中島 陽太(なかじま はるた)

今日から冬休みだ~♪

華胡(かこ)

なんじゃ……?
旅行の準備をしておるのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

ちがうちがう。
テニス部と水泳部の
合同合宿に行くんだよ

華胡(かこ)

そうか……

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだ?
また元気が無いな?

華胡(かこ)

ああ……。
少し夜更かしをしてしまって、
寝不足なのじゃ……

中島 陽太(なかじま はるた)

深夜アニメの見すぎだろ?
しゃーねぇ、モテパンツは置いて
行くからゆっくり休めよ?

華胡(かこ)

ああ、助かる……。
これでゆっくり眠れるな……

華胡(かこ)

すぅ……

中島 陽太(なかじま はるた)

(また目開けて寝てるし。
神様でも睡眠不足って
あるんだなあ。)

バスに乗って揺られること、数時間──


成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

着いたぞ~!

中島 陽太(なかじま はるた)

こんな山奥で練習するとは
思いませんでしたよ。
おぉ、寒っ!

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香は陽太ちゃんと一緒に
練習できるのが嬉しくて、
寒さなんか気にならないですよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとう、苺香ちゃん!
苺香ちゃんで暖まってもいいか?

来栖 珠來(くるす みらい)

駄目に決まってるでしょ!
大会まで時間が無いんだから、
真面目にやりなさい!

中島 陽太(なかじま はるた)

ちぇーっ!
この間はあんなに
可愛かったのになぁ

来栖 珠來(くるす みらい)

あ、あれはその……
なんとなくそういう
気分だったからよ!
思い出さなくてもいいの!

日下部 苺香(くさかべ いちか)

この間って、
なんの話ですか?

来栖 珠來(くるす みらい)

な、なんでもないの。
あ、水泳部のみんなが
あっちに集まってるわよ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

ホントです~!
じゃあねです~

来栖 珠來(くるす みらい)

ふぅ。
もうっ、他の人がいる場所で
変な話しないでよ

中島 陽太(なかじま はるた)

はいはい。
じゃ、部屋に荷物を置いたら
練習を始めますか

来栖 珠來(くるす みらい)

なかなかいいんじゃない?
あとは練習あるのみね

中島 陽太(なかじま はるた)

練習って言ってもなあ。
これ以上、
どうすればいいんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

持久力はそこそこ有るから、
テクニックの面を
強化したらいいんじゃない?

中島 陽太(なかじま はるた)

よっしゃ!
もっと練習してみるか!

来栖 珠來(くるす みらい)

なんにしても、
前よりも確実に
上達はしてるわね

中島 陽太(なかじま はるた)

俺の努力が実ってきた
ってわけか

来栖 珠來(くるす みらい)

調子に乗ってるわね……。
まあ、アンタが
頑張ってるのは認めるわ

中島 陽太(なかじま はるた)

本当か?
なんか嬉しいな~

来栖 珠來(くるす みらい)

ご褒美に
いいこと教えてあげようか?

中島 陽太(なかじま はるた)

いいこと?

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太は初めて来たから
知らないだろうけど、
ここの合宿所って
夜空がすごく綺麗なのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ほう。
イルミネーションやら星やら、
乙女チックなものが好きなんだな

来栖 珠來(くるす みらい)

茶化さないでよ

中島 陽太(なかじま はるた)

わりぃわりぃ。
……んで?

来栖 珠來(くるす みらい)

それで、夜になったら
私が一緒に夜空を見て
あげてもいいわよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

おお!
いいな……



珠來に二つ返事をしようとした、その時……。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香も星を見たいです!

中島 陽太(なかじま はるた)

い、苺香ちゃん?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

そんなに綺麗なら、
苺香も誘ってくださいです。
二人だけで見るなんて
ズルイですよぉ~

来栖 珠來(くるす みらい)

あはは、そうね。
日下部さんも一緒に見る?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

はいです!

中島 陽太(なかじま はるた)

(おいおい、夜空を見ながら
デートするんじゃ
なかったのかよ)

──夜。

中島 陽太(なかじま はるた)

(そろそろ風呂に入るか。
えーと、浴室はこっちか?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(ん?
先に誰か入ってるみたいだな)

中島 陽太(なかじま はるた)

失礼しま~す

来栖 珠來(くるす みらい)

えっ……?



浴室のドアを開けた先には、
なんと珠來が座っていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

みっ、みっ、珠來!?

来栖 珠來(くるす みらい)

キャッ!?


珠來は顔を真っ赤にして、
両手で胸を隠した。


慌てた様子で、
身体を隠すように屈みこんでいる。


俺は思わず、
珠來の裸をながめてしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(駄目だ!
見ちゃいかん!
そう思ってるのに……!)

中島 陽太(なかじま はるた)

(手で隠してるのに
はみ出しちゃってるおっぱいと、
屈んでるせいで丸見えになってる
お尻から目が離せない!!)

中島 陽太(なかじま はるた)

なななんでお前、
男風呂に入ってるんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

何言ってんのよ!
ここ、男女共通じゃない!

中島 陽太(なかじま はるた)

共通ってことは、
このまま俺と珠來が
混浴するってことか!?

来栖 珠來(くるす みらい)

バカーッ!
そんなわけないでしょ!?
時間制で男女別になってるのよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ど、どういうことだ?
そんなことは誰からも
聞いてないぞ!

来栖 珠來(くるす みらい)

脱衣所の前に書いてあるでしょ?
よく読みなさいよ!

来栖 珠來(くるす みらい)

……って、言うよりも

中島 陽太(なかじま はるた)

って、言うよりも?

来栖 珠來(くるす みらい)

とっとと出て行きなさい!
この変態!

中島 陽太(なかじま はるた)

わ、わかった!
出て行くから物を投げるな!

中島 陽太(なかじま はるた)

(はあー……ビックリした)



高鳴る心臓を押さえ、
さっきの珠來の裸を思い出してみる。

中島 陽太(なかじま はるた)

(怒らせちまったけど、
ちょっとラッキーだったな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(クリスマスにお洒落してた
珠來も可愛かったが……
風呂場で見た珠來は、
もっと綺麗だったな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(まずい、珠來の裸が
頭から離れないぞ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(念のため珠來にLINEで
お礼を……じゃなかった、
謝っておこう)

来栖 珠來(くるす みらい)

(ったく、陽太ったら……)

来栖 珠來(くるす みらい)

(ん?
陽太からLINEが
きてる?)

『さっきは本当にごめん!
確認しない俺が悪かった!
今後は気をつける!!!』

ごめんにゃさい

来栖 珠來(くるす みらい)

(フフッ、わざわざ
変なスタンプまで
使っちゃって)

『反省してるならいいけど。
今度ああいうことやったら
地獄の筋トレメニューを
やらせるからね!』

来栖 珠來(くるす みらい)

(まっ、許してやっても
いいかな)

来栖 珠來(くるす みらい)

(それにしても、私……。
このまま陽太と普通に
話していてもいいのかな……)

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

あっ、来栖。
明日のスケジュールだけどさ……

来栖 珠來(くるす みらい)

成瀬先輩……。
あの……
聞いて欲しいことが……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

ん?
どうした?


その後、風呂に入ってから涼むために、
外へ出てきた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(風呂に入ってる間に
珠來から返信がきてたけど、
もう怒ってないみたいで良かった)

中島 陽太(なかじま はるた)

(そう言えば珠來が、
夜空が綺麗だから
一緒に見ようって言ってたなぁ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(途中で苺香ちゃんが来たから
うやむやになったけど……
珠來も誘えば良かったな)

うっ、うっ……ぐすん

中島 陽太(なかじま はるた)

(どっ、どこかから!
女の泣き声がする!?
まさか幽霊じゃないよな?)



茂みに隠れて、声がした方を
おそるおそる覗いてみると……。

来栖 珠來(くるす みらい)

ぐすっ……うう……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

そんなに泣くなよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(あそこにいるのは
珠來と裕貴さんじゃないか!
なにを話してるんだ?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(まさか裕貴さんが
珠來を泣かせた……?
いや裕貴さんに限ってそんな……)

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、だって……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

しょうがない奴だな、
来栖は……



裕貴さんは困ったような顔をしてから、
珠來の背に手を回してトン、トン……
と、優しく叩いた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(なにっ!?
な、なんで裕貴さんが
珠來を抱きしめるんだ?)



更に近づこうとすると、
後ろから腕をつかまれた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(だ、誰だ?)



驚いて振り向くと、
そこには真剣な表情で腕をつかむ
苺香ちゃんが立っていたのだ。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

二人をそっとして
おいた方がいいです

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、珠來は
泣いてるじゃないか!
あのままにできないだろ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

あの二人は、もしかすると
付き合ってるかもしれないです

中島 陽太(なかじま はるた)

付き合ってる……?
苺香ちゃん、
何か知ってるのか?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

前に、珠來先輩が草むらから
出てくるのを見たって話したこと、
覚えてますですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、ああ……覚えてるけど

中島 陽太(なかじま はるた)

(話を聞いた後に草むらへ
行ったら、女物のパンティを
見つけたんだよな)

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃんには
黙ってたですけど……
実はその時、

日下部 苺香(くさかべ いちか)

成瀬先輩が一緒に
出てくるのを
見てしまったです……

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來と一緒に、裕貴さんが?
見間違えじゃないのか?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香もそう思って
よく見たですけど、
やっぱり成瀬先輩だったです

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、それで、
その時の二人は
どんな様子だったんだ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

珠來先輩の服は乱れていて、
泣いていたです

中島 陽太(なかじま はるた)

まさか、そんな……
裕貴さんが、
無理やり珠來を……?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

もし無理やりだったら、
大事件になってるはずです

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ、そりゃそうだが……
珠來が黙ってるのかも
しれないぞ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

もしそうだとしたら、
成瀬先輩とは二度と
口を利かないと思うですよ

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、それは……

日下部 苺香(くさかべ いちか)

だから、二人はこっそり
付き合ってるかもです。
それなのに、珠來先輩は……
ううっ、ぐすっ

中島 陽太(なかじま はるた)

苺香ちゃん?
泣いてるのか?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

成瀬先輩と付き合ってるのに、
陽太ちゃんに気がある振りを
するなんて……ひどいです!

中島 陽太(なかじま はるた)

…………



ショックで、言葉が出なかった。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香なら、
絶対に陽太ちゃんを
裏切ったりしないです



苺香ちゃんは、まっすぐにこちらを見つめた。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香は陽太ちゃんが好きです!
苺香じゃ駄目なんですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

苺香ちゃん……

中島 陽太(なかじま はるた)

ごめん、考えさせてくれ

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃん……。
どうしてですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

今は気持ちの整理が
つかないんだ

日下部 苺香(くさかべ いちか)

そうですよね……。
すぐに答えを出せる話じゃ
ないですよね

中島 陽太(なかじま はるた)

そうだな……

日下部 苺香(くさかべ いちか)

わかったです。
陽太ちゃんは
混乱してるですね?

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香は部屋に戻るので、
陽太ちゃんは一人で
ゆっくり考えて下さいです

中島 陽太(なかじま はるた)

(ゆっくり考えて下さい
って言われても……)

日下部 苺香(くさかべ いちか)

それじゃあ、
おやすみなさいです

中島 陽太(なかじま はるた)

おやすみ……



苺香ちゃんは合宿所の方へ行ってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(駄目だ。
一人になると、
裕貴さんと珠來が目に浮かぶ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來……。
なんで裕貴さんの前では
涙を見せるんだ?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(あんなに一緒にいたのに、
俺じゃ駄目なのか?)



考え込んでいると、
向こうから珠來が泣きながら
歩いてくるのが見えた。

来栖 珠來(くるす みらい)

ぐすん……
うっ、うう……

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……

来栖 珠來(くるす みらい)

……ッ!!

中島 陽太(なかじま はるた)

そんなに泣いて……。
何かあったのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

ごめん、陽太……

中島 陽太(なかじま はるた)

どうして謝るんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

今はアンタとは話せない……


珠來は目も合わさずに、
通り過ぎて行った。

中島 陽太(なかじま はるた)

おいっ!
珠來っっ!!



珠來が俺の呼びかけに
応えることはなかった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(どういうことだ……?)



その後も珠來との気まずい雰囲気は変わらず、
合宿は終わってしまった。


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