ルルーはやけくそ気味にそう言って立ち上がった。
……過去の事をいつまでも悔やんでもしょうがない!
じゃ、早速働いてもらうわよ!
ルルーはやけくそ気味にそう言って立ち上がった。
なにすればいい?
とりあえずヘルフリートは、薪を切ってもらえる?このままじゃ冬を越す前に、なくなっちゃうから。
家の裏に斧も置いてあるから、それで切って
グレータはこっちに来て、準備をするから
そう言ってルルーはグレータを連れて、別部屋に行ってクローゼットをゴソゴソ探し始めた。
あ、あった
ルルーが取り出したのは、グレータの体に合いそうな女の子の服だった。
私のお古で悪いけど、よかったら着て。
その服ドロドロになってるから着替えた方がいいわ。洗っておいてあげる
あ、ありがとう
グレータは少し恥ずかしそうに言った、服が汚れているのは森で汚れたせいもあるが、家にお金がなくて服が買えないせいもあったからだ。
グレータは言われた通り着替えた。服は少し流行からは遅れているが、グレータにはぴったりだった。
ど、どうかな?
ちょうどよかったみたいね。後は……
そう言ってルルーはまたクローゼットの中を探る。
あ、あった。これがないと行けないのよね……
じゃあこれを被ってみて。……うん、ちょうどいいみたいね。残しておいて良かったわ
そう言ってグレータに渡したのは赤い頭巾だった。
グレータはそれを受け取り身に着ける。
それをかぶって、グレータには薬草とか木の実を、採りに行ってもらいます
薬草……
わかったわ、でも頭巾はなにか意味があるの?
その頭巾は一見普通の頭巾に見える。
それは魔除けの頭巾なの。魔物が近寄らないように魔法がかけられてるわ
まだ魔物が本格的に出る季節じゃないし、大丈夫だと思うけど用心するにこしたことないから。
森にいる間は絶対に外さないでね
わかったわ。でも私、薬草とか見分けられないわよ。探すのはいいけど役に立てないような気がする。
っていうか森に入ったらすぐに迷いそうなんだけど……
まさに迷いに迷ったからここにたどり着いたのだ。
それは大丈夫。レオー……あれ?レオどこいったの?
あ、いた。レオあなたも手伝ってね、グレータの薬草探しの案内よろしくね
レオは自分の寝床で丸くなっていた。
グルル〜
レオは嫌そうな表情で鳴いた。
文句言わないの、昨日私のこと助けもしないでグーグ寝てたくせに。レオのご飯のためでもあるんだから頼んだわよ
え?レオが案内してくれるの?大丈夫なの?
ジャー
レオは頭のいい猫だから大丈夫。でも悪口言うとわかるから気をつけてね
わ、わかったわ。レオごめんねさっきのは馬鹿にしたわけじゃないから
グレータがそう言うと、不満そうな表情ではあるがレオは寝床から降りてきた。
猫好きなグレータは嬉しくなってきた。猫と薬草探しなんておとぎ話みたいでワクワクしてくる。
なんだか楽しみになってきた。レオよろしくね
最初だからゆっくりでいいわ。とりあえず、太陽がてっぺんに登ったら帰ってきて
わかった
グレータその服、似合うじゃん可愛いぞ
ふ、ふん。妹相手にそんなこと言っても何も出ないわよ
じゃあ、この籠に入れてきてね
ルルーは、グレータに小さめの籠を渡す。
うん、レオ行こう
ニャー
そうして、グレータとレオは早速家を出ていった。
じゃ、俺も薪割りしてくるよ
ヘルフリートも妹を見送ると、そう言って薪割りに向かった。
よろしくね
ルルーはそう言ったあと、早速自分の仕事にかかる。
やることは沢山あるのだ。
取り合えずいつもの薬草づくりをするか……
ルルーは薬草を作るのが得意だ。
そして、魔法薬を研究するのが好きで薬草をつくる合間に研究したりしていた。
ルルーが薬草を作っていると、しばらくしてヘルフリートが戻ってきた。
ごめん、ちょっといい?
どうしたの?
実は斧がだいぶ古くなっていて、使えないみたいだ。代わりの斧ってない?
ああ、そういえばそうだったわ……ちょっと一緒に来て
ルルーはそう言って、二人は家の裏に移動した。
家の裏には物置があり、ルルーは何かを探し始める。
……あっ!あった…と思ったけど…これはダメだよね
そう言って取り出した斧は元あったものより錆びてボロボロだった。
困ったな……今は、新しいのを買うお金もないし
ルルーとレオだけならもう足りるくらいの薪はもうあったから、買うのは来年にするつもりだった。
しかし、ヘルフリート達が来たことで予定が狂ってしまったのだ。
これでは薪を切れない。
あのさ、そこにある竃って、鉄を精錬するための炉だよね?
ルルーが悩んでいるとヘルフリートがそう言った。
そこにはたしかに大きくて立派なかまどがあった。
しかし今は使われていないのか寂れてしまっている。
ああ、そうよ。この家は代々魔女や魔法使いが暮らしてたんだけど、その中の1人が昔、作ったらしいの。
その人は魔法道具が作るのが得意だったからその竃で色々作ったらしいわ……でも私も先代の魔女も使えないから、そのまま放置していたの
へー
あれが使えたらこの斧もすぐに直せるんだけど……
俺、できるよ
え?
実は俺、鍛冶職人なんだ
ええ!そうだったの?
そうなのだ、実はヘルフリートはここに来る前は鍛冶屋で働いていたのだ。
父親も鍛冶屋で。今は他の店で働いていて自立するために半分修行みたいなことをしてた
そうしていたところで妹が娼館に売られるという事件がおこってしまったのだ。
え?じゃあこの斧、直せるの?
ああ。でも、一つ問題がある
なに?
あれを使うには薪がいるんだ、しかもかなりの量をつかうんだ。だけどここにある分の薪だけじゃ足りない
薪を作るには斧が必要で、でもその斧は壊れている。
斧を直すには薪が必要だがその薪が作れない。
振り出しに戻ってしまうのだ。
いや、大丈夫よ。火なら私がつけるわ
ルルーがそう言って、かまどに手をかざすとあっという間にかまどに火が満たされた。
この竃は私が炎を操る練習をするために使ってたの。かなり熱を上げられる、これで使えるわ
おお、すごいな……っていうかこれなら薪を作る必要は無いんじゃ?
短時間ならいいけど長時間は疲れるの。魔力がなくなったら倒れちゃうし、冬になったら寝てる時でも小さく火はつけておかなゃならないし。だから薪は絶対に必要なの。だからほら、よろしくね
魔女や魔法使いが持っている魔法は当然魔力を使う。
他の魔法を使うより魔力は使わないが、それでも一冬ずっと火をつけておけるほど魔力はもたないのだ。
なるほど
そうして、ヘルフリートは早速斧を解体して打ち直し始めた。
あっという間に温度が上がるんだな。本当すごい
ありがとう。
私はよくわからないけど、あなたの技術もなかなかだと思うわ
初めての共同作業だね。こんな可愛い子と仕事なんてなかなかないから、嬉しいな
……グレータが言ってた女ったらしっていうのは本当だったのね。
私としては口より手を動かして欲しいわ
ベッドでなら喜んで手を動かして黙るよ、試してみる?
結構です……
……
それにしても、よかったよ。
ルルーがいい人で
な、何のことよ
ルルーは可愛くて、優しいしいい人だなって
ヘルフリートの言葉にルルーは思わず反論する。
言っておくけど、私は魔女の森と恐れれてる本物の魔女だよ。
しかも、昨日は包丁で脅そうとしてたのに、いい人なんて簡単に言っていいの?
だって妹に服をくれたし、その上安全の為に魔除けの頭巾まで貸してくれた。それにこんなに強力な魔法があるのに、今からでも脅せば俺たちは逃げるしかできない。でもそれもしないし
むしろお人好し過ぎて心配になる……
……べつに、あんな話を聞いちゃったら、追い出すのはやっぱり目覚めが悪いし。服はお下がりで捨ててもいいような物だったから、あげただけだもの……
そういうあなたこそ結構お人好しだと思うわよ
そう?
あなた、家も出ていて仕事もあったんでしょ?それなのにここにいるってことは、妹のために全部捨て逃げてきたってことだよね
私はずっと森で暮らしてるけど、世間のことを知らないわけじゃないのよ。今は、国全体いや世界的に経済は貧窮してるから。最近は血の繋がった子供でも、売ったり捨ててしまったりする親がいるって話も、聞いたことあるわ
そんな状況なのに、ヘルフリートは妹を見捨てたりしなかったのだ。
いや、まあ……お兄ちゃんは妹を助けるものだから
それに、母が早くに死んで妹は俺が育てたようなものだから、できれば妹には幸せになって欲しい。それに俺には手に職があるから、他の街でもなんとかやっていけかなって
ヘルフリートは少し恥ずかしそうに言った。
そんな会話をしながら、作業をしていると、ルルーがなにか思い出したように言った。
あ、そうだ!ちょっと待ってて
ルルーはそう言ってまた物置の方に行って、なにかを探し始めた。
あ、あった
何?それ?
ルルーが持っていたのは錆びた剣や槍だった。
朝も言ったと思うけど、この森には剣士や犯罪者が迷い込むことがあるの。だから行き倒れたりしてたまに落ちてるのよ
落ちてる?
死体と一緒にね。死体はその場で土に埋めてるんだけど、剣や武器は危ないから回収してるの
森で素材を探していたりすると、たまに遭遇するのだ。
なるほど
まあ、でも拾っても使えないものばかりだからたまっていくだけでどうしようも無くて
これも直したりできる?
ああ……なるほど。うん、できるよ
本当?
うん、そこまでボロボロで数があると、全部直すにはそれなりに時間がかかると思うけど
ううん全部じゃ無くて大丈夫、何本か直してくれればいいの
でも、何に使うの?
使うんじゃないわ、売るのよ。これを売ってお金にできれば、この先かなり楽になるわ
ルルーは喜ぶ。これで冬までの準備がかなり楽になるのだ。
え?ルルーは街に出たりするの?
ヘルフリートは驚く。なんとなくルルーはずっと森に籠りっきりだと思っていたのだ。
流石に森にあるものだけじゃ暮らしていけないもの。こっそり森から出て、作った薬を売ってお金にして、街のものも買ってるのよ
だから、お金がたくさんあればお金で解決できることもあるし、準備も楽になるわよ
なるほど、それじゃあ頑張ないわけにはいかないな
そうして、早速ヘルフリートは剣や槍を打ち直しはじめた。
ルルーも協力する。
しばらく森にカンカンという金槌の音が鳴り響いた。
あっつー
暑い?
へ?ルルーは暑くないの?
私は自分の出した炎は暑く感じないから……ごめん、気がつかなかった、水を持ってくるわ
ルルーはそう言って、水を汲みに行った。
ありがとう
仕事で慣れてるけど、やっぱり暑い……
ちょっと服を脱ぐか
休憩がてら、ヘルフリートは汗をぬぐいながら、服を脱ぐ。
流石に力仕事をしているだけあって、ヘルフリートの体は筋肉があって引き締まっていた。
ヘルフリート、み…ず……
きゃー!!!
へ?
ルルーはヘルフリートの服を脱いだ姿に驚いて水を落としてしまった。
ルルーはずっと森で暮らしていたので、男性の裸に免疫がなかったのだ。
ちょっ、ちょとなに脱いでるの?は、早く服着てよ!
ルルーはそう言いながら顔を隠し、後ずさりする。
……なにその反応、可愛いすぎるんですけど
ヘルフリートは町でこんな反応されたことがなかったのでなんだかおもしろいと思った。
それに、逃げられると追いかけてみたくなる。
どうしたんだい……
へ?な、何?なんで近づいてくるの?や、やだ
ヘルフリートはじわじわ追い詰めると、ルルーはさらに後ずさる。
そうしてついに物置まで追い詰められてしまった。
上しか脱いでないのに、そんなに恥ずかしがらなくても……でも、なんか面白い
ウヘヘ〜がおー
きゃー
やばい、本当に可愛い。癖になりそう
食べちゃうぞ〜
いや〜!
……お兄ちゃん……?
!!……ってグ、グレータ
いつの間にかグレータが帰っていた。
背後に居たグレータは何故かさっき打ち直したばかりの斧を持っていた。
お兄ちゃん?私が森の中を歩き回って、薬草や木の実を探してた時に、何してるの?
オ、オニイチャンモ、チャントハタライテタ……ヨ……?
上半身裸で、ルルーを壁に追い詰めた状態でヘルフリートはそう言った。
しかし、説得力はゼロだ。
グ、グレータこれは誤解なん……
お兄ちゃん、私いいこと思い付いちゃった。3人で冬を越すのが難しいなら、一人減らしてしまえばもっと楽になると思うの
!?グレータ話を聞いてくれ。本当に誤解なんだ!とりあえずその直したての斬れ味のいい斧を、今すぐおろしなさい!
……ぎゃ!!ー違う!違う!俺の上におろしちゃだめー!
こうして3人と一匹の生活は、前途多難な滑り出しを見せたのだった。