グレータ

お兄ちゃんがカエルになっちゃった!!!

ヘルフリート

!?!?!?!???!!

 ヘルフリートは、その声に何が起こったか分からず周りを見渡す。

何故かルルーとグレータが巨大化していて混乱する、恐る恐る自分の手を見ると両手は緑色になって、立派な水かきがついていた。

ヘルフリート

!!!!!

ヘルフリートはそこでやっと、ルルーとグレータが巨大化したわけではなく、自分が小さなカエルになってしまったのだと気がついた。

グレータ

ルルーどうしよう、どうやったらお兄ちゃんを元に戻せるの?

ルルー

え?えーっと。びっくりしすぎて頭がまわらない。何でヘルフリートがカエルに…えーっと……そうね、元に戻す方法は……

ルルー

そうだ、確か本に書いてあったはず。

 何故カエルになってしまったのかわからなかったが、ルルーはそう言って慌てて本棚を探る。

ルルー

これは、おばあちゃんが作った魔法薬なんだよね、……で……えーっと……

 パラパラと本をめくりながら、ルルーはその薬の項目を探す。作り方と共に解除方法も載っているのだ。

 グレータは、混乱したまま床で固まっているヘルフリートを持ち上げる。

 ヘルフリートはグレータの手の上にちょこんと乗っかるくらいの大きさになってしまった。

ルルー

おばあちゃんは結構変な魔法薬を開発するのが好きで、これもその一つだったんだよね……

ルルー

あ、あった。えーっと、カエルを元に戻すには……“その人を心から愛している人のキスで元どおり”……

グレータ

キス……?

ルルー

……

グレータ

……

ヘルフリート

キ、キス!!

 混乱中のヘルフリートは、愛する人のキスと聞いて2人を見上げる。

ここは深い森の中だ、人はほとんどいない。

ヘルフリート

ど、どうしよう。ルルーには振られてるからそんな事たのめないし……

 ヘルフリートはこの間、ルルーに言われた言葉を思い出して絶望的な気持ちになる。

 なんせこのあいだルルーに告白して、ごめんなさいと振られたばかりだった。

ヘルフリート

そ、そうだ!グレータ家族愛も愛の一つだ。グレータ、お兄ちゃんとチューしよう!

グレータ

うわ、喋った。気持ち悪!

ヘルフリート

ひどい!

 グレータが間髪入れずそう言って、嫌そうにヘルフリートを作業台にぽいっと投げ捨てるように置く。

グレータ

うわ、手がなんかヌルヌルしてるし、キモい

グレータ

キスとか無理無理。マジで気持ち悪い

ヘルフリート

グ、グレータ……そんな、ひどいよ……お、お兄ちゃんカエルの姿で、これからどうしたら……

グレータ

いや、ちょうどよかったじゃない。一人分の食料が余るし。かなり楽になるわ

グレータ

お兄ちゃんはカエルなんだから虫でも食べたてたらいいのよ

ヘルフリート

虫を食べる!

グレータ

それに喋れるんだから、街に行って女の子をナンパでもしてこれば?口が上手いお兄ちゃんならなんとか騙せるでしょ?

グレータ

あ!そうだ。この国の王様のお城に行ってみたら?可愛いお姫様がいたでしょ?池にボールかなんか落としたところを狙って、友達になってくれたら拾ってあげるから、とか恩着せがましく言って口車に乗せてナンパすればいいのよ

グレータ

お姫様なんてどうせ世間知らずの箱入り娘なんだから、どうにでも丸め込めるわよ

ヘルフリート

グレータなんて恐ろしいことを……

グレータ

うん、我ながらいい案だわ。じゃあ、問題解決ってことで私はまだ仕事があるからいくね!

ヘルフリート

グ、グレータ!待って!お兄ちゃんはそんなこと無理だよ!

ヘルフリート

どうしよう……

 ヘルフリートは、水かきがついた手を床にぺたりとついて、項垂れる。

 どう考えてもグレータの案はいい案とは思えない。そもそも単体でこの森から出て行くことが、まず難しそうだし、途中で本格的に冬になってしまう。

それに運良く森から出られたとしても、話すカエルなんて気持ち悪がられるに決まっている。
 殺されるか捕まってどこかに売られる未来しか想像できない。

ルルー

……

ヘルフリート

ル、ルルー。なんとか春までここに置いておいてくれないか

ヘルフリート

でも食べ物は虫じゃない方が……いいんだけ……ど……

 ヘルフリートが最後の望みをかけてそう言いかけたところで、視線を感じて上を見上げる。すると棚の上にいたレオと目が合った。

レオ

……

 レオはまるで獲物を見るような目でじっとヘルフリートを見ていた。

ヘルフリート

ッヒ!

 ヘルフリートは慌てて目線をそらす。しかし、後ろを向くと今度は棚においてある、瓶の中にいるカエルと目が合った。

ルルーが魔法薬を作る時に使うカエルだ。もちろん死んでる。

ヘルフリート

あわわわ……

 作業台の上にいるヘルフリートは、ただの魔法の材料にしか見えない。

そのことに気がついたヘルフリートは慌ててルルーに向き直る。

ルルー

……

 思いつめたような顔をして、ルルーがゆっくりこちらに近づいてきた。

ヘルフリート

!!ル、ルルー!俺はもう食事は虫でいいから!お願いだから殺さないで!……ぎゃー

 ヘルフリートは無様に命乞いをしてみたが、ルルーは黙ってヘルフリートを掴み持ち上げた。

なすすべもなく、死を覚悟したヘルフリートはぎゅっと目を瞑った。

 可愛い女の子に殺されるならむしろ本望だ、ヘルフリートはそう諦めようとした。

ヘルフリート

っ……!??!!!!

 しかし、持ち上げられただけで何も起きなかった。

ヘルフリート

????

 ヘルフリートが疑問に思ったところで。

ルルーが顔を近づけ……

ヘルフリートにキスをした。

そうするとヘルフリートの周りに、もくもくと煙が立ちあがる。

そうして煙と共に人間の姿に戻ったヘルフリートが現れた。

ヘルフリート

へ?……あれ???

ヘルフリート

どうなったんだ?何が起こったんだ……?

ルルー

これでいいでしょ?じゃあ、私も仕事があるからもう行くわね

ヘルフリート

え?ル、ルルー!

ヘルフリート

ちょ、ちょっと待って!

なんとか状況を把握したヘルフリートは、慌ててルルーを追いかける。

ルルーはすぐに捕まった、ヘルフリートはルルーの手を掴み引き止める。

 ルルーは恥ずかしくてヘルフリートの顔を見れない。

ルルー

!!!

ヘルフリート

もしかして俺にキスしてくれた?

ルルー

っ……

ヘルフリート

カエルになる魔法は、愛する人のキスがなくちゃ元に戻らないんだよね?

ルルー

……

ヘルフリート

ルルー、もしかして俺のこと好き?

 ルルーはもう全身が真っ赤だ、恥ずかしさとヘルフリートが近くにいるせいで心臓が爆発しそうなくらい高鳴っている。
 黙っているルルーにヘルフリートは更に近づき言った。

ヘルフリート

ルルー。俺も、もしルルーがカエルになっても俺は同じようにキスするよ……

ルルー

へ、ヘルフリート……わ、私も……

 ヘルフリートはそルルーの頬を撫でると、ゆっくりと顔を近づける。

ルルー

……

グレータ

ゴホン!ゴホン!

ルルー

え?わぁ!

ヘルフリート

わ!!グレータ

グレータ

うまくいったみたいね、お二人さん

 グレータは2人が想い合っているのに気がついていたのだが、何も出来ずずっとじれったいと思っていたのだ。

グレータ

本当にお兄ちゃんは世話がやけるわよね。……じゃあ私はお邪魔だろうから、ちょっと薬草を摘みに行ってくるわ。ごゆっくり

ルルー

え?グ、グレータ!あの。1人じゃ危ないわよ

グレータ

何言ってるのいまさら!それに、レオが一緒に来てくれるって

レオ

ニャーン

ルルー

え?え?いつの間に二人ともそんなに仲良くなったの?

 ルルーが呆気にとられている間に、グレータとレオはあっという間に森に入ってしまった。

ルルー

……

ヘルフリート

……

ルルー

や、やっぱり心配だから私も行って来る

 ルルーはそう言って赤いローブを掴んでかぶって外に向かおうとした。

ヘルフリート

ルルー、待って

 ヘルフリートはそう言って、ルルーを後ろからぎゅっと抱きしめた。

ルルー

っ!あ、あの……ヘルフリート……

ヘルフリート

せっかくグレータが気を利かせてくれたんだし……

ルルー

きゃ!

 ヘルフリートはそう言うと、ルルーを横抱きに持ち上げる。

驚いたルルーは、慌ててヘルフリートの首にしがみついた。

ルルー

あ、あの……ヘルフリート?

 ヘルフリートはルルーの戸惑った言葉を無視して、ルルーを抱き上げたまま。ルルーの部屋に連れていく。

ルルー

え?あ、あの……

 そしてヘルフリートは部屋に入ると、どさりとルルーをベッドに押し倒した。

ルルー

へ、ヘルフリート?

ヘルフリート

さっきの続き、いい……?

 ルルーはヘルフリートの行動の意味がやっと分かり。さらに顔を真っ赤にさせて慌ててフードを被り顔を隠した。

時間はかかったが、ルルーは自分の気持ちは自覚していた。

この状況は嫌ではなかったが、やっぱり恥ずかしくてどうしていいかわからなくなる。

ルルー

わ、私……

ヘルフリート

ルルー、嫌なら言ってくれすぐにやめるから……

ルルー

い、嫌じゃない……

ヘルフリート

参ったな……こんなに可愛いいこと言うなんて、途中で嫌だって言ってもやめてあげられそうにないな……

 ヘルフリートはそう呟くと優しい手つきでルルーの手をどかしフードをめくる。

ルルーは今度は抵抗しなかった。

 ヘルフリートはルルーにキスをする。

 そして微笑み冗談めかして言った。

ヘルフリート

じゃあ、いただきま~す

魔女と赤ずきんと狼 2

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