04 洞窟に潜む魔物 その2

ファンバルカ

だいぶ奥まで来たが。

巨躯。存在感。大。

閉塞感ある洞窟の奥には、端の見えぬほどの広大な広間が広がっていた。その中央で、まず目を奪われたのが、人の身の丈の3倍はあろうかという大型の魔物。

ファンバルカ

どうやらあれがボスのようだね。

ビエネッタ

大猪。押しつぶされてはひとたまりもないでしょう。

ファンバルカ

手強い相手だ。苦戦は避けられないだろう。

ファンバルカ

でも、やってくれるね、ビエネッタ君。

ビエネッタ

苦境は、わたくしが躊躇する要素ではありませんから。

ビエネッタ

――――行きます。

BOOOOOOOO!!

すぐにこちらを察知した。緩慢な闊歩から一転、筋肉が緊張するように盛り上がったかと思うと――魂を揺さぶる威嚇! 並の人間なら足がすくんで立ち止まってしまうだろう。そしてそれは致命的なラグとなる。

だが、人形であるビエネッタは意に介さない。振るわれた巨大な前足を横ステップで避け、更に本体へと肉薄する。

ビエネッタ

―――――!

ファンバルカ

むぅ……!

攻撃直後の硬直を狙ったはず。しかし恐ろしいほどの速度で体勢を立て直し、再度の追撃。ビエネッタの卓越とした斬撃を、単純な物量で無効化する大猪。

そしてそのまま真横から津波のような平手打ち。 ビエネッタは為す術もなく吹き飛ばされる……

と思いきや、動かない……!

ビエネッタ

――――

火花! ビエネッタの足元で小さな爆発。起爆剤たるビオラ=エイルを体内で爆発させ、反発力の足しにしたのだ。

ビエネッタと、サイズ感のかけ離れた大猪のぶつかり合い。絵面だけみれば冗談のような均衡がそこにあった。

ファンバルカ

ビエネッタ君! ビオラ=エイルは君の活動を支える原動力でもある。使いすぎに気をつけなよ!

ビエネッタ

承知。つまり、使い切る前に倒せばよい話。

GUOOOOOOOOOO!!

押し付けられた前足。僅かにバランスを崩して隙を作る。体重を乗せていた大猪の前足がよろめく、そこに刺突。己の力の勢いのままに、深々と刺さる剣。

あまりの痛みにのたうち回る。これは痛い。

有効打だが、そのおかげで敵の動きは滅多矢鱈。動きの読めぬ行動ほど恐ろしいものはない。距離感を読みかね、足をもつらせ背中から落ちる巨躯。

その下にはビエネッタがいるのだ――! 避けるなど間に合わぬ。わずかに首を上へと向け、

ファンバルカ

ビエネッタ君……!

巨体の下からは、動かぬ腕が、はみ出して、

ファンバルカ

あ……あ……そんなばかな……

BGIIIIIIIIIIIIIIII!!

ビエネッタ

討伐完了しました。

ファンバルカ

ビエネッタく~~ん! よかった無事だったのか~~!

ビエネッタ

いえ、無事ではありません。

ファンバルカ

!!

見れば、利き腕をなくし、ボタボタと黒い液体を流すではないか。

ファンバルカ

 噴 水 !!

ファンバルカ

たた、大変だ! さっきの衝撃でちぎれてしまったのかな!? 修理をしなくては!たは!たは!

あた     
      ふた

ビエネッタ

暴れないでくださいませ。腕が取れるなど日常茶飯事ではないですか。

ファンバルカ

日常茶飯事になってもらっては困るのだけどね!?

ビエネッタ

交換すれば済む話。わたくしは人形なのですから。

ファンバルカ

…………

切断部から見える太い主管を丈夫な糸で縛り、ひとまず液体の流出を防ぐ。粘性の高いクリームで患部を塞ぐ。内部には、空気に触れるのを良しとしない部分が存在しているのだ。

ファンバルカ

そういうのは……あまり聞きたくないな……

ファンバルカ

君の体の一部とて、僕には大切なんだよ。軽々しく、交換すればいいなんて言わないでくれたまえ。

ビエネッタ

失礼しました。それは命令でしょうか?

ファンバルカ

いや――――

溝は存在する……決して狭くない確かなものが――

ファンバルカ

よし、魔物は倒したが、僕の目的はこれで終わりではない……

ファンバルカ

魔物の大量発生、それには理由があるはず。おそらくあのボスだけではない。

大猪の死骸を乗り越え、奥へと進む。

ファンバルカ

うぉんもお!?

スタスタとしたファンバルカの邁進は、突然空中に出現した謎の模様に阻まれた。盛大に尻もち。当のファンバルカは、転んだのにニコニコと嬉しそうだ。

ファンバルカ

うへへへ見たかいビエネッタ君。この念入りな結界、間違いないね。

ビエネッタ

また何もないところで転んだのですか。

ファンバルカ

視線が限定的すぎやしないか。きちんと結界を見てくれよ。

ビエネッタ

――魔。どうすれば。

試しに斬りつけてみるも、霞のように刃が素通りし、傷つけられぬ。

ファンバルカ

一筋縄では行かないか。だが、魔王ファンバルカを舐めるなよ。

袋を取り出し、中の粉を――ババッと宙に舞わせる。

ファンバルカ

モスメリディアの鱗粉だ。魔に反応し、ある変化をもたらす――

粉に触れた魔法陣が、バチバチと小さな火花を散らす。

ファンバルカ

今だビエネッタ君!

ファンバルカ

うわたっ! ちょっと待ってくれたまえ! まだ僕が近くに、わ!

斬撃は、早い。まだ言い終わらぬうちに。

先程は通らなかった刃が、魔法陣を真っ二つにした!

禍々しい、虹色。

魔法陣の奥には、怪しげな宝石が隠されていた。

ファンバルカ

――やはり。

ファンバルカ

「千年の呪詛」。こういった溶岩洞窟には、世の恨みつらみが堆積し融合し、このように実体を形成するという。

ファンバルカ

マグマ質の中で生成され、そこにある間は他へ大きく影響することはないが、ひとたび外へ出されれば……

ファンバルカ

今回のように、大量の魔物発生装置となるわけだ。

ビエネッタ

では破壊しましょう。

ファンバルカ

おっと、なんのために苦労したと思っているんだい?

ファンバルカ

これは君を人間にする秘技を使うために……必要な秘宝だ。

ファンバルカ

壊してしまうなんてとんでもない。

ファンバルカ

秘宝は残7つ――これを集めれば君を人間にすることができる。

ハウス

秘宝、それがお前の目的か?

ファンバルカ

ビエネッタ

ようこそいらっしゃいました。お茶をどうぞ。

ハウス

いらん!

鮮やかに決まる拒絶。

ハウス

お前の差し金か? 俺をあざ笑って楽しいか!

ファンバルカ

いや、僕もお茶を出すとは思わなかったけどね。

ファンバルカ

……それはそうと、どうやってここまで来た!? 道はふさがっていたはず!

ハウス

フン、あの程度で俺を止められると思うな?

再び場は不穏な空気に――

続く

04 洞窟に潜む魔物 その2

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