03 洞窟に潜む魔物 その1

サナトナ洞窟。

ファンバルカ

おーおー熱いね・・・熱気が地の底から湧き上がってくるようだ。

ファンバルカ

ビエネッタ君、君の体は繊細だからね。熱にやられないよう注意してくれたまえよ。

ビエネッタ

承知しました。先にファンバルカ様が熱でお亡くなりになると思いますので、それを頼りにします。

ファンバルカ

ハハハ僕はカナリアか。

ファンバルカ

そんなチキンレースに乗っかる気はない……危険を感じたら、さっさと脱出するとしよう。

ファンバルカ

さて――役所からの依頼は、魔物退治。

ビエネッタ

皆殺しにしますか?

ファンバルカ

それでは時間がいくつあっても足りない。親玉を見つけて潰すことにしよう。

BUIIIIIIーーーー

GIYOYOYOYOYOYO

ファンバルカ

だが、立ち向かってくる相手に情けをかけるつもりもない……蹴散らせ、ビエネッタ君!

ビエネッタ

蹴散らします。

ギャアアアーーーーーー!!

蹴散らすどころの話ではない! 嵐……! カミソリのような刃の波濤は、魔物を肉片と化し命を奪っていく。

ファンバルカ

フハハハ歯向かう敵は血祭りにあげてやる……!

悪魔――!

ハウス

危険すぎる、強さだ……な。

そこに現れる男。歳の頃二十前後だろうか。まだ若いが上品なスーツに身を包み、無駄のない所作。何者か。

ビエネッタ

ファンバルカ様、敵ですね?

ファンバルカ

待て待て……結論を出すのが早すぎだろう。そう考えた、理由を聞こうか?

ファンバルカ

……待てよ。嫌な予感がしてきた!

ビエネッタ

ファンバルカ様を訪ねるようなお友達は存在しませんから。

ファンバルカ

ぐあああああ残酷な真実!

ハウス

俺はハウス。中央都市、カディナスの司法局の者だ。

ファンバルカ

中央の司法局だと……?

ハウス

要件はわかっているな? お前のような前科者を監視するために来た。

前科者……?

ファンバルカ

今更、なんだって言うんだ……

ファンバルカ

僕は立派な善良市民さ。監視される謂れはないね。

ハウス

ふん……どうだか。現に、こんな洞窟で怪しげな行動を起こしているじゃないか。

ファンバルカ

お? そこに突っ込むかい? かかったな? ボウヤめ。

ファンバルカ

これは役所の立派な依頼だ! 依頼書を見せてやろうか。ほら!

ファンバルカ

調査不足! 愚か! 恥ずかしい! 出直して来るんだな!

ここぞとばかりに煽る――

ハウス

くっ――

ハウス

まあそれはいい……だが、監視は続けさせてもらうぞ。

ハウス

怪しい行動を見せれば、上に報告しなくてはならない。

ファンバルカ

いやだね。

ハウス

なんだと……

ファンバルカ

僕は何者にも縛られるつもりはない。それでも見ていたいなら……好きにすればいいが、まず置いていかれるだろうねえ!

ファンバルカ

ということでビエネッタ君! どうすればいいかわかるね!?

ビエネッタ

承知。関係性をリセットします。

ファンバルカ

待て待て待て何をしようとしている? 物理を万能と思い込むんじゃない!

ファンバルカ

そうじゃない、逃げるんだよ!

ビエネッタ

似たようなものでは?

ファンバルカ

いいや? 違う。百ほども違う。

ハウス

な、なにを……不審な真似は

やり取りを聞いて思わず身構えるが、

壁面に、強烈なケリ。もろくなった岩盤が崩れ、ハウスとの間に落石の壁を作る!

ハウス

正気か! 生き埋めになるぞ!?

ファンバルカ

そんなことにはならない。僕はビエネッタ君を信じているからね。

ファンバルカ

ではごきげんよう。

ファンバルカ

さてだいぶ奥まで来たが。ちょいと疲れたね。ここらでご飯としよう。

バックパックからおにぎりを取り出す。食は元気の源だ。

ビエネッタ

のんびりしている暇はあるのですか。

ファンバルカ

ふふん。焦って事を仕損じるなど、愚の骨頂さ。先を見据えれば休むことは必須。

ビエネッタ

「亀もうさぎを抹殺する」ということですか。

ファンバルカ

うん、そうそう……

ファンバルカ

いや、どうだろうか?

ビエネッタ

早く達成しなければならないのに休む。休まねば成し遂げられない――

ビエネッタ

不合理。矛盾しています。

ファンバルカ

……多分、前提が間違っている。

ファンバルカ

君の言わんとすることは、短時間で最後まで終わらせられる物事のことだろう?それならば、休まないほうが早いかもね。

ファンバルカ

それが普通なのかもしれない……けれど一方で、人は長い時間をかけて達成する技を知ってしまった。

ファンバルカ

道はおぼろげでも目標が見えているなら――たどり着けるのさ。そうだろう? 見えているんだから。

ビエネッタ

わかりません。わたくしには見えないので、ファンバルカ様を馬にして進ませればよろしいですか?

ファンバルカ

こらこら、短気はいけない!

ファンバルカ

食事もとったし、10分昼寝をするよ。

ファンバルカ

結界も敷いてあることだし魔物も邪魔すまい。ビエネッタ君も休みたまえ。

ビエネッタ

ですからわたくしに睡眠は――

ファンバルカ

ズゴ――――

寝付き!

ビエネッタ

……真似事にも、意味があるでしょうか。

ビエネッタ

…………

センサー各種は残しておく。異変が起きればすぐに察知できるように。そうして彼女は静かに視界を閉じた――

一面の花畑――――

ビエネッタ

うふふふ、ふふふ――――!

ビエネッタ

見て! ロバート!

ファンバルカ

おうおう、見事なものだね……

ファンバルカ

僕に花を愛でる器官は備わっていない。そんな僕でも……圧倒されるよ。

ビエネッタ

何をわからないこと言ってるの。

ビエネッタ

こういうのは、頭じゃないわ。理屈じゃ、ないもの。

ビエネッタ

心で! 全身で! 感じて!

ファンバルカ

うわっ……強引だなあもう。

ファンバルカ

やれやれビエネッタは元気だなあ。うらやましいね。悩みの一つもなく。

ファンバルカ

僕は君のようにはなれないよ……

ビエネッタ

むぅ、遠回しに馬鹿にしているように聞こえるわよ。

ビエネッタ

わたしにだって、悩みくらいあるもの。

ファンバルカ

……悪かった。君は家のことで辛い思いをしているんだったな。

ビエネッタ

ううん、いいの! それは……それよ! 今はこの、素敵な時間を楽しまなくっちゃ。

ビエネッタ

ロバートもほら! そんな難しい顔してないで。今という時間は一瞬なんだから。

ファンバルカ

ほっとけ。この顔は生まれつきだよ。

ビエネッタ

あわれ積年の重圧に凝り固まったファンバルカさんの眉間のシワは~~

ビエネッタ

どうしたことでしょう、コチコチ! パン屋とうふ屋おうさま集っても、そのシワはほぐせません!

ファンバルカ

おい。

ビエネッタ

オロオロ、オロオロ、どうすればよいのでしょうか~~

ビエネッタ

有名な預言者が現れて言います。「ウォッホン、それはな」

ビエネッタ

「諦めろ」

ファンバルカ

……

ファンバルカ

許さん!

ビエネッタ

きゃーーー!

白い花を舞い散らし花畑を駆ける2つの影――

ビエネッタ

――――

ビエネッタ

…………

ファンバルカ

ズゴーー

続く

03 洞窟に潜む魔物 その1

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