17 突撃!突貫交渉人 その7
ちいいいいいい!
飛来した矢を身を捩って回避する。壁に突き刺さる矢。
一体どこから!
避けられちまったかーー!
牢の外! 矢をつがえる女あり。
そりゃそりゃ、ぶっ刺してやるよ。お?
再び弓を大きく引きしぼる――
おい、まさか、やめろ!
あ、危な、ふ、ふざけるな……!
助けてくれーーー!
牢の中はさながらダンスホール! 二人の男が、必死の形相で回避行動を試みる。息切れ、額から汗が滝のように流れ落ちる!
ギャハハ、踊れ踊れーー!
はあ、はあ……
閉じ込めておいて、攻撃するとはどういう了見だ!? 矛盾している……!
た、確かに。殺すつもりならわざわざ牢に入れる意味がない。
利用価値があると判断したからに他ならない。軽はずみなまねはよしたまえ!
調べてもなんにも出てこなそーって思われたんじゃないのー?
ウチは、おやびんに後始末を任されたのさ!!
た~の~し~いマトになりなあ~!
ウワーーーそんなァーーーー!
絶望……! 目を背け耳をふさぎ、現実を否定したくなる!
逃げ回るのにも限界があるぞ!
何か手はないのか人形遣い! さっきみたいな技は!
無茶な! 逃げ回りながらではさすがに無理だよ!
ーーーーーーーーくそ!
・ ・ ・
止まれば、手はあるのか? 可能性でいい!
ん? まあ、時間が稼げればできないこともない……が……
1分だけやる!
!!
ファンバルカの前に、身を挺すように立ちふさがる。
どういうことか。狙ってくださいと言わんばかりだ!
おんやあ~~これはでかいマトができたなあ~
ヤケになったやつは動きが単純なんだ。
そういう奴を仕留めるのは楽しーーんだよ!
ヤケではない……分の悪い賭けには乗らない主義でな。
俺が乗るのは……生き残る、道だ!
堂々と正面をむき、顔・胸急所のみをガードした体勢で敵に臨む――!
無論そんなもので、至近距離からの矢は防げぬ。しかし。しかし……!
およ!
感覚を研ぎ澄まして矢が体に突き刺さった瞬間に矢柄を掴み取とり、それ以上の侵入を防いだのだ!
ぐう……!
これなら……致命傷にはなるまい……
ぎえーー自傷趣味の変態でやんの。そっちがその気なら……
無防備な太ももを狙われる! 防ぐこと叶わず、縫い止めんが如く深く肉に潜り込む矢。残酷極まりない! 相手を傷つけることに何らためらいはないのだ! それを、
~~~~・ ・ ・
信じられぬ、声一つあげずに耐えている……! 身じろぎさえしない。視線をブラせば、せっかくの守りが崩れることを理解しているのだ。
冗談じゃねえ……そんなデタラメでウチの弓術が破れてたまるかってんだ……
あまりの気迫に、ジリリ、知らず一歩足が後ずさる……
――そのとき!
待たせたハウス君!
満を持して声を張り上げた人形遣い。しかし一体何を。牢屋の中には土塊しかない。土人形ごときで打開をしようというのか……?
いや、ある。他にもこの場には大事なものが存在していたのだ。
――それは先程から無防備に消費していた、矢。
\ジャーン/
・ ・ ・ ン?
おい、またろくでもない土塊か!?
僕が同じ手を取るわけないだろう……
さあ、行きたまえ!
トコトコ
土人形は鉄格子の隙間を通って敵のもとへ!
およッ なんだよこっち来んな!
ヘッ、なんてね! 人形ごとき、踏みつけてぺしゃんこにすればオシマイさ!
大きく足を振り上げ、人形を踏み潰す。ああ、なんという短い寿命だったことか……!
!
いや……!
いる……!
飛びかかれ!
にゃーんだとーー!? 潰れされてなんでピンピンしてんだ――――うぉぁ!?
うぺぺっ顔に張り付くな、ま、前がみえぇえええーーーー!
弓兵の顔にしがみつく人形! 邪魔をするだけなら力はいらぬ。
骨組みが違うのだよ……! ちょっとやそっとじゃ壊れないよこいつは!
フッフッフ、僕の人形操術に手も足も出ないようだね。
イヒ、ヒヒヒーーーー!
お得意の独断場である!
なぜだかデジャヴュがあるぞ、ぐおおお……
ちょーーしこいてんじゃねえ!!
顔面から力の限り剥がされ、放り投げられた後に容赦ない踏みつけ。今度はそれだけでは終わらぬ。グリグリと踵を捻り込み、決して逃さぬ構え!
うぐッ……!
胸の痛くなる破砕音――
はあ、はあ、今度こそぶっ壊してやったぜ……
そしてあんたらも後を追いなァ!
今度こそだめだ! 頼れる人形は中身を無惨に撒き散らし、ハウスは限界が来たのかすでに力なく膝をつき。
そして人形遣いは人形がいなければ戦力などにならない……!
だが、僕らの勝ちだな。
!?
“時間”を、かけすぎなんだよ。
にゃばっ……!?
突如飛来した横薙ぎの斬撃に、錐揉み回転で吹き飛ばされる弓兵!
ご無事ですか。
戻ってきたのだ。我らが戦乙女が……!
わかめ!!
海藻が顔に肩に、張り付いている……! 生命の息吹感じる磯の香り!
それだけ、大急ぎで来てくれたということだ……ありがとう、ビエネッタ君。
ゲホッゲホッ……なんだこのホラーみたいな女……
ウチがボコボコにしてやるからよ、牢の中から絶望しながら眺めて――――
ーーーーーーーーホゴォ……!
啖呵途中のみぞおち! 悪魔のような容赦の無さである。糸が切れたように崩れ落ち、今度こそ完全に落ちた弓兵。
なんというか、敵ながら労いたくなるね……
しかし、よくやったビエネッタ君!
そいつは鍵を持っているかな? 探してみてくれ!
鍵?
ゴソゴソ
それらしいものは……ありませんね。
なんだと! じゃあ状況は打開できないって言うのか……!
太さおよそ2マイカ。腕よりは細い……
ファンバルカ様、ビオラ=エイルを使用しても?
えっ……うーん、使いすぎは君の活動に関わるが……
しょうがない、少しだけだぞ。
待った。海底でどれだけ消費してきた?
チッ
構わず着火!
鈍い音を立ててきしんでいく鉄棒。信じられぬ力である。
今舌打ちしなかった!?
疑惑!
それはそうと、無事に牢を脱出し、再開を喜ぶ二人。
助かったよビエネッタ君。そして君が無事で本当によかった。
当然のこと。
主の危機に駆けつけられぬようなら、そんな人形に存在価値はなし。速やかな廃棄をお願いします。
さあ、早く。
廃棄されたがってない?
あの鉄棒を捻じ曲げるだと……その細腕でなんという馬鹿力だ……
ビオラ=エイルは僕の発明品でね……彼女の体内を巡り、自律行動をするための原動力となっている。
それに加えて、駆動部に直接送れば今のような瞬発的なエネルギーを放出することができる。
お前は危ないものしか作らないのか? ……18年前の悲劇だってそういう危ない思想が、ブツブツ……
……
まあ、それのお陰で危機を脱せたのも事実。不本意だが今回は何も言わんよ。
フフ……物わかりが良いのは嫌いじゃないよ……
打算と妥協。綺麗事だけで物事は進んでは行かぬ。
こんなところ、早く脱出してしまいましょう。
待った。ドネル伯を確保しなくてはならない。
ここで逃がせば、どんな悪事を起こすかわかったものじゃないからな。
よし、それではお礼参りと行こうじゃないか。
グフフフ……僕のお礼は重たいよ……
「お礼」とは、このように嫌らしい顔をしながら使う言葉なのですか?
真に受けるな……
続く