小岩くんはそう言いましたが、私はその情報がどれほど重要なのかよくわかりませんでした。
今回の件で重要なのは山岳サークルのメンバーだったということだ
小岩くんはそう言いましたが、私はその情報がどれほど重要なのかよくわかりませんでした。
崖登りもする本格的なものと言っていたね。もちろんそのための装備も持っていたはずだ。それなら首を吊ったふりをすることくらい容易だっただろう。梁にカラビナのついたロープをかけ、ハーネスの位置を調節して首元あたりにしておく。ロープの長さを調整してやれば、暗がりで見れば首吊り死体に見えるだろうね。
つまりこういうことさ。夕食の際に自分以外に下剤を混ぜて誰かに食べさせる。夜中にトイレに来て首吊りを見るのは誰でもいいからね。首吊り死体を確認させたら自力でロープを外し、倉庫から逃げ出す、という流れさ
どうしてそんなことする必要があるんだよ？
まぁ、復讐というのが妥当だろう。ちょっと驚かせるくらいで食事に下剤を混ぜるというのは矛盾がある。日頃から小さな恨みを脅かして晴らしてやろうと思っていた。そこでこの幽霊騒ぎを考えたというわけさ
じゃあ、二階の窓に現れたっていうのはどうするんだよ？
同じ方法さ。事前に部屋の外にロープをかけておき、外からクライミングして窓の前まで来て首吊りしているように見せていただけさ
茂木田くんは淡々と小岩くんの言う推理を聞いていました。でも私は淡々と話す小岩くんに違和感を覚えていました。いつもの小岩くんならもっと楽しそうに自分の推理を話してくれるのに、今日は普段の様子と変わりありません。
それに、君の兄は先輩からこの話を聞いたんだってね。全員が崖から落ちてしまったのならその話はいったいどこから来たんだ？ 生き残った一人、首吊り死体を演じていた人間から聞いたと考えるのが妥当だろう
……それは
茂木田くんは淡々と並べられる小岩くんの推理に反論できないでいます。でも私からすると、少しも解決していないように思えました。
だって、小岩くんの推理にはまったく証拠がありません。すべて小岩くんが考えただけで証拠がない、と言ってしまえばそれで全部が崩れ去ってしまうような。
私が口を挟もうとしたところで、隣でうつむいたままだった遊里さんが急に立ち上がって叫びました。
それです！
それ、って、何のことですか？
ホラー映画かと思っていたら、一人の発言から一気にミステリーへお化け探しが犯人捜しへと変化する大どんでん返し！ 書けそうな気がします！
あー。この子ホラーはダメだけどミステリーは大好物なんだよね
夏木さんが呆れたように肩をすくめた。遊里さんはまた座りなおしてブツブツとつぶやきながらノートに何かを書き込んでいます。
どうやら脚本の方向性は決まったみたいだね
小岩くんはそう言うと茂木田くんから視線を外し、また座ってしまいました。いつもより少しだけほっとしているようにも見えました。
まぁ、いいよ。半分はホラーなんだろ。それでいいから考えようぜ
そうだねー。発表する頃にはもう秋になっちゃってるのが残念かなぁ
茂木田くんは少し頬を膨らませていましたが、どうにか納得してくれたようでした。
序盤のホラー部分に関しては茂木田くんと夏木さんが、後半のミステリー部分は私と遊里さんで担当することになりました。小岩くんはというと私たちのミステリーについて矛盾点がないかを指摘する役ということになりました。
脚本が決まらないと次の準備に進めませんから、仮でもいいので大まかな流れを明日から考えるということになり、そこで今日は解散ということになりました。
最近はご無沙汰だったとはいえミステリー小説好きとして面白いトリックを考えなくては。
