ここかなあ?
魔女の家っていうのは。

大木に擬態したような家を
少女は見上げてつぶやいた。

魔女狩りから隠れるためなのかな。
ここに家があるって知らなければ、通り過ぎちゃう。頭いい。

そこまでは、頭いいんだけど…

こんなやかましくしてたんじゃ、擬態の意味がないんじゃないの!?

いてて…またやっちゃった。
あら? 外に誰かいるわ。

ドア開けっぱなしだし!
隠れる気あるの!?

ノーラ、お客さんよ!
椅子の上のものをどかしてちょうだい。

片付けくらい普段からしとけよ!

ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、少女は
魔女の家へと招き入れられた。

おばあ様のかたき討ち、ですか。

少女を椅子に座らせて、
魔女の弟子が復唱した。

私はルー。
近くの村に住んでます。

あ、これ。
お近づきの印に、どうぞ。

これはどうも、ご丁寧に。

あら、いいとこのぶどう酒ね。

ほどほどにしてくださいよ。チバリ様、酔っぱらうと踊り出すんですから。

ノーラはそう言うけどねえ、踊ることの何が悪いのよ。何ならシラフでも踊るわよ、私は!

コホン。

と、ルーが咳払い。

魔女さんたちは、この森に住みついている、食人鬼のことはご存知ですか?

食人鬼。
おどろおどろしいその響きにも、
チバリは平然とうなずいた。

〈狼〉って呼ばれてるやつでしょ、知ってるわ。森を一人歩きする人が、次々殺されて、食べられてる。

最初は本物の狼の仕業だと思われてたんですってね。でも内臓を暴くのに道具を使った形跡があって、人間の仕業だとわかったって。

軍の討伐隊が出ないものだから、近隣住民が賞金を懸けて、退治人を募集しているとか。かなりの額が集まっているそうですね。

そうです。それでも退治を申し出る勇気ある人はいなくって。

事件が起こり始めてからは、村の人たちも一人で出歩くのは避けてたんです。
でも祖母は、森に一人暮らしで…

そこに〈狼〉が?

うう…っ

ルーは唇を固く噛んで、
ローブの肩を震わせた。

〈狼〉は祖母をだまして家に押し入ると、打面がトゲトゲしたハンマーで…

ミートハンマー使うのね、狼。

祖母を打ち据えようとしたのですが、祖母はお湯をぶっかけて応戦し…

話が変わって来ましたね。

ひるんだところに水がめを投げつけ

強い。

〈狼〉はほうほうのていで逃げ帰ったのですが…

わあ…強い。

でもそのせいで、祖母はぎっくり腰になっちゃったんですよ! 許せません!

そのおばあ様なら、そのうち回復して、自分でかたきを取るんじゃないでしょうか。

でもま、かたき討ちならいい薬があるわ。あなたを誰にも負けない力持ちにしてあげる。

よいしょっと。

椅子に上り、棚に手を伸ばす。
しかしそのとき。

待ってください。

うひゃあっ!

ノーラがその椅子を後ろに引いた。
両手を広げてバランスを取るチバリ。

薬って、腕が巨大化するやつですか? 魔女狩りを叩きのめすのに使ってる。

そんなことやってんの?

いいえ? あの薬は派手だから、ビビらせて楽しむには良いんだけどね。

そんなことやってんの??

今回は見た目はそのままで、力だけ強くなる薬をおすすめするわ。

どちらにせよ、チバリ様が普段使ってる薬ですよね。それを売るなんて、私は反対です。

あらどうして?

とりあえず、椅子動かしながらしゃべるのやめたらどうですかね。

チバリが乗った椅子を
ずるずる下げ続けるノーラに、
ルーが呆れたように言った。

よく落ちないなあの人も。

体重のかけ方がコツなのよ。

って、うわっ!

あ、落ちた。

pagetop