バスに乗って揺られること、数時間──
今日から冬休みだ~♪
なんじゃ……?
旅行の準備をしておるのか?
ちがうちがう。
テニス部と水泳部の
合同合宿に行くんだよ
そうか……
なんだ?
また元気が無いな?
ああ……。
少し夜更かしをしてしまって、
寝不足なのじゃ……
深夜アニメの見すぎだろ?
しゃーねぇ、モテパンツは置いて
行くからゆっくり休めよ?
ああ、助かる……。
これでゆっくり眠れるな……
すぅ……
(また目開けて寝てるし。
神様でも睡眠不足って
あるんだなあ。)
バスに乗って揺られること、数時間──
着いたぞ~!
こんな山奥で練習するとは
思いませんでしたよ。
おぉ、寒っ!
苺香は陽太ちゃんと一緒に
練習できるのが嬉しくて、
寒さなんか気にならないですよ
ありがとう、苺香ちゃん!
苺香ちゃんで暖まってもいいか?
駄目に決まってるでしょ!
大会まで時間が無いんだから、
真面目にやりなさい!
ちぇーっ!
この間はあんなに
可愛かったのになぁ
あ、あれはその……
なんとなくそういう
気分だったからよ!
思い出さなくてもいいの!
この間って、
なんの話ですか?
な、なんでもないの。
あ、水泳部のみんなが
あっちに集まってるわよ?
ホントです~!
じゃあねです~
ふぅ。
もうっ、他の人がいる場所で
変な話しないでよ
はいはい。
じゃ、部屋に荷物を置いたら
練習を始めますか
なかなかいいんじゃない?
あとは練習あるのみね
練習って言ってもなあ。
これ以上、
どうすればいいんだ?
持久力はそこそこ有るから、
テクニックの面を
強化したらいいんじゃない?
よっしゃ!
もっと練習してみるか!
なんにしても、
前よりも確実に
上達はしてるわね
俺の努力が実ってきた
ってわけか
調子に乗ってるわね……。
まあ、アンタが
頑張ってるのは認めるわ
本当か?
なんか嬉しいな~
ご褒美に
いいこと教えてあげようか?
いいこと?
陽太は初めて来たから
知らないだろうけど、
ここの合宿所って
夜空がすごく綺麗なのよ
ほう。
イルミネーションやら星やら、
乙女チックなものが好きなんだな
茶化さないでよ
わりぃわりぃ。
……んで?
それで、夜になったら
私が一緒に夜空を見て
あげてもいいわよ?
おお!
いいな……
珠來に二つ返事をしようとした、その時……。
苺香も星を見たいです!
い、苺香ちゃん?
そんなに綺麗なら、
苺香も誘ってくださいです。
二人だけで見るなんて
ズルイですよぉ~
あはは、そうね。
日下部さんも一緒に見る?
はいです!
(おいおい、夜空を見ながら
デートするんじゃ
なかったのかよ)
──夜。
(そろそろ風呂に入るか。
えーと、浴室はこっちか?)
(ん?
先に誰か入ってるみたいだな)
失礼しま~す
えっ……?
浴室のドアを開けた先には、
なんと珠來が座っていた。
みっ、みっ、珠來!?
キャッ!?
珠來は顔を真っ赤にして、
両手で胸を隠した。
慌てた様子で、
身体を隠すように屈みこんでいる。
俺は思わず、
珠來の裸をながめてしまった。
(駄目だ!
見ちゃいかん!
そう思ってるのに……!)
(手で隠してるのに
はみ出しちゃってるおっぱいと、
屈んでるせいで丸見えになってる
お尻から目が離せない!!)
なななんでお前、
男風呂に入ってるんだ?
何言ってんのよ!
ここ、男女共通じゃない!
共通ってことは、
このまま俺と珠來が
混浴するってことか!?
バカーッ!
そんなわけないでしょ!?
時間制で男女別になってるのよ!
ど、どういうことだ?
そんなことは誰からも
聞いてないぞ!
脱衣所の前に書いてあるでしょ?
よく読みなさいよ!
……って、言うよりも
って、言うよりも?
とっとと出て行きなさい!
この変態!
わ、わかった!
出て行くから物を投げるな!
(はあー……ビックリした)
高鳴る心臓を押さえ、
さっきの珠來の裸を思い出してみる。
(怒らせちまったけど、
ちょっとラッキーだったな)
(クリスマスにお洒落してた
珠來も可愛かったが……
風呂場で見た珠來は、
もっと綺麗だったな)
(まずい、珠來の裸が
頭から離れないぞ)
(念のため珠來にLINEで
お礼を……じゃなかった、
謝っておこう)
(ったく、陽太ったら……)
(ん?
陽太からLINEが
きてる?)
『さっきは本当にごめん!
確認しない俺が悪かった!
今後は気をつける!!!』
ごめんにゃさい
(フフッ、わざわざ
変なスタンプまで
使っちゃって)
『反省してるならいいけど。
今度ああいうことやったら
地獄の筋トレメニューを
やらせるからね!』
(まっ、許してやっても
いいかな)
(それにしても、私……。
このまま陽太と普通に
話していてもいいのかな……)
あっ、来栖。
明日のスケジュールだけどさ……
成瀬先輩……。
あの……
聞いて欲しいことが……
ん?
どうした?
その後、風呂に入ってから涼むために、
外へ出てきた。
(風呂に入ってる間に
珠來から返信がきてたけど、
もう怒ってないみたいで良かった)
(そう言えば珠來が、
夜空が綺麗だから
一緒に見ようって言ってたなぁ)
(途中で苺香ちゃんが来たから
うやむやになったけど……
珠來も誘えば良かったな)
うっ、うっ……ぐすん
(どっ、どこかから!
女の泣き声がする!?
まさか幽霊じゃないよな?)
茂みに隠れて、声がした方を
おそるおそる覗いてみると……。
ぐすっ……うう……
そんなに泣くなよ
(あそこにいるのは
珠來と裕貴さんじゃないか!
なにを話してるんだ?)
(まさか裕貴さんが
珠來を泣かせた……?
いや裕貴さんに限ってそんな……)
でも、だって……
しょうがない奴だな、
来栖は……
裕貴さんは困ったような顔をしてから、
珠來の背に手を回してトン、トン……
と、優しく叩いた。
(なにっ!?
な、なんで裕貴さんが
珠來を抱きしめるんだ?)
更に近づこうとすると、
後ろから腕をつかまれた。
(だ、誰だ?)
驚いて振り向くと、
そこには真剣な表情で腕をつかむ
苺香ちゃんが立っていたのだ。
二人をそっとして
おいた方がいいです
でも、珠來は
泣いてるじゃないか!
あのままにできないだろ?
あの二人は、もしかすると
付き合ってるかもしれないです
付き合ってる……?
苺香ちゃん、
何か知ってるのか?
前に、珠來先輩が草むらから
出てくるのを見たって話したこと、
覚えてますですか?
あ、ああ……覚えてるけど
(話を聞いた後に草むらへ
行ったら、女物のパンティを
見つけたんだよな)
陽太ちゃんには
黙ってたですけど……
実はその時、
成瀬先輩が一緒に
出てくるのを
見てしまったです……
珠來と一緒に、裕貴さんが?
見間違えじゃないのか?
苺香もそう思って
よく見たですけど、
やっぱり成瀬先輩だったです
そ、それで、
その時の二人は
どんな様子だったんだ?
珠來先輩の服は乱れていて、
泣いていたです
まさか、そんな……
裕貴さんが、
無理やり珠來を……?
もし無理やりだったら、
大事件になってるはずです
うっ、そりゃそうだが……
珠來が黙ってるのかも
しれないぞ?
もしそうだとしたら、
成瀬先輩とは二度と
口を利かないと思うですよ
そ、それは……
だから、二人はこっそり
付き合ってるかもです。
それなのに、珠來先輩は……
ううっ、ぐすっ
苺香ちゃん?
泣いてるのか?
成瀬先輩と付き合ってるのに、
陽太ちゃんに気がある振りを
するなんて……ひどいです!
…………
ショックで、言葉が出なかった。
苺香なら、
絶対に陽太ちゃんを
裏切ったりしないです
苺香ちゃんは、まっすぐにこちらを見つめた。
苺香は陽太ちゃんが好きです!
苺香じゃ駄目なんですか?
苺香ちゃん……
ごめん、考えさせてくれ
陽太ちゃん……。
どうしてですか?
今は気持ちの整理が
つかないんだ
そうですよね……。
すぐに答えを出せる話じゃ
ないですよね
そうだな……
わかったです。
陽太ちゃんは
混乱してるですね?
えっ?
苺香は部屋に戻るので、
陽太ちゃんは一人で
ゆっくり考えて下さいです
(ゆっくり考えて下さい
って言われても……)
それじゃあ、
おやすみなさいです
おやすみ……
苺香ちゃんは合宿所の方へ行ってしまった。
(駄目だ。
一人になると、
裕貴さんと珠來が目に浮かぶ)
(珠來……。
なんで裕貴さんの前では
涙を見せるんだ?)
(あんなに一緒にいたのに、
俺じゃ駄目なのか?)
考え込んでいると、
向こうから珠來が泣きながら
歩いてくるのが見えた。
ぐすん……
うっ、うう……
珠來……
……ッ!!
そんなに泣いて……。
何かあったのか?
ごめん、陽太……
どうして謝るんだ?
今はアンタとは話せない……
珠來は目も合わさずに、
通り過ぎて行った。
おいっ!
珠來っっ!!
珠來が俺の呼びかけに
応えることはなかった。
(どういうことだ……?)
その後も珠來との気まずい雰囲気は変わらず、
合宿は終わってしまった。