03 洞窟に潜む魔物 その1
サナトナ洞窟。
おーおー熱いね・・・熱気が地の底から湧き上がってくるようだ。
ビエネッタ君、君の体は繊細だからね。熱にやられないよう注意してくれたまえよ。
承知しました。先にファンバルカ様が熱でお亡くなりになると思いますので、それを頼りにします。
ハハハ僕はカナリアか。
そんなチキンレースに乗っかる気はない……危険を感じたら、さっさと脱出するとしよう。
さて――役所からの依頼は、魔物退治。
皆殺しにしますか?
それでは時間がいくつあっても足りない。親玉を見つけて潰すことにしよう。
BUIIIIIIーーーー
GIYOYOYOYOYOYO
だが、立ち向かってくる相手に情けをかけるつもりもない……蹴散らせ、ビエネッタ君!
蹴散らします。
ギャアアアーーーーーー!!
蹴散らすどころの話ではない! 嵐……! カミソリのような刃の波濤は、魔物を肉片と化し命を奪っていく。
フハハハ歯向かう敵は血祭りにあげてやる……!
悪魔――!
危険すぎる、強さだ……な。
そこに現れる男。歳の頃二十前後だろうか。まだ若いが上品なスーツに身を包み、無駄のない所作。何者か。
ファンバルカ様、敵ですね?
待て待て……結論を出すのが早すぎだろう。そう考えた、理由を聞こうか?
……待てよ。嫌な予感がしてきた!
ファンバルカ様を訪ねるようなお友達は存在しませんから。
ぐあああああ残酷な真実!
俺はハウス。中央都市、カディナスの司法局の者だ。
中央の司法局だと……?
要件はわかっているな? お前のような前科者を監視するために来た。
前科者……?
今更、なんだって言うんだ……
僕は立派な善良市民さ。監視される謂れはないね。
ふん……どうだか。現に、こんな洞窟で怪しげな行動を起こしているじゃないか。
お? そこに突っ込むかい? かかったな? ボウヤめ。
これは役所の立派な依頼だ! 依頼書を見せてやろうか。ほら!
調査不足! 愚か! 恥ずかしい! 出直して来るんだな!
ここぞとばかりに煽る――
くっ――
まあそれはいい……だが、監視は続けさせてもらうぞ。
怪しい行動を見せれば、上に報告しなくてはならない。
いやだね。
なんだと……
僕は何者にも縛られるつもりはない。それでも見ていたいなら……好きにすればいいが、まず置いていかれるだろうねえ!
ということでビエネッタ君! どうすればいいかわかるね!?
承知。関係性をリセットします。
待て待て待て何をしようとしている? 物理を万能と思い込むんじゃない!
そうじゃない、逃げるんだよ!
似たようなものでは?
いいや? 違う。百ほども違う。
な、なにを……不審な真似は
やり取りを聞いて思わず身構えるが、
壁面に、強烈なケリ。もろくなった岩盤が崩れ、ハウスとの間に落石の壁を作る!
正気か! 生き埋めになるぞ!?
そんなことにはならない。僕はビエネッタ君を信じているからね。
ではごきげんよう。
さてだいぶ奥まで来たが。ちょいと疲れたね。ここらでご飯としよう。
バックパックからおにぎりを取り出す。食は元気の源だ。
のんびりしている暇はあるのですか。
ふふん。焦って事を仕損じるなど、愚の骨頂さ。先を見据えれば休むことは必須。
「亀もうさぎを抹殺する」ということですか。
うん、そうそう……
いや、どうだろうか?
早く達成しなければならないのに休む。休まねば成し遂げられない――
不合理。矛盾しています。
……多分、前提が間違っている。
君の言わんとすることは、短時間で最後まで終わらせられる物事のことだろう?それならば、休まないほうが早いかもね。
それが普通なのかもしれない……けれど一方で、人は長い時間をかけて達成する技を知ってしまった。
道はおぼろげでも目標が見えているなら――たどり着けるのさ。そうだろう? 見えているんだから。
わかりません。わたくしには見えないので、ファンバルカ様を馬にして進ませればよろしいですか?
こらこら、短気はいけない!
食事もとったし、10分昼寝をするよ。
結界も敷いてあることだし魔物も邪魔すまい。ビエネッタ君も休みたまえ。
ですからわたくしに睡眠は――
ズゴ――――
寝付き!
……真似事にも、意味があるでしょうか。
…………
センサー各種は残しておく。異変が起きればすぐに察知できるように。そうして彼女は静かに視界を閉じた――
一面の花畑――――
うふふふ、ふふふ――――!
見て! ロバート!
おうおう、見事なものだね……
僕に花を愛でる器官は備わっていない。そんな僕でも……圧倒されるよ。
何をわからないこと言ってるの。
こういうのは、頭じゃないわ。理屈じゃ、ないもの。
心で! 全身で! 感じて!
うわっ……強引だなあもう。
やれやれビエネッタは元気だなあ。うらやましいね。悩みの一つもなく。
僕は君のようにはなれないよ……
むぅ、遠回しに馬鹿にしているように聞こえるわよ。
わたしにだって、悩みくらいあるもの。
……悪かった。君は家のことで辛い思いをしているんだったな。
ううん、いいの! それは……それよ! 今はこの、素敵な時間を楽しまなくっちゃ。
ロバートもほら! そんな難しい顔してないで。今という時間は一瞬なんだから。
ほっとけ。この顔は生まれつきだよ。
あわれ積年の重圧に凝り固まったファンバルカさんの眉間のシワは~~
どうしたことでしょう、コチコチ! パン屋とうふ屋おうさま集っても、そのシワはほぐせません!
おい。
オロオロ、オロオロ、どうすればよいのでしょうか~~
有名な預言者が現れて言います。「ウォッホン、それはな」
「諦めろ」
……
許さん!
きゃーーー!
白い花を舞い散らし花畑を駆ける2つの影――
――――
…………
ズゴーー
続く