ジジッーーー
ジジッーーー
突然、ルルーが出した明かりが、前触れもなく消えた。
あれ?炎が消えた!どうして?
森の中でグレータを探し回っていたルルーは、炎がいきなり消え慌てる。
周りを見渡すが変化は何もない。
おかしいな……あれ?もう一回炎を出すか……
??えい!えい!……あれ?出ない……
何度か試すと、3度目でやっといつも通り炎が出現した。
ちゃんとついた……なんで?
なんとかいつも通り魔法が使えるようになったが、何でこうなったのか分からなくて戸惑う。
明るくなったので、もう一度周りを見渡してみる。
しかし光が届く範囲には何もない、鬱蒼とした森が広がっているだけだ。
何でなのかは分からないけど、今はグレータを探さないと
……えっと薬草を摘むルートで、探してないルートは後こっちだけだよね……
ルルーはそういいながら、そのルートに向けて明かりをかざす。
こちらのルートは一番森の奥まで続くルートだ。
そして危険な場所も多く結界の淵にも近い。
森の中を片っ端から探して残ったこのルートがここだ。
こちらに行ってしまって戻れないのなら、グレータは間違って結界から出てしまった可能性もある。
レオが一緒のはずだから、その可能性はあまり考えたくなかったんだけど……
さっき狼の唸り声も聞こえたし……まさか狼と遭遇してしまってないでしょうね
あまり考えたくない状況だ。
でもこんな時間まで帰ってこないということは、なにか不測の自体が発生した可能性が高い。
突発的に何かが起きて、動けなくなったとかならまだいいが、狼に出会ってしまったとしたら最悪だ。
今の時期は夜になるとどんどん寒くなるし、今は雨も降ってる……
早く見つけないと最悪命取りになってしまう
とはいえ、しらみつぶしに探すしかないのよね……
ルルーは焦る気持ちを押し殺し。もっと周りがよく見えるように、炎を大きくして辺りを照らす。
グレータ……レオ……どこにいるの?
一方その頃……
冬狼に襲われそうになったレオをかばうため覆いかぶさったグレータは、来るであろう衝撃に身を硬くした。
!!!……?
しかし、不思議なことに衝撃は、なかなかやってこなかった。
え?あれ?どうして?
しかも、レオがいない!レオどこ?
いつの間にか、腕の中で庇ったはずのレオがいなくなっていた。
その時、誰かがグレータの頭を撫でた。
グレータありがとう、少し休んでて……
え?え?だ、誰?
わけがわからずグレータが顔をあげると突然、目の前には見上げるほどに大きな竜が現れた。
!!!
な、なに?どういう事?と、とりあえず逃げないと
あ、あれ?体が動かない……目の前がまっくら…………
グレータは目の前が暗くなったかと思うと身体が動かなくなり、そのまま地面に倒れた。
手足が冷たくなり、意識が遠のく。
最後にグレータが見たものは、冬狼におそいかかる竜の姿だった。
レオはちゃんと逃げられただろうか、そう思いながらグレータは意識を手放した。
降りしきる雨の中、ルルーは必死にグレータとレオの名前を呼びながら走っていた。
グレータ!レオ!どこにいるの?
狼の声が聞こえたからそっちに向かったけど、崖があって遠回りしして時間がかかっちゃった。
しかも竜の姿までみえた…………なにがあったの?
ルルーこっちだよ
そう言ったのは、大きな木のうろで気を失ったグレータを守るように抱きしめている、男の子だった。
レオ!大丈夫?グレータはどうしたの?
大丈夫、気を失っているだけだ。少し足をひねったみたいだけど、歩いたりはできる程度だから
ZZZZ…………
良かった……
それにしても何があったの?レオ。
結界の外に出てしまうなんて、あなたらしくないわね……
ちょっと油断してて……グレータが崖から落ちちゃって……
え?あの崖から?結構高いわよ?グレータは本当に大丈夫?
うん、それに関して運が良かったよ。頭巾があったおかげだ。
でも頭巾は取れてしまって……
レオはそう言って、グレータがこうなった経緯を説明する。
それで運悪く冬狼が現れてしまって……
そうだったの……まあ、無事でよかったわ
ルルーはそう言って、自分の周りを照らしていた炎を数を増やす。
そうして辺りの空気を温める。
ルルーは持ってきていたタオルでレオとグレータを拭いてやり毛布で包む。
そして即席で暖かいコーヒーを作り始める。とりあえず、身体を温めるのが先決だ。
流石に寒かったのか、レオはそれを飲んでホッとした表情になった。
この森には慣れているとは言っても、グレータが気を失った状況では、動くことが出来ず困っていたのだ。
見つけてもらってよかった、最悪ここで一晩過ごそうかと思ってたんだ。
この森で育ったレオでも、ここから家に戻る道を探すのに時間がかかりそうだったのだ。
出来なくはなかったが、一人で気を失ったグレータを運んで戻ることは危険を伴うことにもなる。
体が暖まると、幸いなことに雨も徐々に止んできた。
それでもグレータはまだ気を失ったままだ、早く安全で暖かい家に帰った方がいい。
さてと、ヘルフリートも心配しているだろうしそろそろ家に帰ろうか
手早く準備をすると、ルルーはそう言ってグレータを抱き上げようとした。
いや、グレータは僕が運ぶ
レオはそう言って、自分のものだと主張するようにグレータを抱き寄せる。
いいけど、結構家まで距離があるわよ。大丈夫?
大丈夫だって、僕だって男だし
心配して言ったルルーにレオは少しムッとした表情をしてグレータを抱きかかえたまま立ち上がる。
少しよろけたがレオはしっかりとした足取りで歩き出した。
ルルーはあっけにとらる。
せめて背負った方がいいんじゃない?
慌ててルルーがそういうと、流石に無理があると思ったのかレオは頷き、ルルーに手伝ってもらってグレータを背中に背負う。
それにしても本当にいいの?途中でグレータが目を覚ましたりしたらその姿を見られちゃうわよ?
……うん、いいんだ
でも、どうして……
決めたんだ。グレータは僕のこと身を呈して助けようとしてくれた……
……それに、僕としてもけじめをつけたいしね。自分からちゃんと言うよ
レオは振り返り、決意したようにそう言った。
へー……急に仲良くなったと思ったら。今度は急に男になっちゃって……どういう心境の変化なんだろうね?
グレータはバカなんだ、怖いって泣きそうになってたのに狼の前に出て来て、俺を助けようと無茶な事をするんだ
どっちにしても、そのうち言わなくちゃならなかっただろ?ルルーもヘルフリートと随分仲良くなったみたいだし?
っう!
うぅ……レオってば結構言うようになったわね。
……いや、確かに随分状況が変わったから、いつかはどうにかしなきゃいけなかったけど……
あ、そうだ。結界の綻びが見つからなかった理由がわかったよ
え?本当に?どうしてなの?なんでなの?
ルルーは時間があれば結界の見回りには行っていたのだが、結局全くわからなかったのだ。
それは家に帰って、グレータが目を覚ました後に説明するよ。二度手間になっちゃうし。
とりあえず早く帰ってグレータを休ませた方がいい
あ。そ、そうだね。今はその議論をしてる場合じゃなかったわ
ルルーはハッと気がついたようにそう言って慌ててレオの前に立ち、明かりをつけるとルルーはヘルフリートの待つ家に歩き出す。
森は暗く凍えそうに寒かったが、雨はやみ雲が晴れて空には星が瞬きはじめた。