数日が過ぎた。

 ルイの怪我は見た目ほど酷いものではなかった。


 コレットが事前に防御魔法をかけていたので、大事には至らなかったそうだ。


 迎えに来た叔父と共に帰ってくる姿をエルカは名残惜しそうに見送った。


 エルカも軽傷だったので、重症だったソルが最後に退院している。


 退院後、エルカとソルはコレットのもとに身を寄せた。


 ナイトは職場で寝泊まりしながら働いている。


 仕事のためだと言っていたが、本当はコレットから離れていたいだけ。


 ナイトはコレットが苦手なのだろう。


 エルカの親代わりを自認していたナイトだが、さすがに母親代わりにはなれないことを今更痛感しているようだ。


 引っ越すことについて、コレットもソルも同意してくれた。


 どうやら、引っ越しのための手続きに時間がかかるらしい。


 住人が街を出ることは基本的には自由だが、転居後の仕事と住居探しには時間がかかる。

コレット

エルカの通う学校の手続きは滞りなく済みそうよ。一応は私が保護者だけど、離れて暮らしているから身元保証人はバラトさん、ルイくんの叔父さんになるから、着いたらしっかり挨拶するのよ

エルカ

この前、迎えに来た人だよね。わかったよ

コレット

住むところもバラトさんにお願いすることにしたから。同棲だからって、羽目を外さないこと

エルカ

へ?

 きょとんとするエルカにコレットが苦笑する。


 同棲。


 そう言ったような気がした。

コレット

バラトさんの探偵事務所兼住居の部屋が余っているそうなの。だから、そこを借りることになったわ

ソル

つまりは、ルイとも同居ってことか……ナイトがうるさくならないか?


 ソルが渋面を浮かべる。

コレット

安心安全な物件じゃないと私も心配よ。意地でも着いて行きたくなるわよ。それは嫌なのでしょ?

エルカ

うん、嫌だ

コレット

正直な子ね。それに、バラトさんも忙しい人なの。仕事で数日家を空けることもあって、そのときにルイくんをひとりにするのが心配なのよ。

コレット

大人のナイトくんか、ソルくんがいると安心するだろうって

ソル

なるほどな……オレは何の力にもなれないが

エルカ

ソルだって、いないよりは安心できるよ

ソル

それは、褒めているのか?

エルカ

そうだよね。帰ってきて一人なのは寂しいよね。ソルは仕事しないだろうから、帰ってきたらいてくれる。それだけで安心できる

ソル

それは、褒めてないよな

コレット

あら、ソルくんにはバラトさんの雑用をお願いするわよ。雑用係が欲しいって言っていたから

ソル

雑用係なんだ……

コレット

ソルくんのスキルでは、助手より雑用係の方が良いでしょ

ソル

雑用係、喜んで引き受けます

 住む場所と、ソルの仕事も決まってしまった。


 因みにナイトは転居先の自警団に入ることが決まっている。

コレット

さっそくだけど、荷物の整理を頼めるかしら? 私とエルカは少し出掛けるから

ソル

了~解

 ソルは欠伸を噛み殺しながら、積み上がったままの荷物と向き合った。




 コレットが軽い足取りで歩き出したので、エルカは慌ててついていく。


 向かったのは、つい最近までエルカたちが住んでいた場所。

エルカ

何も残っていないや

コレット

そうね……この土地は私が頂くわね。広い土地が欲しかったの

エルカ

………勝手に使えば良いよ。コレットはお爺様の娘なんだからその権利はあるでしょ?

コレット

そうね。でも……私は、大きな屋敷なんて要らないわ。薬草園と小屋があれば十分……だから、広大な薬草畑が出来そうね

 老朽化が進んでいた屋敷は生存者を救出した後、速やかに取り壊されていた。


 あの地下に続く扉があった場所は見る影もない。


 エルカたちは入院していたので、生活用品や私物を回収する余裕などなかった。

コレット

勝手に取り壊してごめんなさい。魔法使いが所有した屋敷だからね……内部をあまり人間に調べられたくなかったの

エルカ

大丈夫だよ……私物なんて大したものはなかった。彼の作ってくれたノートとコレットがくれた本さえあれば十分

コレット

大事にしてくれてありがとうね

エルカ

大事なものだもの

コレット

地下書庫は貴女のお爺様の作った魔法空間。だから、なくなることはないわ。エルカにとって大事な場所はちゃんと残しておくわよ。

コレット

小屋を建てたら新しい扉を作るわ。管理者は私。あの人の娘である私ならあの地下書庫に繋ぐことが出来るから。欲しい本があったら送るわよ

エルカ

……うん、ありがとう………引越しのことも助かったよ

コレット

あの男には任せられないものね

エルカ

うん、任せていたら引っ越せないところだったよ

 私はコレットを見上げて微苦笑を浮かべる。


 頼りになるはずの義兄ナイト。彼は自分の能力を過信していた。


 彼は街の外に出たことがない。切符の買い方、列車の乗り方も知らなかった。



 彼は自警団に駆け込み、若い団員を脅して列車の切符を要求していた。


 それを目撃したエルカとソルに連れ戻され大事には至らなかった。



 どうやら彼は力押しで切符を手に入れるつもりだったらしい。


 このままでは街を出る前に傷害事件を起こすのでは………

 そんな不安を抱いたエルカはコレットに協力を仰ぐことにした。


 可愛い娘からの相談を受けた彼女の行動は迅速だった。


 今回の事件の後始末だけでなく、引っ越しの準備までコレットが進めてくれた。


 更に引っ越し先の自警団への配属も手配してくれた。


 きっと、ナイトは今後もコレットに頭が上がらないだろう。
 

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