ルルー

え?

 ヘルフリートの言葉に、ルルーは固まる。

ルルー

ちょ、ちょっと待ってよ

 ルルーは慌ててヘルフリートから離れる。

 いつもの冗談かと思ってヘルフリートの顔を見たが、いつものヘラヘラした雰囲気はない。

ヘルフリートは真剣な表情だ。

ルルー

あ、あの……ヘルフリート?

ヘルフリート

……ごめん、春には俺たち出て行くのに。こんなこと言うなんて迷惑なのは、わかってたんだけど

ヘルフリート

近くにいると意識してしまうし、二人きりになるとひどいことをしてしまいそうだった。だから距離を置いてた……

ルルー

え……っと、いうことは?私のことは嫌いじゃ無いの?

ヘルフリート

うん。ごめん、本気で好きになってしまった

ルルー

す……き?……え?……え?……あ

 ルルーはヘルフリートがこの家に来るまで、同年代の男性とは喋ったこともない。もちろん恋なんてもってのほかだ。

それなのにいきなり好きだなんて言われても、ルルーには想定外すぎてどうすればいいかわからなかった。

ルルー

え、あの、あの……

ヘルフリート

ルルー……

 なんとか状況を飲み込もうとしたが、混乱は増すばかりで収拾がつかない。

 そうしているうちにヘルフリートがこちらに近づいてきた。

ルルー

!!ご、ごめんなさい!!

 ルルーはパニックになり、そう叫んで逃げた。

ヘルフリート

ルルー!

 ルルーはそのまま真っ赤な顔のまま走って自分の部屋に逃げ込んだ。

 そして勢いよくドアを閉じてそのまま閉じこもってしまった。

ルルー

ど、どうしよう……

 そう呟いたが、ルルーは何も思いつかなかった。

ルルーはそのまましばらく考えたが何も思い付かず。しばらく部屋に閉じこもっていた。

グレータ

ルルーどうしたの?帰ってきてずっと閉じこもってるけど……

ルルー

あ、グ、グレータ。その……なんでもないよ。あ!晩御飯つくるね

グレータ

え?あ、うん。あ、ルルーもう台所に行っちゃった……
本当にどうしたんだろう?

 ヘルフリートは何も言わず、グレータも突っ込んで聞くことができなかった。

ルルーはヘルフリートをそんな対象として意識したことがない。
 もちろんヘルフリートのことは嫌いじゃない。

 だけど恋をしたことも恋人がいたこともないルルーは、ヘルフリートに感じる気持ちがどういう種類の好きなのか判断できなかった。

ルルー

ど、どうしよう。ヘルフリートになんて言ったらいいのかな……

ルルー

いくら考えても、考えても何も思い付かない……

ルルーは迷い悩み、そうしているうちに時間が経ってしまいいつもの日常的にもどり始める。

 そもそもヘルフリートはなにか答えを求めた訳でもない。

だからルルーは結局何も言えず時間だけが過ぎていった。

日常は元にもどったが、それでもルルーとヘルフリート間には確実に距離が開いてしまう。

グレータ

何だかヘルフリートとルルーの様子がおかしい……

グレータ

ルルー、ヘルフリートと何かあった?

ルルー

え?な、何もないよ?ほ、本当だよ。
あ、私用事があったんだ。

グレータ

あ、行っちゃった……お兄ちゃんにも聞いてみようか……

グレータ

お兄ちゃん!ルルーと何かあった?

ヘルフリート

な、何もないよ。だ、大丈夫だから……あ、俺も仕事があるから……

グレータ

あ、お兄ちゃんもどっか行っちゃった……

グレータ

本当に何なんだろう……

グレータ

うーん

 そんな感じで数日が経った。

 幸いなことに冬支度が佳境に入り、3人と一匹は毎日忙しく働かなくてはいけなくなったので気まずい空気はそこまで感じることはなかった。

そんなある日、グレータがおずおずとルルーに話しかけた。

グレータ

ルルー今、大丈夫?

ルルー

ん?どうしたの?

 作業をしていたルルーは手を止めてそう言った。

ヘルフリート

うん?グレータどうしたんだ?

 その時、ちょうど仕事が終わったヘルフリートが、部屋に入ってきた。

グレータ

これ作ってみたの

ルルー

何の薬??

グレータ

この家に初めてきた日に、ルルーが魔法薬を作ろうとして、私たちのせいで落としちゃったじゃない。だから作ってみたの

 ルルーが脅しに対抗しようとして駄目にしてしまった、カエルにする薬だ。あの時、材料を探しながら作り方を喋っていたのでグレータは覚えていたのだ。

グレータはさすがにあれは悪かったと思って、材料を集め、罪滅ぼしのつもりでこっそり1人で作っていた。

ルルー

グレータが作ったの?

グレータ

うん

ルルー

凄い!見た目も匂いも完璧だよ

グレータ

ルルーあの時はごめんね。色々脅して、しかも無理を言っちゃって……

ルルー

グレータ……ありがとう

ヘルフリート

グレータすごいな、そんなのも作れるようになったんだな

グレータ

も、もう。私は子供じゃないんだから、そんなに頭を撫でなくていいよ!もう!

ルルー

グレータ本当にありがとう。材料集めるの大変だったでしょ?この薬本当に上手くできてるわ

グレータ

へへへ

ルルー

でも……実はこれは使えないの。ごめんなさい

グレータ

……え?どう言うこと?

ルルー

魔法薬は特にそうなんだけど……

 ルルーは説明し始めた。

 魔法薬を作るには色々な条件が必要なのだ、その一つが魔力だ。
 しかしそれは素材集めの時から魔力を注いでいかなければならない。

 要するに魔法使いや魔女が直接探し、丁寧に魔力をこめて作ることによって、その薬は魔法薬として完成するのだ。

ルルー

だから魔力のないグレータが作っても、この魔法薬は効力を発揮しないの

グレータ

そっか……

ヘルフリート

あー……残念だったなグレータ

ルルー

でも、すごく上手くできてるわよ。これなら今度、街に売りに行く薬を作る時もグレータに手伝ってもらおうかな。あの薬は魔力がなくても大丈夫だから

グレータ

へへへ、そっか……

ルルー

ふふふ。グレータ可愛い……

グレータ

うわ!ルルーまで頭をぐしゃぐしゃにしないでよー

グレータ

それにしてもせっかく作ったのにもったいないな

 この薬は、ルルーやヘルフリートが留守の時や薬草や木の実を探しに行く時にコツコツと集めて作ったものだ。バレないようにこっそり作るのは苦労した。

 そんなことを思い出しながら、瓶を持ち上げゆらゆら揺らす。すると瓶越しにヘルフリートがゆらゆらゆら揺れるのが見えた。

グレータ

どうせなら、お兄ちゃんに使っちゃおう

ヘルフリート

うわ、やめて!

 グレータはいつものようにふざけた感じでヘルフリートに薬を振りかける。

グレータ

え、な、なに?お兄ちゃんどこ行ったの?

ルルー

な、なにが起こったの?

ヘルフリートがいた床には、少し大きなアマガエルが座っていた。

 ヘルフリートは本当にカエルになってしまっていたのだ。

魔女と赤ずきんと狼 1

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