水着に変身した華胡パンツに履き直すと、
プールへ向かった。


……がっ。


更衣室を出たとたんに、肩をつかまれた。

女子水泳部員

ちょっとあんた、
今は水泳部がプールを使う時間よ。
なんで入ろうとしてんのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?
俺は苺香ちゃんに誘われたから
入ろうとしただけで……

女子水泳部員

日下部さんがあんたなんか
誘うわけないじゃない!
ウソつきなさいよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

(信じてもらえないぞ。
困った……。
みんなこっちを見て怪しんでるし)



すると、女子更衣室から出てきた苺香ちゃんが
こちらへ走って来た。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

待ってください~です!
その人は、入部を希望している
体験部員さんですっ

女子水泳部員

えっ、そうなの?
水泳部エースの日下部さんが
そう言うなら、仕方ないわね

中島 陽太(なかじま はるた)

(仕方ないじゃなくて、
謝れっつーの)

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃん。
遅くなってごめんなさいです

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、いいんだ。
それよりも助かったよ、
ありがとな

日下部 苺香(くさかべ いちか)

えへへ~っ。
苺香が誘ったですから、
お礼なんていらないです

中島 陽太(なかじま はるた)

(苺香ちゃん、
やっぱりかわいいなあ。
それに……)



苺香ちゃんの身体を、
上から下までじっくりながめる。

中島 陽太(なかじま はるた)

(この、水泳で鍛えられた
プロポーション……最高だな。
胸も小ぶりながらにハリがあるし)

日下部 苺香(くさかべ いちか)

……ん?
どうかしたですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

いやあ、ははは。
なんでもないんだ

中島 陽太(なかじま はるた)

(パンツの力を使えば、
水着の苺香ちゃんだって
俺の言いなりになるわけかあ)



急にパンツがモソモソと動き出した。

中島 陽太(なかじま はるた)

うひゃっ!
ひゃひゃっ……

日下部 苺香(くさかべ いちか)

ほ、本当にどうしたですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

いっ! いやっ!
なんでもないんだ!
大丈夫っ!!

中島 陽太(なかじま はるた)

(こんな時になんだよ、華胡!)

華胡(かこ)

今、変な気を起こすと
大変なことになるぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

(大変なことってなんだ?)

華胡(かこ)

こんな所でパンツの力を使ったら
大勢のおなごがおぬしの元へ
殺到するじゃろうが

中島 陽太(なかじま はるた)

(……そりゃそうだ。
ここは水に入って、
気持ちを落ち着かせよう)

中島 陽太(なかじま はるた)

よしっ、飛び込むぞ!

日下部 苺香(くさかべ いちか)

待ってくださいです!
いきなり入ったら
危ない……!

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ?



苺香ちゃんに声を掛けられた時には、
すでに水面に向かってジャンプをしていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

(ぐあっ……!)

華胡(かこ)

どうした!?

中島 陽太(なかじま はるた)

(くそっ!!
足がつって動かねぇんだ!)

華胡(かこ)

なんじゃと!?
溺れてしまうではないか!
なんとかして泳げ!

中島 陽太(なかじま はるた)

(む、無理だ……。
ああ、息が苦しい……
目の前が……暗く……)

華胡(かこ)

陽太ー!!

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだろう……?
ここ、どこだ?)

だんだんと目の前が見えてくると、
心配そうに覗き込んでいる人の顔が見えた。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃん!
陽太ちゃん!
大丈夫ですか!?

中島 陽太(なかじま はるた)

(うわあっ、
苺香ちゃんのドアップ!)

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、あの……。
苺香ちゃん……?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

良かったぁ……
気がついたですね

中島 陽太(なかじま はるた)

俺、どうしたんだっけ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃんはいきなり
プールに飛び込んで、
溺れちゃったですよ

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ、そうだっけ……。
いや~、足がつっちゃってさぁ

日下部 苺香(くさかべ いちか)

準備体操もしないで
飛び込むからです!
めっ、ですよ!

中島 陽太(なかじま はるた)

ははは、ごめん……

日下部 苺香(くさかべ いちか)

しばらくそこで
休んでいてくださいね?
それじゃ、苺香は練習の続きに
行ってきますです



苺香ちゃんは、パタパタと
プールに戻ってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(言われた通り
おとなしくしてるか……)

華胡(かこ)

まったく、助かったから
良かったものの……
どうなるかと思ったぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

(悪かったな、心配させて)

華胡(かこ)

心配などしておらん!
契約をかわしたからには
目的を達成するまで
見守る義務があるのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來じゃあるまいし、
意地をはるなよ)

華胡(かこ)

うう……。
と、とにかくおぬしは
黙って休んでいろ

中島 陽太(なかじま はるた)

(はいはい、わかったよ)



プールサイドに座って
水泳部の練習をながめていると、
一際華麗に泳ぐ少女の姿が目に入った。

中島 陽太(なかじま はるた)

(あの泳ぎが上手な子……
よく見たら
苺香ちゃんじゃないか)

中島 陽太(なかじま はるた)

(さすが、さっきのムキムキ女に
水泳部エースと
言われただけはあるな)



それからしばらくして、
練習を終えた苺香ちゃんがこちらへやって来た。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

陽太ちゃん、
気分はどうですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

もう大丈夫だよ。
ありがとな

日下部 苺香(くさかべ いちか)

よかったです。
練習はもう終わりなので、
一緒に帰りませんか?

中島 陽太(なかじま はるた)

オッケ!
んじゃ、着替えたら
校門で待ち合わせな!

中島 陽太(なかじま はるた)

華胡、水泳パンツに
なってくれてサンキュな。
もう戻っていいぞ

華胡(かこ)

普通のパンツになれば
いいんじゃな?
ほれっ

中島 陽太(なかじま はるた)

よし、これで帰れる……
って、びっちょり
濡れてんじゃねえか!

華胡(かこ)

さっきまで水に入って
おったからのう。
当然ではないか?

中島 陽太(なかじま はるた)

当然って、お前……
これじゃズボンまで
濡れちまうだろ

華胡(かこ)

うるさい奴じゃのう。
これでいいか?

中島 陽太(なかじま はるた)

一瞬にして乾いた。
本当に便利な能力だな

校門で先に待っていると、
着替え終わった苺香ちゃんが走って来た。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

お待たせしましたです!

中島 陽太(なかじま はるた)

さっ、帰ろうか

日下部 苺香(くさかべ いちか)

はいっ

中島 陽太(なかじま はるた)

それにしても、
今日は情けない所を
見せちゃったな

日下部 苺香(くさかべ いちか)

ううん、そんなことないですよ。
これでおあいこだなって思って、
嬉しかったです

中島 陽太(なかじま はるた)

おあいこ……?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

昔、島で苺香が溺れそうに
なったときのこと、
覚えてないですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

うーん……
そんなことあったか?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

忘れちゃったですね……。
陽太ちゃんが
苺香を助けてくれたですよ?

中島 陽太(なかじま はるた)

俺が!?
そうだっけ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

はいです。
島にいた頃、苺香はカナヅチで
泳げなかったですよ

日下部 苺香(くさかべ いちか)

だけど、陽太ちゃんみたいに
上手に泳ぎたいと思って、
たくさんがんばったです!

中島 陽太(なかじま はるた)

それが今では
水泳部のエースってわけか。
すごいな、苺香ちゃんは

日下部 苺香(くさかべ いちか)

えへへ~。
エースだなんて
言いすぎです~

中島 陽太(なかじま はるた)

いやいや、言い過ぎじゃないよ。
俺なんかよりずっと
泳ぎがうまいんじゃないのか?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

でも、苺香にとって
陽太ちゃんはヒーローですっ。
陽太ちゃんのお蔭で
苺香はがんばれたですから

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そうか?
昔のこととは言え、
なんか照れるな

日下部 苺香(くさかべ いちか)

特に、あのとき陽太ちゃんが
言ったことがかっこよくて、
今でも覚えてるです……

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ。
俺なんて言ったっけ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

自分のことを、
『カッパのカースケだ』って
名乗ってましたです

中島 陽太(なかじま はるた)

……それ、カッコイイか?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香にとっては、
すっごくかっこよかったですよ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

カッパのぬいぐるみに
カースケって名前をつけて、
今でも大事にしてるです

中島 陽太(なかじま はるた)

苺香ちゃんにとっては
そんなに大切なことだったのに、
忘れてたなんて……ごめんな

日下部 苺香(くさかべ いちか)

気にしないでくださいです。
それよりも、
これからもっと陽太ちゃんと
仲良くできたらいいなって

中島 陽太(なかじま はるた)

俺の方から
お願いしたいくらいだよ。
これからもよろしくな

日下部 苺香(くさかべ いちか)

はいっ!
……あっ、陽太ちゃんと
LINEを交換したいです。
いいですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

もちろんだよ。
スマホ出すから、
ちょっと待って……

中島 陽太(なかじま はるた)

(なーんだ。
パンツの力を使わなくても、
俺って結構モテるんだなあ)

華胡(かこ)

調子に乗っていると、
痛い目を見るぞ。
横を見てみろ

中島 陽太(なかじま はるた)

(えっ、横って?)

来栖 珠來(くるす みらい)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

よ、よう珠來。
部活が終わったのか?

来栖 珠來(くるす みらい)

そんなのどうでもいいでしょ。
今朝のアレといい、アンタって
女の子なら誰でもいいのね

中島 陽太(なかじま はるた)

(マズイ。
また不機嫌になってきたぞ)



珠來に声をかけようとしたら、
高級車が横に乗りつけた。


珠來は俺の顔を見ようともせず、
車に乗ろうとしている。

中島 陽太(なかじま はるた)

待てよ、珠來!
これは、誰でもいいとか
じゃなくてっ……!
その、友達としてだなっ!

来栖 珠來(くるす みらい)

…………



しどろもどろ喋る俺に、
珠來が黙って視線を送ってくる。


すると、珠來以外にも視線を
送られていることに気づいた。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

(苺香ちゃん……?
じっとこっちを見てるけど、
どうしたんだ?)

日下部 苺香(くさかべ いちか)

珠來先輩。
怪我は大丈夫ですか?

中島 陽太(なかじま はるた)

んなっ!?

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんでいきなり怪我の話に!?
苺香ちゃん、その話するの
嫌がってなかったか?)



珠來の顔が、怒りでカッと赤くなった。

来栖 珠來(くるす みらい)

なにっ、陽太!
アンタ日下部さんに
そんなことまで喋ったの!?

中島 陽太(なかじま はるた)

いや、俺が
喋ったわけじゃ……

来栖 珠來(くるす みらい)

信じらんない。
私がいない場所で
ウワサするなんて最低……

中島 陽太(なかじま はるた)

なんだよそれ!
俺は何も言ってないぞ。
ちょっとは人の話を聞けよ!

日下部 苺香(くさかべ いちか)

珠來先輩。
あの夜……
2ヶ月前の夜、見たですよ

来栖 珠來(くるす みらい)

見た……?
何を?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

草むらから、
珠來先輩が出てくるのを

来栖 珠來(くるす みらい)

……っ!?



珠來はハッとした顔をしたかと思うと、
苺香ちゃんを悲しそうに見つめた。

中島 陽太(なかじま はるた)

み、珠來?



珠來はフイッと顔を背け、車に乗り込んだ。

来栖 珠來(くるす みらい)

行ってちょうだい

中島 陽太(なかじま はるた)

おいっ!!



車はすぐに発車して、
珠來はその場からいなくなってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來……)

日下部 苺香(くさかべ いちか)

…………

中島 陽太(なかじま はるた)

なあ、苺香ちゃん。
どうしてあんなこと
言ったんだ?

日下部 苺香(くさかべ いちか)

どうしてって……。
珠來先輩の怪我が
気になったから聞いたです

中島 陽太(なかじま はるた)

苺香ちゃんだって、
もうあのことは話したくないって
言ってたじゃないか

日下部 苺香(くさかべ いちか)

そんなの、苺香にだって
わからないです!
陽太ちゃん、苺香の気持ちを
わかってないです!!

中島 陽太(なかじま はるた)

どうしたんだ、
苺香ちゃん……?



興奮した様子の苺香ちゃんを
呆然と見ていると、
苺香ちゃんが涙を浮かべているのに気づいた。

日下部 苺香(くさかべ いちか)

苺香は……苺香は……



ついには大粒の涙をこぼし、
走り去ってしまった。

中島 陽太(なかじま はるた)

苺香ちゃん!!
待って!!

華胡(かこ)

追いかけても無駄じゃ。
お前の足じゃ
追いつけんじゃろう

中島 陽太(なかじま はるた)

(うっ、たしかに。
この前そうだったな)

中島 陽太(なかじま はるた)

(苺香ちゃん……
一体どうしたんだろう)

華胡(かこ)

苺香はやはり、
陽太に恋をしておるのじゃろうな

中島 陽太(なかじま はるた)

(苺香ちゃんはかわいいから、
それはそれで嬉しいけど……)

華胡(かこ)

けど……の続きは、なんじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(もしかして、苺香ちゃんは
パンツの力で俺を好きなだけ
じゃないのか?)

華胡(かこ)

さあ……どうじゃろうな。
苺香の場合は、おぬしとの
思い出もあるようだしのう

中島 陽太(なかじま はるた)

(カッパのカースケの話か?)

華胡(かこ)

そうじゃ。
苺香の気持ちはパンツの力とは
無関係なのかもしれぬぞ

中島 陽太(なかじま はるた)

(もし、そうだとしたら……
俺はどうしたらいいんだ)

華胡(かこ)

どうしたらも何も、
おぬしの心にいるのは
本当は誰なのじゃ?

中島 陽太(なかじま はるた)

(それは……)

中島 陽太(なかじま はるた)

(珠來……だと思う。
だけど苺香ちゃんが本当に
俺を好きだとしたら、
拒む理由が見当たらないんだ)

中島 陽太(なかじま はるた)

(でも、俺が苺香ちゃんと
付き合うことになったら、
華胡が困るんだろ?)

華胡(かこ)

そんなことで悩むな。
わらわのことは
気にせずともよい

中島 陽太(なかじま はるた)

(だけど……。
『珠來とのことよろしく頼む』って
お前に頼んだわけだし……)

華胡(かこ)

確かにおぬしの言う通り、
わらわには珠來とおぬしの
祝福を司る使命がある。
しかし……

華胡(かこ)

おぬしが感情を押し殺してまで、
珠來と結ばれることは望まぬ。
それでは珠來も不幸じゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(だからって行けそうな女の子に
行こうとするのも、
男としてどうだろう)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

何を悩んでるの?



ハッとして声の主を見ると、
沙穂先生が立っていた。

中島 陽太(なかじま はるた)

さ、沙穂先生。
今、帰る所ですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ええ、そうよ。
元気がないみたいだけど、
何かあったの?

中島 陽太(なかじま はるた)

いえ、別に……
大したことじゃないですよ

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

やっぱり元気がないじゃない。
気分転換が必要ね……。
行きましょ?

中島 陽太(なかじま はるた)

行くって、どこに?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

良い場所があるのよ。
ついて来て



沙穂先生について行くと、
学校の裏にある山に到着した。


沙穂先生が一足先に小高い丘の山頂部へ行き、
手招きをしている。

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ほら、ここ。
街全体が見渡せるでしょ!



沙穂先生の横に立つと、
眼前には爽快な光景が広がった。

中島 陽太(なかじま はるた)

すごい……
学校の近くにこんな場所が
あったんですね

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

この山は、
都内で一番標高が低いんだって

中島 陽太(なかじま はるた)

へえー!
本当に良い場所ですね。
教えてくれて
ありがとうございます

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふっ、どういたしまして

華胡(かこ)

陽太よ。
ずいぶんとスッキリした顔を
しておるな

中島 陽太(なかじま はるた)

(そうか?)

華胡(かこ)

ああ。
さっきまで悩んでいたのが、
嘘のようじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

(そっか……
俺、珠來や苺香ちゃんのことで
悩んでたんだよな……)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

……で、そろそろ
聞いてもいいかな?

中島 陽太(なかじま はるた)

何をですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

さっき、校門の前で
何かを悩んでいたじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

あっ、はい……。
沙穂先生なら
話してもいいかな

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

どうぞ。
なんでも聞くから、
話してみて?

中島 陽太(なかじま はるた)

実は……



沙穂先生に、さっき校門で
起こったことのすべてを話した。

中島 陽太(なかじま はるた)

俺のウヌボレかもしれませんけど
もし苺香ちゃんが俺を好きなら
どうしたらいいでしょうか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

なるほどね……。
でも、悩む必要は
ないんじゃない?

中島 陽太(なかじま はるた)

えっ……どうしてですか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

嫌われてるなら困るけど、
好意を寄せてもらってるなら
良いことじゃない

中島 陽太(なかじま はるた)

そんな……。
沙穂先生は簡単に言いますけど、
苺香ちゃんを傷つけるかも
しれないんですよ?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そうして悩んで、
変に気をつかっちゃう方が……
ずっと、日下部さんを
傷つけると思うな

中島 陽太(なかじま はるた)

だ、だって……。
じゃあ、沙穂先生は
どうすればいいと思いますか?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

今のまま接していれば大丈夫。
日下部さんは、そのままの
中島くんが好きなんだから

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

恋人になれるかっていうこと
ばかり意識しちゃって、
友達ですらなくなったら……
お互いに悲しいと思うの

中島 陽太(なかじま はるた)

……そうですね、
そうかもしれませんね

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとうございます、
沙穂先生のおかげで
ちょっと楽になれました

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

どういたしまして。
でも女の子を泣かせるのは、
良くないなー

中島 陽太(なかじま はるた)

うっ……。
だって、あれは苺香ちゃんが
急に泣き出して……

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

来栖さんのことが心配で、
日下部さんにいろいろと
聞いちゃったんでしょ?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そういうのは、
そっとしておいてあげた方が
いいこともあるのよ

中島 陽太(なかじま はるた)

そうか……。
よく考えたら、俺は苺香ちゃんに
無神経なことをしましたね

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

無神経ってことはないわよ。
中島くんは、女の子の気持ちを
一番に考えてるだけだよね?



沙穂先生は、俺に向かって柔らかく微笑んだ。

中島 陽太(なかじま はるた)

(優しいな……。
沙穂先生のこういう所が
好きだな)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それで、キミはどっちが
気になってるの?

中島 陽太(なかじま はるた)

珠來……ですかね?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そっか。
来栖さんって、かわいいもんね

中島 陽太(なかじま はるた)

そ、そんなんじゃなくて、
一体何があったんだろうと
思ってですね!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

照れない照れない

中島 陽太(なかじま はるた)

照れてませんよ!
やっぱり生意気な珠來より、
優しい沙穂先生が一番かな~!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

キミはちょっと
優しくされただけで、
その人が気になっちゃうの?

中島 陽太(なかじま はるた)

そういうわけじゃないです!
誰でもいいって
わけじゃないんです、沙穂先生!

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

ふふ、ありがとう

中島 陽太(なかじま はるた)

(なんだか軽く
あしらわれてしまったような)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

あ、そろそろ帰る時間だわ。
もしこれからも相談したいことが
あればいつでも連絡してね

中島 陽太(なかじま はるた)

俺、沙穂先生の
連絡先知りませんよ?

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

そういえば、そうだったわね。
じゃ、LINEでいいかな?

中島 陽太(なかじま はるた)

ありがとうございます、
沙穂先生

中島 陽太(なかじま はるた)

(沙穂先生と
LINE交換できたぞ。
ラッキー)

倉敷 沙穂(くらしき さほ)

それじゃ、またね。
中島くん

中島 陽太(なかじま はるた)

はい、さよなら沙穂先生!

中島 陽太(なかじま はるた)

ふぅー。
今日は帰ってくんのが
遅くなっちまったな

華胡(かこ)

いろんなことがあった
一日じゃったのう

中島 陽太(なかじま はるた)

だな

中島 陽太(なかじま はるた)

おっ、沙穂先生から
LINEがきてる。
どれどれ……

『今日はお役に立てたかしら?
困ったことがあったら
いつでも相談に乗るわよ!』

中島 陽太(なかじま はるた)

はあぁ~……
やっぱり沙穂先生は優しいなあ。
俺を好きになってくれないかなあ

華胡(かこ)

おぬし……。
学校で真剣に悩んでおったのは
一体なんだったのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

沙穂先生のお蔭で
気分転換できたからな!
くよくよするのはやめたぜ!

中島 陽太(なかじま はるた)

あ、そうだ。
苺香ちゃんにもLINEしとこ

華胡(かこ)

そんなに移り気だから、
すぐに珠來を
怒らせてしまうのじゃ

中島 陽太(なかじま はるた)

ん?
なんか言ったか?

華胡(かこ)

フン、知らん!




その晩……珠來と苺香ちゃんと沙穂先生が、
俺を取り合っている夢を見たのだった。




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