ヘルフリートとグレータがルルーの家に来て、さらに一か月程経った。

 葉が色付き枯葉になった頃、そろそろ息も白くけぶるようになってきてだんだんと冬が近いことを知らせていた。

ルルー

ヘルフリートが打ち直してくれた剣や槍が溜まってきたから、そろそろ町に売りに行きましょう。

ヘルフリート

分かった

ルルー

薬草から作った薬も数が揃ったからそれもお金に変えたいわ、ついでに森では手に入らない調味料とか食材も追加で買いたいしね

ルルー

そうだ、変身する準備もしないと

ヘルフリート

え?変身してから行くのか?

ルルー

そう、ヘルフリート達が最初に見たあの老婆の姿よ

ルルー

老婆の姿だと危険な人物だとは思われないし、もし魔女だとバレても魔法を解いてしまえば逃げるのも楽だし。それにあの姿は先代の魔女、おばあちゃんの姿を模したものなの

ルルー

おばあちゃんの時代から薬を売っているから店の人間に怪しまれることも無いしね、いつもあの姿で行くのよ

 そう言いながらルルーは老婆の服に着替える。

グレータ

街か……私はまだちょっと怖いな

うん、だからグレータとレオは、お留守番お願いね

 そんなわけで、出かけるのはルルーとヘルフリートの2人で行く。

ヘルフリートは荷物持ちよろしくね、一応手押しの荷車があるからそこまで大変じゃないと思うわ

ヘルフリート

分かった、頑張るよ

グレータ

お兄ちゃん、大丈夫かな……

ヘルフリート

行く街は俺たちが住んでいた街とは、離れているし。時間も経ってるから大丈夫だよ

 そんな会話をしたあと早速町に向かう。

ヘルフリート

そういえば売ったお金で、なにを買うつもり?

絶対に買いたいのは塩と油ね、それから小麦粉かな。余裕があれば砂糖と胡椒も欲しいな。後は衣類。
消耗品とできれば毛糸や綿もあるといいな

あ、そうだグレータとヘルフリートの下着類も買った方がいいわね

 2人は着の身着のままで逃げてきたので、そもそも服がない。
 お古のものでごまかしつつ過ごしてきたが、かなり限界にきていた。

それを聞いてヘルフリートは顔を輝かせる。

ヘルフリート

うわ、それはありがたいな。でもいいの?

もちろんだよ、この剣を売れるのはヘルフリートのおかげだし、グレータも薬草摘みを頑張ってくれたしね

来年のことは気にしないで。私とレオだけだったらそれなりにどうにかなるから

ヘルフリート

ありがとう

 そんな会話をしていると森がひらけて整備された道に変わっていった。

ヘルフリート

本当に森から町に出るのは簡単なんだね

 森で散々迷ったヘルフリートは驚いたように言った。

そうよ、でも下手に離れるとはぐれちゃうから離れないでね

ヘルフリート

何いってるの?俺が可愛い女の子と離れるなんてあるわけないじゃん

はい、はい

  そんな会話をしていると、森の出口が近づいてきた。

じゃあ、そろそろ薬を飲んで変装するわね。 

いい?ヘルフリート、私達はおばあちゃんとその親戚の子供が手伝いで一緒に来ているってことになってるって、設定忘れないでね

ヘルフリート

わかってるって

これでよし

ヘルフリート

おお、変身するところは初めて見たけどすごいね……

 さらにルルーは腰を曲げ声も低くさせる、そうすると完全に老婆にしか見えなくなった。

じゃあ、行こうか

 そうして二人は町に入った。

 しばらく歩くと程なくしてポツポツと畑や家や建物が見えはじめ、まばらに人も見かけるようになってきた。

 まず2人は武器屋に向かった。まずお金を作らないと話にならない。

 打ち直した武器はそれなりにいい値段になった。
 鞘や柄の部分は古くなっていたが、多少修理したからそれなりに見えたし、それに何より剣の状態がいいと店主が褒めていた。

 ルルーはそういった知識があまりなかったが、ヘルフリートの職人としての技術は、なかなかのようだ。

すごいわ、思っていたよりお金になったわね。正直、直してもらおうと思った時はこんなにいい値段になるとは思ってなかったもの。これならグレータに何かお土産も買って帰れるわよ

ヘルフリート

役に立てて良かったよ。ちょっとは俺のこと見直してくれたかな?

ヘルフリート

ヘルフリートカッコいいって言ってくれていいんだよ?

この残念な発言がなかったら、素直に見直せるのに……

ヘルフリート

ああ、じゃあそれ以外は完璧ってこと?

あなたのそのポジティブなところは、本当に尊敬するわ……

 ルルーは呆れる。

 とはいえルルーはヘルフリートのことは嫌いではない、最初はそれこそ襲われそうになって怖かったし苦手だった。

 だけど、妹思いなところとか下品なことを言ってちょっかいは出すが、言うだけで結構紳士なところとか。

 仕事は正確で文句も言わずきちんとこなしてくれている、何よりも優しいから。
 それがわかった今は嫌いになんてなれなかった。

ヘルフリート

お褒めいただいて光栄だね、次はどこに行く?

次は、薬を売りに行きましょう

 薬はルルーがいつも行っている薬屋だ。

2人はだいぶ軽くなった荷車を押し、その薬屋に向かった。

 屋は少し路地に入ったところにある。ルルーはいつも通り店主に声をかけ買い取って欲しい旨を伝えた。

薬屋

いつも通りだな。この値段だ

分かりました

 いつも通りのやり取りをして薬を渡そうとしたところで、ヘルフリートがいきなり口を挟んだ。

ヘルフリート

ねえ、それ安すぎない?

薬屋

おい、変な言いがかりつけるなよ。いつも通りの値段だよ

い、いきなりどうしたの?ヘルフリート

ヘルフリート

いくら買取だからって、その値段は安すぎだよ

ヘルフリート

俺ほかの店で似たような薬の値段を見たけど、それの値段の五倍はしてた、ある程度利益は上乗せするにしてもぼったくりだよ

ヘルフリート

それにばーちゃんの薬は普通のより効き目がいいんだ、最低でもそれの倍は払ってもいいはずだ

薬屋

な、なにを……

ヘルフリート

おばあちゃん、俺の知ってる薬屋だったらもっと高く買ってくれるよ。そっちで売ろう

 そう言ってヘルフリートは薬草を回収しようとした。

薬屋

お、おい。ちょ、ちょっとまて

 薬屋の店主は慌てて止める。

 実は、ルルーが売る薬はよく売れていたのだ。

 ヘルフリートが言ったとおり即効性もあって、よく効くと評判で。入荷はいつだと急かされるくらいなのだ。
 この店では目玉商品の一つになっていた。
 店主にとってはルルーの薬はいい金づるになっていて、ここで売り先を変えられるのは困るのだ。

ヘルフリート

じゃあ、ちょっとは勉強してくれるよね?

 そこから、ヘルフリートと店主の値段交渉が始まった。

ルルーはそれを呆気に取られながら見ているしかできなかった。

だ、大丈夫かな……

 ルルーがオロオロしている内に交渉は進み、ヘルフリートは元の値段の三倍で話をまとめてしまった。

 粘り強い交渉と、他に売りに行くと脅したのが効いたようだ。

……すごい……こんなに財布にお金が入っているなんて、初めて……

ヘルフリートすごいわね。あんな風に交渉するなんて、考えたこともなかったわ

ヘルフリートは商人になっても、やっていけるんじゃない?

ヘルフリート

いやいや、これぐらいは当然だよ。俺は喋るのはわりと得意だし。ルルーの薬は本当にいいものだから、本当ならもっとつり上げてもよかったと思う

ヘルフリート

森ではルルーの方が得意なことは多いかもしれないけど。街のことは俺に任せて

ありがとう。これなら今年どころか、来年もなんとかなりそう

そうだ。ヘルフリートに、何かお礼をしなくちゃね。お金も入ったし、何か欲しいものとかない?

ヘルフリート

うーん、そうだな……

ヘルフリート

じゃあデートしたいな

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