だから、席を離れて自販機で缶コーヒーを買い、彼女の前に置いた。
僕は彼女とデートする時には必ず、別れ際にはホットの缶コーヒーを買って渡していた。だから、その缶コーヒーは彼女への餞別にしようと思ったのだ。
「まぁ、僕からの最後の缶コーヒーになるけれど飲みな。里子の再出発のためにも。別れる気しかない僕のことを引き摺るより、他の男を探すべきだって」
すると、彼女は涙ぐみながらこくりと頷いて缶コーヒーを飲み始めた。
まぁ、こんなに金のかかる女、貰い手なんてなさそうなものだけど……そんなことを考えて溜息を吐いた時だった。
彼女が急に、頭を抱えて苦しみ始めたのだ。
「里子?」
突然のことに僕は慌てた。
だが、彼女は椅子から転げて意識を失って……僕は大慌てで救急車を呼んだのだった。
彼女は病院で、一命を取りとめた。
だけれども……
「カフェイン中毒……」
彼女の血中カフェイン濃度はかなり高かったので、きっと中毒による意識消失だろうとのことだった。
カフェインはコーヒーなんかに普通に含まれるけれども、過剰に摂取すると中毒症状が起こり、死に至るケースもあるようだ。
そのことを聞いてしまうと……勿論、僕の渡した缶コーヒーの中のカフェインはごく少量だということは分かっているのだけれど、何だか中毒症状に拍車をかけてしまった気がして。
僕はさらなる罪悪感から、少なくとも彼女が退院するまでは、付き合うことを余儀なくされたのだ。