珠來の家に入りまず驚いたのは、
その内装の豪華さだった。
珠來の家に入りまず驚いたのは、
その内装の豪華さだった。
改めて思ったけど、
珠來ってものすげー
お嬢様なんだな……
それはわかったから。
早く私の部屋に行くわよ!
俺が入ってもいいのか?
そのままだと
風邪ひいちゃうじゃない。
タオルくらい貸してあげるわ
あ、ああ……サンキュ
珠來の部屋には、
ランジェリーを着けたモデルのポスターが
何枚も貼られていた。
へえ……
さすが大手下着メーカーの
ご令嬢だな
やめてよ、その言い方
なんでだよ?
本当のことだろ?
なんか恥ずかしいのよ
ふーん、そういうもんか?
俺なら自慢しまくっちゃう
けどなあ
アンタのそういう単純なとこ
うらやましいわ……
単細胞みたいな言い方すんなよ
ランジェリーのポスターをよく見ると、
珠來がモデルになっている物もあった。
(うおっ!
珠來がポスターに載ってる!?
本物のモデルみたいだな)
いてーっ!
何すんだ!?
じろじろ見ないでよ!
いいだろ、ケチ
アンタの、そのやらしい目で
見られるのがイヤなのよ
やらしい目でなんか見てねえよ。
キレイだな、とは思ったけど……
えっ……
(うわっ、何キザなこと
言ってんだ俺!)
バカなこと言ってないで、
これに着替えなさいよ。
あと、タオルも使っていいわよ
珠來は少し照れた様子で、
Tシャツとタオルを渡してきた。
えっ、着替えるって……
濡れたままだと、
風邪ひいちゃうわよ?
珠來ってさ、
けっこう優しいとこあるよな
よ、余計なこと言ってないで、
早く着替えなさい!
私はアッチ向いてるから
珠來がクルッと背中を向けたのを見て、
着替えることにした。
(ん?
ベッドの脇に何か落ちてる。
レースが付いてるけど……)
よく見ようとすると、華胡が先に手に取った。
これは、おなごが
乳房(ちぶさ)に着ける物
ではないか
(ブ、ブ、ブラジャー!?
珠來の!?)
ほう、おぬしらはぶらじゃあと
呼んでおるのか
華胡が珠來の物と思われるブラジャーを、
まじまじと見ている。
このぶらじゃあとやら、
前に草むらで拾ったぱんつと
同じ柄じゃな
(あ、本当だ……。
同じ柄のブラがなんでここに?)
ねえ、もう着替え終わった?
あっ。
ちょ、ちょっと待ってくれ!
ふむ……
(うわーっ!
華胡、ブラを広げんな!)
何やってんの……?
って、それ!!!
へっ?
後は任せたぞ、陽太
華胡は広げていたブラジャーを、
俺の手に握らせた。
(華胡!
テメエ!!)
キャーッ!!
見ないで!
真っ赤になった珠來に、
ブラを取り上げられてしまった。
アンタってやっぱり、
変態じゃない……
ちがうっつーの!
こ、これは……そう!
タオルを置こうとして、
間違って取っただけだよ!
本当……?
(うう、思いっきり俺を
警戒して見てるぞ)
まあ、そんな所に置いた
私が悪いわね……。
怒ってゴメン
良かった。
そんなに怒ってない
みたいだぞ
気にすんな!
目の保養にもなったし、
むしろ大歓迎だ!
め、目の保養……?
やっぱりド変態じゃない!
(うああああっ!!
しまったあああ!!)
お前はなぜよりによって
そういう言葉を選ぶのじゃ
(ブラジャーを押し付けてきた
お前に言われたかねえ!)
はあ……
珠來はため息をついて、
ブラジャーをしまっている。
(これは気まずい……。
何か話さないと)
えっと……あのさっ!
この珠來が出てるポスターって、
何かのイベントの告知か?
……だから、それは見ないで
って言ってるでしょ
珠來はポスターをはがして、
クルクルと巻いてしまった。
(うわぁ、更に気まずく
なってしまった……)
それじゃあ、私……
ピアノの練習があるから、
隣の部屋に行くわね
えっ?
じゃ、じゃあ俺、
もう家に帰るよ
まだ服が乾いてないじゃない?
練習は1時間くらいで終わるから
待ってなさいよ
お、おう……
珠來は部屋を出て行ってしまった。
華胡、いつもの頼む!
む? どうした?
これじゃ珠來が戻って来ても
気まずいままだろ?
だから、パンツの力を貸してくれ!
しょうがないのう……
うおおおお!
力がみなぎってきたぜえええ!!
力がみなぎっているのは
おぬしではない。
ぱんつじゃ
不意に、隣の部屋から
ピアノの演奏が聞こえてきた。
(珠來がひいてるのか?
なんだか聴いていて
気持ち良くなってくるな……)
ふむ……なんとも形容しがたい、
可憐な音色じゃな……
ああ……。
昔はよく、下手くそなピアノを
聴かされたもんだけどな
ん? 演奏が止まったぞ
練習が終わったのかもな
今、誰かと喋ってなかった?
い、いや?
気のせいじゃないのか?
そう?
それはそうと、
待たせて悪かったわね
いや、別に?
気にすんなよ
(ふう、良かった。
パンツの力のおかげで、
機嫌が直ったみたいだな)
なあ、珠來……
お前ってさ、ピアノが
すげー上手になったんだな!
き、急に何よ。
まさか聴いてたの?
聴こえてきたんだよ。
昔はつっかかりまくって、
聴いてられなかったのにな
悪かったわね……。
どんな人でも、
長く練習してれば上手になるの!
うん、確かに上手くなってた
……もうっ
珠來は少しだけ頬を赤くして、
そっぽを向いてしまった。
誰かに聴かせたことあるのか?
え? んー……まあ、
ピアノの先生に勧められて
たまに発表会に出るけど……
そういうのじゃなくてさ、
友達やクラスの奴に
聴かせたりはしないのか?
き、聴かせられるわけ
ないじゃない
もったいないなあ
……あ、そうだ!
文化祭で演奏してみたらどうだ?
文化祭で?
そんなのダメよ……
なんでだよ?
あんなに上手いんだから、
恥ずかしがることないだろ
そういうんじゃなくて、
学級委員は生徒会の手伝いが
あるから難しいのよ
そうなのか……
それに、文化祭でピアノの演奏を
するなんて前例が無いもの。
先生が許可しないと思うわ
そうか……
よしっ!
俺が先生を説得してやる!
はあ?
自分で言ってる意味
わかってる?
へっ?
そんなに変なこと言ったか?
先生を説得だなんて
言ったら聞こえがいいけど、
わがままをゴリ押しするのと
一緒じゃない
そうかなあ……
とにかく、私はそこまでして
文化祭でピアノを
弾きたいわけじゃないの!
(俺、余計なことを
言ったみたいだな……)
でも……
えっ?
……ありがとう
珠來は目も合わさずに、小さな声で呟いた。
お、おう
入っていいわよ
お嬢様、お茶をお持ちしました
ありがとう。
そこに置いておいて
はい、かしこまりました
では失礼いたします
紅茶のいい香りがするな
身体が冷えてるでしょ?
飲みなさいよ。
よかったらケーキも食べて
おっ、うまそー。
いただきますっ
チーズケーキの甘さと、紅茶の温かさに、
身体が癒されるようだった。
ここまでしてもらって
なんだか悪いな。
何かお礼をしないと
別にいいわよ
あっ、そうだ。
俺も生徒会の手伝いってやつに
参加しようか?
えっ、本当?
珠來の瞳が嬉しそうに輝いたが……
すぐに下を向いてしまった。
でも……そんなの、悪いわよ
今更、気ぃ遣ったりするなよ。
いつもの生意気っぷりは
どうしたんだ?
生意気って何よ……。
自分は変態のくせに
そうそう、そうやって
憎まれ口を叩いてた方が
珠來らしいな
いっつも憎まれ口ばかりで
悪かったわね
(頬を膨らませてる顔
可愛いな。
でも言ったら怒りそうだし、
黙っておくか)
なんにしても学級委員は
大変だよな。
がんばれよ
いきなり何よ?
なんか裏でもあるの?
別に裏なんかねえよ。
ただ、偉いなって思っただけだ
ふうん、そう……。
陽太にほめられると、
なんか変な感じ!
変とか言うなよ。
それだったら
けなしてやってもいいんだぜ?
フフッ。
変だとは思うけど、
イヤだなんて言ってないでしょ?
はあ~。
どっちなんだよ……ったく
そうしている内に服は乾き、
珠來の使用人に車で送ってもらった。
いやあ~。
今日もパンツの力の
お世話になったなぁ
おぬし……少し、ぱんつの力に
頼りすぎではないか?
そうかあ?
ぱんつの力ばかり使わずに、
自分でも努力しないといかんぞ
はいはい、わかったよ
(まあ、華胡の言う通り、
自分の力じゃないと
意味がねえかもな)
ポケットからアパートの鍵を
取り出そうとした……がっ。
あれ、あれ……?
鍵が……?
無い! 無い!
鞄の中にも無いようじゃな
家の鍵……
落としたあああ!
雨振りしきる中、
野宿か……
いやだああああ!!
頭を抱えていると、
隣の部屋から人が出てきた。
おっ!
校門で女子に囲まれてた
スーパー転校生じゃん
(んっ?
見覚えあるけど、
誰だっけこの人?)
たしか優斗が、
こやつの写真をおぬしに
見せておった気がするが
(優斗が……?)
でも、いくらモテ期が
きてるお前でも、
こいつにはかなわないだろうな
そう言って優斗は、一枚の写真を出した。
誰だ……?
このイケメンは
3年生の成瀬裕貴
(なるせひろたか)先輩だよ。
見た目はかなりチャラいが、
生徒会長なんだぜ
ふうーん……
生徒会の顧問は沙穂先生だろ?
成瀬会長が狙ってんじゃねえか
ってみんなヒヤヒヤしてんだよ
そうだ!
うちの高校の
生徒会長じゃないですか!
よく知ってんなあ。
で、家の鍵を落としたんだって?
俺のひとりごと
聞いてたんですか……
あんだけデカい声で
騒いでりゃな。
部屋にいても聞こえたわ
す、すみません。
ところでこの辺に
ネカフェ有ります?
あー、家に誰もいないから
ネカフェに泊まるのか
はい、
ひとり暮らしなもんで……。
それに今の時間じゃ大家さんと
連絡とれないでしょうし
じゃっ、うちに泊まれよ
えっ?
いいんですか?
ああ。
この雨の中ネカフェまで
歩くのはキツイだろ
な、なんていい人なんだ~!
ではお言葉に甘えて!!
お邪魔しまーす
俺もひとり暮らしだから
気兼ねすんなよ。
その辺に座ってくれ
あっ、はい
晩メシまだだろ?
昨日のカレーが残ってるけど
食うか?
むっちゃ腹減ってたんすよ!
いただきますっ!!
(写真のイメージと
だいぶちがうな~。
女にモテることを鼻にかけた
嫌な奴かと思ってたのに)
顔のいい男に対しての
偏見がすごすぎるじゃろ
はい、おまちどうっ
目の前に置かれたカレーに、
さっそく手をつける。
いただきます!
んまっ! んまああっ!
そう言えばお前、
名前はなんて言うんだ?
中島陽太です。
先輩は成瀬裕貴さんですよね?
なんでも知ってんだなあ
友達が新聞部なもんで、
いろいろ教えてくれるんですよ
へえ、情報通の友達がいんのか。
そういやお前、
来栖とも友達だよな?
なんで知ってるんですか?
だって俺、テニス部だからさ。
前に、お前……えーと、陽太が
来栖とテニスコートで
話してんの見たし
そうだったんですか……。
女子しか見てなかったから
気づきませんでした
お、お前……。
かなりの女好きだな。
沙穂先生とか大好きだろ?
もちろんっ!
っていうか、男子なら全員
沙穂先生が好きですよね?
あんだけ美人で優しけりゃな。
でも、沙穂先生は大人の女だぜ?
俺たちなんか相手にしないだろ
またまた~。
生徒会の顧問だから、裕貴さんが
狙ってるってウワサですよ
ははは、おもしれーなそれ。
お前だって来栖を狙ってたり
すんじゃねーの?
なっ!
なんでそうなるんですか!!
違いますよ!
照れんな、照れんな。
バラしたりしねーから
素直になれって
珠來は幼なじみだから
よく話すだけで、
俺は沙穂先生に憧れてるんです!
ふうーん? そうなん?
まあ沙穂先生は
彼氏いないみたいだし、
ワンチャンあるからがんばんな
がっ、がんばりますっ!
照れ隠しに
つまらぬ意地を
張りおって……
(ほっとけ!)