眠い目をこすりながら、
手探りでアラームを止める。
眠い目をこすりながら、
手探りでアラームを止める。
ふわあ~……ねむっ!
スマホを見ると、沙穂先生から
LINEのメッセージがきていた。
『おはよう。
もうすぐクリスマスね♪』
『クリスマスイブには
表通りでイルミネーションが
華やかに点灯するらしいわ。
きっと綺麗でしょうね』
これはもしや、
デートのお誘いなのか!?
困ったなぁ、珠來と約束したのに
でも、なんで沙穂先生から
こんなメッセージが
来たんだろう?
ひとりごとの多い奴じゃのう
おっ、華胡。
おはよう!
ふむ……
華胡はメッセージを覗き込んで、
何かを考えている様子だった。
ぱんつの力が暴走して、
威力が飛躍しているようじゃな
……と、言いますと?
ぱんつの力を使ったことがある
相手が目の前におらずとも、
効力が出てしまっているのじゃ
沙穂先生にパンツの力を
使ったことなんかあったっけ?
ほれ、前にあったじゃろ。
お前がここ来たばかりの頃に、
校門で女生徒を集めたではないか
あー……。
不特定多数の女の子を
たぶらかすなって、
沙穂先生から注意されたな
そうじゃ。
あの時に沙穂は近くに居た。
そのせいで影響を受けたのじゃ
それって、ちょっと
マズイんじゃないか?
とりあえず、今は様子見じゃな。
ぱんつの力だからといって、
おなごを無碍(むげ)にする
ようなことがあってはならぬぞ
当たり前だ。
俺が沙穂先生を面倒に
思うことなんかあるはずがない!
だったら、早く返信してやれ
そうだな。
うーんと……なんて返そうかな
『俺も、表通りの
イルミネーションを見たいです』
そんな思わせぶりな
返信をして大丈夫かのう
えっ?
……あ、もう返事がきたぞ
『嬉しいな。
中島くんと同じ気持ちだなんて』
おおー!
なんか好感触だぞ!?
たわけ。
おぬしは珠來と
約束をしておるのじゃろうが
そ、そうだった……
『イブに珠來と会う約束なので、
見に行ってみますね』
よし、これで送信っと
ふむ……。
多少回りくどくはあるが、
まあいいじゃろう
本当は沙穂先生とも
デートしたかったけどさ……
って、もう返事がきた
『そうなんだ。
二人が仲良くしてるのは
嬉しいけど、
ちょっとヤケちゃうかな。
でも、頑張ってね!』
沙穂先生……
じーんときちゃったじゃないか
ところで、
そろそろ学校に行った方が
良いのではないか?
ああ、もうこんな時間か。
行くとするか
学校に向かう途中で、
苺香ちゃんの姿が見えた。
あ、陽太ちゃーん!
おはようです!
お、苺香ちゃん。
おはよう
丁度良かったです。
陽太ちゃんに聞きたいことが
あるですよ
ん? なんだ?
明日はクリスマスイブですよね。
陽太ちゃんは、
予定とかありますか?
(こりゃどういうことだ?
朝に続いてパンツの力が
暴走してるのか?)
えっと、明日は……
ひょっとして、
お友達と遊ぶ約束が
あるですか?
ま、まあそんなとこかな。
夜に出かける約束をしていて……
それなら、
ちょっとだけでもいいので
会いたいです
(午前中は苺香ちゃん、
午後は珠來ってのも
盛りだくさんでいいもかなあ)
おぬしは本当に
それでいいと思っておるのか?
(だって苺香ちゃんがこんなに
会いたがってるのに、
断るなんて可哀想だろ)
考えてもみよ。
もしも珠來が午前中に裕貴、
午後におぬしと会うとしたら
どう思うのじゃ?
(絶対にイヤだ)
ならば苺香になんと
言えば良いのか、
おのずと答えは出るじゃろう
(ううっ……。
こうするしかないのか……)
苺香ちゃん……。
本当に、本当に残念だけど、
明日はダメなんだ……
ウッ……ウッ……!
ウウウ~ッ!!
な、泣かないでくださいっ!
苺香が悪かったですぅ~!
別に苺香ちゃんは悪くないよ。
悪いのは俺の理性を無視して
悲しんでる下半身だよ……
ふにゅ?
下半身とは、
ぱんつであるわらわが
悪いと言うのか!?
(なんでそうなる)
よくわからないですけど、
苺香がわがまま言って
困らせちゃったですね。
ごめんなさいです
いやいや、そんな。
わがままだなんてことないよ
陽太ちゃんって
素敵ですもんね。
誰かと約束があって当然です
素敵なんて言ってくれるのは
苺香ちゃんだけだって!
ありがとな
えへへ、
苺香は思ったことを
言っただけですよ?
あっ、友達と学校行こうって
待ち合わせてたの忘れてたですっ。
またねです~!
苺香ちゃんはパタパタと走って行ってしまった。
(苺香ちゃんは
いつも元気だなぁ。
さて、俺も行くか)
──放課後。
(今日も練習キツかったなぁ)
ねぇ、陽太。
一緒に帰らない?
あ、ああ。
いいぜ
(珠來がこんなに素直に
誘ってくるなんて珍しいな。
これもパンツの力だろうか……)
考え込んじゃって、
どうしたのよ?
いやいや、なんでもないんだ。
そういや明日、どこに行く?
あっ。
私、表通りのイルミネーションを
見に行きたいなって思ってたのよ
そこ、沙穂先生も言ってたけど
人気スポットなのか?
なんで倉敷先生が出てくるのよ。
もしかして誘ったの?
は、はは……違うって
怪しいわね。
ま、いいわ
アンタは島ぐらしが長いから
知らないだろうけど、
表通りのイルミネーションは
豪華なことで有名なのよ
友達が去年のクリスマスに、
表通りにデートに行った~
なんて自慢しまくってたせいで、
どうしても見に行きたくなったの
(それってつまり……
俺とデートに行きたい
ってことだよな?)
何よ?
さっきから黙ってるけど、
もしかして行きたくないの?
んなことねーよ。
どんなにすごいんだろうな~
って想像してたんだ
そう?
島にはイルミネーションなんて
無かったもんね!
ロウソクの灯りならば、
尊惚弁天祭りで
大量に出てたじゃろ
(たぶん、ああいうのとは
かなり違うと思うぞ)
んじゃ、明日は表通りへ行くか!
じゃあ、夜の7時に
駅で待ち合わせましょう
了解。
遅れるなよ
アンタこそ。
明日、楽しみにしてるんだから
遅刻しないでよ?
じゃあね!
ああ、またな
──クリスマスイブ当日。
わぁ、綺麗……
珠來はイルミネーションを見上げて、
感動しているようだった。
(思わず『今日のために
お洒落をした珠來の方が綺麗だ』
なんて言いそうになったが……)
(そんなキャラに無いことを
言おうものなら、
大笑いされるにちがいない)
ね、陽太……
珠來はほほ笑むと、手を握った。
み、珠來?
周りの人達、
みんなこうしてるでしょ?
だから私もつなぎたくなったの
(珠來の手って、
柔らかいんだな~。
それに、しっとりしてる……)
思わず、珠來の手に指をからめて握った。
そ、そんな握り方
しなくても……
珠來は顔を赤くして、
上目づかいでこちらを見た。
(ヤバイ、かわいい……)
あ、えーと……ごめん。
つい無意識で
謝らなくてもいいわよ
今度は珠來が、腕に抱きついてきた。
(珠來がこんなに
デレてくるなんて、
パンツの力が効きすぎ
じゃないのか!?)
(ちょっと怖い気もするが、
腕におっぱいが
あたってラッキー)
なんか、鼻の下伸びてない?
やわらかくて、
気持ちいいな~と思って
……バカッ!
言葉の意味に気づいたらしく、
真っ赤になって離れてしまった。
(黙ってればもう少し
感触を味わえたのに!
俺って本当にバカ!)
ところで、
ディナーなんだけど……
あ、そう言えば晩メシのこと
全然考えてなかった
アンタのことだから
そう言うと思ったわ
わ、悪い。
これから入れる店を探すか?
えっ?
アンタの部屋で
パーティするのよね?
だってピザを頼むにしても、
クリスマスで混雑してるから
届くかどうか……
大丈夫、安心して。
ちゃんと用意してあるから
用意???
うちの使用人に
料理を準備させてるの。
電話一本で届けてくれるはずよ
わあ~! ステキ!
KURUSUber Eats
だね!!
それじゃ、アンタの家に
行きましょう
(小ボケを無視されると
ちょっぴり恥ずかしい)
ここがアンタが住んでる
アパート?
思ったより綺麗じゃない
じいちゃんと見つけた物件なんだ。
学校から近いし、
家賃も安くて仕送りだけで
なんとかできるし
(一応片付けてはおいたが、
珠來が満足してくれるか
どうか……)
(それに、約束してた
クリスマスの装飾も
あまりできなかったしなあ)
どうしたの?
入らないの?
お、おう!
じゃあ入ってくれ!!
あ……れ……?
ドアを開けると、
そこには異世界が広がっていた。
部屋中に響き渡るクリスマスソング。
壁一面には賑やかなウォールステッカーと、
華やかなクリスマスリース。
中でも最も目を引いたのは、
部屋の中心に有るクリスマスツリーだった。
まるでホテルに置いてあるような、
大きくてきらびやかなクリスマスツリー……。
それを目にした珠來は、
これでもかってくらいに
瞳をキラキラと輝かせていた。
すごいじゃない、陽太!
これ全部一人でやったの?!
あー……
えーと……
一人というか……
きれーい!
このツリー、どうやって
運び込んだの?
写真撮ってもいい?
ああ、どうぞ……
(おい、華胡!
これやったのお前だろ?)
ふふふっ、わらわの自信作じゃ。
てれびのくりすます特集を
見ながら作り上げたが、
なかなか苦労したぞ
(感謝はしてるけど、
ちょっとやり過ぎじゃないか?
部屋の面積まで広がってるし)
やり過ぎなくらいが丁度良い。
現に珠來もはしゃいで
おるではないか
(まあ……。
珠來が喜んでくれるのが
一番だけどな)
珠來はクリスマスツリーや
部屋の飾りを撮り終えると、
俺の腕をグイッと引っ張った。
どうした?
どうしたじゃないでしょ。
ツリーをバッグにして、
一緒に撮るわよ
へっ?
珠來が俺たちに向けたスマホを高く掲げて、
シャッターボタンを押す。
ふふっ、ちゃんと撮れてる。
アンタにも送ってあげるわよ
おう、サンキュ
(おっ、LINEで
写真が送られてきた)
(珠來と二人でイブに
撮った写真か……。
待ち受けにしとこっ)
ん?
こんな時間に誰だ?
来たわね
珠來がドアを開けると、
料理が載ったワゴンと共に
来栖家のメイドさんが立っていた。
珠來さま。
お料理とお飲み物を
お持ちしました
ありがとっ!
そこのテーブルに用意して
ちょうだい
お前、いつの間に
この人たちを呼んだんだ?
さっき電話してたじゃない。
気づいてなかったの?
(たぶん俺が華胡と
話してるときだな……)
では、失礼いたします
失礼しまーす!
お邪魔します♪
三人のメイドさんがゾロゾロと入ってくる。
(メイドさんハーレム!
ちょっといいかも!)
メイドさんたちは、
目にも留まらぬ速さで食卓をセットすると、
横一列に並んでエレガントに会釈をした。
それでは、私たちはこれで
失礼いたします
み、みなさん
もう帰られるんですか?
もうちょっと居ても……
なによ。
なんか用事でもあんの?
いや……
ないけど……
お二人とも、ごゆっくり!
良いクリスマスを♪
嵐のようだった……
さっ、食べましょ。
このクリスマスサーモンが
おすすめよ
サーモンの刺身?
なぜチキンじゃない!?
なんか飾り付けてあるし!
さあ?
美味しいからいいじゃない。
私サーモンって大好きなのよね
いや俺も嫌いじゃ
ないけどさ……。
ん? そっちのは?
これは焼いた
クリスマスサーモンよ。
遠慮しないで食べて
いやだから、
なんで鮭なんだ……?
なんでかしら?
うちではクリスマスっていうと
シャケなのよね
そ、そうか。
まあ美味けりゃ
なんでもいいけど
あとは……
ジャジャーン♪
ケーキよ!
ようやく定番の品が出てきたな
珠來がナイフを手に取り、
丁寧にケーキを切り分ける。
それをお互いの皿に載せ、
二人で料理やシャンメリーを味わった。
パパやママがいない
クリスマスパーティなんて初めて!
やっと夢が叶ったわね
夢?
子供の時に二人でパーティを
開こうとしたけど、
結局ダメだったじゃない
ああ、そうだったな。
時間かかっちまったけど、
やっと実行できたな
ふふっ。
その上、今回はプレゼントも
用意してあるし
おおっ、サンキュー!
開けてもいいか?
どうぞ。
アンタが気に入ってくれるか
わかんないけど……
おおっ、これは!
ワイヤレスヘッドホンじゃん!
しかも結構いいやつ!
高かったんじゃないのか?
そんなことないわよ。
アンタの好みとかよく知らないから
かなり悩んだんだけど……
そんなので良かった?
いいに決まってるだろ!
すげー欲しかったやつ!
ありがとな!
フフッ、どういたしまして!
さ、さて。
今度は俺の番か……。
ちょ、ちょっと待ってくれ……
んっ?
どうした?
早く出さぬか。
珠來が変に思っておるぞ
(こんな高い物渡されたら、
俺のプレゼントが
な~んか出しづらくてさ)
はああぁ~……。
おぬしは女心を
わかっとらんのう
(どういう意味だ?
誰でも高い物のほうが
嬉しいに決まってるだろ)
なぜ高価な物が嬉しいかと
言うと、それだけ自分に重きを
置いてくれたことが肝要なのじゃ
陽太がいま出せる限りの金で
買った物なら、高価な贈り物を
したのと同じことなのじゃ
(そ、そうか?
よしっ、思い切って……!)
受け取ってくれっっ!!
珠來っっ!!
あ、ありがとう。
開けてもいい?
煮るなり焼くなり
好きにしてくれ!
煮たり焼いたりする物なの?
……あっ
バラの……ネックレス……?
お、お前ならアクセサリー
いっぱい持ってるよな?
要らなかったら捨ててくれよ!
ばかっ……。
捨てるわけ無いじゃない
珠來は今まで着けていたネックレスを外して、
それをテーブルに置いた。
そして……
俺がプレゼントしたバラのネックレスを
着けたのだ。
変な物をよこされるの
覚悟してたけど、
意外に可愛いもので
ビックリしちゃった
俺が変な物を
プレゼントするような男に
見えるのか!
実際にプレゼント
してきたじゃない。
子供のときに、セミの抜け殻
そ、そうだっけ?
アンタも女の子の気持ちが
わかるくらいには
成長したってことよね!
だから、これは……
バラのネックレスのお礼……
珠來がこちらに顔を近づけたかと思うと、
そっと頬に唇を落とした。
!!!???
ほっ! ほっ!
ほっぺにチュー!?
な、何よ?
前にして欲しいって
言ってたじゃない
まさか、生徒会長に立候補して
選挙活動してたときのアレ……
聞こえてたのか!?
うん、まあね……
聞こえてたのに
とぼけてたのか……
とぼけてないわよ。
聞き間違えかな? と思って
聞き返したのに、
アンタ答えなかったじゃない
そ、そうだけど!
(嬉しすぎて卒倒しそうだ。
ほっぺとは言え、珠來から
チューしてくれるなんて!)
さっ、まだ時間があるわよ!
門限までたっぷり遊ぶんだから!
おうっ!
(珠來と二人きりで過ごす
クリスマスイブ……
最高だな!)