10.地図になき村(前編)

 SNSに心霊スポットの写真を上げるようにしたきっかけは暇つぶしだった。始めは期待などしなかったが退屈を埋めるほど注目を浴び、いつの間にか生きがいになっていた。

 怖いもの見たさもあった。

 注目も浴びたかった。

 退屈から抜け出したかった。

 ただ、それだけだったのに俺は欲を出し過ぎたようで罰を受けようとしている。

 助けて欲しい。こんな俺を退屈な日常に戻してくれ。

山野

俺は助かるのかな

ノエル

助けますよ

山野

でも相手は窯を持ってる

山野

異常だ。殺そうとしてる

カイト

たく、考えてないでとっとと逃げるぞ

山野

逃げるって――囲まれている。どうしよう

ノエル

はい。山野さん、私に捕まって下さい

ノエル

飛んで逃げます

山野

飛んで、あ、天使だったね

ノエル

さあ、手を!

山野

はい

山野

これで大丈夫なの

カイト

心配なら俺が抱えてやろうか

山野

あー、できればノエルちゃんがいいな

カイト

こいつ

ノエル

準備はいいですね。行きます

山野

体が浮いてる。やった俺は助かったぞーーー

カイト

あんまり喋ると舌を噛むぞ

ノエル

いいじゃないですか。嬉しい時は

山野

だって映画みたいじゃないか。こんなに爽快な脱出は体験したことはないよ。カイトくん

カイト

まるで子供だな。おい

ノエル

このまま山の麓まで行きましょう

カイト

そいつはよした方がいい

ノエル

どうしてですか

山野

そうだ。さっさと離れた方が良い

カイト

周りを観てみろ

ノエル

周りですか

カイト

山奥とは言えおかしいだろ街の明かりが全く見えない

ノエル

そうですね

山野

低い位置にいるからだろ。もっと高いところに行けば見えるんじゃないの

カイト

それにしては暗すぎる。それにスマホを観てみろ

ノエル

スマホ?

山野

電波が届いてない。でも、山奥だし……アレ、ここって空中だよな

山野

それなら電波が届いてもおかしくないはずだ。どうして届いてないんだ?

ノエル

私のスマホも届いてないです

ノエル

これはおかしいですね。私のスマホは天界製です。人間界の何処にいても通話が出来るはずなのに電波が届いていない

ノエル

もしかして……ここは

カイト

ああ、ここは俺達がいた世界と別の世界

カイト

異世界ってやつだ

山野

異世界、異世界ってファンタジーだろ

カイト

おっさんの思っている異世界とは違うようだな

ノエル

いつの間に異世界に来てしまったのでしょう

カイト

多分、トンネルだな

ノエル

トンネル、旧犬鳴トンネルが異世界に繋がっていたのですか

ノエル

でも、どうして

カイト

理由はわからない。だが、トンネルはこの世界に繋がっていた。それだけは真実だ

山野

それが本当だとしてどうやったら帰れるんだ

山野

帰りたいよ

ノエル

カイトさん

カイト

情けない声を出すな

カイト

トンネルからここにこれたことはトンネルを通れば帰れる

カイト

――はずだ

山野

はず! 確定じゃないのかよ

カイト

しょうがないだろ。俺はそこまで詳しくないんだ

ノエル

まあまあ、可能性があるじゃないですか

ノエル

とりあえず試してみましょう

山野

し、しょうがないな

ノエル

とにかく、急いでトンネルに行きましょう

カイト

そうだな。ここで言い合っても疲れるだけだ

山野

そうだな

ノエル

はい。早く帰りましょう

ノエル

トンネルは……あそこですね

ニック

キューーー!

カイト

待て、何か……動いてるぞ

ノエル

カイトさん?

山野

ノエルちゃん、ア、アレ!?

ノエル

何ですか。アレは!?

カイト

蛇、それにしてはデカすぎる

カイト

山と同じ、ここら周辺を胴体で囲んでいたのか

山野

生物としてありえない。怪獣じゃないか

カイト

まさか俺達に気づいて動き出した

カイト

くそ、急いでトンネルに向かうぞ

ノエル

はい

 山と観間違えるほどの大蛇はうねりを上げ大地を揺らしている。

 行動にどのような意味がなるかわからないが大蛇はノエル達に向かっているような気がして仕方がなかった。

 ノエルは必死にトンネルに向かった。

 トンネルに入り後ろから聞こえる轟音を気にする暇などなくトンネルを抜ける。

 気づけばトンネルの外で疲労した体を休めていた。どうやら元の世界に戻ってきたようで街灯の光がノエル達を照らしていた。

10.地図になき村(前編)

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