一方その頃、ルルーはベッドのシーツにくるまって岩のように固まっていた。
一方その頃、ルルーはベッドのシーツにくるまって岩のように固まっていた。
なんて言うか、ヘルフリートに美味しくいただかれてしまうという、初めての経験をして。
ルルーはキャパオーバーになってしまい、どうしていいかわからずまたこうやって固まっていたのだ。
……
な、なんかすごかった……
色々あった……体もちょっとだるい……
ああ、ダメだ色々思い出して恥ずかしくなってきた……
ルルーは思い出してゴロゴロ転がる。
!!
ルルー……大丈夫?
ヘ、ヘルフリート……あ、あの
へへ、そうやって恥ずかしがってるルルーも可愛い……
ば、ばか!
あ、そうだ。それどころじゃなかったんだ
どうしたの?
グレータがまだ帰って来てないんだ。いつもならもうとっくに帰ってるはずなのにおかしいなと思って
え?
ルルーはその言葉を聞いて、飛び起きる。
自分のことでいっぱいいっぱいでグレータのことをすっかり忘れていたのだ。
窓を開けると、外はもうすっかり陽が沈んでしまっている。
大変!
レオがついているから安心していたが、いくらなんでも遅すぎる。
ルルーは慌ててベッドから出てローブを羽織る。
わ!
しかし、よろけて少しつんのめってしまった。
うわ、大丈夫?
ヘルフリートは、倒れそうになったルルーを抱きとめる。
だ、大丈夫!
うう、また思い出して、恥ずかしくなってきた……
体は大丈夫?無理しないで休んでいた方がいいんじゃないか?俺が代わりに探しに行くよ
ほ、本当に大丈夫だよ
ルルーはなんとか持ち直して、そう言う。
それに、そんなことをしている場合ではない。グレータが心配だ。
でも……
ヘルフリートはまだそんなに森に慣れてるわけじゃないし。ここまで暗くなると逆にヘルフリートが迷ってしまうわ
じゃあ一緒に行こう
いいえ、ヘルフリートは家で待っていてくれる?入れ違いになって、だれも家にいないのも困るから
ルルーはそう言いながら森に出る準備をする。
グレータはヘルフリートにとっては大切な妹だ、きっと今すぐにでも走って探しに行きたいはず。
グレータのこと心配なのはわかってる。ごめんなさい
どちらにしてもきっと寒い思いをしてると思うから、できれば部屋を暖かくしておきたいの。だからお願い、ヘルフリートはここにいてもらえない?
そ、そうだな……わかった
じゃあ、行ってくるね
外は雨が降り始めている、早く見つけないとグレータたちは風邪をひいてしまう可能性もある。
ルルーは魔法の火で明かりを作り、自分の周りを明るく照らす。
用心のために食料と水、それから毛布を入れたバックを持つと、いそいで家を出た。
一方その頃……
グレータは木のうろの中で、恐怖に震えていた。
な、なんで狼が……
実は崖から落ちたことでグレータ達は、森にあった結界の外に出てしまっていたのだ。しかも今は魔除けの頭巾も無い。
冬狼は名前の通り冬に活動が活発になる。今はまだ本格的に冬ではないが、それでも冬狼は獰猛だ、下手に動いて見つかりでもしたら襲われてしまうのは確実だった。
レ、レオ……
グレータはレオを守るように抱きしめ、さらにうろの奥の方に体を押し込める。
この中だと体は隠れるけど、見つかったら逃げ場がない……ど、どうしたら……
冬狼は一匹で、餌を探しているのか匂いを嗅ぎながらウロウロ歩き回っている。
飛び出して逃げるのは怖い……でも、このままだと見つかっちゃう……
ど、どうしよう……考えれば考えるほど怖くなってきちゃった……
カサ……カサ……と狼が歩く音や吐く息づかいが、かすかに聞こえる。
グレータは息を殺してじっとしていたが、心臓がやたらうるさく高鳴ってしまいそれすら聞こえてるんじゃないかと思ってさらに怖くなる。
その時、守るように抱きしめていたレオが、するりとグレータの腕から抜けだした。
レ、レオ!危ないよ!
グレータが小声でそう言ったが、レオはそのまま外に出ようとする。
ニャー
グレータは慌ててレオを引き戻そうとするがレオは器用にその手を止め、大丈夫だと言うかのように見返す。
な、なに?止めるなって言いたいの?
ニャ
グレータがそう言うと、レオはその通りとでも言いたげに短く鳴いた。
じゃ、じゃあ私も行く
もしかしたらレオにはレオの考えがあるのかもと思い、グレータはそう言って一緒に行こうとした。
しかしそれはダメだと言うように、レオは前足を使ってグレータを押しもどす。
え?私はここで待ってるの?
ニャ
で、でも……あんな大きな狼……どうするの?レオは体も小さいし……何か作戦でもあるのかな……
そう思って迷っているうちにレオはスルッと外に出てしまった。
あ!
レオは狼がいる方に走った。
当然狼はレオのことに気がつき、唸りを上げた。
……!
それを確認したレオは、今度は方向転換して走り出した。
狼も誘われるようにすぐにレオを追いかけ始める。
…………
しかし、身軽なレオにはなかなか追いつかない。
レオはグレータが隠れているうろを通り過ぎて、狼を誘うように広い場所に走り抜けた。
狼はなんの疑問もないようで、レオを追いかけグレータがいる前を、すごいスピードで通り過ぎてしまった。
ッヒ!!
近くで見た狼はとても大きく、グレータを一飲みにできそうなぐらい凶暴な口と牙が、ちらりと見えた。
グレータは恐ろしくて思わず声をあげそうになる。
こ、怖くて、動けない……
ザザッという、狼が走る音と唸り声が聞こえる。
ま、また泣いちゃいそう……だ、だめだレオを信じて待とう……
その時、外から狼の唸り声唸りと共になにか固いものがぶつかるような音が聞こえた。
とても激しい音でグレータは心配になり、思わずうろから顔を出して様子をうかがった。
……レオ!
少し遠くだがレオはまだ生きていた。すごいスピードで狼はレオを追いかけ回している。
レオはジグザグに走ったりして、たくみに狼を翻弄しているようだ。しかし狼は徐々に距離を縮める。
しかも、狼が口を大きく開けたと思うと、キラキラとしたものが口周辺に集まった。
何だろうと思っていると、狼が大きく唸り、口をさらに大きく開けた。するとその口からなにか光の固まりのようなものがすごい勢いで飛んだ。
そして、レオがいるすぐ近くの地面に、氷の塊がすごい音と共にめり込んだ。
!!!
レオ!
おそらく、あれが冬狼の持っている魔法なのだ。
幸いなことにレオには当たらなかった、しかし衝撃があったのかレオは少し体制を崩してよろける。
倒れることはなかったが、狼はまたレオとの距離を縮めた。
このままじゃレオが殺されちゃう!!
グレータは思わずうろから飛び出た。
レオ!!!
グレータは必死になって手頃な石を拾うと、狼に向かって走り出した。
レオはジグザグに走りながら、なんとか狼を遠ざけようと方向を変える。
っ私もそっちに!!
グレータもそれを見て方向を変え、ぐるりと回り狼に近づく。
そうして手に持っていた石を狼に向かって投げつけた。
やった!当たった!
レオ!今のうち!逃げて!
!!
その声で狼は完全にグレータに気がそれ、狼は向きを変え標的をグレータに変えた。
ギニャ!!!!
レオが突然、悲痛な声で鳴いた。
レオ!どうしたの!!
狼もそれに気がつき、またレオに視線を戻す。
ウウ……ニャー
レオは必死な感じで起き上がる、どうしたのかわからなかったが、足を引きずっている。
狼は少し逡巡する。
おそらく食べ甲斐がありそうなグレータか、小さいが確実に仕留められそうなレオか迷ったのだろう。
ど、どうしよう……
すると狼はまた大きな口を開けてキラキラしたものを集め始める。
どうやらまたあの氷を吐き出すつもりだ、しかも標的をレオに決めたようだ。
ウウ……
しかしレオは足を引きずっていて、どう見ても避けられそうにない。
レオ!!
グレータはそれを見て何も考えず走りだす。
そして狼の前に飛び出すとレオを守るように、自分の体でレオを覆った。
……!!!
!!!
その直後、狼が大きく唸り口を開けたかと思うと氷を口から吐き出し、大きな氷がグレータに一直線に襲いかかった。