14 突撃!突貫交渉人 その4

ファンバルカ

ふむぅ。鼻は少しだけ左に。

――――

ビエネッタ

ロバート、いる~?

ビエネッタ

これ……わたし……?

まるで鏡を見ているよう。小屋を訪れたビエネッタを迎えたのは、姿かたち寸分たがわぬ人形。

ファンバルカ

ビエネッタか。も少し待ってろ。あと少しで完成する。

ビエネッタ

ロバートのお仕事って初めて見たけど、なんかほんとすごいのね……?

ビエネッタ

人形遣いって言うから、手乗りのぬいぐるみとかそういうの作るのかと思ってたのに。

こういうのとか

こういうのとか

ファンバルカ

ちっこい人形も作るさ。正直そっちの方が性に合ってるかもしれない。

ファンバルカ

けど、今回はこっちじゃなきゃ、な。

ビエネッタ

よく出来てるのね……

白磁の肌に、内側から光るようにほのかに差す赤み。もちっとした肌の表面を軽く押すと、想定より固めの感触。そこで初めて、人との違いを感じる。

背中からは、無数の極細の糸が生えている。これで人形を操作するのだろう。

ふに 
      ふに  ゴツン

ビエネッタ

思ったより中が硬い……

ファンバルカ

だろう? 剛性がかなり強い材料を使ってる。

ファンバルカ

この人形に、君の代わりを務めてもらう。近々家で儀式があるんだろ?

ビエネッタ

え? でもわたしじゃなきゃ無理よ。神託を聞かなきゃいけないんだもの。

ファンバルカ

だから、適当なお告げをしてやるのさ。馬鹿馬鹿しいやつをね。

ビエネッタ

失敗しちゃうわ!

ファンバルカ

その通り。

ビエネッタ

怒られちゃうわ!

ファンバルカ

そしたら? 君の親は殴るだろう。この人形を。

ファンバルカ

カッチカチだ。アッハハ!

ファンバルカ

そしたら少しは反省するだろうさ。君に辛いことばっかりさせる連中もね。

ファンバルカ

カッチカチ……うふ、ふふっ……

ツボにはまる。さざなみのごとく肩を震わし。笑顔などあまりの見られない彼の、珍しい姿だった。

ビエネッタ

ロバートってすごい作戦立てるのね?

ファンバルカ

くく、根が性悪なんでね……悪巧みなら任せてくれよ。

ここはアバラヤ。

ビエネッタ

まあ。喋るのね。

ファンバルカ

もちろんさ。声もだいぶ似せたつもりだが、どうかな?

ビエネッタ

そうね、似てると思うわ。

ア ア ア 晴天。

ビエネッタ

も~~~! でも全然ダメダメじゃない!

ファンバルカ

期日までに物にするから任せとけって。

ビエネッタ

ほんとにぃ~?

アバッ アバラヤ

なんとかの一つ覚えである!

ふぅむなかなか趣のある屋敷じゃの……

ジロ

ジロジロ

ジロ ジロ

ムフー―

あまり視線をさまよわせませぬよう……

ビクーン!

は、ハフ。驚いた……これ、貴賓を驚かせるでない……

この屋敷には数多くの神秘が眠っております故。いたずらに踏み込めば、戻っては来れぬでしょう――

ビクビクーーー

キンバリー家。占いの分野で、その道の人々から絶大な信頼を誇る古の一族。今宵もさる高貴なお方が、その霊験にあやかろうと屋敷の門を叩く――

さ。こちらでございます。お客様。

お客様って……余は物見遊山で来た者じゃないんだぞ。今回の占いと、余の行動如何で世の中が大きく動く、そういうたぐいの、ブツブツ……

たどり着いた、両開きの扉。

わたくしはここまで。

中に巫女が控えております故、あとは彼女にお任せを。

疑いと雑念を捨て、全てを委ねてください。さすれば、たどり着きましょう。

……ゴクリ。

茶の間。

またまたおかしな部屋に出たが……

ここは神の遊び場。

ムッ

当代の巫女、ビエネッタ・キンバリーにございます。

お客様の願いをどうぞ。

そ、そうじゃの。

余は次なる選挙にて確実に当選しなくてはならない。

近々行われる大改革。詳しくは言えぬが、余もそれに大いに貢献せねばならぬ。

そのためにはまず当選しなければならんからな……確実に当選する道を、頼むぞ。

なんじゃその顔は。いかような願いであっても叶えると、先方は申しておったぞ。

無論でございます。

では――

周りがにわかに暗くなる。

ダイコン。

は?

ダイコンを……風呂釜で漬け込むのです。

は?

いや、何の話? 選挙どこ?選挙とは?え?

お静かに。心を揺らしてはなりませぬ。

全てに意味があり、全てが神託なのです。

一つ一つの意味を測れなくとも、必ずそれは、大いなる目的に集うもの。

……ゴクッ

そして漬け込むこと十日間。次の満月の夜にて。

熊の皮を身にまとい火を囲んで踊るのです。

う……

う……?

ウホウホ ウホウホ

どうしたら良いのという顔。

暗黒ミサがたけなわなになった頃、生えてきたたけのこを、

もうよい!!

黙って聞いておれば世迷い言ばかり。余をからかうのを大概にしろ!

この報いは必ずさせてやるぞ……!

鼻息荒く、立ち去る依頼主。

なんという体たらく。これが噂に名高いキンバリー家の占いの実態だと言うのか……!?

続く

14 突撃!突貫交渉人 その4

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