水着に変身した華胡パンツに履き直すと、
プールへ向かった。
……がっ。
水着に変身した華胡パンツに履き直すと、
プールへ向かった。
……がっ。
更衣室を出たとたんに、肩をつかまれた。
ちょっとあんた、
今は水泳部がプールを使う時間よ。
なんで入ろうとしてんのよ
えっ?
俺は苺香ちゃんに誘われたから
入ろうとしただけで……
日下部さんがあんたなんか
誘うわけないじゃない!
ウソつきなさいよ!
(信じてもらえないぞ。
困った……。
みんなこっちを見て怪しんでるし)
すると、女子更衣室から出てきた苺香ちゃんが
こちらへ走って来た。
待ってください~です!
その人は、入部を希望している
体験部員さんですっ
えっ、そうなの?
水泳部エースの日下部さんが
そう言うなら、仕方ないわね
(仕方ないじゃなくて、
謝れっつーの)
陽太ちゃん。
遅くなってごめんなさいです
いや、いいんだ。
それよりも助かったよ、
ありがとな
えへへ~っ。
苺香が誘ったですから、
お礼なんていらないです
(苺香ちゃん、
やっぱりかわいいなあ。
それに……)
苺香ちゃんの身体を、
上から下までじっくりながめる。
(この、水泳で鍛えられた
プロポーション……最高だな。
胸も小ぶりながらにハリがあるし)
……ん?
どうかしたですか?
いやあ、ははは。
なんでもないんだ
(パンツの力を使えば、
水着の苺香ちゃんだって
俺の言いなりになるわけかあ)
急にパンツがモソモソと動き出した。
うひゃっ!
ひゃひゃっ……
ほ、本当にどうしたですか?
いっ! いやっ!
なんでもないんだ!
大丈夫っ!!
(こんな時になんだよ、華胡!)
今、変な気を起こすと
大変なことになるぞ
(大変なことってなんだ?)
こんな所でパンツの力を使ったら
大勢のおなごがおぬしの元へ
殺到するじゃろうが
(……そりゃそうだ。
ここは水に入って、
気持ちを落ち着かせよう)
よしっ、飛び込むぞ!
待ってくださいです!
いきなり入ったら
危ない……!
えっ?
苺香ちゃんに声を掛けられた時には、
すでに水面に向かってジャンプをしていた。
(ぐあっ……!)
どうした!?
(くそっ!!
足がつって動かねぇんだ!)
なんじゃと!?
溺れてしまうではないか!
なんとかして泳げ!
(む、無理だ……。
ああ、息が苦しい……
目の前が……暗く……)
陽太ー!!
(なんだろう……?
ここ、どこだ?)
だんだんと目の前が見えてくると、
心配そうに覗き込んでいる人の顔が見えた。
陽太ちゃん!
陽太ちゃん!
大丈夫ですか!?
(うわあっ、
苺香ちゃんのドアップ!)
あ、あの……。
苺香ちゃん……?
良かったぁ……
気がついたですね
俺、どうしたんだっけ?
陽太ちゃんはいきなり
プールに飛び込んで、
溺れちゃったですよ
あっ、そうだっけ……。
いや~、足がつっちゃってさぁ
準備体操もしないで
飛び込むからです!
めっ、ですよ!
ははは、ごめん……
しばらくそこで
休んでいてくださいね?
それじゃ、苺香は練習の続きに
行ってきますです
苺香ちゃんは、パタパタと
プールに戻ってしまった。
(言われた通り
おとなしくしてるか……)
まったく、助かったから
良かったものの……
どうなるかと思ったぞ
(悪かったな、心配させて)
心配などしておらん!
契約をかわしたからには
目的を達成するまで
見守る義務があるのじゃ
(珠來じゃあるまいし、
意地をはるなよ)
うう……。
と、とにかくおぬしは
黙って休んでいろ
(はいはい、わかったよ)
プールサイドに座って
水泳部の練習をながめていると、
一際華麗に泳ぐ少女の姿が目に入った。
(あの泳ぎが上手な子……
よく見たら
苺香ちゃんじゃないか)
(さすが、さっきのムキムキ女に
水泳部エースと
言われただけはあるな)
それからしばらくして、
練習を終えた苺香ちゃんがこちらへやって来た。
陽太ちゃん、
気分はどうですか?
もう大丈夫だよ。
ありがとな
よかったです。
練習はもう終わりなので、
一緒に帰りませんか?
オッケ!
んじゃ、着替えたら
校門で待ち合わせな!
華胡、水泳パンツに
なってくれてサンキュな。
もう戻っていいぞ
普通のパンツになれば
いいんじゃな?
ほれっ
よし、これで帰れる……
って、びっちょり
濡れてんじゃねえか!
さっきまで水に入って
おったからのう。
当然ではないか?
当然って、お前……
これじゃズボンまで
濡れちまうだろ
うるさい奴じゃのう。
これでいいか?
一瞬にして乾いた。
本当に便利な能力だな
校門で先に待っていると、
着替え終わった苺香ちゃんが走って来た。
お待たせしましたです!
さっ、帰ろうか
はいっ
それにしても、
今日は情けない所を
見せちゃったな
ううん、そんなことないですよ。
これでおあいこだなって思って、
嬉しかったです
おあいこ……?
昔、島で苺香が溺れそうに
なったときのこと、
覚えてないですか?
うーん……
そんなことあったか?
忘れちゃったですね……。
陽太ちゃんが
苺香を助けてくれたですよ?
俺が!?
そうだっけ?
はいです。
島にいた頃、苺香はカナヅチで
泳げなかったですよ
だけど、陽太ちゃんみたいに
上手に泳ぎたいと思って、
たくさんがんばったです!
それが今では
水泳部のエースってわけか。
すごいな、苺香ちゃんは
えへへ~。
エースだなんて
言いすぎです~
いやいや、言い過ぎじゃないよ。
俺なんかよりずっと
泳ぎがうまいんじゃないのか?
でも、苺香にとって
陽太ちゃんはヒーローですっ。
陽太ちゃんのお蔭で
苺香はがんばれたですから
そ、そうか?
昔のこととは言え、
なんか照れるな
特に、あのとき陽太ちゃんが
言ったことがかっこよくて、
今でも覚えてるです……
えっ。
俺なんて言ったっけ?
自分のことを、
『カッパのカースケだ』って
名乗ってましたです
……それ、カッコイイか?
苺香にとっては、
すっごくかっこよかったですよ?
カッパのぬいぐるみに
カースケって名前をつけて、
今でも大事にしてるです
苺香ちゃんにとっては
そんなに大切なことだったのに、
忘れてたなんて……ごめんな
気にしないでくださいです。
それよりも、
これからもっと陽太ちゃんと
仲良くできたらいいなって
俺の方から
お願いしたいくらいだよ。
これからもよろしくな
はいっ!
……あっ、陽太ちゃんと
LINEを交換したいです。
いいですか?
もちろんだよ。
スマホ出すから、
ちょっと待って……
(なーんだ。
パンツの力を使わなくても、
俺って結構モテるんだなあ)
調子に乗っていると、
痛い目を見るぞ。
横を見てみろ
(えっ、横って?)
…………
よ、よう珠來。
部活が終わったのか?
そんなのどうでもいいでしょ。
今朝のアレといい、アンタって
女の子なら誰でもいいのね
(マズイ。
また不機嫌になってきたぞ)
珠來に声をかけようとしたら、
高級車が横に乗りつけた。
珠來は俺の顔を見ようともせず、
車に乗ろうとしている。
待てよ、珠來!
これは、誰でもいいとか
じゃなくてっ……!
その、友達としてだなっ!
…………
しどろもどろ喋る俺に、
珠來が黙って視線を送ってくる。
すると、珠來以外にも視線を
送られていることに気づいた。
…………
(苺香ちゃん……?
じっとこっちを見てるけど、
どうしたんだ?)
珠來先輩。
怪我は大丈夫ですか?
んなっ!?
(なんでいきなり怪我の話に!?
苺香ちゃん、その話するの
嫌がってなかったか?)
珠來の顔が、怒りでカッと赤くなった。
なにっ、陽太!
アンタ日下部さんに
そんなことまで喋ったの!?
いや、俺が
喋ったわけじゃ……
信じらんない。
私がいない場所で
ウワサするなんて最低……
なんだよそれ!
俺は何も言ってないぞ。
ちょっとは人の話を聞けよ!
珠來先輩。
あの夜……
2ヶ月前の夜、見たですよ
見た……?
何を?
草むらから、
珠來先輩が出てくるのを
……っ!?
珠來はハッとした顔をしたかと思うと、
苺香ちゃんを悲しそうに見つめた。
み、珠來?
珠來はフイッと顔を背け、車に乗り込んだ。
行ってちょうだい
おいっ!!
車はすぐに発車して、
珠來はその場からいなくなってしまった。
(珠來……)
…………
なあ、苺香ちゃん。
どうしてあんなこと
言ったんだ?
どうしてって……。
珠來先輩の怪我が
気になったから聞いたです
苺香ちゃんだって、
もうあのことは話したくないって
言ってたじゃないか
そんなの、苺香にだって
わからないです!
陽太ちゃん、苺香の気持ちを
わかってないです!!
どうしたんだ、
苺香ちゃん……?
興奮した様子の苺香ちゃんを
呆然と見ていると、
苺香ちゃんが涙を浮かべているのに気づいた。
苺香は……苺香は……
ついには大粒の涙をこぼし、
走り去ってしまった。
苺香ちゃん!!
待って!!
追いかけても無駄じゃ。
お前の足じゃ
追いつけんじゃろう
(うっ、たしかに。
この前そうだったな)
(苺香ちゃん……
一体どうしたんだろう)
苺香はやはり、
陽太に恋をしておるのじゃろうな
(苺香ちゃんはかわいいから、
それはそれで嬉しいけど……)
けど……の続きは、なんじゃ?
(もしかして、苺香ちゃんは
パンツの力で俺を好きなだけ
じゃないのか?)
さあ……どうじゃろうな。
苺香の場合は、おぬしとの
思い出もあるようだしのう
(カッパのカースケの話か?)
そうじゃ。
苺香の気持ちはパンツの力とは
無関係なのかもしれぬぞ
(もし、そうだとしたら……
俺はどうしたらいいんだ)
どうしたらも何も、
おぬしの心にいるのは
本当は誰なのじゃ?
(それは……)
(珠來……だと思う。
だけど苺香ちゃんが本当に
俺を好きだとしたら、
拒む理由が見当たらないんだ)
(でも、俺が苺香ちゃんと
付き合うことになったら、
華胡が困るんだろ?)
そんなことで悩むな。
わらわのことは
気にせずともよい
(だけど……。
『珠來とのことよろしく頼む』って
お前に頼んだわけだし……)
確かにおぬしの言う通り、
わらわには珠來とおぬしの
祝福を司る使命がある。
しかし……
おぬしが感情を押し殺してまで、
珠來と結ばれることは望まぬ。
それでは珠來も不幸じゃ
(だからって行けそうな女の子に
行こうとするのも、
男としてどうだろう)
何を悩んでるの?
ハッとして声の主を見ると、
沙穂先生が立っていた。
さ、沙穂先生。
今、帰る所ですか?
ええ、そうよ。
元気がないみたいだけど、
何かあったの?
いえ、別に……
大したことじゃないですよ
やっぱり元気がないじゃない。
気分転換が必要ね……。
行きましょ?
行くって、どこに?
良い場所があるのよ。
ついて来て
沙穂先生について行くと、
学校の裏にある山に到着した。
沙穂先生が一足先に小高い丘の山頂部へ行き、
手招きをしている。
ほら、ここ。
街全体が見渡せるでしょ!
沙穂先生の横に立つと、
眼前には爽快な光景が広がった。
すごい……
学校の近くにこんな場所が
あったんですね
この山は、
都内で一番標高が低いんだって
へえー!
本当に良い場所ですね。
教えてくれて
ありがとうございます
ふふっ、どういたしまして
陽太よ。
ずいぶんとスッキリした顔を
しておるな
(そうか?)
ああ。
さっきまで悩んでいたのが、
嘘のようじゃ
(そっか……
俺、珠來や苺香ちゃんのことで
悩んでたんだよな……)
……で、そろそろ
聞いてもいいかな?
何をですか?
さっき、校門の前で
何かを悩んでいたじゃない
あっ、はい……。
沙穂先生なら
話してもいいかな
どうぞ。
なんでも聞くから、
話してみて?
実は……
沙穂先生に、さっき校門で
起こったことのすべてを話した。
俺のウヌボレかもしれませんけど
もし苺香ちゃんが俺を好きなら
どうしたらいいでしょうか?
なるほどね……。
でも、悩む必要は
ないんじゃない?
えっ……どうしてですか?
嫌われてるなら困るけど、
好意を寄せてもらってるなら
良いことじゃない
そんな……。
沙穂先生は簡単に言いますけど、
苺香ちゃんを傷つけるかも
しれないんですよ?
そうして悩んで、
変に気をつかっちゃう方が……
ずっと、日下部さんを
傷つけると思うな
だ、だって……。
じゃあ、沙穂先生は
どうすればいいと思いますか?
今のまま接していれば大丈夫。
日下部さんは、そのままの
中島くんが好きなんだから
恋人になれるかっていうこと
ばかり意識しちゃって、
友達ですらなくなったら……
お互いに悲しいと思うの
……そうですね、
そうかもしれませんね
ありがとうございます、
沙穂先生のおかげで
ちょっと楽になれました
どういたしまして。
でも女の子を泣かせるのは、
良くないなー
うっ……。
だって、あれは苺香ちゃんが
急に泣き出して……
来栖さんのことが心配で、
日下部さんにいろいろと
聞いちゃったんでしょ?
そういうのは、
そっとしておいてあげた方が
いいこともあるのよ
そうか……。
よく考えたら、俺は苺香ちゃんに
無神経なことをしましたね
無神経ってことはないわよ。
中島くんは、女の子の気持ちを
一番に考えてるだけだよね?
沙穂先生は、俺に向かって柔らかく微笑んだ。
(優しいな……。
沙穂先生のこういう所が
好きだな)
それで、キミはどっちが
気になってるの?
珠來……ですかね?
そっか。
来栖さんって、かわいいもんね
そ、そんなんじゃなくて、
一体何があったんだろうと
思ってですね!
照れない照れない
照れてませんよ!
やっぱり生意気な珠來より、
優しい沙穂先生が一番かな~!
キミはちょっと
優しくされただけで、
その人が気になっちゃうの?
そういうわけじゃないです!
誰でもいいって
わけじゃないんです、沙穂先生!
ふふ、ありがとう
(なんだか軽く
あしらわれてしまったような)
あ、そろそろ帰る時間だわ。
もしこれからも相談したいことが
あればいつでも連絡してね
俺、沙穂先生の
連絡先知りませんよ?
そういえば、そうだったわね。
じゃ、LINEでいいかな?
ありがとうございます、
沙穂先生
(沙穂先生と
LINE交換できたぞ。
ラッキー)
それじゃ、またね。
中島くん
はい、さよなら沙穂先生!
ふぅー。
今日は帰ってくんのが
遅くなっちまったな
いろんなことがあった
一日じゃったのう
だな
おっ、沙穂先生から
LINEがきてる。
どれどれ……
『今日はお役に立てたかしら?
困ったことがあったら
いつでも相談に乗るわよ!』
はあぁ~……
やっぱり沙穂先生は優しいなあ。
俺を好きになってくれないかなあ
おぬし……。
学校で真剣に悩んでおったのは
一体なんだったのじゃ
沙穂先生のお蔭で
気分転換できたからな!
くよくよするのはやめたぜ!
あ、そうだ。
苺香ちゃんにもLINEしとこ
そんなに移り気だから、
すぐに珠來を
怒らせてしまうのじゃ
ん?
なんか言ったか?
フン、知らん!
その晩……珠來と苺香ちゃんと沙穂先生が、
俺を取り合っている夢を見たのだった。