え?デート?

ヘルフリート

そう

えっと……誰と?

ヘルフリート

そりゃあ、ルルーとに決まってるじゃん

え?い、いやでも……この格好じゃ……

 ルルーは自分を見下ろす、古い茶色のローブにシワシワの手にシワシワの顔。

 今は魔法で老婆になっている、この格好では傍目から見てもデートとは言えないしヘルフリートも楽しくないのではないかと思って、ルルーは戸惑った。

ヘルフリート

でも、もうそろそろ魔法が切れる頃だろう?

うん、そうだけど……

ヘルフリート

だからその薬を飲まずに、いつものルルーとデートしたいなって。今日はまだ時間があるんだろ?

え。う、うん……時間はあるけど……

ヘルフリート

短時間なら元の姿でも大丈夫だよ

ヘルフリート

女の子一人なら危ないけど、俺と一緒なら怪しまれることもないよ

でも私、デートとかしたことないし……

ヘルフリート

それは、大丈夫だよエスコートは男に任せるもんだし。ルルーの行きたいところがあれば、そこに行けばいいんだよ

そ、そっか……それなら……

ヘルフリート

やった!じゃあ決まりね

  しばらくすると、魔法薬の効果が切れていつものルルーに戻った。

 服は老婆の時のままだが、ローブで隠れるのでそこまで変ではない。

ヘルフリート

じゃあ、行こうか

 ヘルフリートはそう言って、手を差し出す。

あ……う、うん……

 ルルーは恐る恐るその手を握った。

ヘルフリートの手は、鍛冶の仕事をしているだけあって皮膚が硬くてゴツゴツしていて大きいな……
当たり前なんだけど、男の人なんだ……

 あらためてそう思ったら、なんだか恥ずかしくなってルルーはうつむくいた。

ヘルフリート

ルルーはどこか行きたいところとかある?

え?えーっと……

 ルルーはこの街には買い物には来るものの、いつも行く店以外の店をよく知らなかった。

ヘルフリート

じゃあ露店の方をぶらぶらしようか?色々売ってるし何か食べ物とかつまんだりこれから買う予定の下見になるかも

ヘルフリート

ほら、グレータにお土産も買ってくれるっていってたじゃん

う、うん。じゃあ、そうしよう

 ルフリートはルルーの手を引き、歩き始める。

ちなみに荷車は預けてある。

 露店はその街の中心部分に噴水を囲むような形で並んでいる。丁度お昼ごろなのも手伝って人が多くかった。

ヘルフリート

そういえばそろそろお昼なんだね

お弁当を持ってきたけど……

 今日はこんな風にお金に余裕が出るとは思っていなくて、お弁当を作ってきたのだ。
 しかし、露店の方からは、何かいい匂いが漂ってきてそちらも気になる。

美味しそう……

ヘルフリート

じゃあ、何か一つ買って二人で分けよう

 二人は迷いに迷って串の焼肉を買って、中央にある噴水の前で座りお弁当を広げる。

 朝焼いたパンに干し肉やチーズを挟んだものだ、買った串とも合って美味しい。

 今日はいい天気で風も少ない。少し空気は冷たいが日差しが暖かいので過ごしやすかった。

ヘルフリート

いい天気でよかったな、なんだかピクニックをしてるみたいで楽しい

うん。そうだ……やっぱりグレータも連れてきたらよかったかも。きっと喜んだと思うわ

ヘルフリート

そうだな

そういえば、お礼はこんなことでいいの?

ヘルフリート

うん?なんで?

だってこんなのでお礼って簡単すぎるし、私なにもしてないよ

遠慮しなくていいのよ、っていうかヘルフリートが稼いだと言ってもいいお金だし、お礼っていうのも変なんだけど

ヘルフリート

いや、お礼とか本当はいいんだ。むしろ俺の方がお礼をしなきゃダメだから……

え?何かあったっけ?

ヘルフリート

グレータが母親のことで俺に罪悪感を持ってたって教えてくれただろ。あれ、本当に感謝してるんだ

ヘルフリート

そんな風にグレータが気に病んでるとは、思ってなかったから……

ヘルフリート

それからルルーがグレータに昔のこと話してくれたことも。グレータはすごく救われたと思う

 グレータは同じような境遇だったルルーだからこそ心を開いた、そしてだから救われた。

 兄妹のヘルフリートが同じように言っても、同じ結果にはならなかったろうから余計にヘルフリートは感謝していたのだ。

ヘルフリート

実は、母親に関しては俺も色々あったから……

ヘルフリートも?

ヘルフリート

正直いうと妹を恨んだこともある。今はそんなことはないけど、当時はまだ母親に甘えたい頃だったし……

ヘルフリート

いきなり母親がいなくなってしまって。父親は仕事があるから妹の面倒は当然、俺が見ることになった。そうなると友達とも遊べなかったり、真夜中に起きて泣かれたりするし

ヘルフリート

本当に最初の頃は、なんで俺ばっかりって思って、正直妹のことを可愛いとも思えなかった

そんなことが……

ヘルフリート

これはグレータには内緒ね

ヘルフリート

だけど、必死にグレータの面倒を見てたら、いつの間にか母親が死んだショックを忘れていた。妹がいなかったらきっとずっと引きずって、乗り越えることもできなかったと思う

そうだったの……

ヘルフリート

……そういえばグレータが一番最初に喋った言葉が、俺の名前だったんだ

ヘルフリート

……その頃からかなグレータのことが可愛く思えるようになったのは。グレータは俺がいなければ生きていけないんだって思ったら途端に愛おしくなった

ヘルフリート

今は大分口が悪くなったんだけど小さい頃は本当に可愛かったんだよ、お兄ちゃんお兄ちゃんって言って、いつもくっついてきて。ちょっと留守にするだけで泣いちゃったり

ヘルフリート

だから、母親のことはもう終わった過去だったから。グレータが思い悩んでることも想像できなかった

ヘルフリート

だからルルーに言われなかったら、ずっと気がつくこともできなかった。あの後グレータと2人でこの事について話したよ

グレータはなんて?

ヘルフリート

ごめんなさいって謝られたけど、俺も気がついてやれなかったからおあいこだって言ったらグレータ泣いちゃって

ヘルフリート

でも次の日はすっきりした顔してたから、もう大丈夫だと思うよ

そんな事があったんだ。知らなかった……

ヘルフリート

だから、ルルーには感謝してるんだ

ヘルフリート

改めてありがとう

ヘルフリートそんな……頭を上げてよ

そんなに感謝されるほどのことじゃないし

それに……私もデートってやつをちょっとしてみたかったら……その…楽しいし

 実は、以前ヘルフリートと猟に言った時、ヘルフリートがデートは楽しいと話していたのを聞いて、一度行ってみたいと思っていたのだ。

 それと同時に気がついた、ヘルフリートがデートをしたいと言ったのはお礼がしたいと言ったルルーを気遣って言ってくれたのだと。

 そう思ったルルーはなんだか恥ずかしくなってくる。

ヘルフリート

本当?よかった

でも意外だった。ヘルフリートも大変だったんだね。なんだかいつも軽い態度だったから、そんな事があったなんて想像できなかった

ヘルフリート

俺はあんまりものを深く考えてなくて単純なだけなんだと思うけどね

ヘルフリート

ルルーもそんな生まれだったら、もっと人を恨んでてもおかしくないのに、素直でまっすぐな性格ですごいと思うよ

 食事が終わったので、二人は始末をして立ち上がる。

ヘルフリート

じゃあ、そろそろデートの続きをしようか

うん

 ヘルフリートは手を差し出す。
 ルルーは頷き、手を取った。今度は戸惑わなかったが、心臓は前と同じくらいドキドキした。

 二人は手を繋いで、ゆっくりと露店を周ることにした。

 露店には食べ物から書籍まで色々なものが並んでいた。

 いつもよく通る街なのに、やけにキラキラして見えて不思議だった。

 外国からの品物もたくさんあって、見たことも何に使うのかもわからない物が並び、見ているだけで楽しい。

 その中には、女性用の宝飾品や雑貨が並んでいる店もあった。色とりどりの飾りが所狭しと置かれていた。

ヘルフリート

ルルー、これルルーに似合いそうじゃない?

 ヘルフリートは店に近づき商品を手に取った。

 それは淡い緑の小ぶりな可愛い髪飾りだった

え、そう?

ヘルフリート

ルルーは、こういうのあんまりつけないよね?

うん。家では薬草作ったり。狩に行くのには邪魔だから。
町に来ても、必要な物を買ったらすぐに帰ってたから

ヘルフリート

ほら、ちょっとつけてみなよ。絶対に似合うと思うよ

ヘルフリート

ど、どう?

露店の店主

お嬢さん、似合ってるよ。よかったら鏡をどうぞ

 そこには、少し戸惑っているが自分の顔と、可愛らしい髪飾りが写っていた。
 いつもと違う自分になったようでルルーはさらに戸惑う。

なんか、変な感じ……本当に似合ってる?

ヘルフリート

うん、すごくよく似合ってる。可愛いよ

……!

 ヘルフリートの言葉にルルーは顔を赤くさせるが、嬉しくて思わず微笑む。

あ、ありがとう……

ヘルフリート

……!わ、笑った顔可愛い……

ヘルフリート

う、うん……

……

ヘルフリート

……

露店の店主

お二人さん、買うのか買わないのかどっちなんだね

ヘルフリート

っあ、そうだった!

ヘルフリート

え、えっと……ルルーお礼になにか買っていいって言ってたよね。それでこれ買っちゃだめかな?

え?これ?別にいいけど……

ヘルフリートが着けるの?

ヘルフリート

なんでだよ。もちろんルルーが着けるに決まってるでしょ

でも、それじゃお礼にならないし……

ヘルフリート

俺がルルーにあげたいの

ヘルフリート

もらってくれないの?

う……そ、それは……

 ルルーは何度か食い下がったが、口の上手いヘルフリートに結局押し切られて買うことになった。

あ、あのヘルフリート。ありがとう

ヘルフリート

う、うん……

ヘルフリート

ルルー、照れてる顔も可愛い……

ヘルフリート

……参ったな……このままだと本当に家を出るのが辛くなりそうだ…デートしたいなんて言うんじゃなかったかな……

え?なに?、なにか言った?

ヘルフリート

な、なんでもないよ

 そんな会話をしていると、いい時間になったので二人はデートを終えることにした。

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