今日は待ちに待った、文化祭の当日。
うちのクラスがやっているのは、
予定していた通りお化け屋敷だ。
今日は待ちに待った、文化祭の当日。
うちのクラスがやっているのは、
予定していた通りお化け屋敷だ。
う~ら~め~し~
やあぁ~
キャー!
こっち来ないでー!
ははは。
お化け役で人を怖がらせるのは
楽しいもんだな
女の子がキャーキャー言うのが
楽しいだけじゃないの?
ち、違う!
決してやましい
気持ちではない!
……あっ、
珠來の方にも誰か来るぞ
まかせなさい!
にゃあ~!
あははっ。
こんな可愛いお化けじゃ
怖くないよな
猫娘じゃん!
後で写真撮らせてね♪
うっ……
全然怖がられてない。
陽太に負けた気分だわ……
フハハハッ!
精進が足りないな
(ようやく休憩時間か。
そういえば、生徒会では
メイドコンテストをやるんだよな)
(沙穂先生のメイド姿、
楽しみだなぁ!
早く行かなきゃ!)
あ、中島くん!
来てくれたんだね
あれ?
なんでコスプレ
してないんですか?
司会をやるはずだった子が、
熱で来られなくなったのよ。
それで私が司会を
することになったの
そ、そうなんですか……
(楽しみにしてたのになぁ)
それよりも聞いて!
今回はすごい参加者が
いるのよ!
おおっ!
どんな人ですか?
なんと!
本物のメイドさんが
参加するのよ!
本物?
どこかのお屋敷で働いてる
ってことですか?
そうみたいよ。
あっ、来た来た
参加者はこちらで
待機していれば良いと
聞きましたが……
あれ?
珠來の家のメイドさん
じゃないですか
み、珠來さまのお友達!
おひさしぶりでございます!
ひさしぶりです。
ていうか、なぜコンテストに
参加を……?
せっかくの休日ですから
珠來さまのご様子をうかがいに
参りました所、こちらの女性に
スカウトをされまして……
メイド服を着てるから、
参加希望なのかと
思っちゃって!
すぐに誤解であることを
申し上げましたが、
聞く所によると珠來さまの
担任の方であるとのこと
日頃からお世話になっている
恩に報いるためにも、
参加を決意いたしました
そ、そうですか
(休日まで珠來を気に掛けて、
しかも仕事服を着て
出歩くなんて仕事熱心だな……)
熱心というか、
ちょっと変わってるじゃろ
来栖財閥のメイドさんが
参加するなんて、
盛り上がること間違いなしよね
きっと盛り上がりますよ。
それじゃ、友達と約束があるので
もう行きますね
うん。
またね、中島くん
(そろそろ苺香ちゃんの
白雪姫が始まる時間だな)
(うわ!
すげ~人が並んでる)
キスシーンがあるから、
毎年人気だよね。
チケットが無いと入れないんだって
うそ~!
(げっ。
俺、チケットもらってないぞ)
(開演間近だから
苺香ちゃんと話せないし……。
仕方ない、あきらめるか)
よお、陽太!
あっ、裕貴さん。
テニス部の調子はどうですか?
大繁盛してるぜ。
暇ならお前も来いよ
んじゃ、行こうかな
(……で、
テニス部に来たのは
いいんだが)
裕貴さーん!
カッコイイ!
こっち向いて!
(裕貴さんって、
やっぱ女子に人気あるんだな。
なんか面白くないな……)
せっかくだから、
陽太もテニスやってけよ
へっ?
俺、テニスやったこと
ないですよ?
だいじょーぶ!
俺が教えてやるから
うーん……。
じゃあ、ちょっとだけ
やってみようかな
ほいきたっ!
おーい!
ちょっと誰か、
相手してくれ~!
はーい!
ほら、陽太。
ラケット持てよ
え、えーとっ!
どうやって持てば
いいんですか?
グリップを、こう握るんだ。
そんで足を開いて、
こう構えて……
ラケットをゆっくり振る!
こ、こうですか?
いい感じ!
そうそう、焦らずボールを
よく見て……
は、はい!
なかなか筋がいいな
そうですか?
裕貴さんの教え方が
上手いんですよ
んなことねーって。
なあ、テニス部に入れよ。
お前なら、すぐに上達するぜ
テニス部かぁ……。
それもいいかな
あっ、ヤバイ!
休憩時間が終わるんで、
教室に戻りますね!
ああ、またな
相変わらず、お化け屋敷は大盛況している。
はあー、疲れた……
戻って来てから
ずっと働き詰めだよ
お前ら、聞いたか?
来栖んとこのメイドさんが、
コンテストで優勝したらしいぜ
知ってるわ。
さっきLINEがきてた
優勝して良かったな。
こっちにも遊びに
来ればいいのに
なんでも地方紙からの
優勝インタビューや撮影で
来れなくなったって
珠來に会うために
文化祭に来たんじゃ
なかったのか……?
あの人、押しに弱いのよ。
断り切れなかったのかもね
なんだかなあ……
ところでお前ら、
そろそろ休憩に入れよ。
後は俺がやっとくから
おっ、サンキュー
珠來と二人で、セットの裏に座った。
珠來、まだどこも
見てないだろ?
どこか回ろうか?
ううん、いい。
このままで……
そ、そうか
(俺と二人きりで
居たいって事か?
……まさかな)
ねえ、陽太……
ん?
手伝ってくれて、
ありがとう
えっ!?
れ、礼なんかいらないって!
その時、珠來の背後に
積み重なっているダンボールの箱が、
崩れそうになっているのが目に入った。
危ない、珠來!
えっ?
とっさに体が動き、珠來の上に覆い被さる。
すると、背中に次々と
ダンボールの箱が当たった。
いてて……
ちょっと、大丈夫!?
ああ、これくらい
なんてことないって。
……あっ
(珠來を守るためとはいえ、
押し倒しちまった!)
わ、悪い!
ううん……
別にいいけど……
(珠來のやつ、
真っ赤になって……
変に意識しちまうじゃないか)
ところで……
いつまでそうしてるの?
そうしてるって、何が?
えっと……だからっ!
二人でこんな風にしてるの、
誰かに見られちゃったら……っ!
わわっ、暴れるなって!
珠來が身をよじったせいで体勢が崩れて、
全身が密着してしまった。
!?
(うおわぁっ!!
俺の胸板に、珠來のおっぱいが
ふにふにと当たってる!!)
ちょ、ちょっと……!
足、どけて……!
足?
(ヤバイ!
珠來の太ももの間に
俺の足が入っちまってる!!)
(つうか顔も近いし、
体中のあちこちが密着して……
これはイカン!
学校でこれはヤバすぎる!)
す、すぐどけるから!
動くなよ!?
うん……
なんとか背中のダンボールをよけて、
珠來から離れて座った。
…………
(珠來が目を
合わせてくれない!
ううっ、怒ってるぞこれ)
そうとも限らんぞ
(ふぇ?)
落下物から自分を守ろうとして
起こった事故じゃ。
不愉快になることはなかろうて
(でも、珠來が何も話して
くれないじゃないか!)
ならばおぬしから
話しかければ
良いだけのことじゃ
(俺から、か……。
よ、よしっ!)
さ、さっき裕貴さんに
誘われてさ……
テニス部に行ったんだ
成瀬先輩に?
ああ。
んで、筋がいいから
入部しないかって言われてんだ
陽太が入部したって、
どうせ続かないわよ
おっ、言ってくれるな。
俺の腕も見てないくせに
だったら私と
テニスで勝負しなさいよ。
そうね……初心者だから
ハンデをあげるわ
私から一点でも
取ることができたら、
入部を認めてあげる
一点とは大きく出たな!
やってやろうじゃないか!
(……とは言ったものの、
かなり手ごわそうだぞ。
珠來は後輩をコーチできる
レベルだもんな)
パンツの力を使えば
手加減してくれる
かもしれぬぞ
(いや、
自分の力でやってみるよ)
ほう、それは感心じゃの。
頑張るのじゃぞ
珠來と勝負をするために、
テニスコートへ来た。
更衣室へ入った珠來は、
ものの五分で出てきた。
お待たせ。
行くわよ
(珠來……
テニスウェアには着替えてるけど、
スパッツを履いてるのか)
おっ!
お二人さん、どうしたんだ?
成瀬先輩。
ちょっとテニスコートを
借りますね
いいけど、
何を始めるんだ?
命を賭けた闘いです!!
命は賭けないわよ。
こいつが入部できる実力が
有るかを見るんです
おお~……。
なんか壮大なことになってんな。
頑張れよ、陽太
はいっ!!
珠來が俺にラケットを渡し、
自分もボールを持って構えた。
さあ、準備はいい?
どっからでも
かかってこい!
テニスの試合を始めたが、
一方的に珠來が有利な状態が続いた。
はあ、はあ……。
くそっ、どうして一本も
返せないんだ!
そんな調子じゃ、
一点取るなんて百年かかっても
無理なんじゃない?
ふん、すぐに取ってやるさ!
陽太!
さっきの感覚を思い出せ!
さっきの……?
来栖のボールをよく見て、
目を慣らすんだ!
(そうか!
珠來のスピードに慣れれば、
打ち返すくらいなら
出来るかもしれない)
……今だ!
裕貴さんの合図を受けて、
スマッシュを決めた。
えっ、ウソ!?
来栖から一本取るなんて
すごいじゃないか、陽太!
ちょっと待って!
今のはズルイでしょ!
何がズルイんだよ。
ちゃんと打ち返しただろ
だって成瀬先輩が
アシストしたじゃない!
来栖……。
陽太は初心者だぜ。
アドバイスくらい良いだろ?
うう~……
どうだ、一点取ったぞ。
約束通り、
入部を認めてくれるよな?
納得いかないけど、
仕方ないわね
良かったな、陽太。
ようこそテニス部へ!
はい!
これからよろしく
お願いします!
悔しいけど……
ちょっとカッコ良かったわよ
ん?
なんか言ったか?
別にっ!
日が暮れて、メインイベントの
キャンプファイヤーと
フォークダンスが始まった。
焚き火を囲んで男女が
対(つい)になって踊るのか。
これは祈祷の儀式じゃな?
(儀式じゃねーよ。
女の子と楽しく踊って
親睦を深めるって感じだな)
なるほどな。
それならば当然おぬしは、
珠來を誘うのであろう?
(えっ……?
あっ、ああ!
そうだな?)
(珠來を誘ったら、
なんて言われるだろう。
……ええい、イチかバチか!)
みっ、珠來!
なに?
俺と……
陽太ちゃーん!
へっ……苺香ちゃん?
陽太ちゃんと踊りたくて、
ずっと探してたですよ。
苺香と踊って欲しいです!
え、えーと……
あら、良かったじゃない?
日下部さんと
踊ってあげれば?
何言ってんだよ。
俺は……
なんだよ、来栖。
陽太にフラれちゃったのか?
ふ、フラれてなんかいません!
もともと陽太と踊るつもり
なんてありませんから!
ふーん。
……じゃ、俺と踊るか?
ちょ、ちょっと待っ!!??
陽太ちゃん、
早く踊ろうです
(おい、華胡!
どうすりゃいいんだ!?)
それくらい自分で考えろ。
珠來から一本取った勇ましさは
どこへ行ったんじゃ?
(わかったよ!
自分で考えれば
いいんだろ!)
あの、裕貴さん!
なんだ?
俺たち4人で、
交互に踊りませんか?
俺は別にいいけど。
そっちの子は、
それでいいのか?
苺香は大丈夫です!
それじゃ、踊ろうです!
陽太……。
アンタって、要領いいのね
も、文句あんのか?
いいけどね、別に……
陽太、お前……
(なんだよ!
華胡まで文句つける気か?!)
文句は無い。
ただ呆れてるだけじゃ
(チクショー!
俺だって、本当は……)
俺、珠來、裕貴さん、苺香ちゃんと
交互に踊った。
(これはこれで楽しいが、
しかし……)
もうすぐ最後の曲が始まるぞ。
また4人で踊るのか?
…………
陽太ちゃんっ。
最後は二人で
踊りましょうですっ
ごめん、苺香ちゃん。
俺……珠來と
踊ろうと思ってたんだ
そう、ですか……。
それなら、仕方ないです
苺香ちゃんは、寂しげな顔をして
向こうへ行ってしまった。
日下部さん、
どうしたの?
珠來と踊りたいから、
苺香ちゃんからの誘いを
断ったんだ
えっ……
珠來……。
最後は俺と二人で
踊ってくれないか?
仕方ないわね、
踊ってあげるわよ
恥ずかしそうに手を握る珠來が、
いつも以上に可愛かった。
ありがとう、珠來
いいの。
本当は私も、
アンタと踊りたかったから
えっ?
な、なんでもない!
照れ隠しをするかのように、
珠來がくるりとターンする。
ところでさ……。
ごめんな、
俺がテニス部に
入ることになって
なんで謝るのよ?
だって珠來は、
俺に入って欲しく
なかったんだろ?
そんなこと
言ってないじゃない
じゃあなんで
テニスで勝負までして
入部を反対したんだ?
もしアンタが周りの部員に
ついて行けなかったら、
辛くて辞めちゃうでしょ?
だから、
どの程度の実力が有るかを
試しただけよ
そうか……。
俺のことを
考えてくれたのか……
そ、そんなんじゃ無いわよ!
簡単に入ったり出たり
されたら困るからっ……
はいはいっ!
テニス部のお荷物に
ならないように頑張るよ!
こうしてフォークダンスは終わり、
文化祭は幕を閉じた。