寒い日々が続き、朝には霜が降りることも多くなっていた。
そんなある日。
寒い日々が続き、朝には霜が降りることも多くなっていた。
そんなある日。
ルルー最近なんだか元気ないみたいだねだけど大丈夫?
今日、グレータとルルーは街で買ってきた布を使い、縫い物をしていた。
ヘルフリートとグレータの服が色々限界がきていたので、直す必要があり。
ルルーはグレータに裁縫を教えながら、それを2人で直していたのだ。
え?い、いや。そんなことないよ……
お兄ちゃんが、何かしたんじゃない?
……やっぱり……消す?
……相変わらず物騒だな……
最近はこのやり取りにも慣れてきた。
グレータが冗談で言っていることもわかっている。グレータとヘルフリートのこのやり取りは信頼があるからこそのやり取りなのだ。
最初驚いたが最近は微笑ましいとさえ思うようになってきた。
じゃあどうして?
さっき言ったでしょ。何も無いって。気のせいだよ……大丈夫
ルルーはそう言った後、誤魔化すように笑う。
しかし、その声にはやはりどこか力がなかった。
本当?
グレータはさらに食い下がるように問い詰めましたが、ルルーは頑なに大丈夫と言い切って答えることはなかった。
危なかった……なんとか誤魔化せたかな……
実は、ルルーには気がかりなことがあって、それが元で心から笑うことができなかったのだ。
まあ、気になる事っていっても些細なことだから言うほどでもないし……
気になることは、グレータが言った通りヘルフリートに関することだ。
なんだか、ヘルフリートがよそよそしい気がするんだよね……
最初は気のせいかと思ったんだけど。最近それが露骨になっている気がする……
ヘルフリートの態度は一見すると前と同じに見える。
ふざけたことも言うし相変わらず軽い態度で接してくる。
もちろん優しいところもあるので不快な気持ちになったわけでもない。
でも……あまり目線を合わせてくれなくなったし。
たまにじっとこっちらを見ていたかと思うと慌てて目をそらされたりすることもあるんだよな……
近づいたら、さりげなく離れていったりするし……
……でも春になったら2人はこの家を出て行くんだし……気にしてもしょうがない……うん……
え?何か言った?
あ、ううん。なんでもない
ルルーは慌ててそう言って誤魔化し作業に戻った。
そうだ、あまり仲良くなり過ぎても別れが辛くなるだけだ……
だから何も問題ない……ないよね
……ルルー、何かあったら本当に言ってね
うん、ありがとう
それにしてもグレータ、縫い物が上手くなってきたね
ルルーは、さりげなく話題を逸らす。
本当?
うん、グレータは結構器用だね。もっと練習すればもっと上手くなれるわよ
ルルーに買ってもらった、あのレースのリボンすごく可愛いかったから。私も作ってみたいって思って……
なるほど、いいわね。
冬は時間があるからゆっくり練習できるよ。頑張ってね
うん、頑張る!
初日に脅し脅された関係だったとは思えないくらい。三人と一匹は、前より格段に仲良くなった。
とはいえ、レオとグレータは相変わらず距離があるみたいだが。
そうだ、聞いて。
この間、朝寒くて暖炉の前でぼんやりしてたら、眠そうなレオが隣にきてくるんって丸くなって寝ちゃったの
この間、グレータとレオが暖炉の前で置物みたいに並んでたけど。あの時?
そう!
多分レオは寝ぼけてたんだと思う。あんなに近くで寝てるところ見たことなかったから嬉しかった。でも動いたら逃げられそうだから固まってたの
お兄ちゃんが声かけて来なかったらもっと一緒にいられたのに……
レオは、すぐ隣にグレータがいることに気がつき、光の速さでどこかに行ってしまったのだ。
あの後、ヘルフリートはグレータに八つ当たりされて大変だったわね
でも、私からみたらレオは大分と慣れているみたいだけどね?
本当?
レオは本当に警戒心が強いから、隣でも寝ちゃったってことは多少は警戒が解けて来てるってことだよ
そっか……
でも、もうちょっと仲良くなれるといいんだけどな……
まあ、焦らないで頑張って
はーい
冬の支度は大詰めを迎えていた、獲物から取った革が加工できたので、それで手袋やマフラーを作ったり、貯蔵食料も予定通り順調に貯められている。
今すぐに冬が来てもどうにかなるくらいには準備は進んでいた。
でも、結界の謎は結局分からないままだったな……
まあ、でも特に問題も起きてないし。最近は本当に平和だな……
その日の夜。
ヘルフリート、これ運んでくれない?
ああ、いいよ
……っあ
ヘルフリートがルルーからお皿を受け取ろうとしたところでルルーの手とヘルフリートの手が触れる。
その時、なぜかヘルフリートは驚いたように手を引いたのだ。
ご、ごめん……
う、うん……
え、えっと……
…………
二人の間に気まずい空気が流れる。
あ〜お兄ちゃん何してるの?
グレータが呆れたようにそう言うと、2人の間に入ってテキパキと夕食の準備を手伝い始めた。
ごめん、グレータ
ほんっとうにお兄ちゃんは使えないな〜。いっそのこと犬のように四つん這いになって生活したら?
酷い!
ほら。地面に置いたお皿から直接お食べ。好きでしょこういうプレイ
グレータ、俺はそんな特殊プレイしないよ!
一瞬変な空気になちゃったけど、元に戻ったわね
ほら、2人とも食事をしましよう
は〜い
は〜い
その後は普通に夕食が始まり、グレータのお陰でいつも通りの時間が過ぎた。
ヘルフリートの態度もいつも通りだった。
食事が終わると、それぞれがお風呂に入り寝る準備をする。
じゃあ、レオお休みなさい
ニャー
ルルーはレオに挨拶をしたあと、明かりを消すとベッドに入った。
今日、やっぱりヘルフリートの態度おかしかったよね……
どうして……
私が気がつかない間に何かしちゃったのかな……
う……
ダメだ、2人は春になったら出て行くんだ……だから……
だから大丈夫……
もし嫌われていたとしても、その後は会うこともないだろう。
森の結界はそう簡単に破られるものじゃないのだ。
ニャオン
っレオ……
レオがなにかを察したのか、寝床から起き上がり、心配そうな顔をしてルルーを見ていた。
な、なんでもない。大丈夫だよ……
ニャー?
ルルーは慌てて起き上がり言った。
レオは少し訝しげな顔をしたが、ルルーがなだめるように頭を撫でると、また寝床で丸くなった。
良かった……
私も寝よう……
ルルーはベッドにもどり、枕に顔を埋める。
その途端、我慢していた涙が流れてきた。
なんで……私泣いて……
涙はなかなか止まってくれない。
大丈夫……大丈夫……
ルルーは何度も自分にそう言い聞かせたが、その夜なかなか眠ることが出来なかった。
夢の中でルルーは森の中で1人立っていた。
寒いし暗い……なんで私こんなところに……
早く、家に帰らなきゃ……
あれ?いつもの森のはずなのに……ここどこだろう?
訳が分からず、とりあえず歩き出すと遠くに人影が見えた。
あれは、ヘルフリートだ!
ヘルフリー……
うわ!
どうしたの?
ルルーは、ヘルフリートに近づく。
ば、化け物!!
な、なんで……
仰け反り恐怖の形相になったヘルフリートは、ルルーから逃げようとする。
驚いたルルーは手を伸ばしたのだが、自分の手がいつもと違うことに気がついた。
な、何これ?
手は毛むくじゃらで、尖った凶悪な爪が生えていたのだ。
い、いやーーー!!
ルルーはそこで目が覚めた。
ゆ、夢か……
ニャー
ごめん、大丈夫だよ……ちょっと変な夢を見たみたい
レオはまだ気になるようで、本当か?とでも言うように近づき顔を擦り付けてくる。
ありがとう……レオ
ルルーはそう言ってぐしゃぐしゃとレオの頭をなで、ついでに戯れるようにお腹や背中をわしゃわしゃ撫でる。
ニャオン!
フフフ
ルルー、おはよう……あれ?
グレータは部屋に入った途端に目を丸くして固まる。
レオがそんな風に無邪気に戯れるところを見るのが初めてだった。
レオが……あ……
……
レオは見られたのが恥ずかしかったのか一瞬固まり。
サッと起き上がると何事もなかったかのようにグレータの横をすり抜けて、暖炉の上の寝床で丸くなってしまった。
あぁ……行っちゃった……もっと見たかったのに……
グレータ、おはよう
いいな〜ルルーはあんな風に触れるんだ。初めて見たよ遊んでるところ
でも、レオは私にも慣れるのが時間がかかったからね
今日は早いね、どうしたの?
ルルーはベッドから出ながら言う。
うん、なんだか目が覚めちゃって。朝ごはん作るの手伝おうかなって思って
お、偉いね。じゃあ一緒に作ろうか
ルルーは嬉しそうにそう言って、早速着替えるとグレータとキッチンに向かった。
変な夢見て暗くなっちゃったけど、レオとグレータのおかげで気持ちも晴れたな……
森は日に日に寒くなっているが、今日もいつもどおりの朝を迎える。
ルルーはグレータと朝食を作り。
起きて来たヘルフリートとレオでいつものように食事をする。
ヘルフリート、今日はまた狩について来てくれない?
ああ、いいよ
でも肉や皮素材は十分集まったって、言ってなかったっけ?
うん、そうなんだけど、少し余裕が欲しいと思って
だから今日ぐらいが最後の狩になりそう。雪が積もっても狩には行けるんだけど、獲物は警戒心も強くなるし冬狼が出るから、あまり出たくないのよ
なるほど。今日が、最後になりそうなんだね
もしかしたら、雪が積もってもお願いするかもしれないけど。よほどのことがないかぎり、大丈夫よ
この森は結界魔法のおかげかとても平和だ、とはいえ何かイレギュラーなことが起こらないとも限らない。
ルルーはその前に出来るだけ備えておきたかったのだ。
朝食を終えたルルーとヘルフリートは早速狩に出かけた。
行ってらっしゃい
狩はこれまでに何度も出ているので、もう慣れたものだ。
ルルーは猟銃と赤いローブ。
ヘルフリートも一応と言うことで剣を持っている。
じゃ、ヘルフリート始めるから薬を振りかけておいて
了解、ルルー気をつけてね
……うん
森に入ったからか今日、見た夢のこと思い出しちゃった……
今日もヘルフリートはいつも通りだけど……でも、ちょっと違うきもする……
だめだ。集中しないと……
それでも気になって少しだけヘルフリートを見返すと、視線に気が付いたのかヘルフリートが軽く手を振って返す。
ほら、大丈夫。気のせい気のせい
しかし、その日の猟はいつもより上手くいかなかった。
獲物を見つけられても寸前のところで逃げられたり、変なところでこけてしまうのだ。
それでも、ルルーはなんとか目標にしていた分を獲り終えることができた。
一息つけたのは、帰るギリギリの時間だった。
ごめんなさい、遅くなってしまったわね
いや、ご苦労様
世話になってるのは俺たちの方なんだから、もし足らなくても俺の食料の分を減らしてくれればいいから。無理はしない方がいいよ
ありがとう
っ……
少し微笑んだルルーの顔を見て、ヘルフリートは思わずといった感じで顔を逸らした。
また!顔を逸らした!
どうして……
えーっとじゃあ、帰ろうか
う、うん……
2人は家路にもどる。
帰りも、会話は少なかった。
……
……
ヘルフリート喋らない。
気にしすぎかな……
ルルーはもう一度気のせいだと自分に言い聞かせて、機械的に足を動かす。
そんな事を考えていたら家についた。
じゃあ、獲物の血抜きをしないとね
俺も、手伝うよ
お願いね
ヘルフリートはいつも通りだ。やっぱり気のせいだったのかな……っあ!
そんな事をぼんやり考えていたら、ルルーは小石につまずいてしまう。
ルルー!危ない!
すぐ近くにいたヘルフリートはとっさにルルーを抱きとめ、抱きしめる。
?!あ、ご、ごめん
抱きとめた後、ヘルフリートは慌てて体を離して距離を取った。
あ……まただ。前なら、わざと触ってきたりしたのに……やっぱり……
ル、ルルーどうしたんだ?!泣いてるのか??
もしかして、どこか怪我でもしたのか?!
……っ……ヒック……
なんで……最近……なんだか変……な気がする……
態度も冷たい……気のせいかもしれない……けど……うっ……うぅ……
ルルー……
私……私、なにかした?
ルルーはボロボロ泣きながら聞いた。
ルルー、そんなこと……
ヘルフリートも……ヘルフリートも私のこと……化け物って思ってる……?
強盗に襲われて思わず魔法を使ってしまった時、言われた言葉。
魔女が忌避されていることは知っていたが、あんな風に直接言葉を投げられたのは初めてだったのだ。
ヘルフリートもグレータも、ルルーが魔女だと言っても怖がったり気持ち悪がったりもしなかった。だからルルーはそう言われたて、余計にショックを受けたのだ。
もしかしてヘルフリートも、本当はそう思っているのではないかと思ってしまった。
私のこと……怖い……?
!!ルルー!そんな事思ってないよ!
だってさっき抱きとめたとき嫌そうに離した。
……その前も目をそらしたし!嫌なら言ってよ、できるだけヘルフリートの視界に入らないようにするから
違う!
ヘルフリートはそう言って、いきなりルルーを抱きしめた。
!!
好きなんだ