今日はモテパンツを履いてないから
華胡にも頼れないし……)

中島 陽太(なかじま はるた)

俺はおみくじを引くぞー!

来栖 珠來(くるす みらい)

は?
な、なんでいきなりおみくじ?

中島 陽太(なかじま はるた)

すみません!
おみくじ一回!

はい、どうぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

ねえ、人と話してる最中に
なんでいきなりおみくじなんか
引いてるのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、これは……
困ったときの神頼みというか……

来栖 珠來(くるす みらい)

は?
ワケわかんないこと
言わないでよ



文句を言う珠來を尻目に、
出てきたおみくじを開いてみると……。

中島 陽太(なかじま はるた)

やった、大吉だ!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

良かったじゃない、中島くん

来栖 珠來(くるす みらい)

へー。
ちょっと見せなさいよ

中島 陽太(なかじま はるた)

いいぞ。
俺の運を分けてやろうじゃないか

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタに分けてもらわなくても
間に合ってるわ。
私は強運なんだから



珠來もおみくじを引くと、大吉が出た。

来栖 珠來(くるす みらい)

ほらね?

中島 陽太(なかじま はるた)

うう……

中島 陽太(なかじま はるた)

(ちょっと悔しいが、
珠來の機嫌が直ったみたいで
良かったな)

来栖 珠來(くるす みらい)

そう言えばアンタは
沙穂先生に憧れてるって
言ってたわね

中島 陽太(なかじま はるた)

はい?
なんで今その話を?

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタが誰を初詣に誘っても、
私に怒る権利なんか無いってこと。
邪魔しちゃってごめん……

中島 陽太(なかじま はるた)

ちょいちょいちょい!
そっちの路線に乗るのは
違いませんかい珠來さん!?

来栖 珠來(くるす みらい)

何よ。
謝ってるのに何が不満なの?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来栖さん、私こそ謝らなきゃ。
私が一人で来たせいで、
勘違いさせちゃったわね

来栖 珠來(くるす みらい)

倉敷先生が、一人で?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そうよ。
だから中島くんが言った通り、
私たちは偶然ここで会ったの

来栖 珠來(くるす みらい)

そうだったんですか……

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生、ナイス!
あともう一押しすれば、
珠來の誤解がとけそうだな)

中島 陽太(なかじま はるた)

そうそう。
だから、珠來がヤキモチをやく
気持ちもわかるが……

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタ、何言ってんのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

へっ?

来栖 珠來(くるす みらい)

ヤキモチなんかやいてないわよ!
そういう上から目線なの、
すごくイヤ!

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、いや……その……

来栖 珠來(くるす みらい)

それに……本当は、
倉敷先生にお願いして
口裏合わせてるんじゃないの?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それは違うわ、来栖さん!

来栖 珠來(くるす みらい)

それじゃ、失礼します倉敷先生

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來のヤツ、
沙穂先生にだけ頭を下げて
帰っちまった……)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ごめんね、私のせいで……

中島 陽太(なかじま はるた)

いえ、沙穂先生のせいじゃ
ありませんよ!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

追いかけなくていいの?

中島 陽太(なかじま はるた)

いいんです。
先生の話を聞かないようなやつぁ
何言っても無駄ですって!

中島 陽太(なかじま はるた)

さあ、もうちょっと
見て回りましょうか!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ええ……

中島 陽太(なかじま はるた)

(はあ……。
新年早々、
面倒なことになったな)

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