帰り支度を済ませて、私は帰ろうとする小岩くんの背中を追いかけました。

あの、小岩くん

なんだい?

さっきの推理なんですけど

 そこまで言って、一度言葉に詰まりました。これまで聞いてきた小岩くんの推理はいつも完璧でした。だから今私が感じている違和感は私の勘違いかもしれないのです。

本当にあの推理で正しかったんでしょうか?

 それでも、私ははっきりと聞いてみました。聞かなかったらなんだかこれから先、小岩くんのことが信じられなくなりそうで。

そんなことわからないさ

 私がじっと小岩くんの顔を見つめていたのに、小岩くんはあっさりとそう答えました。

やっぱりそうだったんですか

伝聞の伝聞。らしいらしいばかりで実際に現場を見たわけじゃないんだから当たり前さ。あの情報だけで真実がわかるなら、警察がいちいちバカ親父を頼ったりしない

そういえばそうですね。刑事さんがきちんと捜査してくれた内容でもありませんし

それにしても、君に見破られるなんて僕の突発的な発想力は信用できないな。今後はもっと冷静に。辿り着いた事実だけを話すことにしよう。
 ただ、怪談というのは必ず嘘だ。そういう意味では僕の判断は間違ってなどいない

でも、わからなかったのならどうして推理なんて披露したんですか?

 確かに小岩くんは幽霊なんてそんなのありえないって否定しそうではありますけど、今回はいつもと様子が違っていたんです。

どうして、って。君が泣きそうな顔で僕に助けを求めたんじゃないか。そんなにホラー映画が嫌だったのか?

確かにそうですけど、気付いてくれてたんですか!? って、私泣いてなんていません!

そうだったかな。僕には今にも涙を流して逃げ出しそうに見えたけど。はははっ

 そう言って小岩くんは笑いました。大きく口を開けて、声を上げて笑いました。こんなに大笑いする小岩くんを私は初めて見ました。

どうしてそんなに笑うんですかっ!

いや、君の顔を思い出したらなんだかおかしくなってね

もう、ひどいです

 そう言いながら、私はとっても嬉しくて頬が緩むのをぐっと堪えていました。もし小岩くんに気付かれたら、今私が思っていることを正直に話さなくちゃいけなくなるから。
 今の小岩くんは、とっても子どもっぽくてかわいいと思ってしまったということを。
 途中まで通学路を並んで帰りました。と言っても私の家との分かれ道まではそんなに距離がありません。

あ、そうだ。脚本ができたら配役を決めるんですよね? 探偵役に小岩くんはどうですか?

なんで僕が。そういうのは苦手だ

でも、小岩くんが一番似合うと思いますよ

いや、遠慮する

 小岩くんはもう一度私の言葉を否定しました。でもその声色に嫌悪の色は強くありません。
 何かしたわけじゃないのに、なんだか小岩くんとの距離が近づいた気がして、私の胸はいつもより少し強く脈打っていました。

六話:自殺した幽霊の怪(解決編)Ⅱ

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