中島 陽太(なかじま はるた)

さて、今日はひさびさに
モテパンツを
履いて行くかな~

華胡(かこ)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

おい、華胡?

華胡(かこ)

すぅ……すぅ……

中島 陽太(なかじま はるた)

(な、なんだ?
華胡のやつ、
目を開けたまま寝てるぞ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(神様だからドライアイとか
無いだろうけど、
なんか見た目に怖いな……)



そっと華胡のまぶたに指を当てて、
瞳を閉じさせる。

中島 陽太(なかじま はるた)

(疲れてるみたいだし、
履いて行くのはやめるか)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来週から生徒会選挙が始まるわ。
うちのクラスから立候補する人は
いないかしら?

中島 陽太(なかじま はるた)

選挙かあ……。
生徒会長は裕貴さんが
続投するんだろうな

来栖 珠來(くるす みらい)

倉敷先生が言ってたけど、
後期は会長を
降りるらしいわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ、なんで?

来栖 珠來(くるす みらい)

テニス部の部長と
両立させるのが、
大変だったみたいね

中島 陽太(なかじま はるた)

うーむ……。
じゃあ、新しい生徒会長は
誰になるんだろうな

来栖 珠來(くるす みらい)

ねぇ、アンタが
立候補しなさいよ

中島 陽太(なかじま はるた)

へっ!?
な、なんで俺が!?

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタって、学校新聞で
話題を集めてるじゃない。
もしかして票が
集まるかもしれないわよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

うーん、どうかなあ……

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

なに?
陽太、お前生徒会長に
立候補すんのか?

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、まだ決めてねぇよ

来栖 珠來(くるす みらい)

男らしくないわね。
成瀬先輩の後を
継ごうと思わないの?

中島 陽太(なかじま はるた)

(裕貴さんの後任か……。
それに、珠來に男らしくない
なんて言われちゃあな……)

中島 陽太(なかじま はるた)

よし!
沙穂先生、俺……
生徒会長に立候補します!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そう!
頑張ってね!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

応援するぜ。
絶対に当選しろよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ははは、まかせとけ!

──放課後。

来栖 珠來(くるす みらい)

今度の生徒会選挙で、
陽太が立候補することに
なったんです

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

へえ、陽太も生徒会に
入ったら楽しそうだな。
どれに立候補すんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太『も』……?

中島 陽太(なかじま はるた)

裕貴さんの後任として
頑張りたいなと思って、
生徒会長に立候補したんです

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

えっ、生徒会長……か?

中島 陽太(なかじま はるた)

何かまずいですか?

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

俺も、生徒会長に
立候補するんだよ

来栖 珠來(くるす みらい)

えっ……どうして!?
成瀬先輩は、生徒会長を
降りるんじゃないんですか?

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

そのつもりだったんだけど、
副会長に続けてくれって
泣きつかれちゃってさ

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

テニス部の顧問と
クラスの担任にも
推薦されちまったし、
断りきれなくて

来栖 珠來(くるす みらい)

先生たちと現役メンバーの
推薦ですか……

中島 陽太(なかじま はるた)

(うっ、珠來のテンションが
明らかに下がってるぞ。
男として引き下がるわけには!)

中島 陽太(なかじま はるた)

俺、裕貴さんには
負けませんからね!

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太……!

成瀬 裕貴(なるせ ひろたか)

へえ、威勢がいいな。
それじゃあお互い、
全力を尽くして闘おうぜ!

中島 陽太(なかじま はるた)

望むところです!

そして、選挙期間が始まった。

中島 陽太(なかじま はるた)

よーし、今日は一年生の
クラスを全部回ったぞ。
明日も引き続き、頑張ろうぜ

来栖 珠來(くるす みらい)

実はね、私……
アンタのこと
ちょっと見直しちゃったの

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんだよ急に

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太は私に言われて
立候補しただけだから、
やめちゃうかと思ったの

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、あんなに堂々と
成瀬先輩に宣戦布告する
なんて思わなかった

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、当たり前だろ!
立候補するって決めたのは
俺なんだしさ!

来栖 珠來(くるす みらい)

うん、そっか……そうだよね。
出来ることは
なんだってするから、
頑張りなさいよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

じゃあ、
ほっぺにチューしてくれたら、
もっと頑張れそうな気がする。
……なーんて

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

おーい!
選挙ポスター、
言われた通りに
全部貼ってきたぞー!

来栖 珠來(くるす みらい)

え、何?
堀川のせいで、
よく聞こえなかったんだけど

中島 陽太(なかじま はるた)

なんでもないで
あります!

中島 陽太(なかじま はるた)

(聞こえてなくて
助かったような、
残念だったような……)

来栖 珠來(くるす みらい)

…………

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

友のために頑張った俺に、
労(ねぎら)いの言葉を
プリーズ!

中島 陽太(なかじま はるた)

おー、ありがとさん

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

軽っ!
感謝の気持ちが
感じられないぃっ!!

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃーん!
お疲れ様ですっ

中島 陽太(なかじま はるた)

やあ、苺香ちゃん。
今から部活?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

はいです!
陽太ちゃんが生徒会長に
立候補したのを知って、
ビックリしたですよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ははっ。
清き一票をよろしく頼むよ

日下部 苺香(くさかべ いちか)

もちろんです!
苺香は絶対に、
陽太ちゃんに投票するですよ

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとな。
苺香ちゃんと話してると、
すごく癒されるよ

来栖 珠來(くるす みらい)

鼻の下を伸ばしてる
場合じゃないでしょ。
私達も部活に行くわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

イテテ、背中をつねるな

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

イチャつきやがって……
選挙ポスターに
ヒゲを書いてやるからな!

来栖 珠來(くるす みらい)

イチャついてない!

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

──1ヶ月後。

中島 陽太(なかじま はるた)

(今日はいよいよ、
立会演説会と投票日だな。
華胡パンツを履いて行けば、
女子の票が集まるかも……?)



モテパンツをしまっている
引き出しに手をかけた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(いや、やっぱりやめよう。
応援してくれてる珠來や優斗の
気持ちを裏切ることになる)



引き出しをそっと戻した。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

ついにこの日がきたか!
成瀬先輩との決戦の日だな!
なんだか俺まで緊張してきたぜ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ば、ばか。
ますます緊張してきただろ!

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

安心しろ。
選挙管理委員である俺が、
票を操作してやるから

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ、マジで?

来栖 珠來(くるす みらい)

何バカなこと言ってんのよ。
そんなことしたら停学ものよ。
正々堂々と勝負なさい!

中島 陽太(なかじま はるた)

でも、今更ながら
自信が無くなってきたぜ……

来栖 珠來(くるす みらい)

そんな情けないことで
どうすんの?
アンタは絶対勝つ!
私は信じてるんだから!

中島 陽太(なかじま はるた)

……そうか。
ありがとう、珠來



珠來の真剣な顔を見ていると、
不思議に心が落ち着いてきた。

中島 陽太(なかじま はるた)

それじゃあ……いざ、出陣!

中島 陽太(なかじま はるた)

みなさんの学校生活を、
これまで以上に楽しくする
ことをお約束します!

中島 陽太(なかじま はるた)

ですので、この中島陽太!
中島陽太に、清き一票を
よろしくお願いします!

中島 陽太(なかじま はるた)

(……ふう。
選挙演説、
上手く出来ただろうか)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

さっきの演説、
すごく良かったよ

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生!
沙穂先生はもちろん、
俺を応援してくれますよね?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あ、うん……。
もちろん中島くんを
応援してるけど、
成瀬くんにも頑張ってもらいたいの

中島 陽太(なかじま はるた)

そうですか……。
沙穂先生と裕貴さんは、
一緒に生徒会をやってきた
仲間ですもんね

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そんな言い方しないで。
中島くんにも、
成瀬くんに負けないように
頑張って欲しいと思ってるから

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとうございます、
沙穂先生。
俺、頑張ります!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

うん、その調子

中島 陽太(なかじま はるた)

(適当に合わせちゃえばいいのに
本音を言ってくれるのは
沙穂先生の良い所だよな)

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

途中経過発表!
今んとこ、
なかなかの好戦だぜ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ほ、ほんとか!?

来栖 珠來(くるす みらい)

途中経過とか
バラしてもいいの?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

いや、駄目だろうな。
先生に見つかったら怒られる

来栖 珠來(くるす みらい)

余計なことしてないで、
開票作業に戻りなさい

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

ほぉ~い!

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、健闘してるみたいで
良かった

中島 陽太(なかじま はるた)

ああ……。
全部を開票するまでは
なんとも言えないけどな

来栖 珠來(くるす みらい)

きっと大丈夫よ。
陽太、あんなに頑張ったんだから

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとう、珠來

中島 陽太(なかじま はるた)

(奇跡が起こるのを
信じるしかないか……)


廊下で優斗や他の選挙管理委員が、
大きな紙を貼り出していた。

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

はぁ……

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、投票結果が出たのか?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

はっ!!
いやっ! これはそのっっ!
陽太は見なくていいから!

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだよ、見せろよ。
あっ……



優斗の後ろに貼り出された投票結果を見ると、
やはり当選したのは裕貴さんだった。

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

お前はよくやった!
だから落ち込むな!

中島 陽太(なかじま はるた)

落ち込んでなんかねーし

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

そ、それなら良かった

中島 陽太(なかじま はるた)

しっかし……はあぁ~。
敗因はやっぱり顔なのか?
それとも人望の差か?

堀川 優斗(ほりかわ ゆうと)

思いっきり落ち込んでるだろ。
あーっ、もぉー!
元気出せって~!

中島 陽太(なかじま はるた)

…………

今日は部活に出る気にならなくて、
誰にも告げずに帰る事にした。

中島 陽太(なかじま はるた)

(テニス部に行けば、
裕貴さんと顔を合わせることに
なるしな……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだか俺ってみじめだな。
こんな姿、珠來に見せたくない)

来栖 珠來(くるす みらい)

ばーかっ。
下向いて歩いてると、
人にぶつかるわよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、珠來……。
お前、テニス部を休んだのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

無断欠席してる奴がいたから、
待ち伏せしてたのっ。
ほら、帰るわよ!



不意に、珠來に腕をつかまれた。

中島 陽太(なかじま はるた)

……えっ?



珠來は俺にしなだれかかってきて、
腕を組んだ。

中島 陽太(なかじま はるた)

な、なんだよ?

来栖 珠來(くるす みらい)

せっかく待ってて
あげたんだから、
もっと嬉しそうな顔しなさいよ

中島 陽太(なかじま はるた)

俺を待ってたのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

あっ……!
違うわよ、今のは間違い!

中島 陽太(なかじま はるた)

(す、素直じゃねえ)

来栖 珠來(くるす みらい)

そっ、それよりもっ!
今日はいつもと違う道を
通って帰らない?

中島 陽太(なかじま はるた)

え?
いいけど……



珠來と腕を組んだまま歩いていると、
しゃれた洋館が目に入った。

中島 陽太(なかじま はるた)

こんな所に洋館なんて
有ったんだな

来栖 珠來(くるす みらい)

ねえ、小さい頃……
二人で読んだ絵本に、
こんな洋館が出てこなかった?

中島 陽太(なかじま はるた)

そうだったか?
覚えてないな

来栖 珠來(くるす みらい)

もうっ。
いつかこんな家に、
大好きな人と暮らしたいな
って話したのに

中島 陽太(なかじま はるた)

そんなに女の子らしい面も
あったとは意外だな。
あの頃は平気で男と
ケンカしてたのに

来栖 珠來(くるす みらい)

ほ、ほっといてよ!

来栖 珠來(くるす みらい)

……あ、そうだ。
裏山の方にも行ってみない?



返事を待たずに、珠來は裏山の方へ歩き出した。

来栖 珠來(くるす みらい)

ここって、いい眺めよね……。
気晴らしに、よくここに来るのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

(気晴らしか……。
珠來にも、俺が知らないような
悩みがあるんだろうな)

来栖 珠來(くるす みらい)

なんか悪かったわね。
選挙のこと

中島 陽太(なかじま はるた)

何でお前が謝るんだ?

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタは迷ってたのに、
私が強引に立候補させ
ちゃったじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

(うーむ……。
俺が落選したせいで、
珠來は責任を感じてるのか)

中島 陽太(なかじま はるた)

フッフッフッ。
俺を見くびって
もらっちゃ困るな

来栖 珠來(くるす みらい)

どういうこと?

中島 陽太(なかじま はるた)

お前に勧められたのは
きっかけに過ぎねーよ。
俺が自分の意思で決めたことだ

来栖 珠來(くるす みらい)

陽太……

中島 陽太(なかじま はるた)

それにさ、俺は裕貴さんの後を
継ぎたくて立候補したんだよ。
裕貴さんが会長やるってんなら、
それでオールOKだっ!

来栖 珠來(くるす みらい)

そっか……。
アンタがいいなら、
それでいいの……

来栖 珠來(くるす みらい)

でも、正直なこと言うと
すごいなって思ったわよ

中島 陽太(なかじま はるた)

と、言うと?

来栖 珠來(くるす みらい)

前任だからって理由で、
成瀬先輩に投票したって人は
多いと思うのよね

来栖 珠來(くるす みらい)

それなのに、
新規で立候補したアンタも
かなり健闘したじゃない

来栖 珠來(くるす みらい)

アンタの良さをわかってる人、
この学校に結構いるんだなと
思って嬉しくなっちゃった

中島 陽太(なかじま はるた)

お、おうっ。
なかなか照れること
言ってくれるな

来栖 珠來(くるす みらい)

フフッ。
柄にも無く
照れてんじゃないわよっ

中島 陽太(なかじま はるた)

俺はもとから謙虚な人間だ!

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來がこんなに
励ましてくれてんだ。
いつまでも落ち込んでられないな)



丘の上に立って、すぅっと息を吸い込んだ。

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來ーッ!!

来栖 珠來(くるす みらい)

な、何よ大きい声出して

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとなーっ!!

来栖 珠來(くるす みらい)

…………



珠來はしばらく驚いた顔のままだったが、
その内クスッと笑った。

来栖 珠來(くるす みらい)

どういたしまして!



そして二人で、顔を見合わせて笑った。

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