突撃!突貫交渉人 その3

…………

ビエネッタ

・ ・ ・

両手を広げると、隠された短剣がバネのごとく飛び出し手に収まる。

ファンバルカ

まずはお手並み拝見だ。用心したまえよビエネッタ君。

ビエネッタ

行きます。

様子見だけで戦には勝てぬ。覚悟を決めたら、駆ける、のみ!

岩すら斬り裂かんばかりの重量級の一撃を、ナイフで受け止められる。なんという筋肉か。――いや、うまく力を流したのだ。

ビエネッタの姿勢が傾ぐ。

そこに畳み掛けるように斬撃の嵐! 姿勢を崩したビエネッタに避けることはできない――いやこれは! 不安定な状態でわざと倒れ込むことで回避を果たした。

そして地に手を付き強烈な蹴りをお見舞する。死角からの蹴り上げにたまらず体を浮かす御者。

ビエネッタ

姿勢を回復させた二人が相手に斬りかかるタイミングは……同時! 再びの鍔迫り合い。

速さと、重さだけ……だな。

ファンバルカ

気味の悪いステップを踏んだかと思うと、気づけば眼前に! 視線を騙す高等技術!

ビエネッタ

ーー!

ファンバルカ

ビエネッタ君……!

先に攻撃が入ったのは、御者の一撃。腕を浅く切り裂かれてしまった。

悲鳴一つ上げんのは……見上げたものだがな。

ファンバルカ

速さと重さだけだと? 言ってくれる……

ファンバルカ

確かにビエネッタ君が持つ戦闘能力は、ど素人の僕が盛り込んだもの。

ファンバルカ

雑な言い方をすれば人間離れした筋力と、痛みを無視できる加速力くらいしか取り柄はない。

ファンバルカ

本物の達人には敵わないというのか……!

ビエネッタ

……

ビエネッタ

まだありますよ、取り柄は。

懲りずに突撃か。よかろう、切り刻んでやる!

ビエネッタ

……!……!

必死に耐えるが、右から左から変化自在の攻撃に受けるだけで精一杯だ。

ビエネッタ

!!

ついには剣を取り落とし……

落とした剣の柄を、自ら踏み込み橋床に突き刺した! !? これでは使えぬ――

ぐほぁ……!

なんと……! 突き刺した剣を軸に、体ごとぶんまわしドロップキックを決めたのだ! 剣より遥かに長いリーチに惑わされ、もろに脇腹をえぐられる御者。

がかっごぽっ……ありえねえ……重さ……なんだその体!?

ファンバルカ

ふふん、ビエネッタ君は、そこの馬の3倍くらいは体重がある。なめてかかると……火傷するよ。

ビエネッタ

体の重さが火を起こす?

ビエネッタ

それは知りませんでした。今度ファンバルカ様に乗っかり、お試しても?

ファンバルカ

むろん、よろしくない。

始末してやる……!

軽やかなナイフの舞いを、剣で、はたまた足で、全身を使って暴力的に弾き返す。

ファンバルカ

……?

小さな違和感。

ファンバルカ

さっきに比べて、敵の攻撃が手ぬるくないか? 流石に疲労……?

その答えは、瞬時に判明する――!

ビエネッタ

!?

踏 み 抜 い た !!

重量級のビエネッタの体が、橋板を貫通し体半ばまでめり込む……! 度重なる負荷に、ついに橋が限界を迎えたのだ。橋の上で戦うなど、そもそもが不利だったのだ!

フンッ

それを待っていたとばかり迫る御者。いけない、ビエネッタは身動きが取れない!

ビエネッタ

―――!

ファンバルカ

ビエネッタ君!!

ビエネッタ

ここでわたくしが倒されれば? 次はファンバルカ様でしょう。

ビエネッタ

ファンバルカ様にこの暴力をくぐり抜けることはできない。――ならば。

ビエネッタ

――ファンバルカ様! 「お任せください」!!

逡巡、それは瞬きほど。

ファンバルカ

「任せた」!!

言葉が宙を漂うのと同時、ビエネッタは踏み抜いた穴にはまったまま、むちゃくちゃに暴れだした!

……!?

ああ、ああそんなことをすれば更に穴に深くはまってしまう。さすがの御者も距離を取り様子を――

様子見などしてはいけなかったのだ……!

彼女は、穴から這い出す努力などしなかった。ただ、その穴を広げたのだ。戦いがうやむやになるくらい、ひどく大きくて雑な穴を。

――すなわち。

おい、おい、おい! 傾いとる……!

ハウス

何を考えてるんだーー!?

ウォォォォォォーーーーーーーーーー!

落ちる! ドネル伯も御者も、ハウスも。ファンバルカもビエネッタも等しく……! 敵も味方もなく眼下の川にめがけて落下する!

ファンバルカ

想定外ーーーーー!? 失敗だったかな――――!?

ビエネッタ

お任せいただけたのではないのですか。

ビエネッタ

所詮その程度の信頼でしたか。

ファンバルカ

あれっ責められてる……!? 僕の方がおかしい世界線……!?

ビエネッタ

お任せくださいと、そう申し上げたはず。

両腕で、しっかりとファンバルカを抱きしめる。

ファンバルカ

……!

そのままもろともに、落下する――!

続く

13 突撃!突貫交渉人 その3

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