もうすぐテニス大会を控えていることもあり、
テニス部の練習は一層活発になっていた。


俺はと言うと……。


選挙戦の件も吹っ切れて、
今では裕貴さんと普通に話している。

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

よお!
前よりフォームが
良くなったじゃん

中島 陽太(なかじま はるた)

そうですか?
でも、珠來にもっと体力をつけろ
って言われてるんですよね

来栖 珠來(くるす みらい)

そうよ。
どんなにテクニックがあっても、
スタミナがないと
使い物にならないんだから

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ、珠來に言われると
心にグサッとくる……

来栖 珠來(くるす みらい)

え?
なんで私が言ったらダメなのよ

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

その点俺なら、
テクニックもスタミナもあるぜ。
来栖……今度手合わせしないか?

来栖 珠來(くるす みらい)

え、いいですけど

中島 陽太(なかじま はるた)

ダメだあーっ!
夜の手合わせは、
断固反対だ!

来栖 珠來(くるす みらい)

何言ってんのよ、
このバカッ!

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……いくらなんでも、
ラケットで殴るのはやめろ……

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

はははっ、仲いいなお前ら



裕貴さんは笑いながら、
他の部員の所に行ってしまった。

来栖 珠來(くるす みらい)

ねえ……

中島 陽太(なかじま はるた)

ん? どうした?

来栖 珠來(くるす みらい)

この前、一緒に帰って
楽しかったわね

中島 陽太(なかじま はるた)

へえ、珠來でも
ちゃんと楽しかったって
言えるのか

来栖 珠來(くるす みらい)

何よそれ、ヤな言い方!



珠來はふくれて、そっぽを向いた。

中島 陽太(なかじま はるた)

ゴメンゴメン。
あんまり素直に言われたから、
ちょっと照れくさかったんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

……ふ、ふーん。
そう

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來のおかげで、
すげー元気になったよ

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタって結構情けないもんね。
私がついてないと
ダメなんじゃない?

中島 陽太(なかじま はるた)

それって、まさか……
プロポーズか!?

来栖 珠來(くるす みらい)

ばっ、ばっ、
バッカじゃない!?
どうしてそんな話に
なんのよ!!

中島 陽太(なかじま はるた)

ぐああっ……
耳元で叫ぶなぁ~……

来栖 珠來(くるす みらい)

そ、そんなことよりっ。
あんたも今度の大会に
エントリーしたんでしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだ、もう聞いたのか

来栖 珠來(くるす みらい)

当たり前でしょ。
一応マネージャーも
兼任してるんだから

来栖 珠來(くるす みらい)

テニスの大会は初めてよね?
期待してるから、
頑張りなさいよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ん……
まあ、それなりに頑張るよ

来栖 珠來(くるす みらい)

もう、頼りないわね。
それじゃあ練習を見ていて
あげるから、始めて?

中島 陽太(なかじま はるた)

イヤ~ン。
珠來に見られちゃうなんて
恥ずかしい……

来栖 珠來(くるす みらい)

ふざけてると殴るわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

はいはい、
真面目にやりますよ

来栖 珠來(くるす みらい)

うーん、悪くはないわね。
後は大会に向けて
コンディションを整えないと

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來がひざまくらをしてくれれば、
一気に調子が出るかもしれないぞ

来栖 珠來(くるす みらい)

はいはい。
寝言は寝て言いなさいね。
とっとと練習を再開しなさい

中島 陽太(なかじま はるた)

うう、冷たい……

来栖 珠來(くるす みらい)

さっ。
大会までもう少しだから、
私も頑張らないと

中島 陽太(なかじま はるた)

あれ?
珠來も大会に出るのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

足の怪我は順調に治ってるし。
ひさしぶりに大会に
出てみようかなって思ったの

中島 陽太(なかじま はるた)

そうかそうか。
まあ、せいぜい恥をかかない
ように頑張りたまえ

来栖 珠來(くるす みらい)

それはアンタでしょ!



部活が終わり、下校する頃には
外は真っ暗になっていた。

来栖 珠來(くるす みらい)

冬って、日が落ちるのが
早いわね……

中島 陽太(なかじま はるた)

そうだな、オマケに寒いし!
車で帰れるお前が
うらやましいよ

来栖 珠來(くるす みらい)

ううん、今日は歩いて帰るわ

中島 陽太(なかじま はるた)

最近、車で帰ることって
少なくなったよな

来栖 珠來(くるす みらい)

うん、なんとなくね



珠來は小さく笑って、俺の前を歩き出した。

中島 陽太(なかじま はるた)

(友達と待ち合わせてる
ってわけじゃなさそうだな。
一人で帰るのか?)

来栖 珠來(くるす みらい)

なにボーッと突っ立ってるのよ。
早く帰るわよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ? あっ? 俺?

中島 陽太(なかじま はるた)

(車を呼ばないのは、
俺と一緒に帰りたいからなのか?
……とか、どうしても
思っちまうだろおぉ!!)

来栖 珠來(くるす みらい)

もうすぐクリスマスね……

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そうだな

来栖 珠來(くるす みらい)

小さい頃、陽太と
クリスマスパーティごっこ
なんてしたわよね

中島 陽太(なかじま はるた)

そんな事があったような、
無かったような……

来栖 珠來(くるす みらい)

また忘れたの?
アンタって、もう

中島 陽太(なかじま はるた)

わ、悪い……。
そうだ、ヒントをくれ!
そうすれば思い出すかもしれない

来栖 珠來(くるす みらい)

んーとね……
一緒にパーティをしたいねって
話になったんだけど……

来栖 珠來(くるす みらい)

クリスマス当日は
家族と過ごすから、
一緒にいるのは無理だねって

中島 陽太(なかじま はるた)

思い出した!
それで、クリスマスイブの日に
二人で外で遊んだんだよな

来栖 珠來(くるす みらい)

へえー、ちゃんと覚えてたんだ

中島 陽太(なかじま はるた)

まあな。
ツリーとか持って来るの、
すげー大変だったなあ

来栖 珠來(くるす みらい)

親に無断で持って
来ちゃったのよね。
あの後、アンタすごい
怒られてたじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

そうそう。
ちょっと壊しちゃったしな

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太が振り回したり
するからよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

ちょっと待て。
確か振り回したのは、
お前じゃなかったか?

来栖 珠來(くるす みらい)

知らない。
覚えてないわよ、そんなの

中島 陽太(なかじま はるた)

き、きたねぇ……

中島 陽太(なかじま はるた)

(今年のクリスマス、
珠來と過ごせたら
どんなに楽しいだろうなぁ……)

来栖 珠來(くるす みらい)

ねえ、今年のクリスマスだけど
アンタはどうするの?

中島 陽太(なかじま はるた)

それを知ってどうすんだよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

どうせアンタは彼女なんか
いないだろうから、
クリスマスは一人でしょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

くっ……当たってるけど、
余計なお世話だ

来栖 珠來(くるす みらい)

かわいそうな陽太のために、
私が一緒にいてあげてもいいわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(まさか珠來から
誘ってくるなんて!
ラッキー!!)

中島 陽太(なかじま はるた)

(なーんてことに
ならねえかなあ)

華胡(かこ)

むなしい……。
妄想がむなしすぎるぞ、陽太

中島 陽太(なかじま はるた)

(ゲッ、華胡!
他人の妄想を覗くなよ!)

華胡(かこ)

お前の思念がダダ漏れ
じゃったのじゃ。
黙ってても見えてしまうわ

中島 陽太(なかじま はるた)

(気を抜いて妄想すら
できないとは……)

華胡(かこ)

ここは久しぶりに、
パンツの力を使ってはどうじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(えっ、どうして急に?)

華胡(かこ)

おぬしの事じゃ。
下手な誘い方をして、
珠來を怒らせるとも限らん

華胡(かこ)

てれびで見たが、
くりすますとは大事な場面じゃろ?
慎重にやるのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(なるほど。
それじゃ、また俺の力を
華胡に分け……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(いや、やっぱやめとくよ)

華胡(かこ)

どうしたのじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來の前でキスすることに
ちょっと罪悪感があってな)

華胡(かこ)

そうか……

中島 陽太(なかじま はるた)

(浮かない顔して、
どうした?)

華胡(かこ)

う、浮かない顔などしておらん。
わらわのことはいいから、
早く珠來を誘うのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(そか?)

中島 陽太(なかじま はるた)

(どうせなら、
珠來から誘ってくれねえかな。
それとなく話を振ってみるか)

中島 陽太(なかじま はるた)

はー、今年のクリスマスは
一人で過ごすのかー。
ヒマだな~

来栖 珠來(くるす みらい)

急にどうしたの?

華胡(かこ)

なんて下手くそな
話題の振り方なんじゃ……。
泣けてきたぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

(ほっといてくれ!
やっぱり俺から誘うしかないのか。
ええい、ヤケクソだ!)

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來と一緒にクリスマスを
過ごしたいって
言ってるんだよ!

来栖 珠來(くるす みらい)

それなら、
最初からそう言いなさいよ。
いいわよ、その日は空けておくわ

中島 陽太(なかじま はるた)

……へっ?
サ、サンキュー

中島 陽太(なかじま はるた)

(余計なことを言った分、
恥ずかしい思いをしてしまった)

来栖 珠來(くるす みらい)

あっ、でも……。
一日中、空けるわけには
いかないかも

中島 陽太(なかじま はるた)

なんか用事があるのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

パパとママの手前、
朝から晩まで外出ってわけには
いかないのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

っていうことは……

中島 陽太(なかじま はるた)

(日が落ちる前に解散?
いや、別にいいんだけど……
健全すぎるなあ……)

来栖 珠來(くるす みらい)

朝と昼はパパとママの
ご機嫌取りをして、
夜に出かけるって感じかしら

中島 陽太(なかじま はるた)

よっ、夜っ!?

来栖 珠來(くるす みらい)

きっと夜の街のほうが綺麗よね。
友達の家でパーティする
って言えば、
ママも許してくれるだろうし

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そうかっ。
楽しみだな!

中島 陽太(なかじま はるた)

ん?
友達の家でパーティってことは、
俺の家に来るってことか?

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタが嫌なら、
どこかのお店を予約してもいいのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來と部屋にたった二人きりで
過ごすチャンス!
これを逃すわけには行くまい!!)

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、がんばる!
当日までに、頑張って部屋を
クリスマス仕様に装飾しておくぞ!

来栖 珠來(くるす みらい)

そう?
楽しみにしてるわね

中島 陽太(なかじま はるた)

(本当は部屋を掃除するのが
メインだけど)

来栖 珠來(くるす みらい)

あ、そうそう。
クリスマスプレゼント、
ちゃんと用意しておきなさいよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

もちろん!

華胡(かこ)

ぱんつの力を使わずとも、
ちゃんとやれるように
なったではないか

中島 陽太(なかじま はるた)

へへっ、そうみたいだな。
さっきはアドバイスしてくれて
ありがとな

華胡(かこ)

礼にはおよばん。
危なっかしかったが、
なんとか珠來と約束ができて
良かったのう

中島 陽太(なかじま はるた)

はは、危なっかしかったか……。
やっぱりパンツの力を
借りれば良かったかな

華胡(かこ)

しかし、珠來の前で
唇を合わせたくないのであろう?

中島 陽太(なかじま はるた)

そう思ったけどさ……。
全然スマートに誘えなかったのが
恥ずかしかったんだよ

中島 陽太(なかじま はるた)

最近は華胡パンツに
頼ってなかったし、
また力を借りてもいいだろ?

華胡(かこ)

いや、さっきはつい
ああ言ってしまったが……
本当は使わないにこした
ことはないのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

なんでだ?
また自分の力で頑張れ
って説教する気かよ

華胡(かこ)

そうではない。
ぱんつの力は時に
効きすぎることがある。
くれぐれも気をつけるのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

効きすぎて悪いってことは
無いように思うんだけどなぁ……

華胡(かこ)

…………



華胡が赤い顔をして、
うつむいているのに気づいた。

中島 陽太(なかじま はるた)

おい、華胡?
なんか様子が変じゃないか?

華胡(かこ)

大丈夫じゃ……
また、ちょっと熱っぽいだけ……
コンッコンッ

中島 陽太(なかじま はるた)

咳まで出てるな。
風邪薬やろうか?

華胡(かこ)

心配しなくとも良い。
それに、人間の薬が
わらわに効くとは思えぬしな

中島 陽太(なかじま はるた)

そっか……。
俺にできることがあれば、
なんでも言ってくれよ

華胡(かこ)

わらわの心配をするよりも、
早く眠って体力を回復するのじゃ。
今日も部活で疲れたのであろう?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、ああ。
……んじゃ、おやすみ

華胡(かこ)

……ありがとうな

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?

華胡(かこ)

なんでもない。
早く寝ろ

中島 陽太(なかじま はるた)

わ、わかった



華胡がいつもより弱っている気がして、
少し不安に思いながら布団に入ったのだった。

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