16 突撃!突貫交渉人 その6
……ん……む……
ゲホッハッ……!
激しくむせる。
はあ、はあ……生きていたか……ここは……?
目が覚めたようだな。
うおっ寝覚めに出会いたくない顔。
それは残念だったな。お前にダメージを与えられて、嬉しいよ。そのまま死ね。
強烈なしっぺ返し!
カジュアルに悪態をつくんじゃなかった。
それにしても、と周りを見渡す。湿った土の床と、頑丈な鉄格子。
ここは牢屋か……? なぜ。
ビエネッタ君は!? いないのか!?
牢の中には……二人だけ!
どこへ……! 無事だろうか……?
さあ、わからんが……
……あの体で水に浸かって、大丈夫だったのか? とっくに川の底に……
やめろ!
大丈夫、彼女には強力な防水性能がある。大丈夫……
沈んだかもしれない、だと……? はあ、はあ……
くだらないことを言うな!
…………
この牢は、なんなんだ! なんで閉じ込められてるんだ僕らは。
どうやら、俺たちが目覚めるのが遅かったようだな。連中に先を越されたようだ。
連中とは……?
図ったようなタイミングの足音と共に現れたのは――
ようやくお目覚めかねーー!
ドネル伯!
・・・
そしてもうひとり。怪しげな男が後ろに控えていた。
橋から落としてくれてどうなることかと思ったが、アジトの側まで流れ着いたお陰で色々助かったわい!
アジトだと……?
! もしやここが、お前が資金を提供していた反社会的勢力……!
ほほーー! その通り!
その男が組織の人間か……
・ ・ ・
金さえ払えば何でもやってくれる連中よ。
カディナスも色々と立て直しを図らねばならん時期。彼らの力が役に立っておるのよ。
もはや隠すつもりはなさそうだな。
失脚だけで済むと思うなよドネル伯。裁きにかけ報いを受けさせてやる。
ほっほ、立場がわかっておらんようだな。
中央の犬か……調べられるだけ調べたら、始末してやる……
むき出しの憎悪を向けられる。
あの、僕は中央の人間でもないし、無関係。見逃してもらえませんか。
命乞い!
カッカッカッ…………無駄!
笑いながら立ち去っていく。
・ ・ ・
……?
じっとファンバルカの顔を見つめる。
ヒソヒソ 睨まれてる! 居心地が悪いよハウス君! お助けだよ!
知らんよ……顔が気に入らないか、どこかで恨みを買われたか……
これを機に行動を見直したらどうだ?
求めた助けは通らず、帰ってきたのは説教。現実である。
僕とて四方にけんかを売っているつもりはないのだが。
・・・
睨んでいたのは何だったのか、結局は無言で去っていった。
さてどうするか……ここでのんびりしていたら奴らの思う壺だ。なんとか脱出しなくてはならないが。
・・・
ファンバルカは答えない。そしてあろうことか鉄格子に背を向け、土をいじりだした。
おい、何をしている、気でも狂ったか。
イラ
イラ
……腹が立ってきた。
いじけてる場合か! なんだ? 人形が行方不明でショックか?
そんなことをしている暇があったら、脱出の算段でも立てろ! 鉄格子くらい確認したらどうだ!
鉄格子? 最初に調べたよ。
人の手で簡単に開けられるようなものじゃないさ……
ビエネッタ君がいなくていじけているだって? フフ、心外だな。
その間、土をいじる手を止めることはなく。
僕は彼女に何かあっただなんて、まるで信じちゃいない。だから――
彼女のためにできることを一つずつ、こなすだけさ。
ほら、できた。なかなか可愛く仕上がっただろう。
ジンジャークッキー。
その泥人形がどうした?
うん……まあ……いいけどさ。
彼らのサイズなら鉄格子など、物ともしない。
さあ、行ってビエネッタ君を見つけてくるんだ。
ミー
キー
トコトコ トコ
鉄格子を抜け、よちよちと頼りない歩みで進んでいく人形たち。
彼らはろくな能力を持たぬ。戦う筋力も、鍵を開ける器用さも何もない。
だが、“見つけてもらう”ことはできる。
彼女が見つければ、たちどころに意図を把握し、こちらに駆けつけてくれるだろう。
それまでの間、僕らにできることは時間稼ぎだ。
時間稼ぎ……?
危ない――ッ!!
どこからともなく飛来する、命を刈り取る一撃!
続く