文化祭の準備が本格的に始まり、
校内は慌しい雰囲気になっていた。
文化祭の準備が本格的に始まり、
校内は慌しい雰囲気になっていた。
学級委員の田所くんが
インフルエンザにかかったのは
知ってるわよね?
はい。
朝のホームルームで
言ってましたね
田所くんはしばらく
休みことになったから、
文化祭の実行委員が
来栖さん一人になっちゃったのよ
そういや、そうですね。
こりゃ大変だ……
そういうわけで、
代わりに中島くんが男子の
実行委員をやってくれる?
俺がですか?
来栖さんのことで
悩んでたじゃない。
もっと仲良くなれるチャンスよ?
じゃあ、よろしくね
チャ、チャンスって言われても
そんな急に……
って、もういないし
いきなり実行委員に
されちまったんだが……。
何すりゃいいかわかんねえよ
倉敷先生から聞いたわ。
私が指示するから、
手伝ってくれれば
それでいいわよ
おう、それならお安い御用だ
珠來に言われて、
下の階から書類の山を運んできた。
重かった~。
これで頼まれた物は
全部持って来たぞ
ありがとう、助かったわ
お? やけに素直だな
私だって、お礼くらい言うわよ
いい心がけだ。
褒美としてガムをやろう
フフッ、何が褒美よ
珠來は楽しそうに笑って、
ガムを受け取った。
──翌日。
多数決の結果、
うちのクラスの出し物は
お化け屋敷に決まりました
クラス中の拍手によって
ホームルームは終了した。
究極のメニューVS
至高のメニューは
駄目だったか……
だ、駄目に決まってるじゃない。
なんで採用される可能性があると
思ったわけ?
そうだな、海原雄山ポジの奴が
いないもんな
まさかと思うけど、
自分が山岡士郎のポジションに
立てるとでも思ってんの……?
え?
そりゃまあ、色々と
シミュレートはできてるし
……まあいいわ。
お化け屋敷で我慢しなさい
そうだな!
これから張り切って
準備しないとな!
陽太は実行委員なんだから、
サボっちゃダメよ?
サボるわけねえだろ?
珠來と遅くまで残ることが多くなり、
自然と会話の数も増えて行った。
その一方で……。
文化祭の準備で生徒会室への出入りが多くなり、
生徒会の顧問である沙穂先生とも
親しくなれた気がする。
あら、二人とも。
これから生徒会室に行くところ?
はい。
倉敷先生もですか?
ええ、そうよ。
一緒に行かない?
はい、行きましょう!
入るわよ~
どうぞ~……
って、陽太!
元気でやってるか?
あ、裕貴さん!
ども!
陽太って、成瀬先輩と
知り合いだったの?
裕貴さんは俺の部屋の
隣りに住んでて、
前にお世話になったんだよ
へえ~。
成瀬先輩って面倒見が
いいもんね
なあなあ。
陽太って、最近よく
沙穂先生と話してるよな
そ、そうですか?
この前、言ってたもんな。
沙穂先生に憧れてるってさ~
そうなの……?
知らなかったわ
……ッ!
な、何言ってんだよ裕貴さん!
照れんなって
照れてるとかじゃなくて、
まずいんですってば!!
ん……?
もしかして来栖の前で言ったら
駄目な話だったか?
どうしてそこで私が
出てくるんですか
げっ、聞こえてるし
うう、裕貴さん……
ふたりでコソコソ
しなくてもいいですよ。
陽太が誰に憧れていようと、
ぜんっぜんっ関係ありませんから!
わ~お、
わかりやすいツンデレ
ツンデレってなんですか!
ひ、裕貴さん……。
珠來を煽らないでくださいよ~
とにかく、私はもう行きます!
あっ、じゃあ俺も……
あんたはついて来なくていい
珠來は怒った様子で、
走って行ってしまった。
あらあら……
あちゃ~。
悪かったな、陽太……。
来栖を追っかけてやれよ
は、はいっ!
おい、待てよ珠來!
急いで珠來の後を追いかけたが、
姿を見失ってしまった。
くそっ、どこに行ったんだ?
あ、陽太ちゃん。
どうしたですか?
苺香ちゃん!
珠來を見なかったか?
珠來先輩……?
さっき屋上に向かって
走って行ったのを見たですよ
ありがとう!
階段を一気にかけ上ると、屋上に珠來がいた。
珠來!
なんで急にいなく
なっちゃうんだよ?
……ほっといてよ
(珠來のやつ、
何をツンツンしてんだよ……)
アンタって、
やっぱり女好きのスケベね
もしかして……
沙穂先生のことで怒ってんのか?
バカッ!
そんなわけないでしょ!
一応言っておくが……
沙穂先生に憧れてるのは、
あくまで先生としてだよ
それに、最近よく話すって
いっても真面目に
文化祭の話をしてただけだよ
別に言い訳なんか
しなくてもいいわよ……。
私には関係無いし
だってお前、怒ってるだろ?
うるさいわね。
自分でもどうしてムカツクのか
わかんないのよ
あんたが、私の知らない間に
他の女の人の話をしていても
関係無いはずなのに……
珠來、それって
もしかして……
俺のこと……
何よ?
ま、待て陽太!
それは早計じゃ!!
(華胡は黙っていてくれ!
今言わなくちゃいけない
気がするんだ!)
俺のこと、
好きなんじゃないのか!?
…………
言ってしまったか……
(なんだよ?
何が駄目なんだよ?)
見てみろ。
珠來の呆れ顔を
…………
ずっとポカーンと
口を開けておるだろ
どうなんだっ、珠來!?
えっ、そこで押すか普通?
ぷっ……!
くくくっ……!
み、珠來?
なんで笑うんだ?
あんたってウヌボレ屋ね。
どれだけ自信があるのよ
ウヌボレ……?
(うぬぼれてる=
勘違いをしている=
珠來は俺を好きじゃない?)
(これってまさか……
振られたのか!?)
だから言ったじゃろうに……。
もう少し様子見が
必要じゃったのじゃ
(ウウッ……)
仕方ないわね……。
あんたの面白さに免じて、
機嫌を直してあげてもいいわよ
えっ、いいのか?
まあ、今後の心がけ次第ね!
実行委員として頑張るって
約束するなら、一緒に帰って
あげてもいいわよ
もうちょっと素直な
誘い方はできないのかよ?
私はいつも素直よ!
(そういうことに
しといてやるか)
──放課後。
帰るわよ、陽太
テニス部はいいのか?
今日は休みなのよ
ふーん……。
じゃあ校門に行って
車の迎えを待つか
今日は来ないわよ
なんで?
歩いて帰りたい気分だから、
来なくていいって言ったの
そっか。
歩くのは健康にいいしな!
そうじゃなくて、
あんたと歩くのが……
なんか言ったか?
ううん、なんでもない。
あんたってグイグイくるくせに
変な所で鈍いわよね……
はっ???
ところで、お化け屋敷の内装を
担当してる子から完成予想図を
渡されたんだけど……
おお。
ちょっと見せてくれよ
これなんだけど……。
もう一ひねり欲しい所
なのよね
じゃあさ、
こういうのはどうだ?
何よ?
これは、本当にあった話だ。
昔、この辺で高校生の姉の帰りを
待っていた男の子がいたらしい
こ、ここの近くなの?
そう。
しかしその男の子は不幸にも、
交通事故で死んでしまったんだ
それ以来、この近くを
女子高生が通るたびに、
こんな声が響くようになったそうだ
おねえちゃん……
おねえちゃぁ~ん……って
キャーッ!!
大きな叫び声をあげて、
珠來が腕に抱きついてきた。
うわっ、いきなりなんだよ!
だ、だって陽太が
変な声出すから……っ!
身体が密着していることに気づき、
恥ずかしくなってすぐに離れてしまう。
(柔らかかった……。
じゃなくて!
なんか話さないと気まずい!)
え、えーっと……
あのっ……そ、そういえば!
私、あんたのLINEって
知らないのよね
そ、そうだったな
文化祭の連絡事項がある時に
不便じゃない。
ほら、交換するわよ
ああ……
(今日は珠來に抱きつかれて
しかもLINEを交換して
もらえるなんて、
ラッキーだったな!)
(……ん?
沙穂先生から
LINEがきてるぞ)
『文化祭の手伝い、
がんばってるね。
成瀬くんが中島くんを
からかってたけど、
気にしちゃダメだよ』
(ちゃんとフォロー
してくれるなんて、
優しいなぁ沙穂先生は)
『でも、中島くんが
私に憧れてたって聞いて、
ちょっとうれしかったな』
(そうかぁ、
そんな風に思っていて
くれたのかぁ)
『文化祭で、生徒会は
メイドコンテストをやるの。
顧問の私もメイド服を着るから、
見に来て欲しいな』
(沙穂先生もコスっちゃうのか!?
行く、絶対に行く!
……と、即行で返信っと)
鼻の下を伸ばして、
デレ~っとしておるな
な、なんだよ。
悪いのか?
いいや、悪くはない。
むしろ今日のおぬしは、
えらかったぞ!
俺、なんかしたっけ?
今日はぱんつの力を借りずに、
珠來とうまくやったではないか。
明日もこの調子で頑張るのじゃぞ
ああ、その事か。
任せとけって!
──翌朝。
(うう、すげー眠い。
それに、なんか体が
だるいな……)
(毎日遅くまで
文化祭の準備をしてるから、
疲れがたまってんのかもなぁ)
するとスマホが鳴り、
珠來からLINEが入った。
『アンタのことだから、
まだ寝ぼけた顔してるんでしょ?
私の前でマヌケな顔
しないでよね』
(朝っぱらから
何が言いたいんだコイツは)
(……ん?
続きがある)
『ついでに言っておくけど……
いつも文化祭の準備、
手伝ってくれてありがとう』
(なるほどな、
本題はコッチか)
どうした?
頬が赤くなっておるぞ?
う、うるせー!
陽太ちゃーん!
おはようですっ
おっ、苺香ちゃん。
おはよう
文化祭で、苺香は
白雪姫をやるです。
見に来てくださいです
へえー、苺香ちゃんの白雪姫か。
絶対に見に行くよ
約束ですよ?
それじゃ、またねですー
(苺香ちゃんは相変わらず
元気いっぱいだなぁ)
よう、陽太
裕貴さん!
こんちは!
この間は悪かったな。
来栖と仲直りできたか?
ははは……。
なんとかなりましたんで、
気にしないでください
そっか、なら良かった。
そうそう、文化祭だけどさ。
テニス部に来いよな
何かやるんですか?
いけね、授業が始まる!
んじゃ、またな~
(教えてくれずに
行ってしまった。
っつうか、俺も急がないと!)
──放課後。
今日も珠來の手伝いをすることになった。
テニス部って、
文化祭で何かやんのか?
テニスのコーチングをするのよ
へえ、それで裕貴さんが……。
あれ?
珠來は準備しなくてもいいのか?
私って学級委員でしょ?
実行委員も兼ねてるから、
クラスの出し物の方が優先ね
なるほどな
文化祭の話をしてんのか?
楽しみだよなー!
ああ、そうだな!
そういやあ、新聞部も
何かやったりするのか?
うちは展示だけだな。
でもイタズラされないように
交替で見張りをすんだよ
なんだ。
それじゃ一緒に
見て回れないな
ヒヒヒッ。
一緒に回る相手なら、
他にいるだろ?
相手……って、誰だよ?
すっとぼけちゃって。
なあ~?
来栖ぅ~?
うるさいわね。
私はそんなヒマ無いわよ
なんだって!?
お前ら文化祭デートするのかと
思ってたのに!!
デートって、お前な……。
冷やかすなよ……
バカ言ってんじゃないわよ。
実行委員はお化け役の
リーダーをやるの!
つまり俺も見て回る
暇は無いってことか
今ごろ何言ってんの?
はい?
二人とも、ご苦労なこって。
たまに遊びに行ってやるから
頑張ってくれ
アンタも、
なんで他人事なのよ
え?
だって俺は新聞部があるから
関係なくね?
アンタたち、
全然聞いてなかったのね
クラスの全員が当番制で
お化け役か受付をやるって
ホームルームで
決まったじゃない
な、な、なんだってーー!!
他校から遊びに来る女の子を
ナンパする予定だったのに!
残念だったな!
お前一人にだけ
楽しい思いはさせねーぜ!
はあ……。
コイツらってほんとバカ……
(まったくじゃ)